カーターを船から追い出し、私は頭を抱える。
碌でもない奴だというのは、薄々勘付いていた。そんなこと関係なく、仕事さえしてくれれば良かった。店に迷惑をかけなければ、私は何も言わなかった。
こんなの、私に対する裏切りだ。
「サム……?」
寝台にうつ伏せで寝ていると、カリが声をかけてくる。
「どうしたの?」
「私の台詞だよ。大丈夫?」
「………簡単に信じるべきじゃなかった。」
「カーターのこと?サムは悪くない。嘘吐いたカーターが悪いんだよ。」
カリが寝台の端に座り、私も起き上がって隣に座る。
「あのね、経歴とかどうでもいいの。私だって元ジェダイだし。ちゃんと仕事してくれれば、何も気にしなかった。」
「サム、ちゃんと仕事をしていても、迷惑かけるのは間違ってる。」
「そうだね。」
10歳のカリでもそう思うのに、なんでカーターは分からないんだろう。
それでも、最初から言ってくれていたら違っていたかもしれない。
いつも通りカリに開店してもらい、私はジェダイ評議会に連絡を入れる。
しばらく店を離れられないから、授業は先延ばしになる。子供達だけでなく、共和国軍の軍事作戦にも影響を来す。関係ない一般市民を巻き込むことはできない。
『サマンサ』
「マスター・ヨーダ、次の授業についてお話があります。」
『何かあったのか?』
「訳あってパトリック・カーターを解雇しまして、後任が見つかるまで保留にしてください。」
謝罪し、すぐにでも募集をかけると言うと、マスターは了承してくれた。
『それはそうとサマンサ、カーターの秘密を見抜けんとはらしくないのぅ。』
「……それは……………」
『どうした?』
私だけに言えたことじゃない。
誰もパルパティーンの正体に気付いていない。マスター・ヨーダすらも。ジェダイの目は曇っている。
「私達みんな、何も見えてません。」
『………』
「何か気付いてます……?」
『はて………』
マスター・ヨーダは何も語らない。グランド・マスターだから何かを感じてはいるだろうけど、口に出さない。マスター・ヨーダの考えていることが読めない。
『サマンサ、わしから頼みがある。』
「頼み?」
『明日、わしが〈ホーガ・フォレスト〉へ行く。わしとお前だけの話じゃ。カリにも話してはならんぞ。』
「分かりました。」
通信を切り、私は髪を纏めて店へと出る。
上の空の私に、カリは首を傾げる。
「どうしたの?」
「明日、マスター・ヨーダが来る。」
「え!?」
「もちろん、ご飯を食べに来るわけじゃない。大事な話があるみたい。明日は店閉めるから、部屋で授業の課題やってて。」
「うん。」
マスター・ヨーダが直々に来るということは、余程難しいことを言われるということだ。
なんでジェダイをやめた私に?
