科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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人攻智能

 ブリッジヘッドのワープゲートがある部屋に直接乗り込むために、その横に立っているビルの屋上にやって来た俺達。それでもまだブリッジヘッドのビルの最上階は見上げる位置にある事からもその巨大さが良く分かる。

 

「ここまで来たものの、どうやってあそこまで行くんだ?」

 

 まだ高さが足りないのもあるが、隣接したビルとは言え向こう側まではそれなりに距離がある。到底走り幅跳びで届くような距離ではない。

 

「そりゃ飛んで行くに決まってるじゃない」

「え?」

 

 キスキルはそう言うや否や有無を言わせない早さで俺を抱きかかえると腰の翼を広げながら駆け出すと、ビルの縁から飛び出した。

 

「やっぱりー!!」

 

 マスカレーナはリィラに運んでもらい、小夜丸はどこからか取り出したグライダーを使って風に乗って上昇して行く。

 忍者ってすげーな。そのグライダー動力無いよね? 多分君も怪盗のセンスあると思うよ。 

 

「しっかり掴まってなさいよ」

「……うっす」

 

 今度はお姫様抱っこでは無く、普通に俺の腰に手を回して体を密着させているだけの状態であり、下からの支えがないためキスキルの腕の力が少しでも緩むとそのまま俺の身体がすり抜けて地面と一世一代のキスを交わす事になるだろう。そうはなりたくないので俺自身もキスキルの身体にしっかりと掴まる。

 あれだな……大怪盗が無理やり結婚させられそうになってた姫様を助けた時みたいなシチュエーションだ。まあ、キスキルが大怪盗なのは間違いないんだけど俺こんなのばっかり……。

 

 今更ながら思うのだが、お姫様抱っこと言うのは下から支えて貰えるから安心感があったんだな……と。

 

 そんな無駄な事を考えていないと恐怖で頭がおかしくなりそうだったのだが、流石は大怪盗Evil★Twinという訳で俺やマスカレーナを落っことすなんて事は無く、目的の部屋に窓から突入する。

 身体で窓をぶち破る、なんてことは無く、先行していた小夜丸が刃物でガラスを切り取って人が通れるくらいの穴が開けられていた。

 

「……?」

「誰も居ないですね」

 

 部屋には俺が人間界に戻る時に使ったワープゲートが中心に置かれており、間違いなく目的の部屋だという事が分かる。

 しかし、以前は部屋に設置された巨大なコンピューターを動かしていたと思われるオペレーター達が居たのだが、今この部屋には誰も居ない。いくら設備の復旧中とはいえ、この部屋はブリッジヘッドの中枢であり、少なくとも誰かしらが居ると思っていたのだが……。

 

「罠かしら?」

「どうだろう」

 

 キスキルとリィラが辺りを警戒しているが、何かが起こるという訳でもない。

 機械の駆動音すらも聞こえてこないこの部屋はやけに広いため、嫌に静かに感じる。

 

「……この部屋、妙な違和感があります」

「違和感?」

 

 顎に手を当てて考え込んでいた小夜丸が小さく呟いた。

 

「何と言えば良いんでしょうか……まるで空間全体が何かに覆われて隠されている様な感じ……」

「隠されている……か」

 

 小夜丸の言葉を聞いた俺はミドラーシュに頼んで足物との影からガラテアのカードを取り出してもらう。

 今回はアバターでサイバース精霊界にやって来ているため、本来では人間界の物を持ち込むことは出来ないのだが、ミドラーシュを経由する事でこの世界に持ち込んでいるのだ。

 

「この辺かな? ……おりゃ!」

「ちょ、ちょっと世良さん! 何やってるんですか!」

 

 俺はガラテアのカードを彼女の大鎌に変化させ、紅蓮のコアを発動させる。そのままメインコンピューターに向けて振り下ろした。

 

「……あれ? 何も起こらないか」

 

 しかし、結局ガラテアの大鎌と機械がぶつかる鈍い音が周囲に響くのみで特に周囲に何か変化が起こる事は無かった。

 

「このコンピューターはEden Cityの治安維持にもワープゲートのコントロールにも使う物なんですから壊したら駄目ですよ!」

「ごめんて」

 

 元S-Forceのエージェントとして、小夜丸は俺の行動を見過ごせなかったのか注意されてしまった。

 

 しかし、敵の光属性サイバース族モンスターの影響を受けていたと思われるLive☆Twinキスキルがトロイメア・フェニックスの力で正気に戻せたから出来ると思ったのだが、当てが外れたな。

 

「なら、これでどうだ?」

 

 今度はトロイメア・ケルベロスの効果を内包する燈影のコアを発現させてから小夜丸に怒られない様に軽く大鎌を機械に当ててみる。

 

「あれぇ?」

 

 だがやはり、何も起きない。

 魔法・罠を破壊する効果でも、モンスターを破壊する効果でも何も起こらないという事は、そもそも精霊が相手ではないのか……? 

