海皇獣の冒険譚   作:狭霧 蓮

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ONE PIECE FILM REDの一部ネタバレがあります。ご注意ください


第7話

「つまり、歴史の本文(ポーネグリフ)はここのサンゴの森にあるのね、ミク」

「ん、そのはず。魚たちの声を聞いたらわかった」

 

 フランキーはコーティング職人のツテがあると、同行しなかったため。ミクとロビンは現在魚人島がサンゴの森を訪れていた。

 

「にしても、ここは迷いそうだね。きっちりと見聞色の覇気を使わないと見失いそうだ」

「まるで天然の迷路みたいね。でも、ミクも歴史の本文を見たいだなんて。見たことはあるの?」

「ないよ、学者じゃあるまいし。ただね」

 

 ミクはロビンの質問に少しだけ考える素振りを見せつつ。年頃の少女らしい溌剌な笑みを浮かべた。

 

「あたしは‘世界一の演奏’をラフテルでしたくてさ、そのためにも必ずルフィと一緒に。ワンピースを手にしたい……もちろん海賊王とその仲間たちのためにあたしが演奏するんだよ。あの龍弦琴で奏でたいんだ」

 

 彼女の夢。それを聞き、ロビンは微笑みながら。

 

「そう。だから‘演奏家’を目指すのね」

「うん! ブルックと一緒に作曲する約束もしたし、世間を賑わせたソウルキングのプロデュース込みなら最高のライブができそうなのよ! それでね」

 

 ミクはそう言いつつ。少しだけ寂しそうに笑う。

 

「あたしは世界の真実も知る必要があると思ってる。昔に何があったのかとかさ」

「そうね。私もその過去に何があったのかを知りたいから、歴史の本文を探し回ったわ」

「いわばロマンの探求ってやつかな。いい歌詞のためにも刺激は欲しい!」

 

 ロビンは根っこが自分達の船長に似ているとミクを分析する。どこか危険な子なのか、と。何より、その強さの荒削り感を感じざるを得ない。

 

「あとさ。やっぱ親友のためなんだよね、あの子に世界を教えるためにも」

 

 ミクは語る。かつて滅んだ音楽の国、‘エレジア’に漂着したことがあり。そこで出会った‘空虚な少女’の話を。

 

 ○○○

 

 彼女は自分が原因で‘エレジア’を滅ぼしたと後悔し、‘我が父’にひどいことを言ったと泣いていた。

 そんな時、慟哭の合間に‘ざぶん’と誰かが起き上がる。体に海藻を巻き付けて、砂浜に立ち上がったのは……齢にして同い年か少し年下か。見目麗しい少女であった。

 

「ここどこ!? 嵐はどこに行った!? あー! 10代目のイカダ・ドーン号がぁぁぁ!」

 

 何やら意味のわからないことを喚いている少女に、彼女はドン引きする。辺りを見回すと、バラバラになって流されてきたであろうまっすぐな木材、流木を見受けた。

 

 ふと、彼女と少女の視線が交錯する。

 

「「……」」

「えっと……ウタだよー?」

「っ! ごめん! あたしはミクだよー。‘ミク・D・ヴィレ’! ……今の見てた?」

 

 長い沈黙。彼女は自身の名を‘ウタ’と。少女は‘ミク’と名乗った。星空の下での邂逅はとある未来を否定した。‘寂しがり魔王’の目覚めは回避され、‘幸せを運ぶ魔王’が産声を上げる。

 

「ウタはつまり、世間の話を聞いたことがないのね」

「私が今まで過ごしてきたのはここだけだから。でも、外のことも知りたい! さっきまでの話だと、ルフィが1億を超えてる賞金首だとかきっちり確かめたいの!」

 

 ウタにせがまれたミクは語った。あくまでも自分の見聞でしかないが故に参考にはしてくれるなと前置きをして。

 ルフィの軌跡。ミクが知るのはバラティエからその後のことである。実は‘麦わらのルフィ’に興味を持ち、不可思議な泡に包まれたスクラップ帳……彼の関わったであろう事件の記事のまとめを作っていた、

 

「ドン・クリークという海賊を撃破した後に、その当時東の海(イーストブルー)で幅を利かせていた‘魚人海賊団’、その首領である‘アーロン’を撃破したことにより、海軍は‘麦わらのルフィ’を賞金首として登録した。その初の賞金は3000万ベリーだった」

 

 ミクの出した手配書を見て、「ああ。やっぱりルフィだ」、とウタはその懐かしい顔を追憶するような面持ちで眺める。

 

「そして、彼はアラバスタ王国に向かい。‘国盗り’を目論んだ罪状でその賞金が1億ベリーに跳ね上がる。でもこれは世界政府によって隠匿された事実の裏付け。麦わらのルフィは元王下七武海の‘サー・クロコダイル’の手からアラバスタ王国を救ったってあたしは聞いてる。このことから‘麦わらの一味’は‘略奪をしない海賊(ピースメイン)’だとあたしは確信した」

 

 ウタはその話を聞き、海賊にも‘略奪者の海賊(モーガニア)’がいると聞く。その後も空島に行ったやら、エニエス・ロビーを陥落させ、世界政府に喧嘩を売ったなどなど。その波乱と旋風すら生ぬるいと感じさせられる嵐を巻き起こしたとミクは語った。

