「ギルスが初動の場合は、デッキからディヴェルを墓地に落とす。ディヴェルを墓地から除外してデッキからトロイメアを特殊召喚。フィールドのギルスとトロイメアをリンク素材にしてガラテアをリンク召喚。ガラテアの効果で除外ゾーンのディヴェルをデッキに戻してデッキからバベルをフィールドに張り付ける」
先日、Evil★Twinの二人から貰ったオルフェゴールのカード群。
俺はそれにパーツを足して取り合えず純オルフェゴールを組んで一人回しをしていた。オルフェゴールについてはデッキの回し方を知っていたのでスムーズに展開を進めることが出来ている。
「墓地のトロイメアを除外してデッキからスケルツォンを墓地に落とす。スケルツォンを墓地から除外して墓地のギルスを蘇生。ガラテアの上に重ねてディンギルスをエクシーズ召喚。特殊召喚したディンギルスの効果で除外ゾーンのスケルツォンをディンギルスのエクシーズ素材にする。フィールドのディンギルスとギルスでマスカレーナをリンク召喚」
これが純オルフェゴールにおける基本展開。
フィールドには『オルフェゴール・バベル』と『I:Pマスカレーナ』のみの一見意味不明な盤面。
しかし、墓地には『宵星の機神ディンギルス』、『オルフェゴール・スケルツォン』が居る。フィールドのバベルの効果によって自分フィールドのオルフェゴールリンクモンスターと墓地のオルフェゴールモンスターはフリーチェーンで効果を発動する事が出来るようになる。これによって相手ターンにディンギルスを蘇生してディンギルスのもう一つの効果である対象を取らない墓地送りによる妨害を行うことが出来る。
対象を取らない墓地送り。
この除去能力は非常に強力だ。
今の世の中には効果で破壊されないカード、対象に取られないカードが結構ある。そう言ったカードを相手に使われると対処に困るところであるが、これらの耐性をすり抜けてカードを除去する事が出来るディンギルスの対応力は本当に頼りになる。
ディンギルスで除去出来ないモンスターとしては完全耐性を有しているモンスターであるが……そんなモンスターを使う奴と
話を戻して、フィールドにディンギルスが増える事によってマスカレーナの効果が使える様になる。相手ターンにマスカレーナとディンギルスをリンク素材にして『トロイメア・ユニコーン』をリンク召喚する事で相手フィールドのカードを1枚デッキに戻すことが出来る。
合わせて2妨害のこの基本展開が所謂「マスカレディンギルス」の構えだ。
そして、この展開の優れた点はギルスの1枚初動であるという事。先攻であれば残りの手札は4枚。『トロイメア・ユニコーン』の効果を発動するための手札コストを考慮するにしても3枚もある。
それはつまり汎用妨害カード、手札誘発を積み込む余地と意義が大きいという事だ。フィールドと手札を合わせて3~4妨害立てられたら中々心強い。
あるいは、初動が通常召喚のギルスに依存してしまっているので貫通力を高めるために相性の良いカードを追加するのも良いだろう。
ただし、ギルスを初手に引けず、本来ギルスによってデッキから墓地に送りたい『オルフェゴール・ディヴェル』を初手に引いてしまった時が問題だ。ディヴェルをなんとか墓地に落とす事が出来れば良いんだけど……オルフェゴールの課題はやはりここだな。知ってたけど。
後は、オルフェゴールの強力なカウンター罠『オルフェゴール・クリマクス』をサーチする方法がガラテアによるサーチしかない事も悩ましい所だ。オルフェゴールの力を十全に扱うためにはバベルの存在は欠かせない。そうなるとガラテアによってサーチするカードはバベルにせざるを得ず、クリマクスの用意が遅れてしまう。効果がフリーチェーン化したガラテアの効果を使って返しの相手ターンに用意出来たとしても、結局使えるのは次の自分のターンだ。
意味が無いとは言わないが、やはり本来使いたい場面には間に合わない。
やはり、クリマクスによる妨害は素引き前提で考える必要がある。
手札に来た墓地に送りたいカードを墓地に送る方法はいくつか策も思いつくが、クリマクスに関してはもう本当にどうしようもないな。
それとオルフェゴールの本質とは少しずれるが、このデッキの地味に凄い所は『ドロール&ロックバード』の制約を完全にすり抜けて展開を行うことが出来る所だな。実はオルフェゴールにはカードをデッキから手札に加えるカードがほとんどなく、唯一とも言えるテーマ内でカードをデッキから手札に加えるカードである『オルフェゴール・プライム』も展開に必須という訳では無い。万が一相手に『増殖するG』を使われたとしてもドロバを防御札として使うという戦略を取る事も出来る。
