魔法少女マジティア!(25才)   作:哀しみを背負ったゴリラ

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魔法少女マジティア第�4話!『焼きネギ』

 

 

 ────タイダロスを幸せにしたい。

 ティアメープルのその発言を聞いて、タイダロスは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 一度天を仰いでから立ち上がると、まるでティアメープルから距離を取るかの様に、物品の山の中から半分程顔を出していた木製の椅子の所まで移動して座り直し、口を開く。

 

「ティアメープル……正直言って、かなりイカれてると思うよ。君」

「イカっ!? な、何がですの! 私、かなりステキな事を言いましたわよ!?」

 

 遠慮の欠片もなく辛辣な言葉を吐く者と、己の異常な発言を自覚していない者。

 果たしてどちらが真のヤバい奴なのか……恐らくは後者だが、それはさて置いて、タイダロスは溜息を吐いてから再度言葉を紡ぐ。

 

「あの頃から10年が経って君がどんな欲望を抱えたのか、少し興味があったんだけどね……方向性はともかく、よりにもよって他人の為に何かをしたいなんて。全く、相変わらず君は愛と正義の魔法少女のマジティアだよ。虫唾が走る」

 

 氷のようなタイダロスの言葉と瞳。それを真正面から受けて、ティアメープルは息を呑む。畳み掛けるようにタイダロスは続ける。

 

「利他の願望なんてものは、僕にとっては栄養の無いただの欲望『もどき』だ。そんな物の対象にされても何の得も無いし、つまらない。矯正を強制するっていうなら尚の事。ただただ不愉快だよ」

 

 そして、右手でティアメープルを指差し。

 

「そもそも────僕は別に君と仲良くない。仲良くすらないのに献身を向けられるのは、気味が悪い」

 

 情け容赦のない言葉の刃を浴びせられ、とうとうティアメープルは俯いてしまった。そのティアメープルの様子を見たタイダロスは、ようやく振り回され通しだった状態から脱し、主導権を握れそうだと若干溜飲を下げかけたが……

 

「……分かりましたわタイダロス。つまり『今はまだ仲良くなってる途中だよ、これから一緒に暮らしてじっくり仲を深めて行こう』と。そういう事ですのね?」

「いやいやいや!? 何さそのポジティブシンキングは!! 話聞いてた!? そこまでいくとなんかもう怖いよ!!」

 

 バッと上げたティアメープルの顔に浮かんでいたのは、向日葵のような笑顔。どうやらノーダメージ……どころか、若干血色が良くなってすらいる様だ。

 浴びせた悪意の刃に対しての返答にしては、あまりに予想外過ぎるティアメープルの反応に、タイダロスは思わず椅子からずり落ちてしまった。

 柳に風。暖簾に腕押し、糠に釘とはこの事か。

 

「さあさあ! 仲を深める為に、早速致しましょうか! ご飯かしら! お風呂かしら! そ、それとも……?」

「それともって何さ!? っ……ああ、もういいよ! そのふざけ切った態度……これ以上話しても時間の無駄みたいだね!」

 

 あまりにもあんまりなティアメープルの反応を受け、この問答を続ける事にそら恐ろしさすら感じてきたタイダロスは、椅子から立ち上がり周囲を眺め見て、床に転がる無数の物品を踏まないように注意しつつ歩き出す。

 

「あら? 何処に行きますのタイダロス、おトイレですの?」

「違う! 出て行くんだよ! 君と問答を続けても、これ以上収穫はなさそうだからね!!」

 

 怒りと呆れが入り混じった感情を見せ、そう吐き捨てるタイダロス。

 それに対しティアメープルは、手近な物品の山から『風雅』と筆文字で書かれた妙なセンスの扇を拾い上げ、広げたそれで口元を覆うという奇妙な行動……もとい余裕を持った反応を見せる。

 

「まあ。私のハウスから出ていく────そんな事が出来ると思いまして?」

「ああ、思うね。僕は『怠惰』のタイダロスだ。逆に、マジティア3人掛かりでようやく封印した僕を、君だけで止められると思うのかい?」

 

 物品の山の向こうに見つけた玄関のドア。そこへと向けて歩きながら言葉を返すその態度。纏う雰囲気は、10年前にマジティアと相対した時とまるで変わらず尊大であった。

 仮にタイダロスを知らない者がこの現場を目撃したとすれば、その雰囲気と態度に呑まれ、間違いなくタイダロスを強者であると認識する事だろう。

 間違っても、彼が『力を失っている』事に気付く事はできまい。

 実際、タイダロス自身も眼前のティアメープルにそう思わせるつもりで演技をしている。

 この場を乗り切り逃げ出す為に自分に残された武器は、厄介な強敵であると誤認させる事……つまりハッタリだけだと理解しているからだ。

 

「ティアメープル。ひょっとして君、不意打ちで僕を気絶させられたからって、僕を容易く倒せるとか勘違いしてるんじゃないかい?」

「……」

 

 タイダロスは努めて強者としての言葉を積み重ね、浴びせかける。

 

「だとしたら、それは随分と浅慮だね。僕を倒したいなら、せめて他の2人のマジティアも連れてきなよ。最も、この期に及んで姿を現さないって事は、メリーバッド帝国との戦いで死んだか────」

 

