Café Nagiで少し休ませてもらった後、俺は覚束ない足取りながらも何とか家に辿り着くことが出来た。
自分の部屋に入ると急に気が抜けたのか、忘れていた眠気が一気にぶり返して来る。その眠気に逆らう事なんて出来る訳は無く、倒れこむようにしてベッドに寝転がるとすぐ眠りについてしまった。
目を覚ますと既に日は暮れており、すわ一日以上眠りこけてしまったのかとも思ったが、流石にそこまでではなくまだその日の内であった。しかし、こんな眠り方をしてしまっては生活リズムを直すのに苦労しそうだ。
『あ、起きたんですね』
『やっほー。お邪魔してるわよ』
『中々のお寝坊さんだね』
「……マスカレーナ。それにキスキルとリィラも」
マスカレーナは俺が眠ってからもずっとそこに居てくれたのだろう。それに加えてサイバース精霊界で別れたEvil★Twinの二人が珍しい事に精霊体で人間界にやって来ていた。
「二人はあの後大丈夫だったか?」
『私達? そりゃ勿論』
『まあ、あの後何を思ったのかサニー団の連中もS-Forceに突撃かまして来て混乱が大きくなった時に撒いて来たんだけどね』
「え? サニー団が? 何でそんな事を……」
『さぁ? 大方、S-Forceの襲撃被害を大きくしたうえで責任を私達に押し付けようとでもしたんでしょうけど、あいつら律儀に「サニー団参上!!」って言ってたから今頃サニーは涙目でしょうね』
「えぇ……」
相変わらず、と言う程サニー団と関りが深い訳では無いが、そう言いたくなる位には何とも間抜けな話だ。
『まあ、お陰で小夜丸の奴を回収する時間が生まれたから今回ばかりはあいつらに感謝してやってもいいわね』
『ちなみに今は一人でお留守番中』
「そうか……小夜丸が一番心配だったけど、彼女も無事か……」
お手本みたいな死亡フラグを打ち立てていた彼女だが、ナイト・チェイサーにやられてしまうという事にはならなかった様だ。
一緒にS-Forceを襲撃した仲間達に置いて行かれて一人寂しくサイバース精霊界に潜伏していると考えると……不憫に思えてくる。
まあ、彼女はあれで立派な忍であり、S-Forceのエージェントを任せられていた精霊だ。ちょっとやそっとのトラブルくらい一人で何とか出来るだろう。
それはそれとして、彼女を一人置いて人間界に来ているこの三人に恨み言は言ってそうだが。
「そう言えば二人が精霊体で居るなんて珍しいな」
俺に協力してくれた皆の無事を確認する事で安心出来たので、少し気になった事を聞く事にした。
『あー……それはね』
『この子がこんな事になっちゃったからなの』
キスキルはそう言うと、ぬいぐるみ大にまで小さくなってしまったミドラーシュを抱えながら説明を続けてくれる。
どうやらミドラーシュはマスカレーナに影から引っ張り出された後も影の中に返してもらえずに居たらしい。
今もキスキルに抱かれたままであり、俺が起きるまで何があったのか分からないのだが、気持ちミドラーシュがぐったりしている様な気がするのは気のせいだろうか?
