とがちゃんこと『賜炎の咎姫』を穂村尊に押し付け……託してから数日。長かった夏休みが終わり、俺は学生としての日常に戻っていた。
つまりそれは、とうとう遊戯王VRAINSの2期が始まったという事だ。時期的にもそうなのだが、遊戯王VRAINS2期のストーリーが始まった事は俺も直接確認している。と言うのも、いつもの報道二人組が例に漏れず主人公陣営のデュエルを毎回ライブ配信してくれるお陰でLINKVRAINSにログインすることなく彼らのデュエルを観ることが出来ていた。
そのデュエルの中で特におかしなイレギュラーが現れる事も無かったので心穏やかに観戦をしていたのである。
ただ……強いて言えば、Soulburner対ビット&ブートの試合展開が俺の記憶より短かった様な気がしたが気のせいだと思う。うん。
本来であればSoulBurnerが使うはずが無かった『賜炎の咎姫』とかいうつよつよカードがリンク召喚されてたのも多分気のせいだと思う。うん。
……うん! 結果は同じなのだから何も問題ないな。
さて、そんな事もあり俺が通う学校でもLINKVRAINSの新たなヒーローの登場に一部の人間がテンションマーックス!なぶちあがり方をしているのを休み時間中に廊下で見て「今日はちょっと鬱陶しいなぁ……」と思ったりしながら一日を過ごしていた。
授業中にちょっかいを掛けて来る
☆
2学期が始まりデュエル部の部活もあるのだが、何気なく感じた寂しさに部活に行く気が無くなってしまった。なので今日は部室には行かずに家に帰ろう。ハイスクールの部活なんて、行きたい時に行けば良いのだ。まあ、強豪運動部とかであれば話は別であろうが、少なくともうちのデュエル部は緩い文化部みたいなものなので、先輩に一声かければそれでOKだ。
そんな事を考えながら廊下を歩いていると、見知った姿を見つけた。
……周囲には俺以外にも下校しようとする生徒や友人と話をしている生徒が少し離れた位置に見受けられるが、それなりに騒がしさもある空間なので……声を掛けても大丈夫かな?
「おーい、二人とも。こんな所で何してるんだ」
『おや? ラッセさんじゃありませんか。元気にしてましたか?』
『世良ですか。数日ぶりですね』
それは『I:Pマスカレーナ』と『賜炎の咎姫』であった。
二人の持ち主である遊作も尊も同じハイスクールに通う学生であるのだから、彼女達が学校に居る事はおかしい事ではない。きっと
二人はカードイラストに描かれた姿そのままなので、学生服を着た人間がほとんどの学校という空間において非常に良く目立つ。そのおかげで遠くからでも彼女達の存在を認識することが出来た(彼女達の姿はLINKVRAINSでもない現実世界であればどこに居ようが良く目立つものであるのだが……)。
『ちょうど今、咎姫さんとラッセさんの話をしていた所なんですよ』
「俺の話?」
マスカレーナがそんな事を言う。
マスカレーナもとがちゃんも人の陰口で盛り上がるタイプではないと思うが、一体何を言われていたのやら。
『そうですよ! ラッセさんは今度はどこで咎姫さんを引っかけて来たんですか? 流石は
マスカレーナは糸で人形を操る傀儡子の物真似をしながら茶化してくる。
それはサイバース精霊界で光のイグニスの影響を受けていたと思われる『S-Force ジャスティファイ』が言っていた俺の二つ名(?)である。遺憾なことにサイバース精霊界では知る人は知る位には広がっているらしい。恥ずかしい。
「いや、咎姫の件に関しては完全に偶然なんだが……てか、その呼び名やめてね!?」
『ふ~ん……』
いつも明るくて、だけど時々クールでカッコイイマスカレーナにそんな漫画の様なジト目を向けられてしまうと不思議と罪悪感が……って、別に俺は悪いことしてないんだが。
『……』
そんな事を思っていたら今度は俺とマスカレーナの話を聞いていたとがちゃんからもすっげぇ見られている。
多分なんだが、マスカレーナとの会話の中で彼女の事を「とがちゃん」ではなく、「咎姫」と呼んだことに対して何か言いたい事でもあるのだろう。
