科学技術全盛時代に精霊の居場所は   作:はなみつき

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影依の巫女はエリアルの冠名だったことをすっかり忘れていた作者の失態に気が付いたため前話も合わせてタイトル変わりました。
まあ、タイトルなんて誰も気にしてないと思うけどね。


風の巫女だった人形(後編)

 ミドラーシュ自身の事を教える。

 俺は彼女にどこまで話すべきか判断に迷った。

 彼女の事はイラストストーリーを含めて考察まで結構調べていたため、その歴史を話すこと自体は可能だった。

 

 彼女は生前『ガスタの巫女ウィンダ』と呼ばれていたという事。ウィンダは神の復活の余波でその命を落とした事。その死後、転生するはずの魂が囚われたためにミドラーシュ自体は肉体だけが現実世界に実体化した存在であること。そこに自我はほとんど無く、正常な生命として生まれ変わることを願い続けた悲しき存在であること。

 そして、かつての仲間達、子孫たちやその仲間達と戦い、最後にはウィンダとして復活するという事も。

 過去も、現状も、未来も知っていた。

 

 だが同時に、彼女がその過去を経験してきた精霊ではないという可能性もあった。

 精霊界に住むカードの精霊は俺達がカードのフレーバーテキストや背景ストーリーから読み取れる存在とは違う事があるという事を知っていたからだ。

 

 彼女がどっちの存在かは分からなかったが、どちらにしてもそんな彼女にその話を一気にするべきでは無いと考えた。

 

 そんな俺がその時出した結論は、先送り。

 

 今ティアラメンツとやっている様にテーマカードを集めて背景ストーリーを見て、知って行こうと。俺は彼女の過去を知らない振りをした。

 ただ、それは俺にとって全く無意味な提案だった訳では無い。その時のシャドールデッキはまだまだ完成したとは言い難く、下級シャドール何枚かに影依融合、ネフィリムだけと言う状態だったため、どうせカードを集めていく事に変わりはなかったのもある。

 時間を掛けて少しずつ彼女の過去を詳らかにする事によって多少でもショックを和らげることが出来ないかと思ったんだ。

 

 ……ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、俺は君達(ティアラメンツ)の過去や未来かもしれないストーリーは全く知らないよ。ティアラメンツカテゴリーを知ったのは君達と出会ってからだからね。

 

 そうして俺は精霊付きの『エルシャドール・ミドラーシュ』を何とか購入し、彼女と行動を共にし始めた。彼女は無口で、基本的に話しかけてくるようなことは無かったが、こちらからしつこく話しかけていくうちに少しずつ反応を示すようになっていった。

 デュエルをしてフィールドに出せば気のせいかもしれないが楽しそうな雰囲気を見せていたような気がした。結局最後まで人形の身体である彼女の表情を読み取る事はほとんど出来なかったけどね。

 時が流れるうちにたびたび手に入るシャドールカードを見ては彼女は何かを思い出そうとする仕草を見せた。特に早々に手に入った『影依の原核(シャドールーツ)』『堕ち影の蠢き』なんかに対しては強く興味をひかれていた様だったな。

 

 だが、そんな時間も長くは続かなかった。

 魔法カード『神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)』をミドラーシュが見た時、変化が起きた。

 

『……このカードを……探して……もっと』

「神の写し身との接触か……」

 

 そのカードにはミドラーシュ自身が描かれている事からも分かる通り、彼女にとって大きな意味を持つカードであることは明白だ。そして、イラストストーリーとしてもその一枚は大きな転換点でもあった。

 その時の俺は彼女がどうしてそのカードのみを集めるように言って来たのか理由は不明だったが、デッキ構築と言う点からも(三枚は少し多いかもしれないが)悪くないと思ったため素直に従った。

 

 一枚目は偶然カードショップのストレージの底で見つけた。

 二枚目は友人からトレードで貰った。

 そして、最後の三枚目は偶然見つかった。おみくじ程度の感覚で購入したカードショップのオリジナルパックから。

 

「は~、やっぱオリパなんて買うもんじゃないな~……あれ? このカード……」

『……』

「神の写し身との接触だ……そんな事もあるんだな……」

 

 とうとう手に入れた目的のカードの三枚目。

 何となしにデッキから残りの二枚を取り出して机に並べたその時、突然カードが光り出した。

 

「!? なんだ!」

『あっ……うぅ……』

 

 手に入れたのはただの融合系魔法カード。

 精霊が宿っているなんてことは無い。そもそもカードの精霊というものはモンスターカードに宿るものだ。

 

 だから俺は勘違いをしていた。

 モンスターカード以外で不可思議で非現実的な精霊にまつわる現象は起こらないと。

 俺は知らなかった。

 どんなカードにも微量ながらも様々な世界の力が宿っているという事を。それも関連が深い『エルシャドール・ミドラーシュ』という精霊が傍に居る状況も悪かった。

 

『あ、ああ……そんな……そっか……私は……』

「どうしたミドラーシュ! 大丈夫か!」

 

『神の写し身との接触』のカードから放たれた光を浴びたミドラーシュは今までの人形のように無感情なものではなく、明らかに狼狽えた様子だった。

 

『私は……死んだ……戦った……かつての仲間たちと……そして、生き返った……ウィンダとして……』

「ミドラーシュ……」

 

