酷い寒気がする。
ヴェイダーへの怒りと憎しみは、消えてくれない。
パドメは、まだ良心が残っていると信じていた。彼がしたことを知っても、目の前で友人であるはずの人に怒りを向けても。自分が殺されそうになっても尚、良心を信じていた。
その証明が、これ?
これでもヴェイダーに良心があると?
嘘だ。良心が残っているとは思えない。カリの言う通り、ヴェイダーは良心を殺したんだ。
「良心なんて、所詮綺麗事だよね………」
「何が言いたい?」
「私も、良心なんてない。」
ミラーと戦った時も、モダルと戦った時だって、良心に蓋をすることもできた。それをしなかったのは、闇に呑まれたくなかったから。私には、家族がいたから。
カリという存在を失った今、守る意味が分からない。
「あれだけ避けていた暗黒面に踏み込んだな。」
「あんたと一緒にしないで。力に頼るわけじゃない。」
「何……?」
「“アナキン・スカイウォーカー”を買い被りすぎてたかもね。ダース・ヴェイダーなんて、大した存在じゃない。」
私の刺々しい言葉に、ヴェイダーから怒りを感じた。
当然だ。奴は愛の為に暗黒面に与したのだから。私はその存在を否定した。それもあえて攻撃的な言い方を選んだ。
この次の手で、私の運命が決まる。
「私にはもう良心はない。執着するものも失った。どうすると思う?」
「戦うだけだ。お前に私を殺すことはできない。つまり、お前は死ぬ。」
「死ぬ?そんなわけないでしょ。これ、何か分かる?」
ポシェットからグレネードを取り出して、それを掲げて見せる。
「そんな小物に惑わされると思うな。ここから出す気はない。帝国に従ってもらうぞ、ホーガン。」
「嫌だね。私の大切な人を奪ったあんたは、絶対に許さない。だから、あんたが死にたくなるようなものを見せてやる。」
次の瞬間、グレネードは爆発して、閃光を放った。
私が握っていたのはスタン・グレネードだ。ヴェイダーはマスクをしているから、これは効かないかもしれない。でも、私の狙いは違う。
ヴェイダーに、使用済のグレネードを投げ付ける。
奴は咄嗟にキャッチして、私はそれを無表情で見上げた。
私の狙いは、ヴェイダーに対する呪いだ。あのグレネードは、私とカリ、アソーカとパドメの4人が触れていたものだ。ナブーでの女子会で、私があの3人に持たされていたものだった。
私が感情を込めていたから、ヴェイダーには刺すような痛みを感じるはずだ。
「精々苦しんで。」
微動だにしないヴェイダーを放置し、私はフォースでドアを抉じ開ける。
頬に涙が流れるのを感じながら、私は城のプラットフォームへ向かった。
「っ……」
今になって涙が出てくる。それでも、歩みを止めることなく進む。誰もいない通路を抜け、私は小型シャトルに乗り込む。
ジェダイとかシスとか、どうでもいい。
帝国や反乱同盟軍だって、どうだっていい。
私にとって一番大事なのは、家族だ。旦那と娘という家族だけじゃない。リックやカリがいるもう一つの家族も大事だ。それ以外はどうでもいい。
何一つ欠けてはならない。不完全な私を生かしてきたのは、家族のお陰だった。そのバランスが崩れた今、私は喪失の沼に落ちていく。
今はこの感情に抗いたくない。
このまま沈んでいたい。
………………
………
誰かが呼んでる。
「え……?」
呼ばれたような、そんな気がした。
でも聴こえない。暗黒面が、その声を遮っているみたいだった。聴こえてはいるけど、言葉の意味を理解できなかった。
気が付けば、私はナブーにいた。
辺りは静かで、心も穏やかだ。少し歩くと運河が見えてきて、ネイベリー家の別荘が姿を見せた。期待通りの景色で、私は嬉しかった。
ドアをノックすると、すぐに開かれた。
「サマンサ!!」
パドメの喜ぶ顔が、私を出迎えた。
中に入ると、カリとアソーカもいた。2人はお茶の準備をしていて、私とパドメはソファーに座るように言われる。念願のお茶会だから、と。
嬉しくて、私も表情を緩ませる。
「どうしたの?」
「何でもない。」
そう、何でもない。
パドメに声をかけられたけど、気にすることはない。今までが夢だったんだ。悲しいことは何もなかった。
これが、私が羨んだ現実だ。
パドメも、カリも生きている。アソーカも行方不明にならずに、一緒に過ごせている。これが現実だ。
悪い夢を見ていたんだ。
悪夢は忘れよう。
私は今、とても満たされている。苦しかったのが嘘のように、痛みが消え去った。全ては悪夢のせいだった。
その時、また声がした。
「何……?」
「サマンサ!」
声を聴こうとしたら、パドメが私を呼んだ。パドメの声に引き戻され、私は我に返る。また悪夢に誘われたのだと、恐ろしく思った。
「顔色が良くないわ。少し休みましょう?」
「サム、大丈夫?」
カリとアソーカは私を心配して、中へと促す。
「私は大丈夫。」
すぐに顔色を取り戻した私に、3人は安堵の表情を見せる。
パドメ達がいれば、悪夢なんて怖くない。悲しい出来事は、全て夢だったんだ。何も怖がることはない。
こんなに幸せなんだから。
辛い過去は忘れてしまえ。