学校でマスカレーナ、とがちゃん、遊作、尊と遭遇した後、俺は普通にその場で別れて家への帰途についていた。
え? 一緒について行かないのかって? その必要があるのなら遊作が引き止めていただろう。そうしなかったという事は、少なくとも現時点で遊作は俺の協力は不要だと思っているという事だ。これが物語の主人公であるならこういうタイミングで自分から首を突っ込んでいくのだろうが……所詮俺はちょっと精霊が見えるだけのごく普通の
いや、でも……話を聞くだけくらいならしても良かったのかなぁ。
そんな時、俺のデュエルディスクから通知音が鳴る。
どうやらメッセージが来た様だ。送信相手は……遊作だけど、タイトル欄にマスカレーナの名前がある。
「……やっぱり、遊作達について行かなくて良かったかも」
メッセージの本文は『「彼氏とデートなう」に使っていいよ』のみ。だが、そこには一枚の画像データが添付されていた。
周囲はガラス張りの閉鎖空間。
そのガラスから見える景色はDen Cityを上空から眺めた物。
そして、椅子に座って向かい合う遊作と尊。
つまり、観覧車の中で男二人が神妙な顔で向かい合って座っている激ヤバ空間だった。
そう言えばそんなシーンもあったなぁ……。確か不霊夢が観覧車に乗りたがったんだったか何だかのせいで密室空間に男二人+AI二人が押し込められることになったんだよな。
こんな空間に俺まで加わっていたら本気で意味が分からなくなる。とがちゃんを遊園地に連れて行ったときに実質男一人で観覧車に乗るのすら悲しかったのに、何が楽しくて男三人で観覧車に乗らなければならないのか。
どうやらこの写真は遊作のデュエルディスクのカメラ機能を使って撮影された写真のようだな。カメラ自体はいたって普通の物であるため、マスカレーナと咎姫の様な精霊の姿は映っていない。
あいつ、こんな好き勝手やってたら遊作にまた怒られるぞ……。
「とりあえず、返信内容は『へ~、デートかよ』っと。送信……あっ!!」
俺はついマスカレーナに対してやるのと同じテンションでメッセージを送ったが、このメールの送信元は遊作のデュエルディスクである。つまり、このメッセージは遊作に読まれる。
その事に気が付いたのはデュエルディスクに『送信完了しました』と言うメッセージウインドウが表示されてからだった。
「……………………ま、いいか」
遊作だったらこんな戯言気にもしないだろう。
しばらくAiがうるさくしそうなのだけは本当に申し訳なく思うけど。ついでにマスカレーナも遊作に「黙れ」されそうだけど、それは自業自得だと思うので気にしない。
☆
家に到着すると、どうやらオカンは出かけている様だった。となると、誰も居ない事になるので俺は特に何も言わずに玄関に上がる。手を洗い、飲み物をコップに注いでから自分の部屋に戻ると……。
「お、帰って来たね」
「おかえり」
「うわ、びっくりした。来てたのか」
そこに居たのはキスキルとリィラの二人だった。
そう言えば、二人が人間界の依り代としているSOLtisを置きに来ると以前言っていたな。
「せめて、一報入れてくれるとありがたいんだけど? びっくりして飲み物を溢すかと思った」
「えー、折角ならサプライズしたいじゃん?」
「そうそう。サプライズは大事だよ?」
そんな事をキスキルとリィラは言ってくる。
ちなみに、二人が俺の部屋に直接入ってきていること自体は特に問題は無い。なんなら、そうしてくれと頼んだのは俺である。
というのも、こうして二人がSOLtisを俺の家(実際はミドラーシュが管理している俺の影の中)に置きに来るのは今日が初めてという訳では無い。その時、二人は普通にインターホンを押して玄関から入って来た。そして、二人を迎え入れたのはオカンである。だが、二人が家を出る様子を見せる事は無い。
当然である。SOLtisの身体から出た二人は精霊体なのだから家から出るも何もないし、仮に二人が精霊体のまま家に出たとしてもオカンに見る事は出来ない。
オカンはそれはもう訝しんだ。
一方俺は「オカンの知らないうちに帰った」で押し通した。
オカンが普段いるリビングは玄関からすぐ傍にあるので、ドアが開閉すれば普通は気が付く。なのでオカンが知らないうちに帰ったというのはかなり苦しい言い訳なのだが、そう言わざるを得なかった。そうでなければ、二人の女性を部屋から出さない犯罪者な俺か、玄関以外のどこかから家を出て行った変な女二人組と言う濡れ衣を着せられてしまう……あれ? よく考えれば
いやいや、その時は良くてもそれ以降にオカンが二人と対面した時に凄い目で見そうだからこれでよかったのだ。
何はともあれ、俺はそれから二人がSOLtisを返すために家に来る際には自室の窓の鍵を開けておいているのだ。彼女達が直接俺の部屋に入ってこられる様にな。
俺の部屋は二階にあるのだが、怪盗の二人にとって一般家屋の二階の部屋に忍び込む事なんて事は朝飯前である。
『ふぅ~。やっぱりこっちの方が落ち着くわね』
『うん、解放感』
キスキルとリィラがSOLtisの身体を脱ぐと、俺の良く知る怪盗コスチュームの二人の精霊体がそこに居た。
