終業式の日の夜、私の元に一通のメールが届いた。
『今から少し会えないか?』
そんなメールが清隆くんから送られてきたのだ。それも夜にだ。緊急の用事、それが先生に呼び出されていたし何かあったのかの二択だろう。要件は分からないが彼から聞けばわかる事だ
『今からあなたの部屋に向かう』
8時をすぎてしまうと男子生徒は女子寮に行くのを禁止されてしまう。
パジャマから軽装に着替えて部屋を出た
特に誰にも会うことも無く彼の部屋にたどり着く。正直出会っても誤解される以外問題は無いとはいえ出会わないことに越したことはない。
「お邪魔するよ」
部屋の扉を開けると鍵はかかっていなかった。私が来ることを予期していたのだろう。
部屋に入ると彼は電気もつけずにベッドに腰をかけながら外を眺めていた。
「どうしたの?」
「いや、ただ少し顔を見たくてな。それだけだ」
そんなわけは無い。彼の浮かんでいる表情は落胆、諦め、そしてほんの少しの恐怖心だ。
彼がこんな感情を表に出るほど露わにしているのは、初めて見た。逆に考えれば彼の感情が動かされるほどのことなのだろう。
「そんなわけないでしょ。私にはわかってるんだから。そもそもそんなことだったら清隆くんはビデオ通話をかけてくるでしょ」
「お見通し…か。少し長くなるが何があったか聞いて貰えないか?」
「いいよ」
「今日、終業式が終わったあと茶柱先生に呼び出されて……」
彼は語り出した。放課後に何が起きたかを
終業式が終わったあと俺は茶柱先生に呼び出され、生徒指導室に連れていかれた。そこには中心に机が置かれていてその対面に椅子が置かれている。
「座れ」
彼女の言葉に従い席に座る。そして質問をなげかける。
「何の用ですか?正直呼ばれた理由が全くわからないんですけど」
「指導室と聞くとイメージが悪いがここは都合がいい。なぜなら、監視の目がない。個人のプライバシーに関する話をすることが多い故の配慮だ」
確かにその言葉の通り監視カメラは仕掛けられていなかった。しかし彼女は俺の質問に答えていない。
「それで話って何です? 今から夏休みの予定を立てるんで忙しいんですけど」
「お前には友達が……いや、1人だけいたな。西園寺凪沙が」
「話はそれだけですか?それなら早く戻りたいのですが」
初めての夏休みなのだ。凪沙やクラスメイト達とか共に出かける計画を立ててみたい。こんなことをしている場合ではないのだ。
「まあ、いい。これから話すのは私の身の上話だ。教師になって以来誰にも話したことがないものだ。興味ないだろうが、戯言だと思って聞け」
「お前たちDクラスの目には、担任である茶柱沙枝はどんな風に映る」
「美人だが、Dクラスの行く末などどうでもいいと感じている、生徒に興味のない冷たい担任に見えるでしょうね」
「ほう、お前の目には違って見えるのか」
彼女は興味深そうにこちらを見つめる。
「俺は他の生徒よりもあなたと一体一で話す機会が多くありました。どの会話もあなたは俺がどういう人間なのかを使える人間かどうかを見極めようとしていた。それを理解すればあなたを見る目も変わってくる。
あなたは自分たちでその状況を変えられるかどうかをずっと観察していたんです。Dクラスというゴミの山からお宝が出てくることを期待して」
Dクラスには不良品が集まっている。しかし不良品と言っても全てがダメな訳ではない。ひとつの長所に対して短所が多すぎるだけだ。
彼女と出会わなければきっと俺は彼女がしようとしていることを理解できなかっただろう。感情を知らなかった俺が、蔑んでいるのに期待しているなどと分かるはずがなかった。
「違いますか?」
「正解だよ」
彼女の雰囲気が変化する。
雰囲気から分かる彼女の抱えてる感情は怒り、悔恨だ。
知られたくないことを知られた、正確には踏み込まれたくない領域に足を踏み込まれたようなそんな雰囲気だ。
「少し昔話をしよう」
彼女が話し出したのは、彼女自身の過去話。
内容はかつて先生がこの学校のDクラスで、自分の失敗のせいでAクラスに上がれなかったという話だった。
何が言いたいかも分からないし正直時間の無駄だった。そう思い席をたとうとした瞬間、聞き逃せないことが耳に入ってきた。
「数日前、ある男が学校に接触してきた。綾小路清隆を退学にさせろ、とな」
その言葉を聞いた瞬間、心が冷えきっていく。
俺を退学させようとしている、ある男の心当たりは1人しか思い浮かばない。
「退学させろって……それが誰だか知りませんが、本人を無視して退学なんてさせられませんよ。ですよね?」
しかしいくらあの男とはいえこの学校は国が運営している。たった一人の人間、さらに部外者となれば意見を押し通すことは出来ないはずだ
「もちろんだ。この学校の生徒は全てルールによって守られている。しかし……問題行動を起こせば話は別だ。いじめ、盗み、カンニング……お前の意思は関係ない。私がそうだと判断すれば……全て現実になる」
「もしかして、オレを脅してるんですか」
