真剣で蔵馬に恋しなさい!   作:神鳥ガルーダ

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『武神』VS『闘神(の息子…覚醒前)』 前編

 東西交流戦、『武士道プラン』の申し子、納豆小町の転校という騒々しかった週から翌週へと移り、川神に平穏が戻った……という事は無く、相変わらず騒がしい日々が続いていた。

 その日の放課後は、珍しく蔵馬を除く風間ファミリー全員に加え、源忠勝、松永燕、源義経、武蔵坊弁慶、那須与一、榊原小雪なども同行していた。

 予め示し合わせていたわけではなく、完全な偶然である。

 燕は百代と、忠勝は一子と、小雪は京とそれぞれ一緒に帰宅していた途中、ばったりと会い、そこに岳人と卓也が加わり、多馬大橋の手前で、またしてもばった源氏組と遭遇したという流れである。

 

「ねぇ、大和は一緒じゃないの?」

 

「うん。何か今日大和は用事がいるって、さっさと帰っちゃったのだ」

 

 弁慶の問いに、小雪が膨れながら答えた。

 今日は、冬馬も準もそれぞれ用事があり、構ってもらえないので少し拗ねていた。

 

 

 

 

 

 多馬大橋を渡り切った後、義経がある異変に気付いた。

 

「どうしたの義経?」

「一子さん。おかしいと思わないか。さっきから義経たち以外、辺りに誰もいないぞ」

「…そういえば…」

 

 普段ならば、この時間帯はそれなりに人が通るのだが、今日に限っては一人もいない。

 まるで、この場所を避けている風に見えた。

 

「いや、あそこに誰かいるよ」

 

 ユキが指差した方角に一人の中学生の少年の姿があった。

 剃り込みの入ったリーゼントに、短ランとボンタンという典型的な変形学生服を身に纏い、タバコを吹かしながら立っていた。

 

「おい、中学生がタバコを吸うんじゃない!」

 

 正義感の強いクリスが注意するが、少年はまったく改めようとせず、皆に視線を向けて見回し、百代の所で止まった。

 

「…アンタが一番強いようだな…てことはアンタが『川神百代』か?」

「そうだけどお前は誰だ」

「俺の名は、浦飯幽助。アンタがすげぇ強いって聞いて、勝負しに来たんだ」

 

 またか。

 風間ファミリーの面々は呆れた顔になった。

 『武神』と謳われる百代をどんな形でもいいから倒せば、自分達に箔が付く。

 そう考えて挑んでくる不良たちは珍しくない。

 大抵は、百代の荒唐無稽な噂を信じず、多少強くても、数を揃えれば何とかなるという根拠の下に、卑劣な手段を用いて襲い掛かってきて、むしろ噂以上の常識外れっぷりにあっさりと制圧されてしまうのだが……。

 

「まあ、相手になってもいいが……お前一人か?」

「たりめーだろ!タイマンじゃね~とつまんねーだろうが!!」

 

 確かに周りを探っても、隠れている者の気配を感じず、百代以外の『壁を超えた者』である由紀江や義経も、感知していない。

 どうやら、本当にタイマンを挑んできている様だ。

 

「…無謀な」

「まあ、気概は認めるが…」

「…身の程知らずだね」

 

 見たところ相手はただの不良学生で武道家ではない。

 『武神』に一対一の勝負を挑むなど、無謀もいいところ…。

 と、いうのが皆の意見だった。

 

「…アイツが浦飯幽助か…」

「知ってるのタッちゃん?」

「ああ、皿屋敷市の浦飯幽助。万引き、カツアゲ、喧嘩、賭博、補導の常習犯で、不良たちの間じゃかなり有名だ。ちなみに川神を仕切る板垣竜兵すら秒殺した奴だ」

 

 代行業の情報網から、幽助の事を知っていた忠勝が、彼についての噂が語られていた。

 

「何よりもとんでもないのが、アイツは一度死んで、生き返ってきたって話だ」

「生き返ってって…」

「文字通り、交通事故で一回死んで、通夜が終わってから心臓が再び動き出したって話だ」

 

 一度、心肺停止状態になって、救命措置をとって息を吹き返したというのではなく、医師から死亡を確認され、通夜が開かれた後に心臓が動き出したというのだ。

 その後、約一ヶ月間眠り続けたが、目を覚まし、中学に復学したらしい。

 

「これに関しては、噂でも何でもなく完全な事実なんだけどな。何故かマスコミなどは動かなかったっていうのが謎なんだ」

 

 普通、死んだ人間が生き返れば、大ニュースとなり、全国に報道されるだろう。

 しかし、何故かマスコミは沈黙していた。

 まあ、種を明かせば霊界が干渉したからである。

 幽助は、霊体と肉体との波長が合う周期が普通の人よりも長く、その日を逃すと50年後まで待たなければならず、予定よりも早く生き返られなければならなかったので、本来の試練と代わる新たな試練として、幽助を霊界探偵に任命することになった。