あんまり虐めてやらないであげてくれ……。
『私達のSOLtisはミドラーシュちゃんの力を借りて世良君の影の中に入れてる訳じゃない?』
「”私達の”SOLtiS? うん……まあ、そうだね……」
SOLテクノロジーから盗み出して来た現在極秘事項であろう未来の主力製品をさも当然かの様に自分達の物であると宣っているが、今はそこは重要ではないのでスルーしてあげる優しさを俺は持ち合わせているのだ。
『この子が力を失った影響からか、君の影の中から取り出せる物の大きさが随分小さくなっちゃったみたいなのよ』
『具体的にはこの子の身体と同じくらいの大きさの物しか取り出せないみたい』
「確かにそうなると人間と同じくらいの大きさのSOLtiSを取り出すのは無理だな」
キスキルの説明にリィラが補足を入れてくれる。
なるほど……。そういう事情があったのか。
しかし、俺からするとSOLtiSの時の新衣装より怪盗コスチュームの方がずっと以前から見慣れた物であるので何となく落ち着く。
「その、ミドラーシュに関して何だが……」
『ええ、マスカレーナから事情は聞いたわ』
どうやら俺が寝ている間に二人も事情は聞いていたみたいだな。
なら、話は早い。
「出来れば、また二人に力を借りたいんだ」
『勿論答えはイエス、よ』
『世良君には無料で一回だけ依頼を受ける権利をあげてるからね。それに、私達もまだまだ人間界でやりたい事は沢山あるし』
『SOLtiSを取り出せないのは困るのよね~。動画更新は常に続けないと飽きられちゃうんだから』
「良かった。二人も手伝ってくれるなら心強い」
Evil★Twinの協力も取り付けられ、再びサイバース精霊界に赴いた時の戦力を補充する事が出来た。
ミドラーシュは力を失い、デッキの戦力も三分の一程度まで低下してしまった俺にとって貴重な……あ。
「忘れてた……デッキどうしよう……」
俺のデッキの中核を成すシャドールカードが無力化されてしまっているため、急いでデッキを構築し直す必要がある。
念のため、白紙となったシャドールカードを
俺は昔、精霊付きのカードに合わせてよくデッキを組んだりしていたため、いくつかのテーマのカードを有している。しかし、それは俺が中学生以前にやっていた事であり、デュエル大会に出て小遣い稼ぎをしていたとはいえ、高校生となって使えるお金が増えた今よりも少ない所持金で集めたカードなんて言うのはたかが知れている。値段が高くてエースモンスターが買えなかったテーマもあるくらいだ。それに加えて、トレードに出したカードもいくつかあるからテーマとして戦えるほど集まっているデッキはほとんどない。
そんな中途半端にしか揃っていないテーマカードを使って精霊界で
レイノハートと戦った時も、リースと戦った時もシャドールティアラメンツで挑んだのはこのデッキが俺が持つデッキの中で一番強力なデッキだったからというのが大きな理由である。
「ガスタを使うか……?」
まともにカードが揃っており、戦えるデッキとして持っている物にガスタデッキがあるが、あれは俺の中では身内でワイワイ楽しむファンデッキとしての側面が強い。
勿論、ガスタで戦えない事も無いのだが、精霊界でのデュエルにおいて、戦略がある程度相手に依存するというのは……。
せめてバロネスとかクリアウィングの様な風属性の汎用シンクロモンスターが居てくれたらまた話は別だったんだろうが、持っていないのだから仕方がない。
それに、強力なティアラメンツと混ぜるにしても何のシナジーも無いのも辛い所だ。
はーあ。
リースが使っていたオルフェゴールデッキをそのまま入手する事が出来たら話は楽だったのに。
オルフェゴールデッキはシャドールの様に効果で墓地に送られた時に効果を発動するタイプのカードテーマではないが、墓地で効果を発動するテーマだ。オルフェゴールの展開を始めると闇属性しか特殊召喚出来なくなる縛りが付くものの、ティアラメンツもほとんど闇属性テーマであるため展開の邪魔をしにくい。
シャドールと組み合わせた時の様に融合ギミックをオルフェゴールカードで利用することは出来ないが、ティアラメンツカードによる豊富な墓地肥やしからオルフェゴール展開を始められれば非常に強力な盤面を構築出来ただろう。
俺とリースが
決闘の勝敗がついたと同時にリースが使っていたカード達はデータの塵となって消えて行った事だろう。ていうか、a-vidaが塵一つ残さず消し去った可能性すらある。
何か良い案が無い物かと頭を悩ませる。
実は案が無い訳では無い。出来れば使いたくないという俺の心情の問題でしかないのだが、最適なカード群が俺にはあった。
「……背に腹は代えられない、か……」
俺はミドラーシュに声を掛ける。
「預けてる例のカードを出してくれるか?」
彼女はその言葉を聞いて頷くと、キスキルの腕の中から抜け出して俺の足元に伸びる影の中へと入って行く。
しばらく待っていると、両手で箱を抱えたミドラーシュが戻って来た。その箱が重いのか、少しふらつきながらもその手に抱えた箱を俺に渡してくれる。
「ありがとう」
『何々? その箱何?』
『もしかして、良い物でも入っているのかしら? 錠までしちゃって、厳重じゃない』
「良い物っていうか……まあ、この錠は念のためだよ。ミドラーシュ、これの鍵もくれ」
彼女は箱と一緒に持って来てくれたであろう鍵を出してくれる。
錠付きの箱を開けるための鍵。その隠し場所に決めたのは俺が最も安全
だと考える場所。つまり、ミドラーシュの傍であった。
『えぇ……ラッセさん……錠と鍵を同じ場所に保管するなんて、セキュリティ意識低過ぎじゃないですか……』
「そうか? でもどう考えてもここに置いとくのが一番安全だろ?」
『そうですかね……そうかもしれないですね……』
マスカレーナは俺とミドラーシュの顔を交互に見ると、何かを納得したかの様に溜息をついていた。もしかして、彼女は俺が錠か鍵のどちらかを保管する方がセキュリティ上危険だとでも言いたいのだろうか?