 

「まぁ、エニエス・ロビー陥落後ののことはまだわからない。この先、あたしは新世界を目指すつもりだし、そのついでに彼らの後を追っかけてみるつもり」

「ミクは海賊じゃないんだよね?」

「あたしは海賊旗を掲げちゃいないよ。あくまでも自称は冒険家のつもり」

「冒険家、かぁ……」

「ねぇ、ウタのことも聞かせてくれない? あたしばっかりに喋らせてずるい」

「あははっ、ごめんね。じゃあ、私の知ってるルフィのことを教えてあげる」

 

 フーシャ村での素敵な思い出の数々と、忘れかけていたルフィとの記憶を語る。彼の起こしている世間騒がせは自分の想起する海賊とはまた違うもの。

 でも、彼はやっぱりルフィだったとウタは自身の‘海賊嫌い’を見つめ直した。

 

「そんなところまで話して大丈夫なの……でも」

 

 ミクはこれまでのウタの話を聞き、この島にあったかつての国。‘エレジア’が滅んだ要因が彼女にあることを聞く。

 

「私も信じたくないと思ってる。だけど……シャンクスが、お父さんがそんなことをする人だなんて思えないもん」

「‘赤髪のシャンクス’……新世界で四皇のうち一人。あ、これは黙っておいた方がいいからね?」

 

 ミクは‘赤髪海賊団’についてはあまり知らないが、新世界にて活躍しているとウタに教えた。そして、その上でウタの話を聞き。彼女を抱きしめた。

 

「がんばったね、ウタ」

「ふぇっ!? ミク!?」

「悪いのはシャンクスでもなくて、あなたでもない。全部の元凶は‘トットムジカ’だよ」

 

 ウタの歌を利用して蘇ろうとしたその魔王をミクは否定する。そして、ウタを受け入れる。

 

「ねぇ、ウタ。あたしね、‘演奏家’を志してるの。一曲聴いてくれない?」

 

 そう言って海藻がこれでもかと絡みついたリュックに留めていた‘龍弦琴’を手にして。ポロン、ポロンと演奏する。

 その旋律はまるで誰かを勇気つけるような、それでいて楽しさを教えるような旋律だった。心が晴れる、曇っていた空から光が差すように。

 それを聞き、ウタもウタ唄う。自然と、歌詞が胸の内より溢れた。

 

「〜♪」

「ウタ、寂しさに負けないで。あなたの抱える思い、一つ一つと向き合って」

 

 ミクは歌うウタの顔が涙で濡れているのに気がついた。だけど、その旋律を上書きするように楽しげなメロディでリードする。否、リードしなくてはいけない。

 彼女の抱える思いに気がついていたミクはその歌声を聞くうちに眠りに誘われる。だけど、その眠気をトばすために無心で奏で続けた。

 

「その歌詞の真の意味を理解して。向き合うの、‘破滅の譜’を反転してみれば、それは人々の渇望! 願いをひん曲げて捉えてはいけない! ‘新時代’を目指すならそれくらいの困難をウタでネジ伏せて見なさい!」

 

 ミクの狙いはウタが見失っていた‘楽しさ’を思い出させること。望まれるから歌うではだめだ。だって音楽は‘歌詞と演奏でヒトをしあわせにする’ためにあるのだから。

 ロック調に旋律を刻み。時に軽やかな、嫋やかなメロディーに乗せてだんだんと晴れていく心をウタは認識した。そして何より、自分の歌でミクが眠らないことに驚きを隠せなかった。

 

「〜♪……♪」

 

 そして、緩やかに。旋律は鎮まってゆき、最後に爪弾いた音が終わりを告げた。

 

「……ちょっとは迷いも晴れた顔してるね」

「もぅ、無理に歌わせないでよ」

「あははっ! でも、楽しかったでしょ?」

 

 ウタは無邪気なミクの笑顔に釣られて笑う。そうだ、私も笑えたんだ。

 

「今度また話そ。えっとこれ」

 

 ミクは荷物からデンデンムシを取り出すとウタに半ば押しつける形で。

 

「さーて、あたしは行くね。目指すは偉大なる航路(グランドライン)!」

 

 荷物をまとめ直し、ミクは旅立つようで。

 

「ミク、また来てくれる?」

「勿論。ただ、何年かかるかは分かんないけどさ」

 

 ウタと握手を交わし、ミクの手に鱗が浮き出たのに気がついた。何事か、とウタが彼女を見ると彼女はどこか神秘的な海の姫のような変化をしていた。

 

「次の島まで、何キロ泳がないとダメかなぁ。まぁ、いっか。じゃあな、世界の歌姫様!」

 

 ミクは手を離すと、海に飛び込んだ。そして大きな水飛沫と共にウタの前に顕現するのは赤き眼を燃やす、月光と星光を反射して煌めく蒼き海竜。

 

『いつでも話は聞いてあげる。だから今はしばしの別れ!』

 

 海竜が水底に消えてゆく。それをウタは見えなくなるまで手を振って見送った。

 

「ありがと、ミク!」

 

 余談だが、後日。ミクに連絡をしたウタがとある‘休業中の麦わら’話すことになるが‘しあわせな再会’となったことは置いておこう。

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