科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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脱出

「え? ワープ先を人間界に設定出来ない?」

「はい。どうやらこのワープゲートは転送先との繋がりが無いとそこへ行く事は出来ないみたいです」

 

 マスカレーナに呼ばれてワープゲートのコンソールに近づいた俺が聞かされたのは余り信じたくない真実だった。

 なんてこった。皆の協力を得てようやくここまで来たというのに、結局帰れませんでしたでは笑い話にも成りはしない。

 

「ジャースティスティスティス! そのワープゲートは転送先に別のワープゲートと言う点があって初めて点と点が繋がり、次元移動を可能とするジャスティス!」

 

 アプカローネの影糸によって縛られたままのジャスティファイがそんな事を言う。まあ、その状態で守備表示のアプカローネに杖で突かれてちょっかいを掛けられているので威厳も何もあった物ではないが、ムカつく事に奴が言う事は真実なのだろう。

 

 ペルレイノから人間界に戻った時はルルカロスの助けを借りたうえで俺自身が人間界への道標となって戻る事が出来たが、この装置はルルカロス程融通が利くという訳では無いのだろう。

 繋がりか……繋がり? 

 

「なあ、マスカレーナ。その繋がりってのはどんなものでもいいのか?」

「ええ、人間界の座標が分かるような物でもあればそれを目印に設定する事は出来そうですが……」

「もう一つ質問なんだが、この世界から人間界にメールは送れたよな?」

「そうですね。でも、メールだと送信する一瞬は人間界への道標が出来そうですが、送信し終わってしまうとまた人間界への道を見失ってしまいます。そんな状態でワープゲートを使ってしまうといつの時代のどこに飛ばされるか分かりませんよ? 最悪次元の狭間に放り出されるかもしれません!」

 

 なるほど。

 つまり、繋がりはどんなに細くても良くて、必要なのは持続性な訳だ。

 

「分かった。ならここから人間界に居る誰かに通話を掛ける。それならどうだ?」

「それだったら……はい! 行けると思います!」

 

 よし! 

 俺は決闘盤(デュエルディスク)からパソコン等の端末に繋げるための汎用接続端子を引き出す。

 

「ちょっと待てよ。精霊界の機械にこれは繋がるのか?」

 

 接続端子は人間界では広く普及しており、国を跨いでも使うことが出来る汎用的なものだが、ここは国どころか世界が違う。祈りながらコンソールをじっくり観察してみると……

 

「まじかよ……すげぇな汎用端子」

 

 コンソールのI/Oパネルの中に見慣れた形の物を見つけることが出来た。そこに決闘盤の接続端子を接続すると、今まで圏外だった決闘盤はネットワークに接続され、メールや通話を使用できる状態となる。

 S-Forceは様々な次元世界で活動する組織だからあらゆる世界の機器に対応できるように設計されているのだろうか? 俺はS-Forceの底力を垣間見た気がした。

 

「後は、通話をする先だが……」

 

 家は……出ない。

 あ、そう言えば昨日親父とオカンでしばらく旅行に行くとか言ってたな。だからしばらく家には俺しか居ないんだった。

 

「うーん……仕方ない。次は……」

 

 島に呼び出しを掛けるが……出ない! 

 あいつ! 常に決闘盤を身に着けるのは決闘者(デュエリスト)の嗜みだとか言ってた癖に! 

 俺がこの世界に連れ込まれたのが夜の十一時頃。まだこっちの世界に連れて来られてから一日も経っていないと思うのだが、この世界は常に夜だから時間の感覚が分からない。人間界とサイバース精霊界の時間の流れが違うため、今人間界が何時なのかも分からない。オフラインになった影響で決闘盤の時計も狂ってしまっている。

 最悪深夜で眠っているか、風呂にでも入っている可能性がある。

 えーと、後連絡先を知っているのは……

 

「……これは……通話を掛けても良いものか?」

 

 一応同じ部活仲間という事で財前さんの連絡先は知っているが、下手に掛けたらお兄様に死ぬほど追及されそうだ。それに、もし俺が通話を掛けた先に転送されるとしたら女の子の部屋に突然現れる事になるのか? それはヤバいだろう。お兄様に追及どころか殺されかねないのでは? 