「とりあえず初動を太くしたいな……確か、ストレージに『スクラップ・リサイクラー』があった気がするからそれは採用しよう」
『スクラップ・リサイクラー』はオルフェゴールのカードでは無いが、召喚・特殊召喚時に機械族モンスター1体をデッキから墓地へ送るのでギルスと同じ役割を果たすことが出来る。つまり、1枚初動のギルスが実質6枚あるのと同じ意味になるのである。
あ! スクラップと言えば、確かオルフェゴールには「スクラップオルフェ」と呼ばれる型もあったな。リサイクラーを使いまわして必要なカードを墓地に落としてから展開しまくって制圧盤面を作るデッキだ。
過剰とも言える程の妨害を用意できるデッキなので将来的には目指したくはあるが、スクラップの他のカードに加えて妨害の肝となる『召命の神弓-アポロウーサ』を持っていないので俺が覚えているデッキレシピを再現するのは難しいだろう。それに、確かスクラップオルフェでは『ヴァレルロード・S・ドラゴン』も採用されていたはずだ。どうやって手に入れろと言うのか……。サベージはドラゴン族だから、やっぱりリボルバーもパックから当てたのだろうか。
……キスキルとリィラに頼んでリボルバーから盗って来てもらうか。なんてな。
『やっほー、ラッセさん居ますか~』
そんな詮無い事を考えていると、俺の部屋に良く知る少女の声が響き渡る。声の発生源はいつもの様に
「今日は珍しい所から来たな」
俺はパソコンのスリープ状態を解除すると、まるでデスクットップ常駐型のサポートAIが如く画面に映るマスカレーナの姿があった。
あれ? 前はそんな事出来なかったよな? もしかして俺のパソコンにバックドアでも仕掛けられてる? マスカレーナが使う分には別に良いけどさ……。
『どうもどうも。今日はラッセさん宛てにメッセージが……んんん?』
「え、どうした」
突然マスカレーナはある一点を見つめながら怪訝そうな顔をしている。
『うわ~ビックリしました。ラッセさんが私を遊作君に渡してから私が活躍できるデッキを組んでるのかと思いましたよ』
「あー……」
どうやら彼女が見ていたのは俺がさっきまで1人回しをしていたオルフェゴールデッキの盤面の様だ。
確かに、マスカレーナのカードをデッキに入れてから俺が使っていたデッキでは彼女の力を100%使いこなせていたとは言い難かった。
しかし、どうだろう。オルフェゴールというリンクテーマであれば無理なくマスカレーナの力を発揮させることが出来る。Evil★Twinも同じリンクテーマではあるのだが、彼女達のテーマは
そんな中、彼女の事を遊作に任せてからそんなデッキを使い始めたとしたら……あまり良い気分はしないだろう。
「えー……っと、これはだなぁ……」
『冗談ですよ! この間キスキルさんとリィラさんに会った時に、話は聞いていますので』
「な、なんだぁ……知ってたのか」
不穏な雰囲気を漂わせ始めたマスカレーナは一転して人をからかう様な表情で笑っている。
そんな彼女を見て安心した。
『まあ、事情を知っていても私がどう思うかはまた別問題ですから』
「……」
そしてまた表情が一転。
スンッ……と無表情になるマスカレーナ。
普段から表情豊かな彼女がこんな顔をするとは……。こ、こわっ……。
『にゅふふ……』
無表情になったマスカレーナとしばらく視線を交わす中、背中に冷や汗が一筋流れるのを感じた所で彼女は堪えられなくなったかの様に声を漏らす。
「勘弁してくれ……」
『あはははは! ラッセさんは良い反応をしてくれますね~。いやー、良い顔を見させてもらいました』
どうやら本当にからかわれていた様だ。
画面の中で漫画の様にお腹を抱えて転げまわりながら笑っているマスカレーナの姿を見て、ようやくちゃんと安心する事が出来た。
『はぁー! 久しぶりに苦しくなる位笑いましたよ。えーっと……あれ? 私は何のためにラッセさんに会いに来たんでしたっけ?』
「いや、知らんがな。メッセージがどうとかって言ってたけど?」
『ああ、そうでしたそうでした! 1つは遊作君からのメッセージです』
「藤木から?」
珍しいこともあるものだ。
遊作から俺に連絡を取って来る事はこれまで無かったことである。それに、俺と遊作は連絡先を交換しているので、連絡を取るにしてもチャットやメール、あるいは電話でもよかったはず。それをわざわざマスカレーナに頼むとはどんな内容なんだ?
