魔法少女マジティア!(25才)   作:哀しみを背負ったゴリラ

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魔法少女マジティア第�14話!『ワード星』

 

 

 意識してキュッと臀部を引き締める。

 すると、大臀筋は脳からの命令に従い、ピッチリと肌に張り付いたスキニーパンツに2つの大きなえくぼを作った。

 次は胸元に力を入れる。

 たわわに実った胸もまた、大胸筋の動きに従って左右交互に揺れ動いた。

 

 鏡に映るのは、鍛えられ引き締まった肉体。

 太過ぎず細すぎず。実用性に特化した、一流のアスリートの様な黄金の筋肉。

 大切に育ててきた自身の肉体を鏡越しに舐めるようにじっくりと眺め見てから、緩くウエーブする金髪を手で掻き揚げる。

 肩までの長さの艶やかな黒髪は、その動きに合わせて風に流れ、ライムミントの香りを周囲に漂わせた。

 

「……はぁ。全然ダメね」

 

 溜息一つ。喉仏の奥から響くのは、低く落ち着いた声。

 色気に溢れるその声は、しかし今はどこか落ち込んだような空気を孕んでいると、そう自分自身でも感じられる。

 チャームポイントであるお尻のように綺麗に割れた顎を人差し指で撫でると、ジョリリという嫌な感触が指先に残る。

 

「お髭の手入れも忘れるなんて……いよいよ、あたしも潮時ね」

 

 17歳の春。舞台俳優に憧れて田舎を飛び出した。

 桜が青空に吸い込まれていく暖かな日だった。

 東京行きの切符を握り締めて、電車の中で揺られていたあの時のあたしには、目に映る全てのものが新鮮に、輝いて見えていた。

 混沌とした都会の光は、あたしの個性なんて簡単に塗りつぶしてくれるに違いないと。

 あたしの────春風次郎の未来も、その光に照らされて明るくなるのだと。そう思っていた。

 

 それから10年。

 日が過ぎる毎に、年を経る毎に、あたしが抱いていた自信は、若さ故の根拠のない幻だったと気付かされていった。

 電車の窓から見えた光は、人工のまがい物だった。

 

 バイトで生活費を稼ぐ傍ら演劇学校に通い、演劇の資料を読み漁った。

 ビッグになりたいという野望を燃やして、ひたすらに演技を学び続けた。

 だけど……どれだけ演技を磨いても、コネや才能の前にはあっけなく叩きのめされた。

 それでも歯を食いしばり努力を続けると、今度は持って生まれたモノが立ちふさがった。

 男らしい男。女らしい女。

 あたしは、そいうったものを否定するつもりはない。そのどちらも個性の1つであり、あたしの大好物でもあるからだ。

 ただ……あたしはそれらを持っていなかった。

 コネも才能も、『当たり前』もない。

 そんな現実に叩きのめされたあたしの心からは、いつの間にか演劇への情熱が消えてしまっていた。

 そして、何もない人間が情熱さえ無くしてしまえば……もはや、その場に踏みとどまる事すら出来ないのは当たり前だろう。

 

 地方のデパート。その屋上で細々と公演している子供向けヒーローショーの悪の女幹部役。

 楽屋すらなく、着替えはトイレの中。そんな扱い。

 夢破れたあたしの、役者としての最期の舞台としてはお似合いなのかもしれない。

 

「ふっ……未練ね」

 

 せめて、最期くらいは恥ずかしくない舞台を。

 そう思い、眼前の男子トイレの鏡を前にして、本番前のリハーサル代わりに舞台での台詞を紡ぐ。

 

「────オーッホッホ! 愚かですわねぇ! 自分が誘い込まれたという事にも気づかずに! 正義の味方など気取るからこのような目に逢うのですわ!」

 

 あたしは悪の組織の女幹部ワルイーノ。

 テレビで大人気のヒーロー。仮面英雄ロストレスを罠に誘い込んだ、智謀の令嬢。

 

「正義の味方を騙して、そのエネルギーを利用して、ワード星軍は復活する! 最高の皮肉ですわぁ!!」

 

 高慢で自信家。善意など欠片も無い冷血な女。

 そんな女を演じる……けれど、あたしの心はどうしても役に入り切る事が出来ない。

 手癖で演技をする事は出来るけれど、昔のように演技に情熱を燃やせない。

 心に巣食った諦めの感情が、心の炎を消してしまう。それでも、役者を志した者として無様は晒せないという義務感から台詞を紡ぐ。

 

「力を搾り取ったら……ふふ、そうね! 綺麗な金髪を切り刻んで這い蹲らせてやろうかしら! その様子を全人類に対して見せつけて戦犯として晒し上げてあげますわ!」

 

 中盤の山場の台詞。

 本番では此処で、ワルイーノの策略を知恵と勇気で撃ち破る、仮面英雄ロストレスの台詞が入る。

 

 

「────残念だね。君のその夢は決して叶わないよ」

 

 

 そう、こんな風に

 ……!? 

 突然聞こえた声に驚いて視線を向けると、トイレの入口に1人の少年が立っていた。

 

 正直に言えば……天使が舞い降りたのかと思った。

 絹糸のような金髪と、ガーネットよりも深い赤色の瞳。

 少年特有の未成熟な細い四肢であるものの、その長さと太さは黄金比を示しており、初雪のように白い肌も相まって1つの芸術作品にすら思える。

 アドニス……いや、シザーリオ……これまで目を通した劇作品の登場人物の名が頭を過ぎるが、そのどれとも異なる魔性の美。

 そう、まるでそれは『人間でない』かのように美しい少年だった。

 あたしの守備範囲(筋肉モリモリマッチョマン)からは大きく外れているものの、それでも目を逸らすことが出来ない程に美しい少年。

 けれど、何故そんな少年が男子トイレに居り、そしてあたしに話しかけてきたのか……その疑問は、少年の服装を見た事で氷解する。

 

 黒い半袖のパーカーシャツと紺のデニム。

 

 それは、仮面英雄ロストレスの人間体である十文字ハヤテ────彼の作中の普段着と全く同じものであったからだ。

 つまり、この少年はコスプレをする程の作品のファンボーイで、あたしをコスプレ仲間と思って語り掛けてきたのだろう。

 

「懐かしいわね……」

 

 あたしの最初の演劇も、アニメの物真似だった。

 少女向けのアニメの動きを真似して、其処等にある物で衣装を作って劇中の人物に成りきったものだ。

 思わず微笑を浮かべたあたしに対して、少年は怪訝な顔を向ける。

 

「随分と余裕じゃないか。ひょっとして、僕に勝てるとでも思ってるのかい? ワードセイの敗残兵に過ぎない君達が」

「あらあら。そんな有様で随分と強がりますこと。ホホホ」

 

 ……開演までまだ時間はある。

 これも何かの縁なのだろう。演劇の先達として……ほんの戯れだけど、少し胸を貸してあげる事にしよう。

 

 

 

 

 

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