海皇獣の冒険譚   作:狭霧 蓮

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第19話

「まてや、クソ野郎!」

「待つバカがどこにいる!? クソッこれでも喰らえ、‘ガスタネット’ッ!」

 

 可燃性ガスを撒き散らしながらシーザーは手にした火打ちカスタネットで引火させると。追いかけてくる人物を爆音と爆炎が包み込む。白煙が辺りに立ち込め、そこから突き抜けるようにしてシーザーは飛び抜ける。

 

「手品かなんかかなぁ!? 痛くも痒くもないけど」

「ぎゃーっ!? なんでテメェは、無傷で追いかけてくるんだ気色悪い!」

「万年青白野郎に気色悪いとか言われたくねぇわぁぁっ! バックに誰がいるかはだいたいあたりつけたんだぞこっちはぁぁっ!」

「……こいつら、なんでこんなに元気なんだよ」

 

 爆炎にさらされた人物はミクであった。が、彼女は無傷で鼻水と涙で顔が酷いことになっているシーザーを追いかける。何をしてもダメージがない、と言うわけでもないが。本当に相性が最悪な能力者の二人である。

 

 それを少し距離を空けて追跡するのは、トラさんことローだ。自然系(ロギア)の実の能力者はスタミナの概念がない。飛べる能力を持っている場合、延々と浮遊して逃げ回ることが可能なのだが……ミクもまた動物系(ゾオン)の能力を持っているためスタミナがほぼ無尽蔵と言える、が。彼がどこか呆れを含んだ言葉を漏らすのも無理もないだろうか?

 

 シーザーはミクの体内に対して干渉ができず、腹の内側から可燃性ガスを爆破してダメージを与えれるはずなのに。機密性の高い彼女の体にガスを入れ込めないため、泣く泣く、ミクの周りを爆破することで足を止めを図る。

 しかし、それが全く持って通用しないことにシーザーはイラつきと焦燥を募らせるばかりである。

 

「やられたらその分やり返す。覚悟しろよ、シーザー・クラウンッ!」

 

 ミクは走りながら獣人化。その手に体内の泡から引っ張り出した海水を球状にして取り出すとそれを弓のように変形させる。弦を引く様に構えると、そこへ鏃と化した海水の塊が伸びた。

 

悪破処兎(アクアショット)ッ!」

「ぎゃぁぁっ!?」

 

 引き絞り、放たれたそれは覇気を纏った海水の塊である。超高速で飛ぶそれが後頭部に直撃したシーザーはあえなく撃墜された。

 

 歩み寄り、シーザーを泡で包むとミクは追い付いてきたローにサムズアップしつつ、目を回したシーザーの捕縛に成功するのであった。

 

 ○○○

 

 シーザーを捕獲して。あたしはとりあえずみんなに合流するつもりで研究所内を歩いていた。とりあえず、子供達をあんな状態にしたコイツをこのまま許すつもりもないしなぁ〜なんて。

 

「そこのお嬢さん、その男をこちらに引き渡してもらえるかな?」

「あたしのこと? ……あなたは?」

「これは失礼した。私は‘ヴェルゴ’と言う」

「テメェ、ヴェルゴっ!?」

「……ヤダ、この人海賊じゃん。ドンキホーテファミリーの‘初代コラソン’さん?」

 

 ひた隠そうとしてる悪の匂いが、あたしの見聞色には完全に引っかかっていた。こいつは、敵だと警鐘を鳴らす。

 

「ロー、一つ訂正してもらおう。ヴェルゴ‘さん’だ」

「上下関係を気にしてんの? 海賊なのに」

「お嬢さん、私は海賊ではない。‘鬼竹のヴェルゴ’の通り名をもらっている中将、G-5で責任者を務めているんだ」

「元海賊でしょ? ……ふーん……トラさん、先に行って」

「おい、無茶なことは考えるな海竜屋っ! コイツ相手に一人は無謀が過ぎるぞ!」

 

 トラさんにシーザーを預けて、あたしは前に。獣人化して、ヴェルゴに対して構えを取る。

 

「口では甘いこと抜かして、その本心で仲間をコマとしか見てない奴には虫唾が走るの。ここで叩きのめす!」

「……なるほど、私の素性を見抜いたのか。スモーカーにも気付かれなかったと言うのに」

「染みついた悪意には敏感なのよ、あたしは特にね。あたしはミクだ」

「鬼竹のヴェルゴ。この刀の錆にしてやろう」

 

 ……何言ってんのこの人? 持ってるのは竹竿なんだけど……あ、吹矢も仕込まれてるのね?