『ええ。どうやら現在あの
「Aiが行方不明?」
なるほど、イグニスに関連する事だから遊作は電子上の記録に残りかねない方法ではなくマスカレーナに伝言をする形を取った訳か。
そして、マスカレーナからその話を聞いて俺はピンと来ていた。
確か、Aiがライトニングの雑な罠に嵌って単身で呼び出された回があったはずだ。VRINS 2期における黒幕の姿が初めてはっきりと描かれる重要なシーンでもある。
「いや、こっちには来ていないな。Aiが1人で俺の所に来ると言うのも考えにくいけど……」
『そうですよねぇ。まあ、遊作君も念のためという感じであまり期待はしていない様子でしたけど』
「むしろマスカレーナはなんで知らないんだ? Aiと同じ様に藤木の決闘盤を間借りさせて貰ってるんだろ?」
『アハハ……、いやー私もずっとそこに居る訳では無いので』
「ま、確かにお前が1つの場所でじっとしている様子は想像出来ないな」
つまり、マスカレーナもAiが罠に嵌められた時には傍に居合わせて居なかった訳だ。
この件については結局Aiの行方は遊作が所有するお手伝いロボットのロボッピを通して判明する訳だから俺が助言をするのも変だろう。
「そんじゃ、後で街にAiが居ないか確認しながらCafé Nagiに行ってみようか」
『そうですね。案外、そこら辺にいるかもしれませんし』
今回の件で何か手伝えることがあるとも思えないが、精霊関連の異変が起こらないとも限らないので、様子を確認するくらいはしても良いだろう。
『そしてもう1つはティアラメンツの皆さんからです』
「え? あいつらから?」
またしてもメッセージの送り主は予想外の相手。
壱世壊で行われるという祭りの準備のためにしばらく忙しくしているという三人娘達。何だかんだで前回顔を合わせてから結構時間が経ったような気がする。
それにしても……
「マスカレーナはあいつらとメッセージのやり取りが出来るのか?」
『ええ。1度行った事のある精霊界であればどうとでもなるのですよ』
「ほえ~……」
『ちなみに、メイルゥさんとはペンフレンドです』
「そうだったんだ……」
俺の知らないところで俺の友達同士がめっちゃやり取りをしていた件。なんだかちょっぴり寂しい。
まあ、人間の俺では精霊界に居るシェイレーン、メイルゥ、ハゥフニスと直接会うどころか連絡を取る事すら出来ない。その点、マスカレーナもまたカードの精霊であるからして、やはり精霊関連の事に関しては俺よりも出来る事の幅が広いんだな。
『それでそのお手紙は~っと……あ、これです! ミドラーシュさーん、お願いしまーす!』
画面の中のマスカレーナには物をしまう場所なんて無さそうに見えるのにどこからか封筒を取り出すと、画面の外の俺に向かって封筒をスタイリッシュに投げ飛ばす。
「えぇ……」
するとどうだろう、俺の足元の影から先ほどマスカレーナが投げた封筒がヌルっと飛び出て来た。
何それ、俺の知らない機能じゃん。ミドラーシュが居る俺の影を直接経由しなくても行けるのか……。
それは兎も角、俺は現実世界に現れた三人娘からの手紙を受け取る。
俺達人間が使う紙と比べると気持ちしっとりしている……様な? 濡れている訳では無いのに湿っている気がする。不思議な感触だ。
もしかしたらこれは壱世壊特有の素材なのかもしれないな。
「どれどれ……お! 俺でも読める様にこちらの文字で書いてくれているな」
Evil★Twinのイラストからも分かる通り、精霊達は独自の文字を使っているのでもしかしたら読めない可能性があるとも思ったが、どうやら彼女達が気を使ってくれたらしい。流石に使い慣れていないからか、文字の形は多少拙いが読む分には全く問題は無い。
「ふむふむ……なるほど」
『何が書いてあるんですか?』
「彼女達の世壊の祭りの準備が整ったので近い内に迎えに行くとの事だ」
『あのーそれって、私も一緒に行っても……?』
「もちろん、一緒に行こうぜ」
『やったー!!』
マスカレーナは画面の中を跳ね回って全身で喜びを表現している。
「あれ、まだ何か入っているな」
封筒を再び手に持ってみると、カード1枚分くらいの厚みが残っている事に気が付く。
「へー。随分明るくなったな」
『綺麗ですね~』
封筒の中から現れたのは1枚のカード。そのカードの名は『
