海皇獣の冒険譚   作:狭霧 蓮

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第8話

「まるで謝罪文ね、あなたは一体誰に謝っているの? ──‘ジョイボーイ’」

「んーと……ふむふむ。こりゃ900年前の人魚姫に謝ってるってさ」

「……ミク、アナタ読めるの!?」

「んあ? ……なんかこの石碑が教えてくれたんだけど。ただ、それ以上のことは教えないだってさ」

「……万物の声を聞いたの……?」

「にっしし、よくわかんない!」

 

 にかっと笑い、ロビンは目の前に信じられないものを見たと言わんばかりの驚愕の表情。魚の声を聞いた、とは見聞色の覇気がそれほどに強いのかと思っていただけに、その素質に戦慄する。

 

「ロビンさんが見たいのは赤いやつだよね。‘今は’ないって言ってるよ」

「……ここにあったのね。‘ロード歴史の本文(ポーネグリフ)’が」

「どこに行ったかは‘自分で探せ’だってさ。まぁわかんないよねー、ここに鎮座してるだけなんだし」

 

 ミクの言葉にロビンは頷いたが。これ以上用はない様で。サンゴの森を出ることにした。ご機嫌に隣を歩く少女に対し、ロビンは本当に‘何者なのか’と頭の片隅で考える。

 自分を消すために世界政府が寄越した刺客かとも考えるが、内心で首を横に振る。それをなす隙など幾らでもあるのにと。

 

「ミクは今までどんな旅をしていたの?」

「そりゃあ偉大なる航路(グランドライン)の中で安住の地を探すつもりだった。けどね、みんなのことを魚たちから聞いて興味を持ったから‘麦わらの一味’の軌跡を追って旅をする方向にシフトしたんだ」

 

 そこからはミクの愚痴混じりに語られる。第三者から見た自分達の所業に一周回って呆れかけたが、それすらも懐かしいとも感じれるあたり、ロビンも大概毒されているのかもしれないと自嘲の笑み。

 それから、ミクが海王類を従えるやら筏で偉大なる航路を渡るなどなど。信じられないことに加えて、常人では死んでいるであろう所業の数々にドン引きしたり。

 どこに行っても海軍やらの勢力下。生きにくいったらありゃしないとミクは肩をすくめる。おおよそミーハーな行動理由にそりゃあ船長であるルフィと仲がいいわけだとロビンは納得した。

 

「なるほど、ね」

「ん? あれ?」

「どうかしたの?」

「ルフィたちの気配がするあと……ジンベエとそのほかにも知らない子がいるね。こっちだよ」

 

 ミクの導きで‘海の森’を抜けると、何やら諍いの声が聞こえて来たため。顔を見合わせた、二人はその場に急いだ。

 

 ○○○

 

「俺はあいつらを助けに行く! サメ、俺を竜宮城に連れて行け!」

「まて、と言っとろうがルフィ君!」

「どけよ、ジンベエ! 俺は竜宮城に行って、仲間助けてホーディってやつをぶっ飛ばすんだ!」

「それを待てと言うとるんじゃ!」

 

 ジンベエの静止を聞かず。ルフィはメガロに乗ろうと近づいたところへ。彼はやむを得ず手出しをする。

 

「この分からず屋がぁ! 魚人空手、‘鮫瓦正拳’ンッ!」

「ちょっと、ジンベエ!?」

 

 ナミの静止も遅く。手を出したジンベエの‘魚人空手’の真髄は言うならば‘波動’である。大気中の水分を、或いは生物の体内の水分を。

 打ち放った衝撃は相手の体内を突き抜け、ダメージを与える作用をもたらす。そんなものをまともに食らえば……2年の修行を受けたルフィですら。

 

「ぐっ、なぁぁぁ!?」

 

 踏み堪えることができず、そのまま吹き飛ばされ地を跳ね回ってようやく止まった。

 

「っ、いてぇ」

「なーにやってんの、ルフィ。やっほー、ジンベエ」

「お前さんは……ミクか。見違えて別嬪になったもんじゃ、久しいのぉ」

「えへへ、お世辞は結構。うちの船長が世話になったみたいだけどなんかあったん?」

 

 有無を言わさぬ覇気があたりに散らばる。目元が笑っていないミクの目にそこにいた面々は、美女を見るとクネクネ動くサンジですら動けなくなっていた。

 

「む、むぅ……まずはそのダダ漏れの覇王色をおさめてくれ、しらほし姫様もおるんじゃ!」

「そこのデカい人魚がなに? それがどうしたん?」

「ひぃ……あ、あの人こわいです……ひぃぃぃん!!」

「いちいち泣くなぁ!」

 

