魔法少女マジティア!(25才)   作:哀しみを背負ったゴリラ

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魔法少女マジティア第�10話!『ツインドリル』

 

 

 

『ご覧ください! これが今SNSで噂になっている、遊園地の空を飛ぶ怪人を撮影した動画です!』

『うーん。はっきりと写ってはいませんが、確かに人の様に見えますねぇ。心霊専門家の佐藤さんはどう見ますか?』

『これは間違いなく霊の仕業ですな! ゴクドゥーランドのヤクザ達の魂が────』

 

 ブツリという音と共に、バラエティ番組を映していたテレビの電源が落とされ、画面が黒く切り替わった。その暗転した画面に映るのは、1人の女性の姿。

 

「ああっ!? 何故テレビを消してしまいましたのタイダロス! 今、とても面白い所でしたのに!」

 

 寝癖が付いた金髪とよれよれのジャージ。だらりと布団に寝そべった姿勢。枕元に置かれた缶ビールの空き缶と、食べかけの野草のお浸し。

 磨けば光るであろう素材を全力で腐らせつつ、布団から上半身だけを起き上がらせて、テレビを消した人物に抗議の声を挙げているこの女性は、名をティアメープル。

 今から10年前に、悪の帝国メリーバッド帝国と戦った光の魔法少女『マジティア』の1人である。

 

「寝過ぎは体に毒だよメープル。何度も言うけど、怠惰な生活は体が資本。体調を崩したりなんかしたら気分よく堕落出来ないじゃないか。ほら、昼ご飯の用意したから起きて起きて」

 

 そのティアメープルの抗議の声を適当に受け流しているのは、片手にテレビのリモコンを持った金髪の少年。

 ティアメープルと対照的にきっちりと服を着込み、手入れされた金髪は艶やかで、天使の輪が浮かんでいる様にすら見える。ドクロ模様のエプロンだけはセンスが良いとは言えないが……総合的には美少年と評して障り無いであろうこの少年は、名をタイダロス。

 10年前、世界から愛を消し去る事を目的としてマジティアと敵対し、敗北したメリーバッド帝国。その最高幹部が1人である。

 

 

 タイダロスとティアメープル。敵対関係であったこの2人が、数奇な運命を辿り再会してから今日で10日。そして、遊園地『ゴクドゥーランド』に訪れた日からは1週間が経過していた。

 遊行の中でお互いの立ち位置を再確認し、理解と謎を得た彼らであるが、実はこの1週間でその関係に進展が────特に何も無かった

 

「むむむ……ビールと草のお浸しを頂いたので、そんなにお腹が減っていませんわ。だから、今日はランチは遠慮しておこうと思いますの」

「ダメだよ。バランスの良い食事も睡眠と同じで健康の基本なんだから。君の怠惰の欲望の質が落ちたら、いざ僕が君の欲望のエネルギーを吸収出来るようになった時に、美味しくいただけないじゃないか」

「ダイダロスが欲望を食べられないのなら、それも良いかもしれませんわね……」

「あと、雑な食生活は太るし肌が荒れるよ」

「さあ! お食事の時間ですわよタイダロス! 今日のランチメニューは何ですの!? 楽しみですわぁ!!」

 

 ご覧の通り、一週間の間で 特に 何も なかった 。

 

 敵対しているとはいえ、25才という花開いた年頃の乙女と見目麗しい少年が同居しているというのに、それはもうびっくりする程何もなかった。

 一応、タイダロスの洗面所での着替えシーンに偶然ティアメープルが乱入したり、寝ぼけたタイダロスがティアメープルの布団に入り込んでしまったり程度の事はあったが、それ以外に誓って事案は無かった。

 今の様に、ふんわりとしたやる気のない日常が延々と繰り返される、ただそれだけの日常しか無かったのである。

 

「今日のお昼ご飯はクラブハウスサンドとシーザーサラダだよ──あ。そういえば、そろそろ食材が無くなるから買い出しに行かないと。明日の朝食は何を作ろうかな……メープルは何か食べたいものとかあるかい?」

 

 強い恐怖や極端な歓喜の無い、代わり映えのしない平穏な1日。

 ずっとそんな毎日が繰り返されていたからこそ……だからこそ、タイダロスは明日も同じような1日になるだろうと思っており

 

「あら、タイダロス。明日は朝から私と一緒にお出かけですから、朝食の準備は必要ありませんわよ?」

 

