科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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精霊抜け

 ティアラメンツのカード効果を読んだ時、最初に頭に思い浮かんだ相性の良さそうなカード群はライトロードだ。ライトロードは『自分のデッキの上からカードを○枚墓地へ送る』という誘発効果が特徴のカード群である。これはティアラメンツと文字通り同じ効果であり、墓地へ送られることで効果を発動するティアラメンツとの相性はとても良いと言える。

 

 一つ気になった点があるとすれば、ティアラメンツ・ライトロードデッキだとティアラメンツの効果による融合をティアラメンツ融合モンスターもしくは素材ガバガバの実質汎用融合モンスター達にしか使えないことだ。それにキトカロスの融合素材はティアラメンツモンスターと水族なため、ライトロードモンスターを融合素材として活用できないのが痛い所でもある。

 彼女達の融合効果は別にティアラメンツ融合モンスターだけに限定された物ではない。つまり、ティアラメンツを実質的な『融合』カードとして使い、別カテゴリーの融合体エースモンスターの召喚に繋ぐ事が出来ると言う魅力は捨てがたい。

 

 だが、俺はそんな相性が良さそうなカード群に思い当たる物があった。

 それはシャドール。シャドールもまたティアラメンツと同じ融合テーマであり、さらに『このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる』という条件でもう一つの効果を起動できる点もシナジーとなりうる。

 また、ライトロードはデッキからライトロードモンスターを墓地に送るだけ送ってエースモンスターである『裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)』を召喚するのが目標であるため、デッキから墓地に送られることで効果を発動するモンスターも居なくは無いのだが、その数は意外と多くない。

 その点、シャドールカテゴリーのモンスターは全員墓地に送られることで発動する効果を持っているためティアラメンツの墓地送り効果も無駄なく使うことが出来る。

 

 二つ目の理由はシャドールの融合素材はシャドールだけを指定するものだけではなく、属性で指定するものが多いという事。

 これによってティアラメンツを融合素材にしつつシャドールの融合体を召喚することが出来る。

 ティアラメンツの属性は闇。シャドール+闇属性の融合体はとても強力なカードであり、このカードを無理なくフィールドに立てることが出来るというのは非常に大きい。

 

 そして、シャドールを選ぶ最後の理由。

 それは俺がすでにシャドールカテゴリーのカードを多く持っているから組みやすいという事だ。

 

『ねぇ、その箱の中には何が入っているのかしら?』

「ん? ああ。カードだよ。ここにあるカードと君達でデッキを完成させようと思ってね」

『私達関連のカードを集めるのはもう止めるの?』

「いや、それも続けていくぞ?」

 

 キトカロス救出を決意した俺はインターネットでのカード探しも解禁してカードの捜索をしていた。そもそもが俺の個人的な信条と急ぐ理由もないという事から実店舗でカードを実際に見て買うようにしていただけであり、急ぐ理由が出来た今となっては俺の信条なんてものは二の次で良い。

 だが、壱世壊カテゴリーのカードを探しても俺が持っている物以外のカードは見つからなかった。もしかしたら現在販売されているティアラメンツカードは全種類集めたのかもしれない。

 

 なら、デッキ構築用に二枚目三枚目の同名カードを購入しようと思ったのだが、探してみるとどこにも売っていない。ペルレイノや軋む爪音、キトカロス等、かつて販売されていた形跡はあるのだが、すべて売り切れや販売サイトが無くなっていたりしていたのである。これは紙のカードだけでなくデータの方でも同様だった。

 この世界のカードのデータ販売は欲しい人が全員データを購入できる訳では無い。希少性の維持の為なのか、もしくはこの世界の人間にとってカードは個人のアイデンティティと直結しているところがあるから同名カードを無限に作るような事はしないのか。

 理由は分からない。

 

 ちなみにカードのデータを一回でも無許可で複製なんてしようものなら次の日には家にポリスがやって来るだろう。

 