 その為、マスコミなどに動かれては、試練を果たす事が出来ないので、霊界が人間界に干渉し、マスコミの動きを封じたのである。

 人間界は霊界の領土でもあるので、これくらいの干渉ならば朝飯前である。

 

 ★☆★

 

 河原に下りた百代と幽助が対峙していた。

 

「じゃあ、勝負を始めようか?」

「ああ」

「それじゃあ、掛かって来い」

 

 百代が余裕の表情で腕を組んだまま構えを取らず幽助と見た瞬間、幽助は百代の間合いに入り込み、そのまま鉄拳を百代の顔面に放った。

 完全に虚を疲れた百代は、そのまま吹っ飛ばされた。

 幽助のあまりの速さと、百代が軽々と吹っ飛んだ事に、見物していた者たちは絶句した。

 

「おい、てめぇやる気あんのかよ?」

 

 苦虫をかみ締める様に、幽助から苦情がでた。

 

「こっちは蔵馬から、強い奴と闘えるって聞いたから足を運んだんだ。真剣(マジ)にならねぇんなら、帰るぞ!!」

 

 幽助の口から『蔵馬』という名前が出た事で、京達がハッとなった。

 先日、勉強を教わりにきた中学生、桑原和真と雪村螢子が直江大和の事をそう呼んでいた。

 

「…蔵馬って大和の事よね?」

「…ああ(いっけね。普段はアイツの事『直江』って呼ばなきゃいけねぇ~んだった…)」

 

 幽助は普段から蔵馬と呼んでいるので、もうすっかりその呼び名が定着しているので、普段は人間名である『直江大和』という名前を呼ぶべきである事をすっかりと頭から抜けていた。

 

「……そうか。お前が大和の言っていた『強い奴』だったか…」

 

 幽助の鉄拳をくらい倒れていた百代が立ち上がると、殴られた傷が癒え始めた。

 百代お得意の『瞬間回復』である。

 

「成る程、大和が言うだけの事はある……こんなにも凄いパンチを受けたのは初めてだ…少なくとも釈迦堂さんのより遥かに上だった」

 

 いや、今まで闘ってきた相手はもとより……師匠である釈迦堂、そして鉄心からの制裁ですら、この一撃には及ばない。

 相手の格好を見て、つい今まで絡んできた身の程知らずの不良たちと同列で見てしまった。

 今ならば解る。

 目の前の自分はおろか由紀江よりも年下の男から感じる凄まじい闘気を…。

 

 

 

 

 

「す…凄いです!さっきまで気付きませんでしたが、あの浦飯という人から感じる闘気。モモ先輩に勝るとも劣りません」

「うん。まさかあんな子がいるなんてね」

 

 『壁を超えた者』と呼ばれる領域に達している由紀江と燕は、幽助から感じる凄まじい闘気に戦慄していた。

 少なくとも、ただの不良学生ではない。

 不良のレジェンド枠である『川神の狂い花』や『稲村チェーン』ですらあのレベルには達していないだろう。

 数年後、ヤンキーの聖地と呼ばれる湘南に現れる湘南三大天『喧嘩狼』、『皆殺し』ですら、現在の幽助の領域には及ばない(『血塗れ』は耐久力と回復力ならともかく戦闘力では問題外)。

 

「お姉様…大丈夫かしら?」

「大丈夫だよワン子。モモ先輩が負ける筈ないじゃないか!」

 

 百代が吹っ飛ばす等、祖父以外、初めて見たので不安になる一子に卓也が主張した。

 彼からすれば百代が負ける等有り得ないのだ。

 

「だが、大和が7:3の確率でモモ先輩が負けると言っていたんだぞ」

「…大和が言うんだから、根拠がないとは言えないよモロ」

 

 武道に関してはド素人である卓也と違い、クリスや京からすれば、あの幽助という男の闘気からして楽観できる相手ではない事が理解できた。

 ファミリーの新参者であるクリスはともかく、京にとっても百代が負けるなど有り得ないと否定したい。

 しかし、愛する蔵馬の言葉と、武士娘としての感覚が闘いが始まる前には感じなかった相手の強さを感じ取っていた。

 

「義経はどう見る?」

「解らない……しかし、少なくとも義経ではあの男には勝てない…」

「凄まじい重圧(プレッシャー)だ…。まさか組織の手の者か?」

 

 クローン組もまた幽助の強さをひしひしと感じていた。

 約一名、戦慄しながらも平常運転だが……。

 

 ★☆★

 

「川神流無双正拳突き!!」

「クッ!おりゃあ~!!」

 

 相手の強さを認めた百代は、次から次へと技を繰り出す。

 それに対し幽助も、応戦する。

 次期川神流総代として、幼い頃から川神流を修行してきた百代だが、その圧倒的な実力故に力技で何とかなっていたので、技が荒い。

 幽助も『霊光波動拳』継承者ではあるものの、基本スタイルは日々の喧嘩によって磨いた喧嘩殺法で洗練されているとは言い難い。

 そんな2人の勝負は、真っ向からのガチンコ勝負になるのが必定だった。

 百代の拳を正面から受け止める幽助。

 幽助の拳の連打を次々と捌く百代。

 2人の戦闘は膠着していた。

 

