魔法少女マジティア!(25才)   作:哀しみを背負ったゴリラ

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本日2話投稿です。


魔法少女マジティア第�15話!『半土精霊(ワードセイ)』

────面倒な事になった。

 

 タイダロスは内心でそうごちる。

 会計を終えた後、ティアメープルへの機嫌取りに飲み物でも買って行ってあげようと、トイレ近くの自販機まで歩いて行ったタイダロス。

 その彼の耳に届いた言葉。

 

『────オーッホッホ! 愚かですわねぇ! 自分が誘い込まれたという事にも気づかずに! 正義の味方など気取るからこのような目に逢うのですわ!』

『正義の味方を騙して、そのエネルギーを利用して、ワードセイ軍は復活する! 最高の皮肉ですわぁ!!』

 

 始めは聞き間違えだと思った。メリーバッド帝国が滅ぼされ、マジティアが勝ったこの世界に【連中】が居る訳がないと。

 きっと何かの聞き間違えだろうと、タイダロスはそう自分に言い聞かせた。

 だが、その願いも空しく、次の言葉で彼の疑念は確信へと姿を変えた。

 

『力を搾り取ったら……ふふ、そうね! 綺麗な金髪を切り刻んで這い蹲らせてやろうかしら! その様子を全人類に対して見せつけて戦犯として晒し上げてあげますわ!』

「……【連中】ティアメープルの存在に気付いてるのか。あの大喰らい共なら、マジティアの力を喰らえば本当に復活しかねないな」

 

 思い返すのは、遠い戦いの記憶。

 タイダロスがメリーバッド帝国の最高幹部として最初に経験した戦争。

 多世界侵蝕国家であるメリーバッド帝国が唯一、相手からの侵攻を受けた戦いの事。

 

 ────半土精霊(ワードセイ)。

 

 それは、星そのものに根を張り、大地の栄養を喰らい尽くすと繁殖して次の星へ渡る、星の寄生虫のような種族。

 自身が生まれた宇宙の星を全て枯らしたが為に、他の世界にまで侵攻を開始したという恐るべき暴食の化身である。

 メリーバッド帝国の支配域まで食指を伸ばした彼等の暴威は凄まじかった。

 星すら喰らう生物としての強靭な身体能力に加え、魔人が持つ闇のエネルギーすら喰らうように短期間で進化した適応能力、圧倒的な繁殖能力が齎す物量。

 恐らくは、マジティアに力を与えた妖精世界グッドラス王国でさえも、当時のワードセイの侵攻を受ければ敗北は免れなかったであろう。

 タイダロス等を含めた全ての最高幹部と、エゴーレ大帝。その全員が力を振るい、彼等の食欲を奪い去る事で、ようやく種族全てを『餓死』させた。

 ……そんな激戦を繰り広げた生命体の残党が、今この世界に訪れている。

 更には、宿敵であるマジティアの力を奪い、完全復活を遂げようとしている。

 

「────残念だね。君のその夢は決して叶わないよ」

 

 ならば、タイダロスに取れる手段は1つしかない。それは、連中が復活する前に叩き潰す事だ。

 もしもワードセイに完全復活されてしまえば、仮にタイダロスが闇の力を取り戻したとして、それでも戦力的に心もとない。

 それに、ティアメープルはタイダロスと契約しているのだ。その契約に対して、後からしゃしゃり出て来た敗残兵共が横槍を入れる等────腹が立つではないか。

 

 男子トイレに足を踏み入れたタイダロスは、努めて余裕の態度を作りながらも其処に居た怪人物に声を掛ける。

 筋肉質な逞しい肉体に、パツパツの張りつめた真紅のビキニアーマー。

 気配は上手く擬態しているようだが、地球の常識に当てはめれば、その異様な格好はやはり人間ではない……タイダロスはそう再認識した。

 

「懐かしいわね……」

 

 そして、互いの存在を認識したのは相手も同じ様だ。

 恐らく、過去の大戦の事を記憶している個体なのだろうと、そう判断したタイダロスは警戒心を高める。

 

「随分と余裕じゃないか。ひょっとして、僕に勝てるとでも思ってるのかい? ワードセイの敗残兵に過ぎない君達が」

「あらあら。そんな有様で随分と強がりますこと。ホホホ」

 

 更に相手は、今のタイダロスが闇のエネルギーを使えなくなっている事も見抜いていた……かつての戦争でタイダロスが遭遇したワードセイ。その中でも高い知性を持つ個体は、須らく上位の統括個体であり、その全てが相応の強さを有していた。

 眼前の個体もその1つなのだろうと推測し、内心で舌打ちをする。

 

「強がりじゃないさ。だって、君も万全じゃないんだろ? 罠を張る、騙し討ちをするって事は、相手を正面から撃ち破る自身が無い事の証明だ……少なくとも嘗て戦った時の、全盛期の君達はそんな選択はしなかった」

「あら……そういう設定なのね。まあ、仮にそうだとしても、あたし達の勝利は揺るぎませんわ。最大の不確定要素である貴方は、もう此処から動く事は出来ないのですから。つまり貴方の……いいえ、全人類の敗北は確定ですわ! オーッホッホ!!」