 重ね、重ねる。

 それが地雷原で踊るような行為であるという事も知らずに。

 

 

「────フフッ」

 

 

 ティアメープルが静かに笑った。

 それは今までの、どこか牧歌的な笑みや不審者的の様な笑みではない。

 昏く濁った……緑色の沼のような笑み。

 

「は? 君、何を笑って……なっ!?」

 

 銃弾よりは遅く。されど、瞬きするよりも早く。

 気が付けば、タイダロスの体は玄関のドアに押し付けられていた。

 右手はティアメープルの左手により指を絡める様に握り掴まれ、吐息が掛かる程の距離に見えるのはは、濁った美しい金色の瞳……ティアメープルの瞳。

 

「他の2人は来ませんわ。貴方を3650日間待っていたのは、私だけですもの」

「っ……おい! いきなり何をするんだ! 離せっ!」

 

 タイダロスは身体機能の全力を以って脱出しようとするが、其処に在るのは大人と子供の力の差。性差はあるとはいえ、圧倒的な体格差により抑え付けられてしまえば、今のタイダロスには打つ手はない。

 それでも何とか拘束から逃れようと体を捩るが、太腿を股の間に捻じ込まれ、完全に拘束されてしまう。

 

「あらあら、どうなさいましたのタイダロス? まさか、これが全力ですの? 私、変身もしていませんわよ?」

「……全力な訳ないだろ? 僕が本気を」

 

 

「どうやって? タイダロス────貴方、闇の力が使えないのでしょう?」

「!?」

 

 確信を持って放たれた言葉に、タイダロスが硬直する。

 その耳元で、ティアメープルは続ける。

 

「私、知っていますのよ? 悪魔の翼も、闇の力も、魔獣『バッドン』の召喚も。何一つ出来なくなっているのでしょう?」

「…………ティアメープル! まさか君か!? 君が僕に何かしたのか!!」

 

 己が秘匿していた事実は既に知られていた。あまつさえ、それを知った上で踊らされていた。

 その事は、タイダロスに焦りと怒りを生む。交渉をする事も無く馬鹿正直に尋ねるタイダロスだが、ティアメープルは慈しむような笑みでその問いに答えを返す。

 

「誓って私は何もしていませんわ。ただし……貴方の身に何が起きているのかは、知っていますけれど」

「なら、それを教えろよ! どうして────んぐっ!?」

 

 そこで突如として、タイダロスの口内に何かが捻じ込まれ、青臭い香りが鼻腔の奥にまで広がった。見れば、いつの間にかティアメープルが右手に持っていた金属の棒がタイダロスの口内へ向けて伸びている。思わず捻じ込まれた物を飲み込んでしまってから、咽て咳をするタイダロス。

 

「ゲホッ! ゴホッ!! ……ぐっ……今、僕に何を飲ませたんだ! 毒か!?」

「いいえ。ただの焼きネギですわ。貴方に食べて貰おうと昨晩作っておきましたの。美味しかったかしら?」

 

 ティアメープルの右手の金属の棒……その正体は、ネギの皮が1枚付いたフォークだった。

 

「は? ねぎ? ネギって……さっきから一体君は何なのさ! 僕をからかってるのか!? 焼き過ぎだし調味料のバランスも下手だし、ふざけるな!」

「怒りながら的確に食レポされるのって結構傷つきますわ……それはさておき、タイダロス。食べて少しは落ち着いたかしら?」

「……落ち着かないね。今も口内が焦げでザリザリしてるよ」

 

 嘘である。返事とは逆に、ティアメープルの奇行とめまぐるしく変わる状況に、一周してタイダロスには冷静さが戻ってきていた。口内に残るザリザリとしたネギの焦げを嚥下してから、タイダロスは視線でティアメープルに言葉の続きを促す。

 

「では、飲み込みながら聞いてくだされば構いませんわ。実は私、貴方に提案がありますの────タイダロス、貴方、私と『契約』をしません事?」

「……は? 契約?」

 

 突然の『契約』という申し出。その意味不明さに思わず聞き返すタイダロス。

 ティアメープルは、タイダロスを拘束していた腕と足を惜しむようにゆっくりと離すと、ニコニコと笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「そうですわ。私は貴方を幸せにしたい。貴方は、闇の力を失った理由と取り戻し方を知りたい……だから、1ヶ月」

 

「1ヶ月の間、私に貴方を幸せにする為の行動をさせてくださいまし。私は、あの手この手で貴方を幸せにしてみせますわ」

 

「そして、もし1ヶ月経っても貴方が幸せに出来なかったら────その時は、貴方の力について私が知っている事を全てお話ししますわ。つまりギブアンドテイクという事でございますわね?」

 

 奇妙な提案に、思わず押し黙ったタイダロス。

 一見すれば、1ヶ月間タイダロスが我慢をするだけで有用な情報が手に入るチャンスであり、逃す手は無い案件だ。

 だが、今までのコミュニケーションをへて警戒心を強めたタイダロスは尋ねる

 

「へぇ……ちなみにそれ、もしも僕が断ったら、君はどうするつもりだい?」

「その時は……そうですわね。断れない体にしてからもう一回お願いする事に致しますわ」

 

 だが、警戒心を高めても無意味だった。

 始めから、選択肢は『はい』と『Yes』のみ。

 実質、1択であった。

 

 

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