『:……当機の敗北』
キスキル・リィラの一撃が決まり、ME-PSY-YAのライフポイントは一気に消し飛ぶ事となった。
デュエルの勝敗が決まった事でシステムによって実体化していたキスキル・リィラは役目を終えたと言わんばかりに消えて行ってしまう。それに合わせて
「さて、俺のカードは返してもらう」
『:当機の敗北によって当機は個体名「世良」の行動を阻止する事は出来ない』
俺はぶん投げて突き立てたガラテアの大鎌を回収してからインフェルノイドの真空管の前まで歩いていく。
「帰ってこい」
並んだ真空管の中の一つ。何となくミドラーシュの力が捕らえられていると感じる真空管目掛けてガラテアの大鎌で強く叩くと、その真空管を構成しているガラスが砕け散る。すると、奪われた彼女の力が解放され、俺の影に吸い込まれる様に消えて行った。きっとミドラーシュが回収したのだろう。
それに連鎖する様に残りの真空管も次々と壊れていき、奪われたシャドール達も同様に俺の影の中に帰る様に吸い込まれていく。
『理解:これが決闘者の真価。これがデュエルモンスターズの可能性……』
「ん?」
俺とのデュエルに負けた事でME-PSY-YAの身体は消滅の過程を辿っていた。
『理解:であるならば、やはり当機にも……可能性はあるという事』
「お前、何を……ッ!」
ME-PSY-YAの身体は既に半分以上が消えており、精霊としての奴の時間はもう僅かしか無いというのに、まだ何かするつもりなのか?
『理解:当機自身が……精霊と
「まさか!」
『理解:決闘者の諦めない心。デュエルモンスターズの精霊である当機もまた、同じ様に……当機も……
ME-PSY-YAの喋り声は機械的な単調な喋りではなく、うわ言を呟く様な震え声だ。
「……もしかして俺、
『施行:対象アドレスを検索。検索完了。専用回線を確立。当機の有するデータを可逆圧縮。イグニスコードによるプロテクトを処置。データアップロード開始……0%……26%……48%……』
ME-PSY-YAから抽出されるデータがどこかへと送信されていく。それは恐らく奴の創造主であるライトニングだろう。このデータを完全に送られてしまったら結局ライトニングに新たな知識を学習させてしまう事になる。
それだけは阻止しなければならない!
「ッ! ミドラーシュ!」
俺の呼び声を聞いたミドラーシュは即座に俺の影から多数の影糸をME-PSY-YAに伸ばしていく。影糸はME-PSY-YAの身体中に巻き付き、そのまま縛り上げる。
『施……行中:データ……アップロー……ド率……7……3%………………施行……中…………断……』
「……間に合ったのか?」
ME-PSY-YAから発せられる言葉は途切れ途切れになり、とうとう完全消滅の時間が来たのか、ME-PSY-YAによるデータの送信は中断された。奴の姿は完全に消滅し、そこに残ったのは一枚のカードだけだった。
ME-PSY-YAが消えた事でこの真っ白な空間も維持出来なくなったのか、周囲の空間自体に綻びが見え始める。ガラスが割れる様な音と共に真っ白な景色はここに来る前に居たブリッジヘッドにあるワープゲートの目の前に立っていた。
「あえ! ラッセさん!? いつの間に!?」
「おやおや? その様子だと、チャレンジは成功したのかしら?」
「みんな!」
ブリッジヘッドに戻って来た事で、それっきり別れてしまったマスカレーナ、キスキル、リィラ、小夜丸と合流出来たらしい。
真っ白な空間から戻って来た事で彼女達にとっては俺が突然そこに現れた様に見えたのだろう。マスカレーナが酷く驚いている様子が何となく面白い。
「こっちは何事も無かったか?」
「ええまあ。何も無かったと言えば何も無かったかしら? ラッセ君が居なくなったと思ったら君の影だけがこの場に残ってたのは何かあったと言っても良いのかな?」
「え? 俺の影だけ?」
「ええ。それはもうまるで影法師の劇の様に地面に映し出された世良さんの影が動く様子で何が起こっているのか何となく分かりましたよ」
何それ、怖い。
リィラと小夜丸が話してくれた衝撃の内容に俺はちょっとビビってしまった。ME-PSY-YAが作り出した空間の中でもちゃんと俺の影は存在していたと思ったが、どうやらミドラーシュはデュエル中俺の傍には居なかったらしい。
「どうもラッセさんが消えたと思ったらミドラーシュさんだけはこの場所に取り残されてしまったみたいで、そのままラッセさんの影に成りきって実況してくれましたよ」
「無声映画みたいで中々面白かったわね。まあ、ラッセ君が戻って来る少し前に消えちゃったんだけど」
「そうだったのか」
もしかすると、ME-PSY-YAが作り出した空間には力を失っていた状態のミドラーシュでは立ち入ることが出来なかったのだろう。デュエルが終わってから彼女の力を解放した事でようやく中に入ることが出来たんだな。
でもまあ、ミドラーシュが間に合ってくれたお陰でライトニングに必要な情報を与える事を防ぐ事は出来……
俺はあの時ME-PSY-YAが呟いていた事を思い出す。
『施……行中:データ……アップロー……ド率……7……3%………………施行……中…………断……』
中断……中断? じゃあアップロードが既に終わっていた73%分の情報は……?