全く、失礼な奴である。
そんな失礼な事を考えていそうなマスカレーナの事は置いておき、俺は受け取った鍵を使って箱の錠を開ける。
鍵を回してロックが外れる音が聞こえた後、箱の蓋を開けると中に入っているのはカードだった。
『なーんだ、カードだったのね』
『つまんない』
「二人はこのタイミングで何が出てくると思ったんだよ……」
箱の中からカードの束を取り出して、イラストが見える向きで持ち直すとマスカレーナが何かに気が付いたのか声を挙げる。
『あ! そのカードって……』
「ああ、レイノハートが使ってたカードだ」
レイノハートとのデュエルが終わった後、散らばった奴のデッキからヴィサスが拾って手渡してくれた何枚かのティアラメンツカード。あの時ヴィサスはカードに描かれたイラストを俺に見せる事で状況を把握させようとしたのだろうが、俺はそれをそのまま持ち帰っていたのだ。
……まあ、手放すタイミングとかも無かったし、人間界に戻ったら消えて無くなるという事も無かったので。
これらのカードは当然ティアラメンツの名を関するテーマカードであり、その効果も非常に強力だ。『
まあ、同じテーマのカードなのだから当然と言えば当然である。
あの時手に入れたカードは『
「『ティアラメンツ・レイノハート』と『ティアラメンツ・カレイドハート』」
俺は『星杯の妖精リース』と同様に隙間をホットボンドで埋められたスクリューダウンに収められた二枚のカードを見る。
レイノハートの事は当然許せない奴ではあるが、カード効果は非常に強力だ。レイノハートと手札のティアラメンツモンスターだけでキトカロスを経由してルルカロスの融合召喚まで確定で繋げる事が出来る。
そして、ティアラメンツのもう一体のエースモンスターであるカレイドハートの効果は俺自身が身をもって体験した通りだ。
だが、心情で言えばこれらのカードは使いたくない。レイノハートはヴィサスに力を取られた事でこの二枚のカードは精霊抜けのただのカードとなったはずだが、過去の経歴もあって実際に使うのは少し躊躇われる。何だか使ったら身体を乗っ取られたりしそうだし?
どちらのカードも掛け値なしに強力なカードだと言える。
かつてのOCGを嗜んでいた時の俺ならカードの効果と使い勝手を見て最適なデッキを組んでいただろうが、俺は精霊達が実際に存在しているこの世界で生きて来た事でカードをそういう風な視点だけで見られなくなってしまっているのも事実だ。
うーん……。
「……よし。ミドラーシュ、この二枚は戻しておいてくれ」
俺はレイノハートとカレイドハートの封印を解く事はせず、再びミドラーシュに持っていてもらう事にした。
『そのカード、とても強力なんですよね? 確かに余り使いたくないカードではありますが……』
「まあ、俺が
この世界は遊戯王の世界だ。
カードの精霊は存在するし、ドローは確率論だけで話が出来る物ではない。ナメプと言われてしまえばそこまでだが、この世界で生きて来た人間の一人としてはこういう感覚は大事にした方が良いと考えている。
こうして取り出した一部のカードをデッキに加えるが、まだデッキとして使える四十枚には届かない。何を隠そう俺が加えたカードは各種三枚ずつある訳では無いので、まだカードが足りていない状況だ。
後は『激流葬』とか『落とし穴』みたいな汎用的なカードで残りの枠を埋める事も考えたが……流石にこれだけだとデッキとしての安定感が全く無い。
『なに? まだカードが足りないのかしら?』
「足りないという訳ではないんだけど、デッキとするには少し心許ないんだよね……」
『それじゃあ、お姉さんたちが特別サービスをしてあげる』
リィラがそう言うと、ミドラーシュに何やらお願いをしている様子が伺えた。それを聞いたミドラーシュは俺の影の中に戻ると何かを抱えて戻って来た。
「これは!」
『え! 貴女達のカードじゃないですか!』
マスカレーナが指摘する通り、それはEvil★TwinとLive☆Twinのモンスター・魔法・罠カードのセットだった。
「……どうしてこんなものが俺の影の中に……?」
『そりゃー、人間界に来るためのドアがあるべき場所としてそこが一番便利だったからよ』
『ドア・トゥ・ドアで即SOLtiS。非常に便利』
「ああ……」
