コード・クラッシュ   作:werkbau

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電脳探偵/4

「どうしたらいいか、ねぇ」

 

 凶一は右手で頭を掻いて、目を伏せた。それから言葉を紡ぐ。

 

「俺は、このまま何があっても探し出すよ」

 

「探すって……」

 

「依頼された以上、さ、たとえどんなことになっていても、クライアントから言われたことを遂行しないといけないから」

 

「妹を、探してくれるの…?」

 

「探すさ、探すともさ」

 

「無事、かな」

 

「んー、多分ね」

 

「それは……慰め?」

 

「慰めを言うほど、優しくないさ」

 

「だったら何を根拠に?」

 

「人間をばらすのだって時間かかるってこと、それに」

 

「それに…?」

 

「登録市民でしょ、君の家」

 

「え、ええ」

 

 

 登録市民は形骸化しながらも存在する日本国政府に正式に『税金』を納め、データベースにIDが登録されて国家から保証を受けることができる存在だった。治療、インフラ、その他保証を持ち、市民権などとも呼ばれる。そして、そう言った権利があると言う事は持たざる者も存在するのは当然だった。

 

 人間をばらすにも労力の差が出る。市民権を持つ人間を人間を害するのは、頭に理論上とつける必要があるが、結果としてできる。現実的には不可能という言葉を使った方が早い。

 

 まず国家から受けているIDに紐づけられたセキュリティを突破しなければならない。できないまま市民権を持つ人間を害したらどうなるか、その時点で即座に市警が飛んでくる。役立たず税金の犬は、エサの元である納税者を害するものは絶対に許さない。普段はいくら連絡しようと動かなくとも税金を実際の給料としてエサにし、垂れ下げる人間には忠実だ。

 

 そんな珍しく勤労意欲を掻き立てる市民権を持つ人間を殺すには、強固なロックを突破し、さらに不自然な痕跡を残さないようにIDを消去する必要がある。

 

 高価なテックを使っての犯行を行えるとなればある程度組織だったことは予測できる。しかし、所詮は在野の組織でしかない。まともに国家としての体裁を持たなくなったとはいえ、まだ国ではある。そう言ったところに所属する技能を持った人間のセキュリティをかいくぐるのは至難の業だ。

 

「今頃、妹さんは持て余されてるだろうね…いいカモを見つけたつもりが手出しもできないんだ」

 

「そ、その、だけどね……?」

 

「ん?」

 

「もし、その、妹に最悪のことが起きたらどうなるの…?」

 

「んー、普通の人間、まぁ、インプラント入れてるってことね、そう言うのだったら解体されてパーツになって売り払われる生身の部分は使える臓器があればそれも闇ルートで移植用に販売される…だけど妹さんの場合は……」

 

「場合は…?」

 

「もし、妹さんもキミと同じでインプラントを入れてないと推測した場合」

 

「入れてないわ」

 

「あ、それだったら脳みそ抜かれて体だけ多少の加工して売られる」

 

「なっ、何……脳みそ…?」

 

「売られるんだよ…特に金持ちに大人気。テックでさ、人体の大半を作り変えても人間の欲求、消えないんだ…まぁ、大体は薬やプログラムで抑えるんだけど、中には肥大するような人間もいて…そう言ったやつらのやることは…取り戻そうとする…内臓周りだとか、特に口、味覚周りがきちっと残ってる人間の脳みそ抜いて義体化処理する…後はその身体を乗っ取って終わりだ」

 

「や、やだっ…」

 

「だけど、君のお家は登録市民…セキュリティを突破するのは並大抵じゃないから、少なくとも在野でやっても、一か月はかかるから、まだ時間はあるよ」

 

「なら、妹は…ぶ、無事…?」

 

「あぁ、うまくセキュリティを突破できればいい金になる。それこそ、体を全部作り変えれるような人間なんて言うのは大体莫大な金持ちだから…そこに売りつけるために慎重にやってるだろうね」

 

「な、なら、まだ大丈夫、ってことよね…?」

 

「ま、ひとまずはね…だけどあんまりうかうかしてもいられはしないかな…痺れを切らしてヤバい方向に手を付けようとしたりする可能性もあるから」

 

 他人を機械に作り変えることに興奮する人種が確かに存在する。生身の体を嫌い、カルトのように他者の体にインプラントを埋め込むことに熱を上げる人種だ。

 

「機械信仰者どもが変なことしないでいてくれるといいが…」

 

「何よそれぇっ…全然安心できる要素がないじゃないっ」

 

「ま、心配する気持ちもわかるだろうけど……あんまり慌てなくても大丈夫だって…一週間もかけて、市警を動かさないよう用心深くやってる連中だ、軽はずみに行動したりはしないさ…と、それじゃ、そろそろここはお暇しようかな…大体わかったし」

 

「わ、わかるものなの…?」

 

「イエス、さっき掲示板を漁った時にほかのIPアドレスなんかも控えたから手掛かりは掴んだも同然よ」

 

「そ、そっか…よかった、それじゃそろそろ行くかな」

 

「ま、待ってっ!」

 

「んー?」

 

