科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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炎を賜る

 スマホとデュエルディスクだけという最低限の装備だけして街に繰り出した俺は行きつけのカードショップへと赴いていた。

 今回ショップに来た理由は気分転換も兼ねてという事もあり、明確な理由がある訳では無いのが、いつも明確な理由があってショップに来ている訳では無いので結局いつも通りの事である。

 流石デュエルモンスターズが生活の中で大きな比重を占めている世界と言うだけあって、この世界の在庫の回転率はとてつもなく速い。三日も日を空けて店に来れば陳列されているシングルカードの顔ぶれがガラッと変わっているのだから何度来ても飽きない場所である。

 

「とはいえ手持ちの金も心許ないしなぁ」

 

 この世界のシングルカードの相場と言うのは俺が考えるカードの相場と極端に違うという訳では無い。汎用的でどんなデッキにも採用可能な有用なノーマルカードは大人でも購入するのに少し考えてしまう程度の値段だし、ロマンはあるが使い勝手が難しいレアカードは小学生の小遣いでも買うことが出来る程度の値段だ。そして当然、限定生産などにより希少価値が高いカードは一般人が手を出せない値が付けられている。

 それでも前世の方が安かったカードも多い。供給も相応に多いが、それ以上にカードの需要が高いという事だろう。

 しかし、そんな中でもパックの値段は変わらず150円。そう、150円なのだ。誰が何と言おうと、デュエルモンスターズが生まれてから今日この日までパックの値段は150円なのだ。一パックだけ買って運試しをするもよし。狙いのカードを求めてボックス買いをするのも良し。

 なぜなら一パック150円だから。

 

「うーん、どれにするか迷うぜ」

 

 はたから見ればパックが吊るされている棚の前でぶつぶつ呟いているヤバイ人間だが、店内には小声の独り言をかき消してくれる位の音量で音楽が流れており、すぐ近くに人が居ない事は確認しているので何も問題はない。

 一年ほど前に発売された古いパックから先週発売された最新パックまで、様々な種類のパックが棚一面に陳列されて客を待ち構えているこの光景が俺は何となく好きだ。迫力があるし、何より様々な看板モンスターがこちらを見つめて来るような光景は俺をワクワクさせてくれる。

 どのパックを選び、選んだパックからどんなカードが出るか開けるまで分からないこの感覚はきっと歳を重ねて大人になっても変わらない。

 

「これにするか」

 

 俺は最新パックを手前から手の感覚だけで五パックつかみ取り、レジに持って行く。

 吊るされたパックを一つずつ手に取り、レアカードが入っているパックが分かるという都市伝説じみた方法で吟味する事もあるが、今日はそういう気分ではなかったので全てを運に任せる。

 ……まあ、俺はパックを軽く折り曲げてその固さの違いからレアカードが入っているパックを見極める特殊技能を習得しているのだが、それをやると店員に怒られるのでやらないぞ? うん。

 子供の頃は悪ガキだったなぁ……。子供の頃は少ないお小遣いでどれだけレアカードを当てられるかが肝だった。そうなれば小学生ネットワークを通じて様々なレアカードをサーチする方法を学ぶのは道理であったし、パックを買う際にサーチをするというのは当たり前の事だと思っていた。

 まあ、ある日店員に怒られてからやっちゃいけない事だと学んだんだけどな。

 

 過去の過ちの話はさておき、パックをレジで店員に渡し、スマホを機械にかざして決済完了。

 支払い済みである事を示すテープによって五つのパックを一つにまとめて手渡される。店内の開封スペースに移動して開封の儀を執り行う。

 

「何が出るかな、っと」

 

 中のカードを傷つけない様にパックの後ろ側から接着剤で張り付けられた部分を剥がしてパックを解体する様に開けていく。

 前世の頃に知ってたカードもあれば、全く知らないカードもある。こうしてパックを明けるたびに毎回知らないカードを知るワクワクを貰えるのだからいつまで経っても辞められない。

 

 知らないカードであればノーマルカードだろうと効果をじっくり読み込み、手持ちのデッキに活かす事が出来ないか考える。しかし、残念ながら相性が良いカードとは中々巡り合うことは出来ない。

 世の中には属性・種族を活用するテーマがあれば墓地・除外を駆使するテーマもあり、さらにはEXデッキを全く使わない事で真価を発揮するテーマなんてものもある。

 多種多様なテーマが存在する中で、自分が使っているテーマのデッキと相性が良いカードと巡りあう事が出来る確率と言うのは意外と低い。シャドールとティアラメンツの様に似たコンセプトを持つ複数のテーマを組み合わせてより強力に使う混合デッキと言う物もあるが、基本は一つのテーマで固めて使う事も多い。そうなるとテーマで染めたデッキでないと使いにくいカードと言う物も沢山ある。

