海皇獣の冒険譚   作:狭霧 蓮

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第16話

 ミク達は現在、追っ手の全身タイツ君(ミク命名)たちを蹴散らしつつ、施設の奥深くに入り込んでしまっていた。

 

「ビスケットルーム……? なんかすごい子供の気配が多いんだけど」

「異国の姫はここまでの実力者なのか!?」

「だーかーらー。あたしは姫じゃなくて海賊だって」

「逃げるミクちゃんも凛々しくて素敵だぁ〜っ!」

 

 服装も相まって、生首サムライはミクのことを頑なに姫と呼ぶ。

 身につけている代物がかなりの高級素材で出来ているからなのだろうかとミクは勝手に推察する……なお、サンジの発作に関してはミクも慣れだしていた。

 

 元はと言えば、ハンコックがミクのために。可愛い妹分のために作らせたそのローブは通気性と保温性が飛び抜けていい毛皮を裏地に。表地は藍染めの爽やかな色味が目立つものである。九蛇の紋章も刺繍で縫い付けられており、遠回しにその庇護下にあると言われている様な物。

 

 現在の服装は白のブラウスにかっちりとしたレザーベストを重ねて。股下から数える方が早そうなミニスカートに、その内側にはデニム生地のホットパンツを穿いている。ベルトをスカートの帯穴に入れずお腹に巻く様なスタイルで付随する3つのホルスターにはピストルが三挺挿されていたり。

 ミクの代名詞になりつつあるすらりと長い美脚を隠すこともなく見せつける様に、ハイヒールを履いていてもその凄まじい体幹で難なく走る事もできる。

 

 こんな形の、自分のどこに姫要素があるのかはわからないが、おそらく……誰かに面影を重ねられている様な気がするミクだったが、それを指摘するのも野暮かと流すことにした。

 

「とりあえず、袋小路だしあそこに逃げ込みましょ!」

「ミクちゃんの言葉を信じるなら、そっと入るぞ」

 

 サンジが扉を開けて、一味はなるべく静かに雪崩れ込み。ミクそれに続くように殿を務める形で入っていく。そして今に至るが……

 

 フランキーに興奮した男の子に囲まれ、チョッパーが女の子にもみくちゃにされている。サンジは子供に眉毛を揶揄われて悪ノリで追いかけまわし、ナミとミクの元にも興味津々な子供達がやってきていた。

 

「おサムライさん、ちょっと黙っててね? 生首が喋るのは子供にとっちゃキツイ絵面だし」

「ぬぐ、確かに飛頭蛮と変わらぬこの姿! 童たちには……」

「モモの助くんだったか、その辺は任せて?」

「……かたじけない……!」

 

 ミクはローブの中、背中あたりで生首を隠す様に抱えながら子供たちに話しかける。ちなみに……

 

 “くそっ、ドアが開かないぞ! どうなってる!?”

 “何かで塗り固められてるのかコレは!?”

 

 ミクは自分たちの入ってきたドアを執拗に蹴飛ばし、ガタガタにした後でさらに蹴飛ばして叩き締めたため。建て付けが悪くなったドアが枠に減り込んで開かなくなっていた。そしてそこに主成分が海水の泡でドア付近を覆い尽くしてガスが入らない様にもしていた。

 

「多分だけど、ここにはガスガスの実の能力者がいるはず。マスターと呼ばれるやつが相当するんじゃないかなーって」

「見聞色で相手の記憶を読むって本当に反則よね。それであの海水に触れると、拒否されてこっちに来れない、と」

 

 しばき倒したタイツ君の記憶を理解したミクはその対策を一応取る。子供達に話を聞きつつどうにもここには病気を治すためにいるとのことだったが……ミクの見聞色の手応えから見て子供たちは全くもって健康体。つまりは、病気なんざ嘘っぱちで……

 

「……なるほど、マスターとやらは相当なクズヤロー見たいね……」

「ミク、何かわかったの?」

 

 目を伏せながらナミに頷きかけて、チョッパーを呼ぶ。この辺は船医に意見を聞いてもらうべきだと言う判断だった。

 