「わ、私もいくっ!!」

 

「は……?」

 

「妹がこんな状態で待ってなんてっ!」

 

 凶一が頭を抱える。この手の人間は多い。待てない人間だ、相手を信頼してないとかじゃなくて自分がその場にいないと気が気でない、そんな人種。わざわざ探し出してまで自分に依頼してきたというのだから、後は待てばいいというのに、しかしこの手の人間にいいから自分に任せて待ってろと言うと逆に作用するときも多い。そうなるとあとは泥沼だ、どうにかしてこの場を切り抜けないといけない。

 

「んー、勿論気持ちはわかるし、そうさせたいってのはあるんだけど」

 

「だ、だったら」

 

「それに漬け込む悪ーい人っていのはごまんといらっしゃるわけ」

 

「……………」

 

「ま、悔しい気持ちはわかるけど、ここは待つのも重要じゃないかな?」

 

「だ、だけど……」

 

「それにほら、お金の話だってまだなんだぜ?」

 

 そう、凶一だって善人ではない、仕事として依頼を受ける以上金の話はどうしたって出てくるものだ。考えてみたら、と脳を回した。最初に金の話をし忘れるというポカをやらかしている以上、相手は自分が無料でこなしてくれるという思い違いをさせたかもしれない。気づけてなかった己の不明を恥じる。まずは料金説明をしなければならなかったのに、夕暮れの教室で美少女と二人きりと言う魔力に飲まれてしまっていたようだ。これからは身を引き締めていかなければならない、これはそのための手痛い経験としておこうと内心で思った。

 

「そ、そっか、お金の話もだよね……」

 

「そそ、最初に話し忘れた以上、勘違いさせたかもしれないから、ここまでの捜査は……」

 

「えっと、これなら足りるかしら……」

 

「あ、ちゃんと用意してくれてたのね」

 

「と、当然じゃない、仕事をしてもらうならそれくらいは!」

 

「うん、そうだね……ヤバい……」

 

「どうしたの……」

 

「スれたことばっかり考えてた俺が最低に思てきた…こんなの例外なのに…」

 

「そ、そんなに酷いんだ……」

 

「知ってるかい、踏み倒そうとする方がスタンダードなのさ……」

 

 電脳探偵などと言うグレーな存在に依頼をしなければならない時点でおおよその懐事情は知れる。大体悪い、もしくはケチだ。使い捨てられる変えの利く、はいて捨てるような人間の塵なのだから、むしろそんな存在相手に多少なりとも金は払ってやるのだからありがたく思え、それが依頼者が大体の共通認識として持っているもの。上位者に対し、尻尾を振れという態度、それでも貴重な食い扶持であるからこそ受けるしかないというのもうなずけた。アリサはそういった事情を全く知らずに今まで生きてきたのだとわかった。本当にすれていない。よほど育ちがいいのだとわかる。本来ならばこちらのミスをつついて、根切、最悪無料での仕事を行わされるのが目に見えていた。

 

 礼を言って渡された一枚の紙片を受け取る。現代の主流派電子マネーだ、紙で渡されても現実は、先にシリアルコードに紐づけてバンク上の預金から送金する分を登録、受け取った相手はそれを読み取ってデータバンクから照会して電子情報として受け取る。かつてのプリペイドカードや小切手に近い。

 

 ほかにもチップなどの物理媒体でのやり取りもあるが、チップを使うのは高い。金銭のやり取りには不都合なことも多い。チップ型はもっぱら後ろ暗い存在が使用される。

 

 凶一はセンサーを起動、コードを読み取り額を確認、桁は一、十、百、千、万、十万……百万新圓(ニューイエン)。

 

「ふぁっ!?」

 

「その…少なかったかしら……?」

 

 それは違うと声を上げた。

 

「あのね、そちらが誠実にしてくれるから、こちらも誠実に言うけど、本来は値段は相談なんだよね、まぁ、何日雇うのか、とかね?」

 

「え、ええ」

 

「これは、その、高い、うん、いや、高くないけど、まだ何日雇うのかとかそう言うのも決めずにこの額は……ほかの人だと容赦なくカモにしてくるから、気を付けてね?」

 

「わ、わかったわ…」

 

「とりあえずこれは受け取れないから…用意したのってキミのお父さん?」

 

「ええ…そうよ」

 

「…………いや、いいや、とにかくこれはいったん返すよ、どれだけの日数雇うとか、決めようぜ」

 

「わかったわ……」

 

 凶一は送金分を返却し、息を整えた。今日はどことなく自分の歯車がずれている気がする。いつもならしないようなミスをした。今行った成功報酬についても、即座に飛びついてしまった。美少女の魔力なのかもしれない。

 

 それにしても、と頭をひねる。それなりの資産を用意できるようだが、どこか相手も抜けていると思った。百万を即座に出せる程度には資産がある、これは底辺が三年かけて稼ぐ量の金銭だ。そんな人間が娘にまかせるのだろうか、もともと放任主義のようらしいが、実際は溺愛されている、そんな状況なのかもしれない。そこまで考えてから思考を変える。アリサと雇用の話を詰めなければならない。

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