 

 それに、今思ったのだが、連絡してその相手が厄介な精霊達に目を付けられる可能性がある事を考えると、適当な相手を選ぶ訳にはいかないか。特に島は精霊のグリーン・バブーンが付いている訳だし、精霊達から興味を引く可能性があった。

 まあ、幸いと言っていいのか奴には連絡が付かなかったから結果オーライという事で。

 

「後は……後、は……」

 

 いや、別に友達が少なくて候補となる連絡先が無いという訳では無いのである。精霊達から興味を惹かれ無さそうで居ながらカードの精霊に関する理解があり、かつ万が一サイバースな精霊達に目を付けられてサイバー攻撃を仕掛けられたとしても対抗する手段を持っているという超有力な候補の連絡先が一つだけある。

 

「……仕方なし、か」

 

 俺はフレンドリストの一番新しい欄に乗っている名前を押し、通話を掛ける。俺の行動がこの先のストーリーにどういった影響を及ぼしてしまうのかが不安だが、既にリースがやらかしてハノイの塔編で話が終わりかけていたのだ。

 何か問題が起こったら俺が出来る範囲で協力する事にしよう。

 

「頼む、出てくれ……」

 

 祈る思いで通話ボタンをタッチし、数回コールが鳴る。

 

『……どうした?』

「繋がった!」

 

 通話相手は藤木遊作。

 科学技術時代の申し子であり、カードの精霊等といったオカルト要素に唯一関りを持たなかった遊戯王の主人公。

 まあ、LINK VRAINSで起こる様々な出来事はオカルトじゃないのかと言われたら俺は何も言えないのだが、少なくともこの世界で解明されているルールに乗っ取って起きているのだ。多分オカルトではない。

 ……リンクセンス? あれは……まあ、うん。少なくともカードの精霊とは関連してないでしょ。

 

「藤木! 説明は後で必ずするから、出来る限りのプロテクトを掛けてこの回線を維持してくれ! LINK VRAINSの英雄なら出来るだろ? 頼む!」

 

 誰が覗いているか分からない一般の通話機能を使った通話なため、俺はPlaymakerの名前は出さない。

 

『……分かった、一分待て。プロテクトの構築をすぐに始める。後で必ず話してもらうぞ』

「ありがとう! マスカレーナ、どうだ?」

「いけそうですよ、ラッセさん!」

『マスカレーナ?』

 

 遊作と通話を繋げることによってサイバース精霊界と人間界との繋がりが出来た。後数十秒待ってからマスカレーナがワープゲートを起動させれば俺達の目的は達成される。

 俺が名前を呼んだからか、もしくはマスカレーナの声を決闘盤が拾ったたために遊作に彼女の声が聞こえたからか。見知らぬ人物が俺の側に居る事に気が付いた遊作の声に警戒の色が伺える。

 

「彼女の事も含めて説明するから、今は……」

『分かっている。プロテクトは既に完了した。後は何をすればいい?』

「そのままで良い!」

「行きますよー! ワープ開始!」

「ッ!」

 

 マスカレーナがコンソールのボタンを押すと、装置の中心に添えられた球体が光り輝き始める。その光が俺とマスカレーナを包み込む時、光の向こうで何かを見た。

 あれは……鳥? いや……。

 

 

 

 

 

 

『:全ては光の創造主のために』

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 ☆

 

 ☆

 

 

「おごぉ!? い、痛っあぁ……」

 

 マスカレーナがワープゲートを起動し、意識が遠のいたと思った次の瞬間に感じたのは後頭部への衝撃だった。どうやら壁か何かにぶつかったらしい。

 ワープは成功したのか、そこは先程まで居たブリッジヘッドの景色とは全く違ったものだった。

 

「世良!?」

「え? 今どこから現れた?」

「藤木に、草薙さん……?」

 

 そこに居たのはつい最近ちゃんと話すようになった二人だった。この二人が居るという事はここは人間界。それに、辺りをよく見てみれば大きなモニターとホットドッグを焼く設備がある。

 どうやらCafé Nagiの中に飛ばされて来た様だ。

 