 途切れ途切れの言葉は彼女のストーリーを端的に表したものであると言えた。

 俺が話せなかったイラストストーリーの話。そして、まだ俺達が追いきれていないイラストストーリーの話の内容も含まれていた。

 

 簡単に言ってしまえば『神の写し身との接触』は世界のシステムを構成する神との接触のシーンをイラスト化したカード。そんなカードの影響を受けた彼女は知ってしまったのだろう。

 世界の話を。

 

『だったら……私は……誰……?』

「……」

『ウィンダは生き返った……でも私はここに居る。世界のシステムから外れ、魂が無い肉体だけの存在の私が……でも、私にはこうして自我がある……魂も肉体もウィンダとして存在しているはずなのに……なら……私は一体……何?』

「君は……」

 

 今まで見た事のない彼女の苦悶の表情。

 そんな彼女が発した質問に、俺は答えられなかった。

 

 そうして、彼女は俺の前から姿を消してしまった。何も言うことも出来ないまま別れてしまったんだ。

 

 

 ☆

 

 

「俺の中途半端な行動は、彼女にモンスターカード『エルシャドール・ミドラーシュ』の精霊としての性質と影依の軍勢の一人『エルシャドール・ミドラーシュ』としての性質を与えてしまったんだろう。その結果、彼女は自身がどういう存在なのか規定できなくなった……」

 

 俺が彼女をただの精霊として扱い、デュエルや言葉を交わして交流し、絆を育んでいけばカードの精霊として存在する事が出来たかもしれない。

 俺が彼女のストーリーを隠すことなく話しておけば、結果は変わらず消失だったとしても、シャドールとしての役割を終えた彼女は憂いや苦悩もなく消えることが出来ていたかもしれない。

 

 でも、俺はそのどちらもやってしまった。

 その中途半端の結果、彼女を無駄に苦しめて、悩ませて……泣かせて……。

 

『……そんなに思い悩まないで下さい。結果は……その、残念でしたけど、約束を守っただけですよね?』

「そうかもしれないね。間違った事はしていなかったのかもしれない。だけど、それは確かに失敗だったんだよ」

 

 今になって思えばだけど、と力なく笑いながら答える。

 

 それから俺は精霊にされるお願いは無理な事柄でなければ素直に叶えるようにして来た。そこに俺の解釈は挟まずにだ。

 だから、三人娘(ティアラメンツ)に問うた「みんなはどうしたい?」という質問は自分にとってかなりギリギリの言葉だった。俺が彼女達にやってあげたいからではなく、彼女達からの明確なお願いを聞いてから行動するための言い訳の言葉だった。

 

『……もしかして、私達との関係もまだ悩んでる? ……』

「そうかもね。少なくとも最近知り合った精霊達と比較したら君達の事情に踏み込み過ぎて居るかもしれないと思ってる」

 

 今もミドラーシュとしていたように関連カードを集めてストーリーを追って行っている。ミドラーシュとの一件以来そんな事はしなかったのに、無意識のうちにそうしていた。また同じ過ちを犯すかもしれないというのに。

 彼女達の「しばらく傍に居させて」という最初のお願いだけなら少なくともそんな事をする必要は無いのにな。

 

『……関係ないわ』

「え?」

 

 メイルゥ、ハゥフニスの話を聞いた後、シェイレーンはそう断じた。

 

『アンタがミドラーシュについて今も思い悩んでるって事は分かる。でも、それは私達には関係ないわ』

「まあ、そうかもしれないけど……」

『私はアンタの事を友人だと思ってる。二人もそうでしょ?』

『はい』

『……うん……』

「……友人……」

 

 精霊との関係として友人という括りになる事は意外と少ない。

 彼ら・彼女らは基本的に自分に相応しい決闘者(マスター)を求めているからだ。

 マスカレーナとの今の関係は友人関係に近いかもしれないが、彼女も俺によくデッキに入れることを要求している。本質的には決闘者(マスター)を求めている事が分かるだろう。

 まして、精霊の方から「友人」であると言われたのは初めてだった。

 

『最初は確かに、狭苦しいショーケースから出るために私達の事が見えるアンタを頼った。でもね、キトカロス様の件に関してはアンタが信頼できる友人だと思ったからこそ頼ったのよ』

「……」

『そして、アンタも難しい事は考えずに友人である私達を手伝いなさい!』

『シェイレーンちゃん、それはちょっと図々しいんじゃ……』

『……そうかしら……』

『……どうかな? ……』

『え……私図々しい……? あれ? もしかしてアンタは私達の事……友人だと思ってない……?』

 

 友人だから。

 そっか、それだけで良かったんだ。

 

 シェイレーンの言葉は俺をハッとさせるのに十分だった。

 

 俺は精霊との関わり方に変に拘り過ぎたのかもしれないな。

 

 ミドラーシュの事はもう悩まない、とはまだ言えない。

 

 それでも、三人娘(ティアラメンツ)との関係については……。

 

 

 

 

 

 とりあえず、何故か今にも泣きだしそうなシェイレーンを落ち着かせるためにもはっきりさせておかないといけない。

 

「君たちは友達だよ」

 

 

 

 それで良いと思えた。

 

 

 




予約していたティアラメンツのえちちスリーブが届いて眺めていたら昨日小説書く時間無くなってました。

そろそろ毎日投稿は終わりそうです。

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