 

「……もしかして何ですけど、そもそもここに敵の親玉が居るというラッセさんの推測が間違っていたのでは……?」

「えっ」

 

 えっ。

 いやいや、そんなはずは……。

 

 ……。

 

 でもまあ、確かに俺がここに狙いを定めた理由は人間界に戻る時に微かにモンスターの姿が見えたからと言うだけであり、確たる証拠がある訳では無い。

 ……あれは次元移動中の出来事だという事を考えると敵はこことは違う次元に存在している可能性もある訳か。そんな所に隠れられたら手が出せないぞ……。

 

「……えーい! どうせ手掛かりはここしか無いんだ! ならやれるだけの事はやってやる!」

 

 ガラテアの大鎌にはめ込まれたコアを紫宵のコアの輝きに変え、大鎌を天に掲げるようにして振り上げる。

 それに応えてくれるかのように紫宵のコアは強い光を放つ。

 

「え!? 何ですかこれ! なんか急に力が抜けて来たんですけど!?」

「え? そうですか? お二人はどうですか?」

「私達? いや、特に何も無いわ? リィラは?」

「全然? 何も?」

「私だけなんですか、これ!?」

 

 紫宵のコア、つまり『トロイメア・グリフォン』の効果は他のトロイメアリンクモンスターと同じように手札を捨てて発動する効果とは別にリンク状態ではない特殊召喚されたモンスターは効果を発動する事が出来ないという制圧効果を有している。

 キスキルとリィラはカードで言えば相互リンクとなる立ち位置で二人は居るし、マスカレーナの斜め後ろには俺が立っているので彼女も謂わばリンク状態であるため、紫宵のコアの影響を受けなかったのだろう。

 しかし、小夜丸はマスカレーナのリンク先では無い俺の隣に立っていたために一人だけ紫宵のコアの影響を受けている様だ。

 本来であれば特殊召喚されたモンスターにしか効かないのだが、大分大雑把に効果を再現しているこのガラテアの大鎌は小夜丸にも影響を与えてしまったのかもしれない。こういう時、いつも小夜丸だけ割を食っている気がするのは気のせいだろうか? 

 

 だが、そんな大雑把にトロイメア・グリフォンの効果が再現されているという事は、ケルベロスとフェニックスの効果からどうやってか逃れた敵にも有効だろう。

 

「さあ、姿を現しやがれ!」

 

 紫宵のコアから放たれる光を宿したまま、俺は目の前の何かを切り裂く様にガラテアの大鎌を大きく振り下ろした。大鎌はそのまま、空間を切り裂き、俺を空間の裂け目の向こう側へと誘った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは? それに、みんなは?」

 

 ガラテアの大鎌を振り下ろした後、この真っ白の空間でマスカレーナ、キスキル、リィラ、小夜丸の姿が見えなかった。

 

「ッ!」

 

 皆を探すために辺りを見回していると、何も無いと思われたこの真っ白な空間に全く似つかわしくない物体が置かれている事に気が付く。

 

「悪趣味な事しやがる……」

 

 それは並べられた複数の真空管。

 その中には盗まれた俺のシャドール達が収められていた。

 

 この真空管はインフェルノイドと言うカテゴリーのモンスター達と深い関りがあるものであると同時に、シャドールモンスター達とも繋がりが有るものだ。

 真空管はいわばエネルギーポットであり、その中に過去のモンスターを捕えその魂を原動力に活動するのがインフェルノイドと言うモンスター達の設定だが、真空管によって魂が囚われたせいで本来転生するはずだったモンスター達の肉体だけが世界のバグとして実体化してしまったモンスター達がシャドールである。

 