 ……良かった、財前さんに手助けを求めなくて……。人間界に帰って来られてもすぐムショ送りだったろうな。

 

「マスカレーナは……」

『はーい! 私はここですよー!』

「良かった、一緒に人間界に逃げて来れたみたいだな」

 

 ワープでマスカレーナだけブリッジヘッドに取り残されるという事は無く、一緒に人間界に来ていた。その影響だろうか、マスカレーナはその姿を肉体ではなく、カードへと変化させており、俺のすぐ傍に落ちていた。

 そして、見慣れた精霊体の姿で彼女は俺に声を掛けてくれる。

 

「えーっと、一体誰と話をしているんだ?」

「精霊か?」

「藤木の言う通り、今こいつが傍に居てくれてるんです」

 

 俺は草薙さんに説明しながら落ちていたマスカレーナのカードを拾い、遊作に彼女のカードを渡す。

 

「これは、サイバース族モンスター!」

「そう。さっきまで俺はサイバース精霊界の精霊に拉致られてしまって精霊界に閉じ込められてたんだ。そこで彼女と他の仲間に手伝ってもらいながら今やっと人間界に戻って来たって訳」

「あ、相変わらず非科学的だなぁ……」

「世良も厄介事に巻き込まれたものだな」

「本当にな……」

 

 草薙さんと遊作は呆れたような声を出すが、そんな事は俺自身が一番そう思っているのだ。

 

 人間界に戻って来た事によって俺の決闘盤はインターネットに無線で接続され、情報が同期される。精霊界に居たせいで狂った時計が調整された事で示された時刻は俺がサイバース精霊界に行った日の翌日午前十時。

 今日が休日で助かった。平日だったら遊作は通話に出てくれなかっただろうし、学校を無断で休んだ俺に対しては親に連絡が行っていただろう。

 あ、島の野郎は休日だからまだ寝てやがるんだな。ま、結果論だがそれはそれで良かったという事にしよう。

 

「はぁ……詳しい話をするよ」

 

 遊作に約束した通り、これまでにあった事を説明しようとした時、マスカレーナが悲鳴の様な声で叫ぶ。

 

『ラッセさん!! デ、デデデデ、デッキを今すぐ確認してください!』

「どうしたんだ急に?」

 

 俺は尋常じゃない焦り方をしているマスカレーナの指示に従い、決闘盤に挿入されたデッキを取り外し、中身を確認して驚愕する。

 

「これは!?」

 

 ここにカードはちゃんとある。だが、本来カードに描かれているはずの名称も、イラストも、効果テキストも、何も無かった。

 

「これはどういう事だ?」

「白紙のカード?」

「いや、これは俺のデッキ……のはずだ」

 

 これは、まるで遊城十代が作中でカードのイラストが見えなくなった時の状況とよく似ている。しかし、あれは十代自身の心の問題であり、カード自体に変化が起こっていた訳では無かったため、十代以外の人物には普通にカードのイラストが見えていた。

 一方で、俺のカードは俺だけでなく、ここに居る遊作や草薙さんにも見えていない。

 

 カードをめくり、デッキのカードを確認するが、全てのカードが白紙になっている訳では無かった。

 

「シャドールカードがっ……」

 

 死者蘇生の様な汎用カードと混ぜ物として入れているティアラメンツ関連のカードはそのままなのに対し、デッキの中核を成すシャドールテーマのモンスター、魔法、罠カードの全てが消えてしまっている。

 

「ミドラーシュ!!」

 

 俺は自分の影に居るはずのミドラーシュに対して慌てて声を掛ける。

 もしかして、彼女も居なくなってしまったのではないか。そんな不安な気持ちが俺の心を占める。

 

「……ああ、良かった……君はそこに居るんだな……」

 

 ミドラーシュは「私はここに居る」と言わんばかりに影から小さな手を出してゆっくりと振ってくれる。

 

『あれ? ちょっと待って下さい、ラッセさん』

 

 マスカレーナは俺の影から伸びるミドラーシュの手を掴むと、そのまま引っ張って彼女を影の外へと引き出す。そのままマスカレーナに捕まって全身を晒したミドラーシュは慌てているのかジタバタしているのだが、そんな事よりも……

 

「ミドラーシュ……? なんか小さくないか?」

 

 現れたミドラーシュの姿はかつてカードショップでつまらなさそうに佇んでいた時の姿ではなく、比較的小柄な女の子であるマスカレーナが胸の前で抱え込む事が出来るくらいに小型化していた。少し大きなぬいぐるみくらいの大きさだろうか?

