科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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Into the VRAINS

「どう? いけそう?」

「ああ。問題ない。強力なプロテクトによって詳細な情報は得られないが、通話時の履歴からワールドアドレスを逆探知する事は出来た」

 

 今日は何とか戦えるデッキを組み終えた翌日。場所はCafé Nagiの中。

 あの後遊作に連絡を取ってある依頼をしていた。それは再びサイバース精霊界に赴くために必要な準備だ。

 サイバース精霊界はLINK VRAINSに隣接する精霊界。あそこへ行くためにはLINK VRAINSにログインしたうえでマスカレーナの様な精霊に手引きしてもらって入ることが出来る。しかし、今はあのハノイの塔の事件の影響でLINK VRAINSは閉鎖中。数か月後にバージョンアップして再開される事は知っているが、それまで待つなんて事はしていられない。

 

 そこで目を付けたのが遊作である。

 精霊界から人間界にはメールを送る事や電話を掛ける事が出来る。それはつまり人間界と精霊界にはネットワークによる繋がりがあるという事だ。であるならば、警察が捜査をする時にやっている様な逆探知が出来るのでは? と、俺は考えた。

 遊作は俺が精霊界から人間界に戻って来る流れを観測していた人間であり、俺が考えた策を実行できる技術を持った人間でもある。そういう事で依頼してみた所、問題なく逆探知は成功したという訳だ。

 

 そして、逆探知したネットワーク上の中継地点からマスカレーナに手引きしてもらう事でサイバース精霊界に入り込む。

 

 ふふふ……。今回は「精霊界に行く方法が分からなーい!」なんてやるつもりはないぞ? 何といったって行先は勝手知ったるサイバース精霊界なのだ。LINK VRAINSが閉鎖されていようと赴く方法はすぐに考え付いた。

 まあ、本当にどうしようもなくなったら「なんとかしてくれ、マスカレーナ!」で押し通すつもりだったのは心の中だけにしまっておこう。

 

「だが何だこのワールドは? やたら厳重なプロテクトが掛かっていて中の様子すら見られない。それに、これ以上踏み込むと逆にこちらが危ないかもしれないぞ」

 

 ネットワーク上に存在するVRワールドは何もLINK VRAINSだけではない。

 LINK VRAINSが社会インフラに近い役割を果たすくらい普及している最大手と言うだけで、共通の趣味を持った人が集まるワールド、LINK VRAINSとは違う利用者層のワールド、はたまた個人が制作して運用しているワールドなんていう物まである。

 ちなみにどのワールドにログインするにしても決闘盤(デュエルディスク)のVRフルダイブ機能を使う事が出来る。これでLINK VRAINSと同じように目的のVRワールドにログインするのだ。

 

「ああ。草薙さんの言う通り、俺達が出来るのはログイン先をこのワールドに指定する所までだ」

「いや、十分すぎるくらいだ。どれくらい時間がかかるか分からないけどここでログインしても良いか?」

「ああ。奥の部屋を使ってくれ」

 

 遊作が指した扉は彼がPlaymakerとしてLINK VRAINSにログインするときに使っていたあの部屋だ。この世界のストーリーを知っている俺からすると感慨深いものがあるが、今は感慨に耽る時間も惜しい。

 

「藤木、草薙さん。俺の無茶な頼みを聞いてくれてありがとう」

「気にするな。奪われたモノを必ず取り返してこい」

「帰って来たらコーヒーでも飲みながらゆっくり精霊界についての話を聞かせてくれ」

「ええ、必ず」

 

 遊作と草薙さんのエールを受け取った俺はVRログインルームに入る。

 

『さて、いよいよですね』

『私達はEden Cityで先に待ってるわよ』

『また後でね、お二人さん』

「ああ。向こうで合流しよう」

 

 キスキルとリィラは二人とも悪魔族のモンスターのため、VRワールドに直接行くことは出来ないらしい。それに、元々サイバース精霊界に住む彼女達はわざわざ中継地点でしかないVRワールドに行く必要はないため、先に精霊界に行ってもらう事になる。だから、これからVRワールドに行くのは俺とマスカレーナ、それと俺の影の中にいるミドラーシュだけだ。

 俺の影を動かして意思表示が出来ないミドラーシュも影から自分の手を出してグッドのハンドサインをしている。準備完了といった感じだな。

 

「よし……行くぞ。デッキ、セット!」

 

 昨日組み上げ、急ピッチながらも微調整を加えたデッキを左腕に装着した決闘盤に差し込む。

 

 遊作と草薙さんはこれからログインする場所を詳細不明のVRワールドと言っていたが、俺は逆探知によって突き止めたVRワールドがどこなのかという事にある程度見当が付いていた。

 

「Into the VRAINS!」

 

 それはLINK VRAINSにログインする際のキーワードだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 未だに慣れないVRワールドへのログインの感覚。

 一瞬途切れた五感はすぐに取り戻され、視覚と聴覚による情報が入って来る。

 

「……やっぱりな」

 

 俺の眼に最初に入り込んだのは大きな塔。いや、最早塔と呼んでいいのかも分からない枯れた大木の様な物体がそこに鎮座していた。

 

「ハノイの塔」

『ラッセさんの思った通りですね』

 

 そこにあったのは数週間前にLINK VRAINSを騒がせたハノイの騎士によって作られたデータ上の建造物。今はその役目を果たせず静かに佇んでいるだけだ。

 そして、そんなものがあるという事はこの場所はLINK VRAINS……、いやいずれ旧LINK VRAINSと呼ばれる事になる場所だった。

 VRワールドは数あれど、精霊界と隣接すると言われる程近い世界はサイバース族の生みの親であるイグニスが作り出したデータマテリアルが収束して嵐となる程存在しているLINK VRAINSだけだろう。

