海皇獣の冒険譚   作:狭霧 蓮

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第23話

 パンクハザードから出航して1日が経った。

 出航前に、実はトラさんが仕込みをしていた。何をやったといえば……

 あたしの覇王色の覇気を叩きつけて失神させたベビー5とバッファローという元同僚の首を自身の能力で切って落とした後にフランキーさんとあたし監修で組んだ筏に置いて放流したことだろう。

 あの筏はあたしの血を染みこませてるから海王類に襲われることはないだろうし、命の保証はしておく──鳥も寄りつかない様に、屋根付きの観音扉も設置してあるしね。

 さすが‘死の外科医’。なかなかクレイジーな事をするなぁと思ったけど、あたしたちは海賊だからね。これくらいエグいことしても違和感ないと思われてるから、5億の賞金かけられるんだよトラさん。

 ……訂正。元々七武海になるために心臓100個を海軍に送りつけるって奇行もしてるし元々まともじゃねぇや。

 

 で、あたし達を追ってきていたはずのドフラミンゴに関しては自分の部下を見捨てられない甘さを抱えてるらしく、弱々しくも生きているなら放流した彼らを助けに行くとのこと。

 まぁ、その割には……モネさんに何かあった時は死ねってパンクハザードを丸々吹っ飛ばせる自爆装置のスイッチ(もちろん証拠隠滅できない様に起爆装置はぶっ壊した)を隠してたみたいだが。

 

「痒いところはない、モネさん」

「え、ええ……どうしてこんなことに……」

 

 現在、鳥類の体のパーツを切り離して元の体に……飛んで逃げれない様にして、‘ユキユキの実’の能力者とわかったから海楼石の手錠を嵌めてある。

 ヴェルゴはバラバラにしたまま海軍に連行される様だ。まともな部類らしいが、全身に武装色の覇気を纏って動ける様なやつをそのまま五体満足にしておくのはリスキーだとはトラさんの提案。

 でまぁ、身体が馴染むまでは身体機能的にズレが生じて歩けないし、手に力も入らない様だったので介護して差し上げているわけだ。

 ちなみに彼女もシーザー同様に虜囚だ。とはいえ、ドフラミンゴへの忠義は揺らいでるっぽいけどね。と言うのも、あたしの我儘でこの人は連れてきたので世話をするのは決定事項だったりもする。

 ドフラミンゴが自分のビジネスの都合で、死んでも死守しないとダメな駒であるシーザーと、それの監視とマネジメントができるモネさん。彼女は結構有能な人みたいだったし、ドフラミンゴをぶっ飛ばしたあとはドレスローザに放置してまともな人生を送ってもらえる様にしようと思っている。

 

「あたしの我儘で拾ったんだから世話くらいはきっちりするよ。無論、海楼石のせいで力も入れにくいだろうし」

「今なら舌を噛んで自殺もできるけれど?」

「シュガー残して死にたいならお好きにどうぞ」

「……はぁ、弱点をよく知ってるのね」

「見聞色の覇気って格下なら相手の記憶も読み取れるし、あたしは万物の声を聞けるの。それこそ、同等かそれ以上の使い手じゃないとあたしの見聞色の覇気は心や記憶を読んじゃうから」

 

 オートで読んでしまうのでなるたけ自制はするけど、敵性の人からは容赦なく情報を抜く。我ながらちゃっかりしているけど、情報は武器になるし情報収集は大事なのだ。

 モネさんから抜いた情報から察するに、ドフラミンゴはイトイトの実の能力者。超人系(パラミシア)の能力の中じゃ下の方に見られがちだけど、それは悪魔の実エアプだ。その能力の真骨頂は他人を操れることにあるし、蜘蛛の糸はとんでもなく強靭で大きな丸太すら吊るせるほどの強度がある。

 そこから考えれば、極細の糸で切り裂いたりもできるはずだ。モネさんの情報から推理したらおおよその予測はできた。あとは大きな体を用いた蹴りも危険だろうけど、あたしも体術には自信があるし問題ないとする。

 悪魔の実は応用こそが全て。自分が出来ると思えば実現できる様に進化できる(・・・・・)

 加えて、ドフラミンゴは確実に覚醒させてるはずだから、油断したらやられるかもしれないわね。

 

「ほい、風呂に入れてあげられないのはごめんね」

「変わった子ね、あなた」

「ミクでいいよ」

「それは遠慮しておくわ。私の忠義は若様にのみだから」

「あ、そ」

 

 あたしの泡で包んで汚れを包んで落とし、清潔にはしてあげれるけど。脂が髪を傷めるからなぁ……やっぱ風呂には入れてあげたいけど今は無理だね。

 

「そろそろ、トラさんの一計の期日かな」

「若様を七武海から失脚させる……か。有効だけど、リスキーよ?」

 

 シーザーの引き渡しを条件に七武海の脱退を迫ったトラさん。まぁ、これはブラフで本来の目的はSMILEの工場破壊だ。探しても見つからない工場を見つけ出してぶっ壊す。だが、トラさんの仲間の調べではその街中に工場なんてものはなかったらしい。

 シーザーを引き渡すのにドフラミンゴを誘き寄せて、手薄になった街中を探索して工場を見つけ出して破壊する。なにより、ドフラミンゴが七武海を抜ければ政府側から海軍の増援はなくなるから手を出しやすくなる……あたしたちはもちろん。

 カイドウもSMILEの供給が止まれば怒ってドフラミンゴに矛先を向ける可能性も高くなるんだよな。

 ただし、この計画は破綻するかもしれないから保険は必要だ。そのためにモネさんを保護したわけで。

 