 

『これは……ミドラーシュさんの力がほとんど感じられません……』

「なんだって!」

 

 よく考えれば、俺が彼女に声を掛けた時に腕だけとは言え姿を見せてくれた事自体もおかしかった。まさか、俺の影を操る事が出来なくなったからああして自己主張をせざるを得なかった、という事なのだろうか? 

 俺の影すらも操れないとすれば、影糸も出せないのだろう。

 さっきはメインデッキしか確認していなかったため、ミドラーシュのカードを見ていなかった。そこでEXデッキのカードも確認してみると、やはりシャドール関連の融合体は白紙に成ってしまっている。だが、『エルシャドール・ミドラーシュ』のカードだけはイラストが白黒になっているのみで完全に消えては居なかった。

 

 これほどまでに彼女の力が小さくなってしまった原因は何だ? 

 

「……あいつ!」

 

 俺は思い出す。

 人間界にワープする直前、光の中で見たモンスターの姿を。

 鳥の様な頭に大きな翼。若木のレリーフが刻まれた身体。その身体の中心にはこちらを見透かすような大きな二つの眼。

 恐らく、俺達がワープする時にあの精霊が何らかの干渉をして来たのだ。そして、俺のシャドールカードとミドラーシュの力を奪っていった? 

 

「こうしちゃいられない! 今すぐサイバース精霊界に戻って……?」

「世良!」

 

 立ち上がり、直ぐにサイバース精霊界に向かおうと思ったが、身体が言う事をきかずにふらついてしまう。倒れこみそうになった所を遊作に支えて貰う事で何とか立っていられる。

 

『ラッセさん、あなたは緊張状態のままずっと動き続けていたんですよ! 今は身体を休めるべきです』

「だが、ミドラーシュ達が……」

 

 俺はマスカレーナに抱えられたままのミドラーシュに目をやる。今の状況に慣れたのか、彼女はジタバタするのをやめ、こちらに目を向けてくれる。そして、両手を前に出してまるで俺を宥めるかのようなジェスチャーを向けてくる。

 

「ミドラーシュも俺に休めって言うのか?」

 

 ミドラーシュは頷く。

 それを見た俺はここでようやく素直に二人の意見に従う事にした。

 

「落ち着いたか? 随分疲労が溜まっている様だ。今は休め。俺達に出来る事があれば協力しよう」

「ああ、俺もだ。大事なモノが奪われた辛さは……良く知っているからな」

「藤木、草薙さん……ありがとう……」

『私もですよ! 私を忘れて貰っては困りますよ!』

 

 勿論、マスカレーナだって。

 彼女にはこれまでだって何度も助けられた。感謝してもしきれないのだから。忘れるはずがない。

 

 

 

 

 無事に人間界に戻ってくることは出来た。

 だが、代わりに俺は大事なモノを奪われてしまった。これをそのままにしておけるはずがない。

 

 今度は俺の意思でサイバース精霊界に向かい、忘れ物を取り返す!




以上、第三部第二章、サイバース精霊界脱出編でした。
真の囚われの姫は……という話!

次の更新分が終章となる予定ですが、ここまで読んでくれた皆さんならもうわかりますね?そう、デュエルが入る予定です。
デュエルが入るとどうなる?知らんのか?作者が爆発する。

爆発します!

次は意味不明に墓地肥やして意味不明な融合をする何とかデッキとか、意味不明に墓地と除外を反復横跳びする何とかデッキみたいにややこしい事になる予定ではないんですが……まあ、多分駄目なので次の更新は時間かかります。

それではまたいつか。ノシ




『まあまあ、私の事は何とでもなるから落ち着いて落ち着いて……(/・ω・)/』
『あ、でも私の為に奔走してくれるんだったらこのままもう少し様子を見てみるのもいいかも('_')』
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