魔法少女マジティア!(25才)   作:哀しみを背負ったゴリラ

10 / 16
魔法少女マジティア第�9話!『マヤクトリシマルパレード』

 

 

 レストランを抜け出してから、3時間。

 タイダロスを連れたまま、疾風の如くランド内を駆け抜けたティアメープルは、現在、ランドの端に在る部外者立入禁止区域の中に居た。

 煌びやかで清潔な園内とはうって変わり、打ちっぱなしのコンクリで出来た高い壁で周囲を囲まれた、暗い空間。黴臭い空気と積み上げられた無数のゴミ袋は、ここがランド内のゴミ集積場である事を伝えて来る。

 

「メープル、いい加減にここから出ない? ここ、再会した時の君の部屋みたいなんだけど」

「……」

 

 外部から見えないように高く建てられた壁を一跳びで飛び越え、このゴミ捨て場に辿り着いたティアメープル。彼女は着いて直ぐにそのゴミ捨て場の端に座り込み、膝に顔を埋めたまま沈黙してしまった。タイダロスは、そんな彼女の様子に警戒しつつ何度か話しかけたが、今の所、返事の1つすら返って来る様子が無い。

 

「弱ったな……」

 

 この唐突な事態に、タイダロスは困惑していた。

 タイダロスからしてみれば、ティアメープルという女は正義の魔法少女・マジティアの一員であり、メリーバッド帝国の最高幹部である自分や、その配下の魔獣『バッドン』を相手に臆することなく戦った勇敢な戦士である。

 好悪は別にして、その強さを認めているからこそ、先ほどレストランで遭遇した女……派手な髪色をして露出の多い服を着ているだけの『ただの一般人』を相手に、怯えたような態度を取って逃げ出した理由が、本気で解らないのである。

 それでも、このままこのゴミ捨て場に居座られてはたまらないので、タイダロスは努めて優しげな声を作り、再度笑顔で語り掛ける。

 

「あのさ。僕には良く判らないけど、さっきの女の事が苦手っていうならもう帰ればいいんじゃないかな? 別に、無理して此処に居る必要なんて無いんだろ?」

 

 ティアメープルの前に立ち、10年前よりも髪質が低下したその頭を優しく撫でながら吐く甘い怠惰を勧める言葉。しかし、普段ならエネルギーを吸おうとしないで欲しい、等と怒る言動にも反応すら見せない。

 

「それが嫌なら、さっきの女を再起不能まで痛めつけるってのはどうだい? ほら、敵を殴っても────変身した姿ならバレないだろう?」

 

 それならばと、立ち上がり肩を竦め、過去の知識から黒いジョーク吐くタイダロス。

 マジティアが変身すると、不思議な力が働き、その見た目から正体がバレる事はない。タイダロスはその力を利用して、外敵を退ける……『悪い事』をすれば良いではないかと唆す。怒りにせよ何にせよ、反応が見られればと思っての言葉であったが────

 

「っ!?」

 

 突然顔を上げたティアメープルと目が合った。

 其処にあったのは、常の能天気な表情ではなく────無表情。

 光の消えた瞳で、何かを問うようにタイダロスを見つめる人形の様な顔。

 

「……タイダロス。貴方は、私がそれをすると思いますの? 気に入らない人間をマジティアの力で叩き潰す事が正しい事だと、本気でそう思いますの?」

 

 機械音声のように平坦な声で、ティアメープルは問いかける。

 その言葉を受けたタイダロスは無意識に1歩後退してしまい……一瞬してからその事に気付くと、プライドを傷付けられた気がしてひどい羞恥と怒りを覚えた。だからこそ、その苛立ちをぶつけるように言葉を返す。

 

「フン……やっと顔を上げたねティアメープル。それで、マジティアの力で敵を叩き潰すのが正しいと思うかだって? ハハッ、随分面白い事を言うじゃないか」

 

 ティアメープルの瞳から目を逸らさず、大仰に両手を広げて嘲るような表情を浮かべ、壁の向こう……傾いてきた陽光の反対側から訪れる、夕闇を背にして告げる。

 

「そんなもの────『間違っているにきまってる』だろ?」

 

 遠くから、ジェットコースターに乗った観客達の絶叫が響く。

 

「いいかい、メープル。ティアメープル。僕は【メリーバッド帝国】最高幹部の1人、『怠惰』のタイダロス。君達、光の魔法少女『マジティア』の宿敵だ」

「僕にとって正義なんてモノは、欲望の育成を阻む邪魔な物でしかないっていうのに……その僕がまさか、君達マジティアを清く正しく導くとでも思っているのかい?」

 

 ティアメープルの眼前でしゃがみ込んだタイダロスは、ティアメープルの顎を右手で無理やりに持ち上げると、息が掛かるような至近距離で告げる。

 