 それはそれとして、もしかしたらティアラメンツテーマは随分昔に作られたテーマで、今は刷られていないのかもしれないな。そのせいで誰もティアラメンツカードを取引しない、もしくはデータ化されたカードを使うのが普通となる時代より前に販売されて、データ化されたティアラメンツカードの数が少ないのか。

 

「何にしてもデッキは作っておこうと思ってね」

 

 俺が手にした箱に入っているのは特に思い出深いカード達。

 かつて短いひと時でも行動を共にした精霊達に関連したカードが納められた個人的に特別な意味を持つ箱である。時々箱から出してはみんなの事を思い出すのがちょっとしたお気に入りの時間だったりする。

 

 そして、その中にはかつて精霊が宿っていたカードも含まれている。

 精霊との別れは島に『グリーン・バブーン』を渡したように精霊付きのカードを誰かに渡すことが多い。しかし、中には精霊界に帰るなどしてカードから精霊が抜けた者も居るのである。

 

「この中のカードは思い出のカードでね。まあ、この箱の中にあるカードの精霊達は既にみんなどこかに行ってしまったんだけど」

『あ、このカードから少しだけ精霊の気配を感じます』

『え? そうかしら?』

『……シェイレーンは鈍感だから……あ、これも精霊付きだったのね……』

『はぁ!? 私にだってそれくらい分かるわよ! ……これなんかそうじゃないかしら!』

 

 箱の中からカードを一枚一枚並べていく。

 メイルゥとハゥフニスはかつて精霊が宿っていたカードをピンポイントで当てているが、シェイレーンは元精霊付きのカードと特に精霊が宿ったりはしていなかったが関連カードだから一緒にしまっていたカードとの区別がついていないようだ。

 

 そして、箱の中から目当ての一枚を取り出す。

 

『あ! このカードは元精霊付きね! 私にも分かるわよ!』

 

 そう言ってシェイレーンが指を差したのは今俺が手に持っているカード。

 

『エルシャドール・ミドラーシュ』

 

 それがこのカードの名前だ。

 シャドールモンスターと闇属性モンスターを素材にして融合召喚する事が出来るこのカードはお互いの特殊召喚を一回までにすると言う極悪ロック性能を持っており、前世でも大暴れしていたものである。

 特殊召喚を多用してリンクマーカーの数を増やしていくこの世界では刺さりに刺さるメタカードとして機能する。また、このカードは効果破壊に対する耐性を持っており、先行で立ててしまえばステータスの低い展開用のモンスターでは絶妙に太刀打ちできない2200打点も偉過ぎる。

 

「……」

『? アンタ、どうしたの?』

『なんだかとても悲しそうな顔をしています』

『……大丈夫? ……』

「ああ、ちょっと思い出しちゃってさ……」

 

 それは俺の中の苦い思い出。

 まだ精霊付きのカードを積極的に集めていた時の思い出。

 

『……よしよし……』

「ありがとう、ハゥフニス」

 

 どうやら過去を思い出していた俺はあまりいい顔をしていなかったようだ。頭を撫でるハゥフニスの手の感触を感じることは出来ないが、心が軽くなったような気がする。

 

『その……余計なお世話かもしれませんが、あなたのお話を聞かせては頂けませんか? 誰かに話せば少しは気が楽になるかもしれません』

『そうね。話を聞くくらい、してあげても良いわよ?』

「メイルゥにシェイレーンも、ありがとうな」

 

 そう言えば、あの時の事を誰かに話した事は無かったかもしれない。

 親父やオカンは勿論、人間の知り合いにもカードの精霊を視ることが出来る人は居ない。そんな人たちに話をしても頭がおかしくなったとしか思われないだろう。

 精霊の友達ももちろん居るが、そう言った話をするような流れにはならなかった。何より、俺自身があれ以来精霊達との関わり方に気を遣っていたからというのも大きい。

 

「あんまり面白い話じゃないけどな……それでも良ければ」

 

 思い出すのはミドラーシュを行きつけのカードショップで見つけた日の事。

 今から10年位前だったか。

 

 それは、無駄に知りすぎていたバカな転生者の話。


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