「元天竜人だもんね、ドフラミンゴは……CP0を動かして誤報にする可能性もあるね」

「え? なんでCP0が出てくるの!?」

「やっぱり知らないのね。ドフラミンゴの‘ドンキホーテ’ってのは天竜人の家名よ。確か、あたしが生まれるよりうんと前、35年前くらいに聖地マリージョアから地上に引っ越した変わり者の一族がいたはず」

「なんで、そんな昔のことを知ってるの……?」

 

 恐れる様な視線を感じつつ、あたしは話す。万物の声って万能じゃないんだよなって……知りたくない事を知り過ぎてしまうから。

 

「あたしたちが生きるこの世界って島くらいしか文化圏がないでしょ?」

「え、ええ」

「今日もどこかで海に沈む船があるし、船には少なからずとも海図とか書物が積まれてることが多い」

「何を言ってるの?」

「あたしが聞く万物の声は、あたしの食べた悪魔の実の影響かもしれないんだけど、海に沈んだ文献や新聞から情報を読み取れるのよ。海はあたしの母であり父だから、海が知らないことはないわ」

 

 余計な情報は教えてくれないのはずるいけど、おおよその事柄なら海は応えてくれる。自然は不自然を嫌う。だから‘不自然な存在’である悪魔の実の能力者は自然に嫌われているせいで泳げないんだってさ。ベガパンク、疑ってごめんね? 

 

「つまりまぁ、気まぐれに海が教えてくれるんだ。不必要なことまでさ」

「便利なのか不便なのかわからないわね、それ」

「不便だよ。いつの間にか知らない知識が蓄えられてるんだから、気持ち悪くて仕方ないよ。こんな才能捨てれるなら捨てたいしね」

 

 ため息を吐きながら、ネモさんの髪をブラシで整えて。あたしは彼女に手を貸して甲板に行くのだった。

 

 ●●●

 

 サウザンドサニー号の芝生の甲板にて、緊張の面持ちで一味が電伝虫の様子を見守る。発信先からガチャリと音がして、その声が鳴る。

 

『俺だ、七武海を辞めたぞ、ロー』

 

 ルフィがローより受話器を奪い、わいわいと外野が騒ぐのを退屈そうな顔で眺めるミクの隣にはモネが、その隣にシーザーが座らされていた。

 

『俺はお前に会いたかったんだ、麦わらのルフィ』

「ん? 俺に?」

『フッフッフッ! お前が欲しがるものを俺は手にしている……といえばどうする?』

「俺が欲しがるもの? ……どんな美味しいお肉だ!?」

『……いや、肉じゃないが……ンンッ。フッフッフッ! 確実に喉から手を生やすのが目に浮かぶよ……!』

 

 その様子を見て、眉尻を吊り上げたミクは口を挟む。その‘欲しがるもの’に当たりをつけたのだ。

 

「……ルフィ。後で話すから、トラさんに変わって。……話が進まないわ」

「おう! 悪かったな、トラ男!」

「ジョーカー、余計な事を喋るな。シーザーは約束通り引き渡す」

『フッフッフッ! それこそ賢明な判断だ。 いや、ここでトンズラなんてした日にゃぁお前はよく知ってるはずだ。どういう目に遭うかを、よーく、な』

 

 その後、商談的なやり取りでシーザーの安全を確認したドフラミンゴはローが示す‘グリーンビット 南東のビーチ’へシーザーを放り出し、自分たちはドレスローザから去ると聞くと。

 

『それにしても、トラさんか……アイツに似てきたな、ロー。フッフッフッ、‘家族ごっこ’の延長は楽しいか、ロー?』

「それは関係ねぇ!」

 

 言葉を荒げたローの肩をポン、と叩いたのはミクだった。

 

「落ち着いて、トラさん。ペースに乗っちゃダメ」

「ちっ、悪いな。そういうことだ、ジョーカー。八時間後、ビーチに来い」

『フッフッフッ! そう寂しい事を言うもんじゃねぇぞ、ロー。大人になったお前と一杯くらいやりてえんだよ、俺は』

「悪いわね、あたしはあんたとは酒を飲みたくないわ。胸焼けしそうな甘い酒でも出されたら殴っちゃうし」

『ほう、いつぞやの小娘。いや……ロックスの落とし子が‘ヴィレ・D・レヴィリア’だな?』

「さあ? そんな名前は知らないし、あたしはただの‘ミク’よ」

『フッフッフッ──裏は取ってあるさ。海軍の方が把握してるかは俺の知ったことじゃねぇがな』

 

 めんどくさそうな顔で、ミクは口を開く。

 

「マウント取るくらいしか特技がねぇんだな、テメェ」

『フッフッフッ! 中々、自分の立場をご存じないとは……笑い草だな!』

「……なに?」

 

 訝しげに眉を歪めて、なにを言いたいのかとミクは。

 

「ミクさん、こ、これぇ!?」

「え?」

 

 ニュース・クーが寄越した新聞には《ドフラミンゴ、七武海脱退表明》の見出しと共に。《再動の麦わらの一味! 新たなクルーは最悪の超新星! その名は‘ヴィレ・D・レヴィリア’、呪われた血筋の子!》と見出しがあった。

 

 そして、いつ撮られたのか、あたしの写真──シャボンディ諸島でPXを無傷でノした時のものだ──その懸賞金は……

 

 

 

 

‘厄災の海獣 ヴィレ・D・レヴィリア’

 

懸賞金3億9000万ベリー

 

 

 

 

 一同は、しばらく時が止まったと感じた。どうして、バレたと……

 ミクもまた、自分がこの先。世界の台風の目となった事を、甚く自覚するハメになったと言う。

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