あれ? これはもしかして……。
………………マズイ?
「ラッセさん? どうかしたんですか?」
突然顔を伏せて黙り込んだ俺を見て不思議に思ったのか、マスカレーナは覗き込むようにして俺の方を見つめて来る。
そうすると当然俺からも彼女の顔が見える事になる。
「? どうかしましたか?」
そうか……。
勿論彼女の気持ち次第ではあるけど、悪くない選択なのかもな……。
☆
「……う、うーん……立ちっぱなしで足が痛ぇ……」
Café Nagiのログインルームの扉を開けると、その向こうにはつい最近見知るようになった二人が居た。
「世良、戻って来た様だな」
「お疲れさん。意外と早かったな。無事に大切な物は取り返せたか?」
「藤木、草薙さん……。ええ、取り返して来ましたよ」
そう言って俺はしっかりとカードの表面が記入されたシャドール達を二人に見せる。
精霊界に持ち込んだデッキはティアラメンツEvil★Twinデッキであったため、実は向こうでシャドールカードがちゃんと元に戻っているかを確認する事は出来なかった。現実世界に戻って来てからすぐにサブデッキケースに入れておいたシャドールカードを確認したのは言うまでもない。
「まだ昼前か……」
キッチンカーであるCafé Nagiの提供窓は閉められており、外の様子は伺えなかったのだが、チラッと見えた大型モニターの隅にある時計を見る事で今の時刻を確認する事が出来た。
俺の感覚としても精霊界にはもっと長い時間居たと思うが、人間界と精霊界で流れる時間の早さが違う様なのでおかしなことは無い。
「一仕事終えて疲れただろ? コーヒーでも淹れよう」
「ありがとうございます」
草薙さんがそう言ってくれたのと同時に、緊張が解けたのか我慢出来ずに腹を鳴らしてしまう。そう言えば今日は荒事になるだろうと踏んで朝ご飯を少なめに食べて来ていた事を思い出した。
「ふっ、一緒にホットドッグも出そうか?」
「お願いします……。お金は払うので……」
「気にするな」
草薙さんはコーヒーを淹れるためにカップをもってコーヒーメーカーの方へと向かう。
「なあ、藤木」
「なんだ?」
「お前に……Playmakerに話しておかなきゃならない事がある」
「?」
俺の発言に少し驚く様子を見せる藤木。そして、横で聞いて居た草薙さんも注意を引かれた様だ。
「今回、俺のシャドールカード達を奪って行った黒幕なんだが……こいつだ」
「サイバース族の……ペンデュラムモンスター?」
それは先程まで俺がデュエルをしていた相手でもある『人攻智能ME-PSY-YA』のカードだ。
サイバース精霊界にアバターで行った俺は精霊界から物を持ち帰ることは出来ない。それをすり抜けるために一度ミドラーシュに預かってもらってから現実世界でミドラーシュから返して貰う事でこの場にME-PSY-YAのカードを取り出している。
ちなみに、家ではないのでいつもの封印処置が出来ていないので少しだけ不安なのは秘密だ。家に帰ったら予備のスクリューダウンとホットボンドを押し入れから取り出すことを忘れない様にしないといけない。
「こいつは精霊と
「精霊とデュエリストの関係?」
「まあ、そのデータがどんな物なのか詳しくは俺には分からない。だけど、
「イグニス!」
「……だろうな。俺は藤木がPlaymakerとして戦った時の事を聞いた。そして、イグニスに由来する精霊が妙な活動をしているのが気になるんだ」
「……まだ……終わっていないと言うのか……」
そうだ。
遊作の戦いはまだ終わらない。
もう二か月もすればライトニングが本格的に動き始める。そうなれば鴻上博士が亡くなった事で闇に葬られたロスト事件の真相を彼は知る事になるのだ。