 そうであったが故に、その予測を裏切るように放たれたティアメープルの言葉に、取り繕う事も出来ず渋面を浮かべる事となったのだろう。

 

「……ちなみに、その外出について僕に拒否権はあるのかな?」

 

 脳内でゴクドゥーランドで出会ったマヤクコット達が、アフロや角刈りを艶めかせながらサムズアップする悪夢を幻視しつつ、それでも一縷の望みに掛けてティアメープルに確認を取るタイダロス。

 ティアメープルはそんなタイダロスの言葉に心底不思議そうな表情を浮かべつつも、右手でサムズアップをしながら返事を返す。

 

「タイダロスは行くって言っていますわ」

「架空の僕が返事をしてる!!?」

 

 かくして、またしても唐突に、タイダロスとティアメープルのお出かけが決まったのである。

 

 

 

 ────翌日。

 

 

 

「オーッホッホ!!!! いよいよこの時が来ましたわぁ!!」

 

 不可思議な形状の謎の機械を前にして、女が片手を腰に当て、豊かな胸を逸らしながら高笑いを上げている。

 白い○と▽の記号で笑顔が描かれた黒地の仮面を被り、纏う衣装は胸と腰と脚のみを防護する刺々しいワインレッドの鎧……所謂ビキニアーマー。古き時代の少女漫画の悪役令嬢じみたツインドリルの髪型をしたその女は、装置に備え付けられた赤いボタンを手で優しく摩りつつ、どこかワザとらしい態度で独り言を紡ぐ。

 

「ウフフフッ! 数ヶ月の間この国の小中学生に配布し続けたスマホ型血液吸収装置。それを通して、子供達の新鮮な血液と旧き戦士達の汚染された血液を入れ替えれば……我が故郷ワード星は再び宇宙の支配者として君臨出来るのですわ! もう最っ高ですわ!」

 

 見れば、女の眼前に置かれた機械に備え付けられたモニターには『 きゅうけつそうち を うごかしますか? 』と平仮名の赤い文字が表示されている。それを確認して満足そうに頷いた女は、装置のスイッチであるボタンを押すべく腕を勢いよく振り上げ

 

「さあ! 栄光よ再び! スイッチオンですわ────―きゃあっ!?」

 

 しかしその直後、振り上げた女の腕から火花が散った。

 突然の出来事への驚愕から思わず尻餅を付いてしまった女に向けて、空から声が響く。

 

「そこまでだ! 君の悪事は全てお見通しだぞ! ワード星軍幹部ワルイーノ令嬢!!」

「な、何者ですのっ!!?」

 

 混乱しながらも女が尋ねると、それに答えるように、突如として地面から白い水蒸気のようなものが勢いよく吹き出した。そして、その白い霧を切り裂くようにして颯爽と現れたのは────少年。鎧の様な造形の白いアーマーを身に纏った、1人の少年であった。

 真紅のマフラーを風に靡かせ、顔の上半分が隠れる大きさの黒いバイザーを掛けたその少年は、跳躍し謎の機械の上にヒラリと降り立つと、指先を天に向ける。

 

「繋がる心が僕を呼ぶ! 正義の心が僕を呼ぶ! 祈りと誓いを胸に────仮面英雄ロストレス! 参上!!」

 

 まるで、少年の参上を強調するかの様に、宣言が終わると同時に鳴り響く雷鳴のような音楽。

 

 そして──それを待ち侘びていたかの様に、周囲から突然、複数の大きな歓声があがった。

 

 響いてくる歓声の内訳は、子供の高い声と女性の声、男性の野太い声の順で多くなっている。彼等は、女と少年が対峙する場所である『デパート屋上に建っている野外ステージ用の舞台』を、観客席に座ったまま、瞳を綺羅星の様に輝かせて食い入るように見つめている。

 

「がんばれー! ろすとれすがんばれー! まけるなー! かっこいいー!」

「キャー! レス様よ! 本物みたい! かわいー! 頑張ってー!!」

「うおおおお! ワルイーノさん! ワルイーノさーん! 視線こっちにくださーい!」

 

 洪水の様に浴びせられる歓声を全身で受けながら、ステージ……『デパート屋上のヒーローショー』の舞台に立っているワルイーノ(ティアメープル)ロストレス(タイダロス)は、仮面とバイザーの下で表情を歪めながら、同じタイミングで思う。

 

 

((どうして……どうしてこんな事になったんだ(ですの)!?))

 

 

 

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