執務室に入ると、皇帝が椅子から立ち上がる。
相変わらず不気味だ。暗黒面のフォースで醜くなった顔が、さらに酷くなっている。暗黒面の力が増している証拠だ。
私は近くには寄らず、ドアの前から動かずに何の用か聞いた。
しかし皇帝はデスクの前に立ち、私を見据える。
「そんなに警戒せずとも良い。」
「私は商売相手としてここにいるだけで、シスに加わったわけじゃない。」
「それはさぞかし楽しかろう。さて、本題に入ろう。ボサンのスパイが入り込んでおる。其方が手引きしたわけではあるまいな?」
やはり疑うか。
ボサンのスパイは反乱軍の任務で潜入しているだけで、私とは関係ない。もっと言えば、店にも来ていない。どちらの店舗もだ。
「私は無関係だよ。信用できないなら記録やら何やら全部調べればいい。何もないから。」
「………嘘ではないな。」
「スパイを捕らえるの?」
「それではつまらん。少し泳がせよう。反乱軍が自ら滅ぶ様を楽しもうではないか。」
「………性格悪いな。」
「何か言ったか?」
「別に。もういい?次の営業に向けて準備しないとだから。」
何もないと分かったのか、皇帝に手ぶりで出て行けと言われた。
心の中で嘲笑し、私は背を向ける。
「時に………」
刺さるような声音に、私は振り返った。
「ヴェイダー卿に、心境の変化があったようだ。」
「へぇ。息子が可愛くて仕方ないって?」
「否、ヴェイダー卿の心が読めなくなった。迷いがあるのだ。サマンサ・ホーガン、セヴァー・フォースをヴェイダー卿に……?」
「使ってない。言っとくけど、私は情報を共有しただけで、使う気はないから。それに、あんたがヴェイダーの心を読めなくなったのは、あの人の苦痛を理解してないから。読めなくて当たり前。」
所々に怒りマークを入れる勢いで、皇帝に反論する。特に最後は3個くらい入れたい。一々根掘り葉掘りうるさい。
歯向かわないように、ヴェイダーのサイボーグを粗悪なパーツで補ったくせに、まだ反逆を恐れているらしい。
前の世界の考察で、“ダース・ヴェイダー”の最盛期は19BBYのジェダイ粛清時だと言われている。オビ=ワンがあのアナキンに殺されなかったのは、条件が良かったのと、運が良かったのかもしれない、と。それ程ヴェイダーの力は凄まじかったのだと、転生した私は痛感した。
それは皇帝も気付いている。だからこそ、粗悪なパーツを使った。自分の支配下に置く為に。
とても卑怯な奴だ。
「では、其方はヴェイダーを理解しているというのか?」
「私が?理解できるわけない。ジェダイが悪だからって、簡単に人を傷付ける行動は理解できない。お忘れのようだけど、ヴェイダーは私の妹分を殺してる。どう転んでも理解できない。」
「カリ・ペレスか?あの女は死ぬべき存在だ。其方が教えてないとしても、ジェダイに近しい存在だったのだからな。」
「私を怒らせようとしても無駄だよ。カリの死はとうの昔に受け入れてる。それじゃあ、私は準備があるから。次は“勘違い”で呼ばないで。」
皇帝の怒りを沸々と感じながら、私は執務室を出る。
正直、緊張した。私がヘマをしないから、痺れを切らしたかと思った。嘘は言ってないし、どっちの味方にもついてない。
店に戻ると、既に閉店済みで、デッカー提督が1人で片付けをしていた。
「提督、片付けてくれてありがとう。」
「っ!大丈夫だったか?」
「うん。スパイのことを聞かれただけだから。」
「スパイだと!?」
「あー、聞かなかったことにして。皇帝もスルーするみたいだから。」
「泳がせるということか……?」
「まぁ、そういうこと。提督は気にしなくていいよ。その件は皇帝とヴェイダーが対処すると思うから。」
レジ締めのデータを受け取ると、提督は不思議そうな顔をする。
「だが、本当に良いのか?」
「何が?」
「反乱軍のスパイだろう?私には本音を話してほしい。誰にも言わない。2号店を開いてから、仲良くしてきたんだ。少しくらい胸の内を教えてくれ。恨み言も聞く。いっそ、私に怒りをぶつけても……!」
本気で心配しているのが分かる。でも、私は他の人を巻き込む気はない。これは私の問題であって、反乱軍も帝国軍も関係ない。
フォース感応力がないというのは、羨ましい。
提督は他人の感情に左右されず、こうして心配してくれるのだから。
「私にも覚悟はある。だから提督には話さない。冷たいと思われたっていい。ジェダイとシス、そして私の問題に周りを巻き込みたくないの。私の周りで人が死ぬのは、もう見たくないから。」
カリやオビ=ワンがそうだ。カリは私の為に死を選択して、オビ=ワンは私を遠ざけた。私がしっかり向き合ってこなかったから。
レスリーまで死んだら、恐らく立ち直れない。
「そうか……」
「提督や助けてくれるみんなに感謝はしてる。でも、それは店での話。私の事情に首を突っ込んで、帝国から処分されるのは嫌だよ。」
「線引きはもちろんしている。気持ちは充分伝わった。これからも通わせてくれ。」
「うん、ありがとう。」
後は2人で軽く晩酌をして、提督は帰っていった。
店で1人になり、私は翌日の開店準備をして隅の席に座る。
その時、マスター・ヨーダが死ぬのを感じた。ルークとレスリーの深い悲しみも感じる。それと、ルークは衝撃を受けているだろう。
やがてナイトシフトに切り替わり、私のいるエリアは消灯される。ランタンを点けると、来訪者が現れた。来訪者は気分が優れないようだけど、私は構わず声をかける。
「待ってたよ。」
「………ヨーダが死んだ。」
「知ってる。」
「古きジェダイはもういない。」
「あの頃のジェダイは死んだ。私以外ね。心は晴れた?」
来訪者は何も答えなかった。沈黙が答えとはよく言ったものだ。読み取れる感情は、空虚さだけ。つまり、ジェダイは滅んだけど何も変わらず、虚しさを感じているということ。
「じゃあ、始めよう。」
来訪者は弱々しく同意する。
私の企みはここから始まる。人知れず、私と来訪者だけで。私だけでは、何も変えられない。
次の段階へ進む時だ。
全ては未来の為に。