 

 

 

 

「始まったか」

「そのようですな蔵馬殿」

 

 多馬大橋の向こう側から、蔵馬は百代と幽助の戦闘を見ていた。

 

「わざわざ当主の貴方が届けてくれるとは思いませんでしたよ……大麻呂さん」

「他の者に任せる訳にはいきませんからな…貴方と我が『綾小路家』との約定は…の」

 

 蔵馬と共にいるのは日本御三家の一つ綾小路家の当主、綾小路大麻呂その人であった。

 1000年前、蔵馬は当時、二大妖怪が牛耳る魔界に見切りを付け、人間界に進出した際、綾小路と結びついた。 

 当時、魔界と人間界に垣根が無く、魑魅魍魎が跋扈していた。

 人々に災いを齎す(モノ)もいるが、時の権力者に結びつく(モノ)もいた。

 蔵馬は極悪非道の盗賊妖怪ではあったが、専門は古代の宝や妖具である。

 妖狐の時には人間に対する情など持ち合わせていなかったが、あえて敵対する必要もなかった。

 むしろ、権力を持つ人間と手を結べば何かと都合が良かった。

 しかし、まだまだ売り出し中だった蔵馬では、流石に法皇、平家、源氏、藤原氏といった当時の主要権力者と結びつく事は叶わなかった。

 そこで、土御門家や賀茂氏には及ばないものの将来性が高かった当時の綾小路家の陰陽師と約定を交わした。

 蔵馬は、時には智謀を時には力を綾小路に貸し、綾小路は人間界で活動する蔵馬に様々な便宜を図り、利用し合った。

 その関係は、蔵馬が直江大和として生まれ変わる以降も続いていた。

 現在の綾小路家当主である大麻呂は、気配が変わってしまった直江大和を一目で蔵馬だと見破った程、高い霊力を持っており、その変わり様はむしろ望ましいと感じていた。

 かつての妖狐としての蔵馬は、大麻呂からしても恐ろしい存在だった。

 約定があり、人間相手には必要がない限り危害を加えなかったとはいえ、必要があれば躊躇いがないのも解っていた。

 しかし、現在においても妖怪の力を利用し、権力を握ろうとする者、財産を増やそうとする者などが後を絶たず、御三家の中でそちら方面に造詣が深い綾小路がそれに対処しなければならなかった。

 下等な妖怪ならば、大麻呂の陰陽道で何とでもなるが、高等妖怪相手では人間の力のみでは対処が難しい。

 それに何だかんだで綾小路家は蔵馬に多大な借りがあるので、それを無視するわけにはいかなかった。

 しかし、今の蔵馬には恐ろしさはあるものの、以前ほどではない。

 むしろ敵対しなければ、これ程頼りがいになる者もそうはいない。

 

「助かりますよ。妖怪の俺では霊具は使用できませんからね」

 

 蔵馬は盗賊時代に偶然手に入れた、結界を発生させる霊具を綾小路家に預けていた。

 妖怪が使えない霊具など、魔界では売れないし、捨てるには勿体無い。

 自分が使えないなら、使える者に預ければいい。

 そう考え、綾小路に預けたのだ。

 この結界は、A級妖怪レベルまでの力ならば破られる事はないので、百代と幽助の力がぶつかり合っても町に被害を及ぼさず済むので、綾小路に連絡し、持ってきてもらったのだ。

 

「では、俺は2人が闘っている所に行きます。結界の維持をよろしくお願いします」

「心得た…の」

 

 ★☆★

 

 攻防が続く中、ヒットは幽助の方が多かった。

 戦闘力に関しては百代よりも幽助の方が若干上回っているからだ。

 しかし、百代には瞬間回復がある。

 幽助の拳の連打を受けて傷だらけになっても、直ぐに回復してしまう。

 百代も伊達に『武神』を名乗っているわけではないので、幽助の攻撃を掻い潜り、幽助にヒットさせており、着々と幽助にダメージを与えていた。

 百代は歓喜に包まれていた。

 先日の燕との歓迎稽古も、心躍るモノだったが、燕では自分に及ばない事も理解していた。

 様々な武器を扱い、自分に対抗出来てはいたが、決定打に欠けていたからだ。

 しかし、目の前の自分よりも3つも年下の少年は、一切の気が抜けない。

 瞬間回復がなければ、もっと苦戦を強いられていただろう。

 かつてのライバルである九鬼揚羽との最後の試合より、高揚感に包まれていた。

 

「さあ、勝負はここからだ……喰らえ、川神流、星殺し!!」

 

 百代の掌から発せられたエネルギー波が幽助に襲い掛かった!!

 

 




 皆さんお待ちかねの百代対幽助が始まりました。
 勝敗の結果はどうなるでしょうか?
 次回を期待せずお待ちください。
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