 つまり何が言いたいのかと言うと……

 

「俺のデッキには合わないな……」

 

 そう言う事である。

 都合よく自分のデッキを強化することが出来るカードと言うのはそうそう出てこない。

 シャドール、ティアラメンツで使える墓地を利用するカードか、Evil★Twinで使える悪魔族のリンクモンスターなんかが狙い目だったが、難しいな。

 Evil★Twinデッキはあの事件以来も持ち続けている。キスキルとリィラにそのまま持っていていいと言われているので持っているのだが、Live☆Twinがサイバース族なので気軽に使えないのが現状である。しかし、一枚初動がある優秀なデッキなので、また精霊界に拉致られた時に備えて強化しておくのは悪くない選択のはず。

 ガスタに関してはガスタでデッキコンセプトが完結されているので手を入れにくいが、風属性の汎用モンスターが手に入ればデッキに採用する候補になるだろう。あーあ、バロネスが欲しいぜ。

 

「あ、光ってる」

 

 そんなこんなで最後のパックを明けた所で一番後ろのカードがレアカード特有の輝きを放っている事に気が付いた。今までは一番前のカードから順番に丁寧に確認していたのだが、ついレアカードを認識してしまうと前の四枚のカードを飛ばしてレアカードの確認をしてしまう。きっと誰だってそうだろう。

 

「リンク3のエースモンスター!」

 

『賜炎の咎姫』

 炎属性/リンク3/攻撃力2700

 

 効果モンスター2体以上

 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は炎属性モンスターしか特殊召喚できない。

 ②:自分メインフェイズに発動できる。自分の墓地から炎属性モンスター1体を特殊召喚する。

 ③:このカードが墓地に存在する状態で、相手フィールドにモンスターが特殊召喚された場合、自分フィールドの炎属性モンスター1体と相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、このカードを特殊召喚する。

 

 それは、目に焼き付く様な赤色の髪と瞳をした女性型のモンスター。

 燃え盛る手と彼女に纏う様に存在している二頭の竜? 蛇? によって醸し出される禍々しさは彼女が悪魔族であるという事をしっかりと示している。

 

「え? つよっ。だけど、これは……」

 

 強力なカードだ。

 展開と妨害と自己蘇生効果を内蔵しながらもリンク3というのは正直何度読んでも信じられない効果をしている。昨今ではインチキ効果の基準も大分上がってきているという事を実感する。

 しかし、こんな強力なカードだからこそ当然制約が付いている。

 それは①の効果にある「自分は炎属性モンスターしか特殊召喚できない」と言う部分である。また、他の効果に関しても全て炎属性が絡む効果をしているため、このカードは炎属性デッキにおける汎用カードと言う事になる。

 そして、問題なのは俺が炎属性主体のデッキを持ち合わせていないという事だ。

 

「炎属性……炎属性…………炎属性かぁ……」

 

 俺は記憶にある炎属性主体のデッキを思い浮かべる。

 イグナイト、炎王、ヴォルカニック……ああ、そう言えばインフェルノイドも炎属性テーマだったか。

 炎属性を主体とするテーマが全くない訳では無い。しかし、炎属性は遊戯王において長く不遇の属性と言われていた歴史があった。それを考えればこんな強力なカードが作られるのもある意味納得してしまう。

 今思い出したが、確か炎王は破壊がトリガーとなるカードが多くあったはず。それを考えれば咎姫の③の効果は恐ろしい程の噛み合いを見せる。炎王かぁ……ストレージにあったかなぁ? 少なくともエースモンスターのデカい鳥みたいなモンスターカードを持っていなかったはずだ。

 

「ま、いつか何かに使えるだろ」

 

 こうしていつ使うか分からないカードが何かの拍子に突然輝きだすのもデュエルモンスターズの面白い所なのだ。

 一応の目的を果たした俺はパックから出て来たカードをシャツの胸ポケットに仕舞いこみ、カードショップを後にする。

 

「小腹が空いたな……Café Nagiにでも行くか」

 

 今回は独り言ではなく、足元に伸びる俺の影の中に居るミドラーシュに聞かせるためにも声に出す。それが聞こえたのか、俺の影は了承を示すかのように親指と人差し指を使って「OK」を作っている。

 

「そんじゃ行こうか」

 

 俺はそろそろカードショップ以外の行きつけになりそうなCafé Nagiに向けて、Den Cityの広場へと足を向ける。あの店は草薙さんとPlaymakerの都合で結構休業してることが多いのでふらっと立ち寄ると店を開けていない事も多いのだが、今の時期にPlaymakerは活動していないはずなので問題ないだろう。

 

 

 

 なんだか今日はいつもより暑いな。

 俺はそんな事を考えながら次の目的地へと向かう。




(-"-)お腹空いた
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