 優しく宥められた事しかないしらほしにとって、一喝され。怒気を叩きつけられる初めての経験に固まる。‘泣くな’と命じられた以上従うしかないと、しゃくりあげ泣きそうになりつつも我慢した。

 

「で、これはなんの騒ぎなの?」

 

 事情もあるだろうが、さっさと話を進めろと言わんばかりの傲慢な在り方にジンベエはイラつきを飲み込み。

 先程、ホーディの手で竜宮城を占拠されネプチューン王の処刑が行われると伝える。その上でホーディはゾロ、ウソップとブルックを捕らえて溺死させようとしていることも。

 それを聞き、顛末を理解したミクはまず。頭を下げた、仲間内で争っていた彼らを鎮めるためとは言え‘覇王色の覇気’で威圧したことを。

 

「ごめん、流石にやり過ぎたわ。そっちのえっと、しらほし姫さんも怖がらせてごめんね?」

「加減はできるあたりが救いじゃが、わしゃあもう気にしておらん」

「そんな、いえ。ミク様、どうかお顔を上げてくださいませ!?」

 

 そのやりとり。事情を聞いていたロビンも合流して、ミクはルフィを諭す。

 

「で、ルフィ。あんた行くつもり?」

「勿論だ! 仲間取られて黙って見てろって言うのかお前!」

「そうは言ってないよ。だけど、もうちょいジンベエの顔も立ててあげなよ」

 

 ミクはルフィにガミガミとしこたま正論説教の銃乱打(ガトリング)でルフィをボコボコに殴って諭すと、ルフィはその場に四つん這いで頽れる。

 

「これでよし。すぐに忘れて立ち直るけど」

「……容赦ないわね、あんた」

「よく言われるから、褒め言葉として受けとくね!」

 

 ナミの呆れ混じりの言葉をさらっと流しつつ、ミクはジンベエの話を聞く。そして彼女はその場に連れてこられていた包帯でぐるぐる巻きにされている魚人をみやる。

 

「そっちの魚人さん、タコの人」

「にゅ……」

「あんた、ホーディにやられたよね?」

「にゅ!? な、なんのことだにゅ……ぅ」

 

 タバコを咥えていたサンジがそれを聞き、優れた見聞色だと内心で彼女を褒めながらタコの魚人であるハチに話しかける。

 

「なぁ、ハチ。図星でいいんだよな? お前は俺たちに‘誰にやられた’かを頑なに話そうとしなかったじゃねぇか」

「にゅー……そ、それは……」

「なぁジンベエよ。俺たちにゃ戦う理由があるんだ。これを見過ごせば魚人島はあのホーディって野郎の手に。あいつは人間だけならまだしも、同胞である魚人にまで手を出してるんだ……」

「にゅっ……ジンベエさん……」

 

 すぅ、一息吐き出しながら。サンジはジンベエを見据えた。

 

「ジンベエ。ルフィにとっちゃお前に恩一つ、返してねえ借りがある。俺たちにとっても、ウチの船長をあの戦争から命懸けで救ってくれたってこたぁ、俺たちの恩人でもある。感謝だって返し切れねぇ恩人だよ」

「……しかしじゃなぁ」

「なら、こうしようよジンベエ」

 

 ミクはサンジの言葉につづけて、自信満々に言い放った。

 

「悪い歴史をここで終わらせるべきだよ。そのホーディってのが‘踏み絵’を目論んだ時点で黒なのは当然よ。法で裁けないなら……それこそ‘無法者(あたしたち)’の出番じゃない?」

「お前さんは本当に海賊に染まり過ぎじゃろう? どうしてこうなったんじゃい!?」

 

 あっけからんにミクは言い放った。その言葉に頭を抱えたジンベエに、立ち直り。立ち上がったルフィが手を差し出した。

 

「ったく、どいつもこいつもぉ……」

「泥は俺たちが全部被ってやる。だからジンベエ、手ェかせよ!」

 

 ジンベエは葛藤の末、ため息と共にその手を取った。

 

「何よりここにはジンベエ(おまえ)含めて友達が何人もいるんだ、それを困らせる様な奴なんざぶっ飛ばしてやる!」

「ルフィ……わかった、ワシも腹を括らにゃいかんな」

「それとさジンベエ。貴方が今から動こうにも、ホーディって既にあんなことしてるじゃん? 信頼もクソも底辺から何を信じればいいの?」

 

 ミクの正論の(ピストル)に打ち抜かれたジンベエは思わず頽れる。ルフィも何故か頽れた。

 

「話はまとまったみたいね。ルフィ!」

「おう、野郎ども。行くぞ!」




次回、決戦
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