だが、やはりあだ名を本人に対して呼ぶのと、第三者との会話中でその人物の事をあだ名で呼ぶのとではハードルの高さが違うと言うか……また別の気恥ずかしさがあるのである。そこの所をとがちゃんには理解して欲しいのだが……駄目ですか? そうですか。
「そ、それで二人はどうして空き教室の前なんかでたむろってるんだ?」
『あ、話を逸らしましたね。まあいいです。それはですね……』
ここで俺の止まっていた思考が回りだす。
空き教室とマスカレーナと咎姫。つまりは近くに遊作と尊が居る。
そんな状況に俺は覚えがある。
マスカレーナが言葉を発しようとした瞬間、空き教室のドアが開いて二人の人間が現れる。
教室から現れたのは当然、
「ん? 世良か。何をしているんだ」
「あれ? 藤木君の知り合いかい?」
ああ、やはり。
このタイミングは穂村尊がPlaymakerである藤木遊作を謎にストーキングして、ストーキングに気付かれそうになったから誰も居ない空き教室に逃げ込む場面だったか。そこで、二人は闇のイグニスと炎のイグニスの仲介もあってお互いの素性を明かすのだ。
仕方のない事なのかもしれないけど、どう考えても尊の接触の仕方が不器用過ぎて笑ってしまうんだよな、ここ。
「あ~、まあ、ちょっとな。知った顔を見たから……そっちは初めましてだよな? 俺は世良って言うんだ。藤木とは友達、かな?」
Playmakerの正体を知っている仲か、精霊とのごたごたについて知っている仲か、はたまたドラゴンメイド喫茶に行った仲か。
俺と遊作の関係を改めて表現しようとしたら何が適切なのか一瞬分からなくなってつい曖昧な答え方をしてしまったが、とりあえず友達で良いんじゃなかろうか。
「どうして疑問形? まあいいや。僕は穂村尊だ。よろしく」
本当は初めましてでは無いのだが、こうして顔を合わせるのは初めてなのでこういう挨拶になる。
『友達ですって! 遊作君良かったですね~』
「うわ! え!? 藤木君、それってAIアシスタント……なのかい? AR機能で実体化している?」
さっきまで精霊体で俺の傍に浮いていたマスカレーナはいつの間にか姿を消して、遊作の
そう言えば、尊は幽霊とかそういう系の事象は苦手にしていた様な気がするが、カードの精霊はどうなのだろうか? ぶっちゃけ精霊も幽霊も大して変わらない様な気がする。しかし、デュエリストとしてはカードの精霊は別と考えるだろうか?
でもまあ、俺が彼に「咎姫の精霊が憑いているぞ」と伝えても信じようとはしない気がする。
そんな事を考えていると、今度は別の声が聞こえてくる。
『ちょいちょいちょーい! そこはAiちゃんの特等席だって言ってんだろ、この泥棒猫!』
『何をー! 私がここに来た時には誰も居なかったんだからここは私の場所ですぅ! 隙を見せる方が悪いんですよ!』
マスカレーナが実体化していた場所に今度はAiがマスカレーナを押し退ける様にしてイグニスの姿で現れる。
本来であればAiだけが居た場所に、マスカレーナと合わせて二人で表示されており、言い合いをしながら取っ組み合いまでしている。
「ちょ、ちょっと! まずいよ、彼は……その……」
尊視点で詳細不明のAIアシスタントであるマスカレーナだけならともかく、知る人が限られているイグニスであるAiが姿を現したことで流石にマズイと感じたのか尊が慌て始めている。
「いや、世良なら問題ない。俺の事情もある程度知っている」
「え? そうなのかい」
「ああ」
遊作による発言もあり、尊も落ち着くことが出来た様だ。
その間にもマスカレーナとAiのバトルは続いており、取っ組み合いからキャットファイトに移行している。
「いい加減黙れ」
『『はい……』』
そんな状況を見かねて遊作から喝を入れられたマスカレーナとAiはシュン……として静かになってしまった。
遊作にマスカレーナを渡した時点である程度予想していたが……予想通りだったな。
賑やかなAiに加えて賑やかなマスカレーナまで連れたら原作の二倍うるさくなるかなと思っていたが、二人の相乗効果でどうやら四倍くらいうるさくなってしまったかもしれない。
俺は遊作に精霊付きのマスカレーナを渡したことをほんの少しだけ申し訳なく思わなくも無かったが、この光景も悪くないんじゃないかと思う俺も居た。
(눈_눈)(눈_눈)
(눈_눈)