「チョッパー。この子たちはここに連れてこられた攫われた子供に違いないわ。親元から引き離されてここで治験、いや。強制的な実験に付き合わされてる」

「やっぱり。そっちの子なんて人間なのにその年齢でフランキーに近い巨躯。そんなの説明がつかねえ! 薬で何かされたんだろうな」

「それとこの子たち。行動を抑制されてる可能性が高い……まるで、逆らえない様にされてる」

「おい、それってまさか……薬物依存によるコントロールか!? 冗談にしちゃタチが悪いぞ!」

 

 ミクは最悪のケースを想定する中でチョッパーに簡潔な情報を伝達した。実験動物を薬物に依存させてその動きを統制する様なその所業。ミクが静かに、瞳の奥の紫炎を燃やす。

 

「とにかく、マスターとやらを待ち伏せしてボコるにしてもなんにせよ。この子達も放って置けないし……どーすっかなぁ……」

「ミクちゃん、俺たちは慈善事業をやってる訳じゃねえ。辛辣かもしれねぇがこの子たちをつれて立ち回れるかつったら、無理だ。甘い見通しは立たないほうがいい」

 

 サンジが暗にミクを諭す。真っ直ぐにノーを突きつけられ、子供達が家に帰りたいと、そして。

 

「そんなこと言わないで! 僕たちもう、病気じゃないんだよ? お家に、がえ゛り゛い゛よ゛ぉぉぉお゛ぉ〜っ!!

「たすけてよ、お姉ちゃん……うわぁぁぁんっ!」

 

 涙ながらに訴える大柄な、年長らしい少女が、少年が涙を流す。

 

「サンジくんの言いようも理解できるわ。でも……でも! 子供に泣いて助けてって言われたら、背中を向けられない……っ!」

 

 その悲痛な願い、哀しい叫びにナミが応える事となる。ミクもまた、根が善良なナミの決心に無言で頷いた。そこへ……ひしゃげた扉をトーチで切断してこじ開け入ってきた闖入者。全身タイツ君たちが銃器を構えて雪崩れ込んできたのである。

 

「追い詰めたぞ海賊どもめ!」

「もう逃さんぞ!」

「ナミさん、チョッパー。子供達を奥に! 魚人空手ェ……」

 

 アレはまずいとミクは獣人化形態に変化しつつ。大気中の水分を手に凝縮するとぷっくりと、掌サイズの水球を作り出す。そして腕を振るい、その水球を微小な水滴に分裂させつつ弾き飛ばした。

 

矢武鮫(やぶさめ)ッ!!」

「「「「なっ、ぎゃぁぁぁっ!?」」」」

「わぁぁっ、すごいミクお姉ちゃん!」

 

 全身タイツ達を軽々と吹き飛ばすその威力に子供達は目を奪われた。さらにそこに追い打ちをかける様に

 

「ったく、胸糞の悪い話だ! 悪魔風(ディアブル)(ジャンブ)首肉(コリエ)ストライクッ!」

「なっ、足が燃えてぎゃぁぁぁっ!?」

「アーゥッ! やるじゃねえかサンジ、俺も負けてられねえ! ストロングぅぅ、ライトォォッ!」

 

 サンジの燃える飛び蹴りが強襲。そこに加えてフランキーの右拳が飛んだ。

 

「「「うおお、ロケットパンチィィィィッ!?」」」

「「「ぐるぐるのお兄ちゃんもかっこいい!!」」」

「「「ミクお姉ちゃん、人魚みたいっ!」」」

 

 まるで物語から出てきたヒーローを見ている様な、子供達の憧れ。本から飛び出してきた‘主人公’を讃えるよう、子供達は熱狂する。

 

「こっから先に行きたいなら俺たちを倒してからにしてもらうぞ」

「ミク、こっからは俺たちだけでスーパー、十分だ。ナミとチョッパーを頼むぜ!」

「了解、任せるね!」

 

 走り去っていく人の姿に戻ったミクを見送り、サンジがフランキーに零す。

 

「魚人空手まであの短時間で修めるとは、武練に長けてるな……いいのか? 俺だけでも殿は務まるぜ、ロボよぉ?」

「へっ、このアーマードフランキーのファンを泣かせる輩は許せねえってだけの話さ。いくぜ、サンジッ!」

「応。カますぞ、フランキー。足引っ張んなよ?」

「へっ、誰に言ってやがる」

 

 背中を合わせる2人の漢が立ちはだかり、ビスケットルームに雪崩れ込んでくる全身タイツ君たちは彼らに蹴散らされるのであった。




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