彼女達が最初に人間界に現れた時は俺の家を訪問していた。だが、二度目以降は直接俺の影から「やあ」ぐらいのノリで出て来るようになったのはそういう絡繰りがあったのか。
「ご丁寧に自分達のカードはウルトラレア仕様なんだな」
『だって、エースカードと言えばやっぱそのレアリティでしょ!』
俺は金文字ホイル加工の『Evil★Twinキスキル』と『Evil★Twinリィラ』のカードを眺めながら呆れてしまう。
でもまあ、その意見には俺も同意する。希少性と言う意味では最高レアリティはプリズマティックシークレットレアであるが、あのレアリティのカードは使う為と言うよりは飾って眺めたくなるタイプだ。
ていうか、精霊にもそういう感性というか、感覚はあるんだな。自分達が安値で売られている事にショックを受けていた三人娘もそうだが、精霊達はカードとしての自分にも拘りの様な物があるらしい。
「でもなんでサポートカードまで充実してるんだ?」
『ああ、それは、カード実体化装置をちょ~っと借りて私達のカードを実体化してたら興が乗っちゃって』
『全部揃えちゃった』
キスキルとリィラがテヘペロ顔でそんな事を言っているが、彼女達が真っ当な手段でカード実体化装置を利用したとは思えない。凡そ、装置がある施設に忍び込んで勝手に使ったのだろう。
『で、どう? これでデッキは出来そう?』
「まあ、これなら数は十分だ……けど……」
Evil★Twinか……。このテーマも墓地利用はしない事も無いが、テーマ内の動きだけで必要十分のカードを墓地へ送れるので積極的に墓地肥やしを狙うテーマではないため、ティアラメンツと相性が良い訳では無い。
じゃあEvil★Twinだけでデッキを組めば良いと思うだろうが、それはそれでまたカードの数が足りないのである。Evil★Twin関連のテーマカードは一通り揃っているが、三枚揃っているのは『Live☆Twinキスキル』と『Live☆Twinリィラ』のみ。リンク体であるEvil★Twinは一枚ずつしかないし、魔法・罠も同様だ。
そうなると、Evil★Twinメインでデッキを組むにしても結局何かと混ぜなければならない。Live☆Twinモンスターはどちらもレベル2である事からガエルの様なレベル2テーマと合わせられれば良かったんだが……残念ながらガエルは持っていない……家のストレージを漁れば『デスガエル』なら出て来るだろうか? まあ、あったとしても『デスガエル』はレベル2じゃないから関係無いんですけどね。
あ、そう言えばセイントレアをこの前買ったんだったな。あれは使えるから入れておこう。
「うーん……う~~~~~~~~~ん………………」
俺は唸りながらも手元に集まったカードを合わせ、取り合えずデッキの形にして一人回しをしてみる事にした。
デッキをよくシャッフルし、カードを五枚引く。手札は『Live☆Twinキスキル』、『Live☆Twinリィラ』、『ティアラメンツ・ハゥフニス』、『壱世壊に軋む爪音』、『Evil★Twin イージーゲーム』。
「……あれ? 意外といけるか?」
全くシナジーが無い二つのテーマとは言え、Evil★Twinというテーマは一枚初動がある優秀なテーマだ。Live☆Twinのどちらかさえ引けていれば最低限の動きをする事が出来る。まあ、ここを止められると何も出来ない可能性があるという弱点があるんだが……。
Evil★Twinの墓地蘇生効果を使うとEXデッキの悪魔族縛りが付いてしまうが、その縛りが付く前にティアラメンツの展開を……いや、それだとEXモンスターゾーンが融合モンスターで埋まってしまうから、ハゥフニスの効果を絡めてメタノイズ等を使って三人娘の誰かを墓地に落とす事で上手く相手ターンに融合をしてEvil★Twinのリンク先に融合モンスターを出せばいいのか。
何? この……何?
シナジーとか全くないけどそれぞれのパワーで無理やり動かす感じ。まるでペガサスのトゥーンサクリファイスデッキみたいじゃないか。
だが、こんな滅茶苦茶なデッキでも俺が持つカードプールで作ることが出来るデッキの中では一番妨害を立てられるし、相手の妨害に対する貫通能力も高いのが悲しい所だ。
……やって見せるさ。
『例のカード→レイノカード→レイノハート……って事?りょ!( `ー´)ノ』