海皇獣の冒険譚   作:狭霧 蓮

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第1話

 誰かが言った。世界の果てにひと繋ぎの財宝(ONE PIECE)を置いてきた、と。

 

 最弱の海、東の海(イーストブルー)の出口。偉大なる航路(グランドライン)に近い‘ローグタウン’にて処刑台に上がった大海賊──否、唯一無二の海賊王‘ゴール・D・ロジャー’が放ったその一言は一つの時代を作り出した。

 世界は統一世界連合というべき‘世界政府’の勢力下に置かれていたが、その言葉により多くの‘海賊’たちが海を目指すこととなる。

 

 ロマン溢れる夢を追う者、権力や名声と富を求めて欲望のままに航海する者たちまでその目的は、あるいは宿命が。幾星霜の数え切れない運命が交錯する、そんな時代。

 海賊王の命尽きて、しかし時代のターニングポイントへの切り替え、つまりはまぁ、‘大海賊時代’の幕開けは一人の男によって齎される。

 

 大将首を晒す真似なんざ、公開処刑なんざしなけりゃよかったんだとあちこちから非難轟々、世界政府も‘泣きっ面に蜂’の体現であっただろうと一人の少女が笑った。

 まぁ藪を突いて蛇を出した世界政府のやらかしを他所に。時代は動く……そしてまた、‘麦わら帽子’を受け継いだ者が船出したその頃。同じく、東の海を漂う一人の少女がいた。

 

 運命の邂逅、交錯は悪魔の実を喰い、海に嫌われた少年と。同じく悪魔の実を喰って海に嫌われながらも、海を掴んだ少女がとある場所で出会う……その物語は少し先から話されることになるが、些細な問題だろう。

 

 ○○○

 

 ○日○月 晴れ

 

 燦々と照りつける太陽が肌を焼く。憎らしい日差しに辟易しても仕方がないので素直に航海日誌を書くことにした……まずはあたしの現状を確認しよう。

 ‘凪の帯(カームベルト)’に入り込んでしまい、無風のため帆を張っても意味がないし、近くに海王類もいないからまぁ危険ではないだろう。危険っちゃあ危険だが。

 自分にとって彼ら海王類は友達みたいなものだし、別段襲われることもないとは思うが。とりあえず釣り糸を垂らす日々も飽きてきたな……偉大なる航路(グランドライン)に出るまではまぁとりあえず。オールを漕ぐか海に入って泳ぐか……泳ぎたくはないな。シャワーも浴びれんし、低い水温が辛いし。

 

 塩でベタつく嫌な感覚も嫌だ。あれ、なんであたしはこんなに苦労してるんだ?

 まぁ、筏で故郷の島を抜け出しておよそ2年か。とりあえず軌跡も何も書いてないと思い至り、今日から書くことにした航海日誌。

 記念すべき1ページ目がグチで埋まるも申し訳ないし、とりあえずこれ以上は控えよう。まずは島を見つけねば話にならん。水は身体的な都合、あまり摂取しなくてもいいのが救いだ。しかし釣れないなぁ……銛で突く方が早くない? と思い出したがお、浮きが沈んだ。とりあえず釣り上げよ──(文字はここで途切れている)

 

 ▼日○月 曇り

 

 ふざけんなよ全く。毎日魚献上してくれたからチャラにはしてやるが。

 あの日からノートを何日も天日干しで乾かす羽目になり、また。あたしの船……いや、筏がぶっ壊れたのでとりあえず。現行犯で拳骨叩き込んでやった海王類のアナゴくんを一時的なしもべにして筏の材料である木を切り出すべく、木の生えている島を探している最中だ。

 彼の額は狭いので海の上を直立不動で立って移動してるように側から見たらそう見えるだろう。けどまぁここ凪の海域だし、そうそう難破船なんていないよ。入った時点で色々手遅れだしな。

 あたし? あたしは彼ら海王類をしばいてもいいから問題ねぇんだよ。

 この‘ミク・D・ヴィレ’を舐めてもらっては困る。まぁ、腕っ節は誰にも負けないから現在のところは問題ないけどな。

 

 この近海には海上レストランとか色々とあるがまぁ寄ることはない……無一文だぞあたしは。自給自足で十分だ、塩は海水を日干しすれば手に入るし。スパイスとかいうのはよくわからん。

 とりあえず、なんか最近ドンクリークかなんだか知らんがここらを荒らし回ってた海賊が捕らえられたそうだ。その残党とやらが逃げてる最中かは知らんが運悪く凪の帯に入って海王類の餌になってたがあたしは素知らぬ顔だ。

 知り合いならば助けてもいいが、焦って舵ミスった挙句にそこに突っ込んだ以上。それは宿命なのだから仕方ない。

 

 あと、なんかアーロンがいなくなったと魚たちから聞くこともできた。回遊してるジンベエザメに聞いたから確実な情報だろう。まぁ、色々と苛烈なことやらかしてたし殴り倒されても文句は言えまい。