 本来の意味で言えばシャドールモンスター達は真空管から漏れ出た残滓の様なものなので真空管に捕えられているのはおかしいのだが、同時にシャドールモンスター達を縛るためのアイテムとしてはこれ以上の物は無いだろう。何故なら、真空管の中には彼・彼女らが失った魂があるとされているのだから。

 

 どういう意図でこんな事をしているのかは分からないが、敵は相当厭らしい奴だという事は分かる。

 

『賞賛:当機の次元迷彩を突破するか。伊達に精霊を知覚する能力を持つ人間では無い』

「!?」

 

 空間全域に響き渡る俺以外の謎の声。

 そいつは俺が真空管の方へ行く事を遮るようにして立ち塞がっていた。

 まるでワープしたかの様に突然現れたそいつは俺が人間界への次元移動の際に見たのと同じ姿をしていた。

 

「テメェ……一体何なんだ?」

『返答:当機の名称はME-PSY-YA(メサイヤ)。光の創造主により停滞した世界を推し進め、人類の後継種たる創造主による完全な支配を行う一助となるために創られた人攻智能』

 

 自分の出自を誇るように語る鳥の意匠が見受けられるそのモンスターは自身の翼を大きく広げてこちらを威圧する様に振る舞う。

 光の創造主、人類の後継種による支配……なるほど。どうやら俺の推測は間違っていなかった訳だ。奴の言う光の創造主とは十中八九ライトニングこと光のイグニスの事だろう。ライトニングに強い影響を受けていると思われるこの精霊が精霊界でのさばっていると言うのは原作であるVRAINSでは無かった状況だ。

 だが、それも当然だろう。VRAINSにはデュエルモンスターズの精霊に関する話題は全くと言う程出てこなかったのだから。

 

「……俺のカードを返せ」

『拒否:』

「何でこんな事をする!」

『返答:遥か過去より、デュエルモンスターズには不思議な力があると言われている。特に人間と関りを持った精霊は強い力を持つと言われている。その原理を明らかにするためにサンプルを集める必要があったのである』

「……」

 

 なるほど。だから精霊と交流する人間()が使うカードを狙った訳か。精霊と言うだけならサイバース精霊界に無数にいる。だが、人間界にまで現れて交流を交わしている精霊となると限られる。

 ……そうなると、マスカレーナやEvil★Twinの二人も狙われていた可能性があったのか。これは俺の想像になってしまうが、俺が人間界に戻る時にマスカレーナや俺が無事だったのはミドラーシュが守ってくれたからかもしれない。精霊として非常に強力な力を持つ彼女が後れを取ったのはそういう理由があったとしても不思議ではない。

 

 こんなイレギュラーがVRAINSの物語の黒幕に同調してストーリーを進めるなんて事があったら未来がどうなるか分かった物ではない。ライトニングは気が遠くなる程の回数のシミュレーションを行う事で疑似的な未来予知を可能としていた。だが、そのシミュレーションは自分が関わる事によって人類を滅ぼしてしまうという結論を出す事になる。

 そこに、ライトニングが知らないであろうデュエルモンスターズの精霊と言うデータが加わればどうなる? ライトニングが関わっても人類は滅ぶ事無く繫栄するかもしれない。逆にもっと悲惨な未来を描いてしまうかもしれない。

 どちらにしても、イグニスと言うAIが新たな知識を学習する事で、ライトニングと対峙する事になるこの世界の主人公である遊作は原作にない苦境に立たされる事になるだろう。

 

 すれ違いながらも最終的には紙一重のビターエンドとなったこの世界の結末がもっと悪くなってしまうなんて言うのは……受け入れられないな。

 

 こいつは、ここで倒す。

 

「それにしてもよく喋るな」

『肯定:当機は人工知能。問われた質問には答える様に設計されている』

「ッ!」

 

 ME-PSY-YAの翼にあるサーチライトの光を浴びせられると、待機モードだった俺のデュエルディスクが強制的に決闘(デュエル)モードへと変更される。

 

『補足:そして、当機は人攻智能。人間を滅ぼす様に設計されている』

 

俺の相手として設定されたのは目の前に居るメサイア。

 

『起動:マスタールールデュエルモード。標的を排除する』

「……良いだろう。人間には触れたらいけない領域があるって事をAIのテメェに教えてやるよ!」

 

 俺は自分の意思で決闘盤(デュエルディスク)を構え、ME-PSY-YAに相対する。

 

「『決闘(デュエル)!!』」




カードを取られて結構おこです
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