頼み事をするなら評議会の誰かか、優れたジェダイに言うのが普通だ。私はジェダイですらない。私に頼むべきじゃない。
「おうサム、久しぶりだな!」
「最近どうしたんだ?」
久しぶりに顔を見せた私に、常連達が話しかけてくる。
「最近は小僧がいただろ。お前は忙しいとか何とか言ってやがってな。」
「うん、忙しかったの。ジェダイ・オーダーに呼ばれてて。」
「まさか戦場に行ってるのか!?」
「違う違う!私そんなに器用じゃないから!それにさ、戦場なんて行ったらいつ戻れるか分からないし。子供達の授業をやってたの。」
カリもカリで、他の常連と仲良く話している。
何事もないみたいで良かった。
「それにしてもサム、あの子可愛いな。」
「カリのこと?間違っても手を出しちゃダメだからね。間違えなくてもダメだけど。」
「俺はガキに興味ねぇよ。」
「じゃああんたの興味は?」
「もちろん、大人の女に決まってるだろ。」
「下品。」
「素直って言え!」
オーダーを取って裏に戻ると、カリがニヤニヤしていた。器用にも、お皿を洗いながら。この子、絶対面白がってるよね。
というか、後ろのアズも逃げようとしているし。
「ねぇアズ、サムってなかなかの鈍感だよね。」
「は?」
「ええ、カリ様に同感です。」
「アズぅ?」
「大半のお客様は店に惹かれて来店されますが、一部のお客様はサム様に下心がありますよ。」
何だそれ。私に下心があるって何だ。
「サムって他人はすごく気にするのに、自分のことは鈍感だよね。」
「いやいや、これでも元ジェダイだよ?」
「感情を読み取るだけがジェダイじゃないよ、“マスター”?」
そう言って、カリは酒を席に持っていく。
カリは揶揄ってくる時、あえてマスターの敬称を付ける。これでも一線は引いているつもりだった。子供故の観察眼なのか、私が知らないことも見ている。
アズに視線を向けると、逃げようとする。
「知ってたの?」
「ええ。ですが、聞かれませんでしたので……」
「ふぅん?」
「私も大変だったんですよ?」
「ハイハイ分かったよ。あ、そういえば、明日マスター・ヨーダが来るから休業にしてね。」
「畏まりました。」
アズがパネルに明日は休業だと告知して、客も徐々に引いていく。
それからアズをスリープモードにして、私はカリと遅めの夕飯を食べ始めた。一緒に食べるのは、この後勉強をしてもらう為だ。私もカリもジェダイにはならないけど、本来なら聖堂で学ぶべきことだ。
私がジェダイをやめたせいでカリの人生が変わったから、できることはしてあげたい。
「サム、迷わずカーターを追い出したよね。」
「うん。どうしたの?」
パンを齧りながら、カリに問い返す。
「カーターは仕事だけなら評価できる男だった。サムも同じだと思ってた。それなのに、躊躇いもなく追い出したから……」
「信用はしてたよ。」
「じゃあなんで追い出したの?」
ブルートマトを口に放り込んだ後、スープを匙でかき混ぜる。
私には、決めていることがある。カリは別として、深入りはしないし、深入りさせないようにしている。それでもカリも一線は引いてるけど、信用はしても親しくなることは避けてきた。
だからこそ、カーターを追い出すという決断をした。
「あんた以外は、信用はしても親しくはしなかった。カーターも、信用してただけ。信用がなくなったから追い出したの。」
「どうしてそんなことしてるの?」
「カリ、もし暗黒面に堕ちたらって考えたことある?」
自分から踏み込むことはない。
でも、もし暗黒面に堕ちたら?
私は元ジェダイで、今世では愛情を知らない。深入りして抜け出せなくなって、誰かに執着することになったら、暗黒面にまっしぐらだ。相手だけでなく、他の人にも迷惑をかける。
「誰かと親しくなるってことは、その誰かに執着してるってこと。ジェダイ聖堂で執着を捨てろって言われるのは、暗黒面に繋がるからなの。私のワガママで、銀河を危険には曝せない。」
「私は親しくなることが、間違ってるとは思わない。親しくなれないなら、ジェダイの師弟も同じでしょ?どうしてサムはマイナス面しか見ないの?」
「ちょっと!どこに行くの!?」
夕飯を食べ終わったカリは、席を立って背を向ける。
「部屋に戻る。明後日の営業まで会いに来ないで。」
「カリ……」
カリはレックを揺らし、部屋に駆け込んで行く。
カリの言うことは間違いじゃない。でも、私は危険な世界にいる。嫌でもマイナス面を見なきゃいけないんだ。
好きでネガティブになっているわけじゃない。
営業中にあの子に言われた、他人ばかり見るというのは否定できない。
ジェダイをやめたのに、どうして苦しいんだろう。
サムは独身を貫くべきか否か?
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早く結婚しろ。
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ダメ、独身でいろ。
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