このままこの脅しを無視すれば俺は間違いなくこの学校からいなくなることになる。そうしたらあの男によってまた白い箱の中に閉じ込められるだろう
それにそうなると俺は彼女と二度と会うことは無くなるだろう。それどころか中途半端に俺に感情を与えた彼女は狙われるかもしれない。あの男なら可能性はある。
俺は彼女にそばにいて欲しいと思っている。そして彼女にはまだまだ利用価値がある。
未だにホワイトルーム時代に培われた思考は完全には消えていない。この思考を消し去るためにも彼女は必要だ。
結局、そうなると俺が取れる選択肢はひとつしか存在しない。
「これは取引だ、綾小路。お前は私のためにAクラスを目指す。そして私はお前を守るために全面的にフォローする。それともこのまま夏休み明けを待たずに退学するか。お前はどっちを選ぶ?」
彼女は取引だと言っているが、こんなもの脅し以外の何物でもない。
そもそも取引とは対等な立場があってこそ行われるものだ。教師と生徒この差がある限り取引になり得ることは無い。
「いつか後悔しますよ。俺を利用したことを」
これが俺に起こった出来事、現在進行形で俺を悩ませている出来事だ。
彼の話を聞いて私は理解した。彼がずっと考え込んだ理由を。
彼は怖かったのだ。私と関わりほかの人たちと関わり、昔にはなかった感情が少しずつ芽生えてきてやっと人としてのスタートラインに立てるところまで来た。
もし彼がAクラスを目指し、勝利のために動くとしたら感情を殺し、少し前のような機械のような自分に戻り、その時々で最後の勝利への道を作り続ける。
もし彼が自身の父親の元へと戻ったとしたら彼は前のような機械に戻ることになる。
「あなたは今どう思っているの?」
「俺は……」
「俺は怖いんだ。やっと普通の人のようになれてきてるのに、人を人だと思っていなかった機械のような頃に戻るのが。何より俺を受け入れてくれて俺を理解してくれる凪沙と離れたくないんだ」
嬉しいことを言ってくれる。彼の中で私という人間はかなり大きいらしい。
「なあ凪沙、俺はどうすればいいのかな?」
「そんなの知らないよ」
この問いかけにだけは答えてあげられない。
この選択は今後の彼を大きく変ることになる。
「ここは分岐点だよ。これからのあなたの未来を決める大事な分岐点。これからどうするかは自分自身で決めなければいけない。そう出来なければ父親の言うことを聞いていたあの頃と何も変わらなくなる。違いはあなたが言うことを聞く相手が嫌いな父親か好感を持ってる私かの違いだけ」
「俺は……」
後ろからそっと彼を抱きしめる。彼は急に抱きしめられたことに驚いたのかこっちをみつめていたが、意図を理解したのか視線を前へと戻した。
彼の速かった鼓動が落ち着き始める。
「今すぐに答えを出さなければいけない訳では無いよ。ただ今回の選択はこれからのあなたの人生を左右するものになる。しっかり考えた上で結論を出しな」
それから数分間、考え込んだ彼は口を開いた。
「もし俺が一緒に退学して逃げようって行ったら。凪沙はどうする?」
これは予想外の質問だった。少し面食らったが私の答えは最初から決まっている。
「もし、そうなったら一緒に退学してあげるよ。ううん、退学しようがこの学校に残ろうが必要であれば私は力を貸すし、あなたが望むならなんだってする。私があなたを幸せにしてみせる。それだけは絶対だから」
振り返った彼と目が合う。
「ずっと気になっていたんだ。最初、凪沙は友達だから俺にここまでしてくれるんだと思ってた。」
「清隆くんと私は似てるから」
「似てる?俺と凪沙が?」
「そう。これから私を知っていけば、清隆くんもきっと分かるよ。私もあなたもお互いに矛盾してる存在だから」
彼は決意を固めた表情でこちらに振り向いた。
「決めたよ、俺はこの学校に残ることにする。正直Aクラスに上がることに興味は無いし、凪沙と一緒に逃げた方が幸せになれるかもしれない。でもそれじゃあダメだと思ったんだ。2人で逃げたらきっとこれ以上俺は変われなくなる。そんな気がするから。
だから俺はクラスメイト達ともっと交流を持っていつかあいつを否定するよ」
そうして彼はこちらに笑顔を向けてきた。きっと笑顔を浮かべるのは初めてなのだろう。とても不器用だがとてもいい笑顔だ。心から笑っているのがわかる。
あいつが両親かそれとも別の誰かなのかは分からない。だが、彼はこれから変わっていく。彼は自身が望んでいる目標に近づいていってる。そう考えると私も嬉しくて仕方がない。
「これからもよろしくな」
「こちらこそよろしくね」
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読み返してみて主人公のダンロン世界の転生者って設定使いこなせてる気がしないから主人公の前世回りを日記形式でやろうとおってるだけどいる?要らない?
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いる
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要らない