そんな戦いに本来の物語では関わるはずの無かった精霊と言う要素が加わればこの世界がどうなるか分からない。
だから、彼には必要だろう。
精霊と戦うための知識と力が。
「藤木、このカードを受け取って欲しい」
「これは……『I:P マスカレーナ』?」
『じゃじゃーん! こうしてお話をするのは初めてですね、Playmaker! 私の名前はI:Pマスカレーナです!』
「なっ! これは?」
「うお!? これがカードの精霊って奴なのか? 俺にも見えてるぞ?」
マスカレーナはいつもの精霊体ではなく、デュエルディスクのソリッドビジョンシステムとスピーカーを利用して俺の
☆
時は戻り、現実世界に戻ってくる前の事。
サイバース精霊界にあるブリッジヘッド。そのワープゲートがある部屋で俺はマスカレーナにあるお願いをした。
「ええ!? 私をPlaymakerに渡す!! ……え? 私捨てられちゃうんですか!!」
「いや、そうは言ってないが?」
俺の発言を聞いたマスカレーナはいつもの海外顔文字みたいな顔ではなく、絵文字のピエンみたいな顔をして瞳をウルウルとさせている。そんな顔をされてしまうと俺としても心苦しいのだが……。
「勿論、マスカレーナが嫌ならそう言ってくれ。だが、今回の事件でサイバース族の精霊が関わっていたとなると、イグニスと関りが深い藤木も同じ様に巻き込まれる可能性が高い……」
当然、遊作が精霊関連の事件に巻き込まれたら俺も協力するつもりだが、何時でも何処でも彼の力になれるとは限らない。そんな時に遊作の傍に信頼できるデュエルモンスターズの精霊が居てくれたら俺も安心できると言う物だ。
それに、遊作が精霊の声を聞く事が出来たならアプローチを掛けていたと彼女が言う程に遊作のデュエルタクティクスは卓越している。
サイバース族を操る遊作ならマスカレーナの実力を十二分に発揮させることが出来るだろう。
それに引き換え、散々マスカレーナをデッキに入れてくれと頼まれた俺は最近リンク主体のデッキを余り使っていない事もあって彼女を使い切れているとは言い難い。今回のデュエルなんか、Evil★TwinのEXデッキから特殊召喚出来るモンスターが悪魔族に限定されてしまう縛りがあったとはいえ、一度もフィールドに出す場面は無かった。
意外にもデュエルで活躍する事を楽しんでいる彼女としては面白くないのではなかろうか?
実は今回の件が起こる前からそんな事をずっと考えていた。
だが結局の所、彼女にこんな事を頼める一番の理由は……
「どうだろうか? こんな事をお願いできるのは……マスカレーナしか居ないんだ」
「ラッセさん……」
俺が彼女の事をミドラーシュと同じくらい信頼しているからだ。
彼女との付き合いは精霊の中でもミドラーシュの次に長い。いや、ミドラーシュが俺の前に姿を見せなかった期間を除けば一番付き合いが長い精霊はマスカレーナだろう。
そんな彼女だからこそ、この世界を託せるんだ。
「……もう、仕方ないですね。ラッセさんがそこまで言うという事は何か理由があるんですよね?」
「ああ。藤木……いや、Playmakerを道半ばで倒れさせる訳にはいかないんだ。世界がヤバイ」
「いやいや、そんなまさか。……流石に冗談ですよね? …………マジですか?」
俺が現実世界に戻る少し前の僅かな時間。
そんな会話が成された。
☆
『という訳で、ガラテアシステムを応用して私は人間界でも姿を現せる様になったという訳なのです!』
「ガラテアシステム? ガラテアとは、以前世良が連れていたAIと同じ名前だな」
「ん? ああ。彼女もカードの精霊だから……あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いていない」
あれ? そうだっけ?