ふむ。このカードはペルレギアへの入国切符、と言った所か。
「そうだ、リィラとキスキルにも声を掛けておいて貰えるか?」
『お任せください! きっと喜ぶと思いますよー』
Evil★Twinの2人はシェイレーンと面識があるし、何より『壱世壊=ペルレイノ』のカードを探す事を手伝って貰った恩もある。
2人を除け者にする訳にはいかない。
「ガラテアも連れて行ってやりたかったな……」
『そうですね……きっと、見知らぬ土地に興味津々になっていたのではないでしょうか』
ガラテアが帰ってしまうまでに間に合わなかったのは少しだけ心残りだった。
せめて彼女が残した『ガラテア』のカードを持って行こう。そこから少しでも何か感じて貰えれば良いと思うのはただの自己満足であろうか。
『ところでラッセさん』
「ん?」
しみじみとそんな事を思っていると、画面から上半身をフェードアウトさせて下半身だけが画面の中で取り残されているマスカレーナ何かを探している様だった。
『この「秘」と命名されたフォルダーには一体何が入っているのですかぁ?』
「スゥー……」
あのあの、マスカレーナさん? 今そう言う雰囲気じゃなかったよね?
俺のパソコンを介して人間界に疑似的に顕現しているだけかと思ったら、しっかり人間世界のパソコンの中身まで干渉できるのね……。
「えーっと……それはなぁ……見ないで貰えると嬉しいんだけど?」
『えー??? そう言われると気になるのが人の
「そうだけど……ね? ほら……分かるだろ……な!」
最早俺にマスカレーナを論理的に説き伏せる言葉が思い浮かばないでいた。
『うーむ……、ですがデータを盗み出して依頼主に届ける運び屋としては、秘されると暴きたくなるものなんですよね~』
「や、やめてー!」
『御開帳~』
マスカレーナは俺が隠していたフォルダーをあっさりと開いてしまう。
一応フォルダーはパソコン上では非表示にしていたし、フォルダーを開けるためにパスワードを要求する様に設定していたのだが、彼女の前では何の意味も無かったようだ……。
『……あの、ラッセさん? これは……えーと……なに……何ですか?』
「何って、見たらわかるだろ。デッキレシピと展開ルート集だよ」
この遊戯王の世界においてデュエルモンスターズは非常に大きな意味を持つ。たまに
そんな世界で生きていくためには前世のデュエリアスト達による集合知は強大な力となる。
ネットワーク技術が発達しているVRAINSの世界は初期の遊戯王の世界と比べればデュエルモンスターズの知識を広く共有されているが、それでも個人の技として秘密にされているコンボや展開ルートも多くある。
つまり、この遊戯王知識こそが俺の武器だ。
しかし、知識は忘れてしまう物だ。なので俺はデッキレシピやコンボ、展開方法を忘れてしまわない様にパソコンにメモを残していた。
「なあ、もう良いだろ? それ見られるの恥ずかしいんだよ」
『え? ああ、はい』
だが、デッキレシピはあくまでデッキレシピ。
実際にデッキを組むためのカードを有していなければそれはただの机上の空論、夢想の産物である。「僕の考えた最強のデッキ」案でしか無いのである。
理想のデッキレシピを考える、と言うのはこの世界のお小遣いが十分ではない小学生くらいの子供がよくやるお遊びみたいなものだ。
確かに、デッキレシピを考えて自分のデッキ強化を検討するという事はプロデュエリストだってやっている。だが、それは実現可能性がある事だ。
一方、俺がメモしていたデッキレシピは高校生が入手する事が難しい程の高額カードも多数投入された所謂理想のデッキなのだ。
つまり、言ってしまえばこれは高校生が小学生のお遊びをしている様に見える状況な訳だ。
それに加えてこの世界で初めて見たカードを使って出来る俺オリジナルのコンボ案や展開案なんかも一緒にメモを残してフォルダーに放り込んでいる。実用的かどうかも不明な拙い出来の物も多いので他人に見られるのは少し恥ずかしいのである。
「よし、それじゃあCafé Nagiに行ってみるか」
『ああ、はい』
何故マスカレーナが期待外れの物を見たような表情をしているかは分からないが、俺は
(-"-)<私は知っている。マスターは"紙派"なので、そう言うのは電子上には無い