 あまりにも横暴がすぎるってジンベエザメくんたちも嘆いてたから、近々しばきに行こうと思ってたが。誰かが代わりにしばいてくれたそうだ、礼を言わんといかんな……行き先がどこか知らんからなんとも言い難い。

 

 ‘モンキー・D・ルフィ’なる少年らしいが、見たことも聞いたこともない。賞金がかけられていていまや‘1億ベリー’だそうだ。アーロンとやり合うってことは‘海賊’に違いはないだろう。略奪者なら悪いけどしばこうかな……まぁ、写真見る限り、陽気な兄ちゃんみたいな感じだし、無邪気な気がするからいっぺん話してみりゃわかるだろう。

 

 この時代、冒険家には辛い環境だしな。天上金とかいうクソ制度、あるいは自由の無い島々や国での生活。自由を謳歌すべく、何より冒険をしたいと海に出たら‘海賊’と同類扱いされる事もあるし……はぁ嫌になる。

 

 ん、そろそろ島も見えてきたしこれ、偉大なる航路に入れるんじゃね? とりあえずそろそろアナゴくんは解放してあげましょうか。これ以上付き合わすのは可哀想だしね。あたしは優しいからな!

 ところで、あの。このおっさん誰だ?

 

 ○○○

 

「えっと、君親御さんは?」

「……海上で自転車漕いでる不審者と喋ることなんてありません」

「いや、君が乗ってるそれ海王類だよな?」

 

 ウォーターセブンへの航路。その道すがら、‘青雉’こと海軍大将がクザンは不可思議な現象を目の当たりに興味惹かれたその‘画’の主に話しかける。職務質問のような感じだが。

 

 透き通るようなと形容すべき、しかし海水で傷んだボサボサの銀髪。船乗りの多くが海上暮らしゆえに焼ける肌と同等に、小麦色の肌の少女だ。

 声音も弱々しいものではなく、はっきりとしているため。衰弱もしていない様子にクザンは内心、少しだけ胸を撫で下ろす。

 

 長い前髪で隠された目元はどこを見ているのかはわからないが、自分をはっきりと認識してる以上、漂流しているわけではなさそうで。自分を食おうと牙を剥き出しにしている海王類の額部をぶん殴ってその凶行を止める絵面にクザンは困惑を隠せなかった。

 

 自身の‘能力’で凍結させ、自転車をのんびりと走らせていた海の上での邂逅。先程、ロングリングロングランドにて‘麦わらのルフィ’と交戦。‘アラバスタ’の一件からトドメを指す事をせず放置して出立した後に出会ったのが目の前の少女だ。

 

「で、えっと。不審者さん」

「あァ……じゃないよ。一応お兄さんだし、なんなら海軍の人だからね?」

「そうでしたか。では、海軍のお兄さん」

「ん、なんだい」

 

 少女は少しだけ考える仕草をしてすぐに口を開いた。

 

「近くに島は見ませんでしたか? そろそろこのアナゴくんが壊した筏の代わりに使ってましたが、船に乗りたいので。海水にさらされるのは嫌なんですよ……同じ‘能力者’なら理解いただけますよね?」

「……よく喋ると思ったら、とんでもないやつだなお前さん」

 

 なかなかに図太い、そして何より気になる点。自分と同じ能力者ならば、なぜ海王類を従えている、なぜ海水に浸かって平気なのか。クザンは問いただしたい気分になりつつも、それは押し黙った。

 

「海に濡れても問題ない‘能力者’と自分でバラしてるようなもんですけど、いい加減陸地が恋しいんです」

「あぁ、そういう。なら、俺が走ってきた方に行くといい。運が良ければ船に乗せてもらえるかもしれない……まぁ、そこにいるのは‘海賊’だけどな」

 

 確実な情報を欲した彼女にクザンは何ヶ月か、この少女が陸地を踏んでいないと理解する。自分の向かう場所は彼女の進んできた正反対。なので、近い島を教える……気は進まないが、あの一味が無碍に扱う事もないだろうと変な信頼感のままに。

 

「ほう、いいでしょう。そういえば、貴方の階級は如何程で?」

「あん? まぁ、青雉なんて呼ばれてるってだけ教えておくよ。さて、足を止めさせてごめんな」

「いえ、構いません。あたしものんびり海を行くのは嫌いじゃぁないんで」

 

 少女の口元に愛想笑いか、本心かは不明だが笑みが張り付く。少し、感情の起伏が乏しい、その視線に気がついたのか、彼女は指で表情筋を無理やり動かし、笑う。

 

「では、また。海はどこまでも繋がっていますので、逢いましょう」

 

 そういうと、何やら呟いて海に飛び込む。あっと思ったクザンが手を伸ばすも遅い。彼女は海に沈んだのだ……が。瞬間、大きな魚影が足元の海に浮かぶ。

 

「なっ、まだいたのか」

 

 それは規模100mはあるかというほどの大きさ。間違いなく海王類だった、が。

 クザンの危機感。それを無視するようにその魚影は海の底へと沈んでいく。

 

「……まさか、な」

 

 その呟きは潮風にかき消される。彼は気を取り直し、目的地を目指して再び。自転車を漕ぎ出すのだった。

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