確かに最初遊作にガラテアを見られた時は精霊の話をした所で信じて貰えないだろうと思ってAIと勘違いしたまま話を進めさせてもらったけど、先日精霊の話をした時に一緒にガラテアの事も説明したような気がしたのだが……。してないかも。
「細かい説明は省くけど、ガラテアのニーサン……ニーサン? いや、正確には父親? まあ、兎に角度し難い変態みたいな奴が居るんだが」
「どういう奴なんだそいつは?」
いや本当にね……。何なんだろうねあのニーサンは……。
草薙さんの疑問は至極当然だと思うな、俺も。
「……それで、あいつは精霊であるガラテアを人間世界で疑似的にでも実体化出来る様に俺の決闘盤を勝手に弄ったみたいでな、そのシステムを使えばマスカレーナでも同じ様な事が出来るって気が付いたらしいんだ」
『えっへん。私、こっち方面には強いので。Playmakerの決闘盤にもインストールしてあげますよ』
決闘盤の上に立つ様に表示されたマスカレーナは胸を張って自慢している様だが、決闘盤の上立てる様なミニチュアサイズなので何となく締まりが悪い。
本当ならマスカレーナが改修したガラテアシステムはそんな物を使わなくとも精霊と話が出来る俺の傍にずっと居たため日の目を浴びる予定は無かったそうだが、遊作に渡すと言う話をした時に「そういう事なら」と説明してくれたのだ。
「……ウイルスとか」
『入ってないですよ!』
物静かな遊作に賑やかなマスカレーナと言うコンビは案外悪くないのかもしれないな。それこそ、今まで遊作の傍にはAiが居た訳だし不思議ではないか。
それに、マスカレーナは闇属性のサイバース族モンスターだ。もしかしなくても元々二人の相性は悪くないのかもしれない。だけど、マスカレーナがあの位置に陣取っていたらAiが戻って来た時に喧嘩になりそうだな? まあ、何とか折り合いを付けて貰う事を期待しよう。
「そういう訳で、これから藤木も精霊に関わる機会があるかもしれない。そんな時、マスカレーナが力になってくれるはずだ」
「……分かった。そういう事ならこのカードはしばらく預からせてもらう。そして、全てが本当に終わったら、このカードを世良に返そう」
「……藤木……ああ!」
俺の下へやって来たデュエルモンスターズの精霊達はミドラーシュ以外いつも俺から去って行った。
それは彼・彼女達が望むマスターを見つけたから、やりたい事を見つけたから、逆に人間界に興味が無くなったから……。
悲しさはある。寂しさもある。友人との別れはいつも辛いものだ。
それでも、今回はまた会えると言う希望がある。
……ていうか、Café Nagiに来れば何時でも会えるし、学校でも機会があれば会えるだろう。
俺が生きるこの科学技術全盛のこの世界はこれからも続いていくはずなのだから。
「本当に良かったのか?」
『何がですか?』
「世良の下を離れた事だ」
『ああ、その事ですか。ラッセさんには私の最新型50インチテレビの借りを返して貰う必要がありますので、逃がしはしませんよ?』
「? 何の話だ?」
これにて第三章はお終いです!
こういう経緯で遊作は精霊が宿ったマスカレーナのカードを入手していたんですねぇ(存在しない記憶)。
「リンク2!I:Pマスカレーナ!」って遊作がマスカレーナをリンク召喚するシーンは熱かったですからね(存在しない記憶)。何話の話だったかは一向に思い出せないんですけど(存在しないから)。
この後精霊パワーを理解したライトニングが遊作に襲い掛かる訳なんですけど、なんやかんや世良君も協力しながら解決してくれる事でしょう。デュエル前の世良君に遊作が駆けつけてマスカレーナのカードを手裏剣投げして渡すシーンとか多分ありますよ(妄想)
では、今回はこの辺で。また何か思いついたら何か書くかな?ティアラメンツのお祭りの話もこの章で書く予定だったのに書けなかったからね。