 

「オマエ、剣士じゃねぇだろ」

「そうだ、俺は剣士じゃない」

 

 トラさんがゲンナリしながらツッコミ、気が抜けたフリをしてあたしは肉薄して。当然ヴェルゴは防御するが。感知した‘それ’を殴打した場所に海水を圧縮した泡を移動させると破裂、勢いよく噴き出して噴射した海水で押し出してやる。懐がやけに膨らんでいたからつい、ね♪

 

 放り出されたそれをキャッチして、手にしたそれ。ドクンドクン、と脈打つそれは四角い箱に収められたような心臓。やられた、と言う顔のヴェルゴはあたしを睨んできた。

 

「トラさん、これ。あげる」

「なっ、お前……」

「なるほど、それがリヴァイアサンの力。体内に海水を圧縮しているあたり、内陸部で戦うための措置か」

「いやん、もう見抜かれちゃった。ま、見抜いたところで……向後の憂いは絶たせてもらうわ」

 

 トラさんに心臓を返して、ヴェルゴの出方を見る。普通の、中将クラスの本部将校じゃぁあたしを止めることなど叶わない。ただ、この人は強い。ごちゃごちゃ考えるのは止そう思うけど……などと考える前に、踏み込み前に進めの精神で。ズン、と地を踏み締めて無拍子。とん、と軽く地を蹴ってヴェルゴに肉薄する。

 

「‘黒の芳香脚(パフューム・フェムル・ノワレ)’ッ!」

「む、避けれないならば……‘鉄塊’っ!」

 

 武装色の覇気を纏った回し蹴りを胴に叩き込んで。がおんっ、と轟音と共にヴェルゴが吹っ飛んだ。しかし、彼は空中を‘蹴って’地に足を下ろすと踏み締め床を滑り、削りながら止まった。

 

「‘月歩’。六式の一つか……面倒なっ!」

「よく知っているな。さて、その程度では私にダメージは入らないぞ?」

 

 武装色の練度の違いか。蹴った時の感覚は鋼鉄を蹴るのとは訳が違うくらいに……あたしの脚の方がずきりと痛むくらいか。

 骨折やひびはないが、何度も蹴りつけるのはナンセンスだよなぁ……これ。

 

「どうした、来ないのか?」

「ん? 欲しがりか、ドMなん?」

「……いや、そうではないが。まぁ良い」

 

 竹竿を手にして、覇気で黒金化させたそれを振り下ろし。あたしは半身を引き、紙一重で避けながら竹竿を踏みつけつつ顔面に蹴りを叩き込む。手応えなし、と。

 

「脚癖の悪いお嬢さんだ」

「硬すぎんでしょ!?」

 

 振り抜かれる竹竿を払っていなしつつ、黒金化した脚でヴェルゴを蹴り付けて距離を取る。物理攻撃が効きにくいとなると、使えるのは熱波とかの特殊攻撃──まぁ、その辺は完全獣化形態じゃないと無理だから却下なんよね。

 

「仕方ねーかぁ。武装色を極めたらそうはなるけど……その想定を上回るしかないな」

「何をする気だ?」

「何をしても無駄とか思われてんのは非常に癪でさぁ……やったことないけど、こんなのはどうよ」

 

 覇気を昂めて、その手に宿す。マグマのように、燃えるあたしの激情。高めて、昂めて、昇華(たか)める。

 イメージするのは大熱波(ラグナブレス)。覇王色の覇気を球体状に纏め、そして……突き出すよう、放出……っ!

 

海皇爆咆哮(カルヴァ・イグナイク)ッ!」

 

 ヴェルゴはそれを流石に避けるべきと判断したのか、飛び退いて距離を取る。ヴェルゴがいた場所は覇気の濁流に呑まれ、粉々に砕け散った。

 

「……今のは、大将黄猿の……っ!?」

「あたしなりの解釈で撃ち放った‘威国’よ。巨人族の槍とも呼ばれるそれ」

「躊躇いもなく私に向けるとは。恐ろしいお嬢さんだ」

「「硬過ぎるテメェが悪い」」

 

 なんて言いつつ、トラさんが後ろで。

 

「ROOM……」

「させると思うか、ロー?」

「それは‘剃’と。海賊が海軍エンジョイしすぎじゃなぁい? ──阿波幻想(バブリージョン)

 

 振り抜かれる竹竿を蹴り上げて弾くとそのまま私は幻影を見せてそちらに気が向いたヴェルゴを、見聞色の覇気で位置を誤魔化したあたしが、その側頭部を強かに蹴り付ける。完全な不意打ちは流石に覇気の発動が遅れたようで。壁に向かって吹っ飛んでいくところにトラさんが動いた。

 

「‘シャンブルズ’──‘カウンターショック’ッ!!」

 

 対象と自分を入れ替えて、あたしがヴェルゴと一緒に蹴飛ばしてた小石とトラさんが入れ替わり。両手を胸に押し付けての電撃攻撃っぽいそれを奴に食らわせていた。

 

「がはっ!?」

「うわー、防御無視攻撃だあれは」

「分身を使う、俺以上に厄介な奴に言われたくねぇよ」

 

 プスプスと焦げ臭い匂いがヴェルゴからするけど生きてるっぽいから、とりあえず泡に放り込もうとするがトラさんに止められる。

 

「生かされてるじゃん、よかったね?」

「一応バラして連れて行くぞ」

 

 ヴェルゴの首、腕、脚が切り離されてその状態で泡に放り込むようだ。達磨にされて不憫な。でも、油断できないからそれもまた然り、と。

 こうして、ヴェルゴも捕縛して。あたしとトラさんはルフィの元に、正確にはチョッパーたちの元に急ぐのだった。




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