「人間から愛だの正義だのを奪うのは僕の仕事だ。そして、君の役目はそれに必死に抗い敗北する事だ。10年前も今も、そういう関係だろう僕達は」

「……ッ」

 

 タイダロスの言葉と視線に、ティアメープルは息を呑む。

 徐々にその目に光が戻り、至近距離にタイダロスの整った顔が有る事を今更認識して、頬を薄く染め────

 

「…………ええ。ええ! そうですわ! そうですとも! 今の私の為すべき事は、悪の道を進もうとする貴方に『普通の幸せ』を教える事! それだけですわ!」

 

 勢いよく立ち上がるティアメープル。

 彼女は、10年前とは変わってしまった身長差でタイダロスを見下ろしながら、その顔に人差し指を向ける。

 

「私は、貴方の甘言で堕落などしませんわよタイダロス! ありとあらゆる手段を用いて、絶対に貴方に『普通の幸せ』を与えてみせますわ!!」

「フン。せいぜい頑張る事だね。だけど、どう頑張っても君の願いは叶わないよ。だから、諦めてさっさと怠惰の欲に溺れる事をお勧めするよ」

 

 ゴミ捨て場の中、夕日が刺す中での宣言。

 そのまま2人は互いに睨み合い……

 

「……ククッ」

「……ふふっ」

 

 やがて、互いの口から呆れたような笑いが漏れた。

 タイダロスは肩を竦め、ティアメープルに背を向けてから口を開く。

 

「ハァ……まあ、1ヶ月の契約もあるからね。決着は、今はいいや」

「ええ、そうですわね。元々、ねっとり時間を掛けて貴方に幸せを染み込ませる予定ですし」

「いや、染み込ませるって何さ……」

 

 軽口を叩きながら、タイダロスは壁を飛び越えようとして

 

「ぷぺっ」

 

 跳躍距離が足りずに、壁に頭をぶつけてしまった。

 

「!? 大丈夫ですのタイダロス! どうしましたのいきなり壁に頭をぶつけて! 怪我はありませんの!? ああ、ぶつけた所が赤くなって! 大変ですわ! 手当を!」

「ちょっ! 怪我はないからぶつけた所を舐めようとしないでくれるかな!!? 力が使えないのを忘れて失敗しただけだよ! 言わせないでよ恥ずかしいからっ!!」

 

 身体強化を出来ない事を忘れて壁に頭をぶつけたタイダロスを大げさに心配し、どさくさに紛れて額を舐める事案を起こそうとするティアメープル。

 その頭を両手押しのけて叫んだタイダロスは、服の埃を払ってからティアメープルに両手を差し出す。

 

「あー、もう。相変わらずだな君は……ほら」

「……?」

「君がここまで連れて来たんだろ。その責任を取って、僕を運び出しなよ」

「! フフッ。仕方ありませんわね。丁寧にしっとりと運び出して差し上げますわ」

 

 屈辱に耐えるように視線を逸らしているタイダロスを、ティアメープルは胸を押し付けるようにして背中から抱きかかえる。そしてそのまま、マジティアの超常的なパワーをもって3mはあろうかという刑務所のような壁を、一息に跳びえてみせた。

 2人が宙を跳んでいる中、ゴクドゥーランドの空に大きな花火が上がる。

 

「花火?────ああっ! パレードが始まってしまいましたわ!!」

「パレードって何さ……というかもう帰らない? 今日、見たいテレビ番組があるんだけど」

「ダメですわ! パレード……マヤクトリシマルパレードは、ゴクドゥーランド最大のイベント! マヤクコット達と、彼等を取り締まるマッポット達がドンパチと花火をぶちあげる血沸き肉躍るパレード! 見なければ人生損しているとまで言われる最高のパレードを、タイダロスに見せない訳にはいきませんわ!!」

「嫌な感じのワードがすごい大量に出て来る……なんでこんな遊園地が人気なんだよ」

「さあ! 全速全開で急ぎますわよタイダロス!」

「え? 全速ってちょ、待っ────―」

 

 今日乗ったどのアトラクションよりもスリルある速度と軌道を描きながら、ティアメープルに抱きしめられたタイダロスは、色とりどりの花火が彩るゴクドゥーランドの空を往く。

 

 

 

 タイダロスは気付かない。

 自身が、レストランで出会った女について……ティアメープルの過去について何も聞こうとしなかった理由を。

 

 タイダロスは知らない。

 

「……すわ。タイダロスは此処に居ますわ。死んでなんかいませんわ。居ますわ。ここに居ますの。離しませんわ。絶対に。絶対に。絶対に。絶対に。何があろうと。何をしてでも。貴方を離しませんわ。私が、貴方を幸せにしますわ────」

 

 風の音にかき消される程の小さな声で、タイダロスを抱きかかえて跳ぶティアメープルが、そう呟いている事を。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。