 

 SOLテクノロジーはハノイの塔事件の後、このワールドを放棄して新生LINK VRAINSをオープンさせる訳だが、放棄されたこのワールドはハノイの騎士がひっそりと管理していた事が作中で判明する。このワールドを逆探知した時、凄腕ハッカーの二人が詳細不明で下手に踏み込むとヤバイと言わせたのも納得だろう。何故ならこのワールドを管理しているのも二人に対抗できる凄腕ハッカー集団、ハノイの騎士なのだから。

 

『ラッセさん、手を』

「ああ」

 

 マスカレーナもハノイの塔の残骸を見てここがどこだかすぐに分かったのだろう。彼女は俺をサイバース精霊界にいつも連れて行く時と同じ様に手を取るように言ってくる。

 さっさとここから離れないと俺のログインを感知したハノイの騎士にちょっかいを出されるかもしれない。

 俺は躊躇うことなく彼女が差し出してくれた手に俺の手を重ねるようにして置く。

 

 

 

 

 

 

 瞬いた瞬間、先ほどまで見ていた荒廃したLINK VRAINSの光景は嫌に見慣れた摩天楼の世界に切り替わっていた。

 

「戻って来たな」

 

 それと同時に感じるのは右手に触れるマスカレーナの手の感触。精霊体では無く実体として彼女が存在しているという事は、ここが精霊界であるという事を示している。

 

「おーい、お二人さーん」

「どうやら問題なくこっちに来られたみたいね」

「キスキル、リィラ! それに、小夜丸も来てくれたのか」

 

 俺が現れる場所が予測できていたのか、キスキルとリィラの二人は小夜丸を連れて近くの場所で待機してくれて居た様だ。

 

「え? あれ? あなたは確か……少し前に会った人間さん……? どうしてマスカレーナと一緒に?」

 

 二人と一緒に待っていた小夜丸は俺の姿を確認すると怪訝な表情をしながらそんな事を言い出した。

 今回はLINK VRAINSを経由してマスカレーナの手引きでサイバース精霊界にやって来たため、俺の姿はアバターだ。そう言えば彼女に自己紹介した時、俺は自身の身体だったためアバターの事は話していなかったな。

 

「ああ。俺だよ俺」

「ラッセさん、それわざとやってるんですか?」

「ラッセさん? マスカレーナがそう呼ぶという事は……世良さん? ……ハッ! あなたが世良さんという事は……あの時私がマスカレーナの行先を尋ねた時も彼女とつるんでいたんですよね!? もしかして、あの時の証言は嘘だったんですか!」

「え? いや、嘘は言わなかったはずだよ。「あっちらへん」って言ったはずだから」

「それははぐらかす気満々じゃないですかー!!」

 

 時をあけて判明した事実に嘆いている小夜丸を宥めるのに少し時間がかかったが、シャドールカードとミドラーシュの力を取り戻すための計画をここに居る全員に伝える。

 

「今回の相手は恐らく光属性サイバース族の親玉の一味かなんかだと思う。そして、居場所はブリッジヘッドのワープゲートが置かれた部屋。もっと言えば、あの部屋にあったバカでかいコンピューターの中にでも潜んでいるんだろう。俺達が人間界に移動する時に怪しい奴の影を見たんだ」

「それはS-Forceのメインコンピューターです。ワープゲートの制御はもちろん、この世界の通信インフラの監視も行っている物ですね」

 

 俺の話に小夜丸が補足を入れてくれる。

 

「なるほど。そんなコンピューターならこの世界を見渡すには都合が良さそうだ」

「つまり、もう一度あそこに行く必要があると言う訳ですか」

 

 マスカレーナの言う通り、再びS-Forceのブリッジヘッドに行く必要がある。

 

「またあんな大立ち回りをしないといけないのか……」

「あ、それなら今回はもう少し楽だと思うわよ」

「え? それはどうして?」

 

 俺が難しい顔で今度はどうやってS-Forceに襲撃を仕掛けようかと考えていると、発言をしたのはキスキルだった。

 

「私達があの建物に殴り込みを仕掛けた後にサニー団の連中が便乗して来たって話はしたわよね?」

「ん? ああ、そんな事言ってたな」

「私達が色々した上にあいつらも相当暴れたみたいでね、今S-Forceの連中は本部機能を別の拠点に移してブリッジヘッドは絶賛修繕中なのよ」

「それに、主力エージェント達は下手人であるサニー団を追いかけまわしているしね」

 

 リィラが言う主力エージェントとはエッジ・レイザーやオリフィスの事だろう。本部機能を別の場所に移しているという事は司令官であるジャスティファイはそちらに居る可能性が高い。

 となると、今ブリッジヘッドに居るのは建物や機械を修理する技術職員や事務職員がほとんどって事か。

 

「それに、今ブリッジヘッドは修繕中という事で本格的な警備もないし、目的の部屋の場所も分かってるから今度は空から直接行けば良いわ」

「またエレベーターと階段を使って駆け回るのは大変だしな」

 

 我ながら前回はよく体力が持ったものだと思う。割と命が掛かっている状況で火事場の馬鹿力が働いていたのだろう。

 

 さて、むやみやたらに襲撃されるS-Forceには申し訳なく思わないでもないが、今回も諦めて貰うとしよう。

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