二人が抜けると、SOLtisは力が抜けていく。まさに魂が抜けた人形と言わんばかりにぐったりと倒れてしまう。俺はそんなSOLtisの脇に両手を差し込み、持ち上げる。そして、そのまま自分の影の中へと収納するのである。多分、俺の影にちょっとでもめり込んでればそこで手を放しても問題は無いとは思うのだが、それなりに重量がある精密機械なので念のためゆっくりと降ろしていく。
そんな作業をしながら俺はキスキルとリィラの方を見ると、長らくSOLtisの中に居たためか身体をほぐす様な動作をしている。
「やっぱり、Evil★Twinと言えばそっちの格好だよな」
『あれ? 世良君は新衣装より旧衣装の方が好み?』
『へー。まあ、そう言う人も居るよね』
「好み……というか、そっちの姿の方が見慣れているから安心するというか」
もしかしたら俺が知らないうちにイラスト違いとしてあのギャル風衣装のカードもあるのかもしれないが、やはり俺の思うEvil★Twinはこっちだなって思ってしまう。
『あ、そうそう。今日は世良君にプレゼントがあるんだよね』
『感謝しろよ~』
「え、そうなの? なんか悪いな」
『なんのなんの。いつもお世話になってるからそのお返しだよ』
何やら唐突にキスキルは俺にプレゼントをくれるという。
だが、そこで俺は一拍呼吸を置いて思わず聞いてしまう。
「……盗品じゃないよな?」
『あ、ひっどーい!』
『女の子からのプレゼントは素直に受け取るべき』
「ごめんごめん」
リィラは頬を膨らませながら腰から伸びる悪魔の様な尻尾で俺の事をつついて来ている。まあ、人間界で俺が彼女達に触れることが出来ない様に、彼女も俺に対して物理的な干渉が出来ないのでつつくふりである。
しかし、プレゼントか。Evil★Twinとプレゼントと言えば、自然と『Evil★Twin プレゼント』を思い浮かべる。あまり使われるカードでは無かったが、確かコントロール入れ替えと魔法・罠のデッキバウンス効果があるカードだったはずだ。
う~ん……参考にはなら無さそうだな。ていうか、カード効果の通りコントロール入れ替えなんて起こったら俺と二人の中身が入れ替わる……なんて事になりそで怖いのだが。ここでキスキルとリィラに「お前の身体は私達が頂いたー!」なんてやられたらちょっと困ってしまう。
『はいこれ』
「カード……いや、デッキか?」
目算ではあるが、キスキルが持っているのは40枚ほど、リィラが持っているのが10枚ほどのカードだ。こちらに見えているのが裏面なので何のカードかまでは分からないが、枚数的にメインとExを合わせたデッキだと思われる。
しかし、SOLtisの身体で渡してこなかったという事は、あのカードは精霊側の存在という事になるが……。
『それじゃ、ほいっと』
『ポイポイポイ~』
キスキルとリィラが手に持ったカードを先ほど俺がSOLtisをそうした様に、俺の影の中へと投入していく。すると、数秒もしない内にバラバラに投入されたはずのカードはデッキの形となって俺の影の上、いや床の上に置かれていた。
そのカードはさっきまでの精霊界側の物特有の存在感の無さがなく、確かにここに存在しているという事が分かる。
……そう言う事も出来るのか……。今までやったことが無かったから知らなかった……。
でもまあ、確かに人間界の物をミドラーシュを通して精霊達が干渉出来るようになるのだから、その逆も可能という訳か。
俺が今まで精霊側の物を人間界で触れることが出来たのは、『聖天樹の大母神』関連の時だけだ。
やっぱミドラーシュは凄いなぁ……。
と、そんな事より、俺は二人がくれるというプレゼントを手に取り、一体どんなカードなのかを確かめてみなければ。
「これって、『オルフェゴール』じゃんか」
『ピンポーン!』
『だいせいか~い』
闇属性機械族のテーマの代名詞、『オルフェゴール』。かつて俺とデュエルしたリースが使っていたデッキだ。このテーマの強力さは以前から知っていた。なので、リースをぶっ飛ばした時に「なんとかちょろまかせないかなぁ」なんて思ったり思わなかったりしていたのは内緒である。
「これ、どうしたんだ?」
『んん? それはね、ちょっとそこら辺を散策してた時に拾ったんだよね~』
『集めるのに結構苦労したんだから』
「散策って……それ多分旧LINKVRAINSだよな?」
これらのカードが精霊界に由来する物だった。という事は、これはかつてリースが使っていたものだろう。
そして、俺がリースとデュエルしたのは現在ハノイの騎士の管理下に置かれている旧LINKVRAINSである。いや、本当にSOLテクノロジーは何してるんだ。
「大丈夫だったのか?」
『ふふん、世良君は私達を誰だと思ってるのかな?』
『人間が作ったセキュリティなんて
キスキルとリィラが胸を張ってドヤ顔をしている。
「なるほどなぁ」
俺は彼女達の言に感心していたのだが、ふと思う。
「これって実質盗品では?」
『違うってばー』
『これは世良君の戦利品だから何も問題は無いの』
「そっかぁ……なら良いか」
俺は納得した。元々自分からちょろまかそうとしていたものだし。
そして何より元の持ち主がリースだったというのが良い。罪悪感を全く感じない。
「ありがとうな、二人とも」
『『どういたしまして』』
やったぜ! 新しいカードゲットだぜ!
超嬉しい!
机の上に置いているガラテアのカードがキラリと光った気がした。
サササササ……ほい>( •ω•)っ [ ]