 

 掌で口元を隠し、高笑いをしながらそう告げるワードセイ。その姿からは、虚飾の色は見えない。

 真実そう思っているか、そうでなければ、感情を隠す為の専門の訓練をされているか。

 少なくともこの状況で感情を偽る意味はない事から、間違いなく前者であろうとタイダロスは判断する。

 

 ────ならば、付け入る隙はある。

 

「……そうはさせないって言ってるだろ。僕がさせない。どんな手段を使っても、何を犠牲にしても、君の野望は阻止させて貰う」

「必死ですわねぇ……貴方、そんなキャラじゃないでしょう?」

「君が想像する僕に興味なんてないよ。僕は、ずっと僕だ」

「……」

 

 タイダロスの言葉に、何故かワードセイは表情を歪める。

 そして、トイレの壁に拳を打ち付けて、語気を荒く言葉を返す。

 

「無駄ですわ。おやめなさい。幾ら必死になろうとも覆せないモノが、世の中にはありますの。見苦しいものを見せないで頂戴」

「それは最後まで意思を貫き通した、意志ある者が決める事だ。君達みたいな半端者がしたり顔で口にするべき言葉じゃないね」

「っ……!! あたしは親切で言ってあげているのよ!?」

「それはそれは、余計なお世話をどうもありがとう。実に『怠惰』なんだね君は」

 

 眼前のワードセイの顔が怒りで赤く染まる。

 どこに逆鱗があったのかは判らないが────タイダロスの煽りは、予定通りワードセイを激昂させたらしい。

 力を失っている相手への見下す感情。その相手に虚仮にされた事への怒りの感情。無様に足掻く事への侮蔑。そして種族を滅ぼした者への憎しみ。

 それらの強い感情は、冷静な思考を麻痺させる。そこに必ず隙は生まれる……タイダロスはそう踏んでいた。

 

「その程度の意志しかない君に、僕の拳が止められるものかっ!!」

 

 一瞬、ワードセイからは見えない角度で邪悪な笑みを浮かべたタイダロスは、拳を構えるとワードセイに向けて殴りかかる。

 遅い拳だ。全盛期のタイダロスを知る者からすれば見る影もない、人間の子供の様な拳。

 攻撃というにはあまりに軽いその1撃は、屈強なる肉体を持つワードセイにとっては蚊が止まるようなもので、軽く前に出した掌で容易く受け止められてしまう。

 

「ふんっ! そんなか弱い拳で────あへぇ」

 

 そして、そうやって受け止められる事こそがタイダロスの狙いであった。

 接触した皮膚を通じて、ワードセイの体から『怠惰』の感情エネルギーが、タイダロスに奪い取られる。

 感情のエネルギーは心の原動力の一部。それを一瞬にして吸い取られれば、当然のことながら肉体は力を失う事になる。

 結果、ワードセイは汚い笑顔を浮かべ、涎を垂らしながらトイレの床に沈む事になった。

 

「────悪いね。振るう力は失ってるけど、奪う力は健在なんだ。君の『怠惰』、中々に美味だったよ。ご馳走様」

 

 かくしてタイダロスは、急な邂逅を果たしたかつての仇敵の撃退に成功した。

 そして、眼前の個体以外のワードセイの動向を探るため、ムキムキの肉体が纏う衣装に手を這わせ、何かヒントになる品物がないか探り始め────

 

「ん? なんだコレ」

 

 そこで、懐の内ポケットにあったA4サイズの折りたたまれた用紙を見つける。

 紙を開き、中に書かれた文章を読んで────タイダロスは、硬直した。

 みるみる冷や汗が流れ出し、視線が揺れ動く。そこに書かれていた内容は

 

 

                【 労働契約書 】

 

 使用者㈱シノビックは、被用者 春風次郎とは本日次の通りアルバイト労働契約を締結する。

 1.㈱シノビックは、シノビックデパートのヒーローショーにて『ワード星幹部 ワルイーノ』役として、春風次郎を雇用する事とする。

 2.──────────

 

 

 

「…………マズい。やらかした」

 

 眼前で汚い笑顔を浮かべながら倒れている、春風次郎。

 このデパートのヒーローショーに出演する役者であり、ただの地球人類である彼を、自分が勘違いで襲撃してしまった。

 その状況を察したタイダロスは、呆然と呟いた。

 

「と……とにかく証拠を隠滅しないと。命に別状がある訳じゃないし、適当な場所に放り出して急病扱いにして貰おう」

 

 何とかしてこの場を誤魔化そう。

 混乱しながらもそう判断したタイダロスは、汗をかきながら必死に春風次郎の手を引き、男子トイレの入口から引っ張り出し────

 

「え」

「あ」

 

 そこで、隣の女子トイレから出てきた人物と目があった。

 その人物は、ティアメープルだった。

 そして彼女の腕の先には────ヒーローらしきスーツを着込んだ人物が、引きずられていた。

 

 

 

 

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