真剣で蔵馬に恋しなさい!   作:神鳥ガルーダ

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『武神』VS『闘神(の息子…覚醒前)』 中編

 百代の放った『星殺し』が完璧に幽助を捉えた。

 タイミング的に躱せない。

 誰もがそう思ったその時、幽助が右手の親指を立て、人差し指を百代に向けた。

 すると人差し指の先端から光が迸る。

 

「霊丸!」

 

 幽助の指から気の塊が発せられ、百代の星殺しと衝突した瞬間、星殺しは霧散し、霊丸は、まったく威力が衰えずそのまま百代に向かっていった。

 

「なっ!?」

 

 川神流の『気』の放出系の中で『致死蛍』や『かわかみ波』を上回る威力を持つ『星殺し』が霧散したのだ。

 自慢の技があっさりと消えた事にかなりショックを受けた百代の体は硬直し、幽助の霊丸が直撃した。

 

「「「「「「「モモ先輩!!」」」」」」」

「お姉様!!」

「モモちゃん!!」

「「川神先輩!!」」

 

 霊丸をまともに受けた百代は、かなりのダメージを受けたが、それも瞬間回復で直ぐに癒えたが、やはり必殺技が破られたショックまでは癒えなかった。

 百代の星殺しが破られた事もそうだが、武士娘達は幽助の霊丸そのものに脅威を感じていた。

 気を扱う事は、ある程度の強さを持つ武道家や武士娘達にも可能である。

 しかし、気そのものを凝縮してエネルギー波として打ち出すなど、並大抵で出来る事ではない。

 いくら強くても、武道を学んでいない不良学生に出来る代物ではないのだ。

 

「十分に気が練れていなかったのが原因ですね」

「わっ!大和!?」

 

 いつの間にか一子たちの後ろに居た蔵馬にその場に居た全員が驚いた。

 何しろまったく気配が感じられなかったのだ。

 気を探る事に長けた由紀江でさえ気付かなかった。

 

「よぉー蔵馬。相変わらず悪趣味だな。気配を断って近づくなんてな」

 

 蔵馬のこういう所を知っている幽助は苦笑しながら声を掛けた。

 

「やあ、幽助。どうだい姉さんとの戦いは」

「久しぶりに熱くなれてるぜ。どうも武術会から不完全燃焼気味だったからよ…」

「それは何よりだ。姉さんを紹介した甲斐があったな」

 

 戦闘中にも関わらず、朗らかに会話する2人だが、落ち込んでいた百代は動かなかった。

 

「…瞬間回復の使いすぎです」

「えっ!?」

 

 蔵馬の指摘に百代が反応する。

 

「姉さん。幽助との闘いの最中、瞬間回復を何回使いましたか?」

「……」

「ダメージを受ける度に使っていたでしょう」

 

 蔵馬のいう通り、百代はダメージを受ける度に瞬間回復を使ってきた。

 それだけ幽助からの攻撃が百代にとって強烈だったとも言える。

 

「姉さんは瞬間回復を会得してから、それを使うのに慣れすぎました。だからある程度ダメージをもらうと瞬間回復を使ってしまう癖がついてしまった」

 

 瞬間回復を使っている為、服以外は綺麗な百代に対し、何度も攻撃を貰い、体に痣や傷がたくさん付いている幽助。

 本来ならば、幽助以上に攻撃を貰っている百代の方が酷い状態になっている筈なのに、逆転している。

 つまり、それだけ百代が瞬間回復を多用した証拠である。

 

「それだけ使えば、姉さんの気の消耗が激しくなるのは当然です。その為、十分な気を練れなかった為、星殺しは霊丸にあっさりと押し負けてしまったんでしょう」

 

 無論、もともと幽助の霊丸は百代の星殺しよりも威力が高い。

 武術会決勝戦で戸愚呂に放った最後の霊丸は、百代の星殺しとは比べ物にならないだろう。

 しかし、今回の霊丸は、とっさに放ったモノなので、あの時程の威力はなかった。

 呪霊錠を付けた状態で80%の戸愚呂に放った霊丸よりも威力が弱い。

 その程度ならば、本来ならば百代の星殺しと相殺されて、消え去っていたはず。

 

「恐らく姉さんはもう瞬間回復が使えるほどの気は残っていないでしょう」

「…くっ!」

 

 蔵馬の指摘に百代は黙り込んだ。

 百代自身もそれは痛感していたのだ。

 

「もともと姉さんが幽助に勝てる確率は3割だったのに、今では1割にも満たなくなりましたね」

 

 この蔵馬の発言にファミリー全員が息を呑んだ。

 そう、蔵馬は百代が7:3で『負ける』と言ったのだ。

 つまり、百代が負ける確率が7割だと……。

 皆、先入観で百代が負ける確率が3割だと思っていたのが逆だったのだ。

 

「攻撃力、瞬発力に関しては幽助は姉さんより遥かに高い。それに対し、回復力と僅かですが技の練度は姉さんが上回っている。つまり瞬間回復を上手く使えれば、姉さんにも勝機があったんですが……瞬間回復に頼り過ぎましたね」

 

 瞬間回復を会得する前ならば、百代も幽助同様、傷だらけの状態でも意に介さず闘っただろう。

 かつてヒューム・ヘルシングがこう評した。

 『瞬間回復を会得した才能は驚嘆に値するが、会得する時期が早すぎた』…と。

 

 ★☆★

 

「幽助がここまで強くなったのは、春休みの頃ですよ。半年前に俺と出会った頃の幽助は、姉さんや松永先輩、まゆっちどころか、京やクリスでも十分に勝てるレベルだった」

 

 蔵馬と出会ったばかりの頃、幽助は駆け出しの霊界探偵で、板垣竜兵を瞬殺出来ても、当時の蔵馬や飛影レベルの妖怪にはとてもではないが太刀打ちできなかった。

 蔵馬たちが霊界三大秘宝を盗んだ事で、緊急性が高まり、コエンマは已む無く幽助を事件に当たらせた。

 正直、実力では蔵馬や飛影よりも格下の剛鬼にすら及ばなかった当時の幽助が事件を解決できたのは、蔵馬の目的が、母・咲の病を治す事であり、幽助がそんな蔵馬を信じたからである。

 蔵馬を信じたからこそ、飛影に追い詰められた時、蔵馬の手助けを受けれたからこそ、幽助は一か八かの賭けに勝ち、飛影を倒す事が出来た。

 

「しかし、幽助はその後、数々の強敵たちと闘い、その都度レベルアップしていき、今では姉さんをも上回る強さに至りました」

 

 奥義破り専門妖怪、乱童。

 四聖獣のリーダー朱雀。

 暗黒武術会において、六遊怪チームの錬金妖術師、酎。

 Dr.イチガキチームの円、梁、魁。

 魔性使いチームの風使い、陣。

 そして決勝戦にて、幽助が恐れながらもその強さに憧れた戸愚呂。

 彼らとの闘いを経て、幽助は今の強さに至った。

 

「信じられない……僅か半年でモモちゃんよりも強くなるなんて…」

 

 先の歓迎稽古において、百代の予想を上回る強さを体感し、まともに闘えば勝てないので、何とか弱点を探り、搦め手で倒そうとしていた燕からしてみれば、幽助の成長は驚嘆に値する。

 

「それだけ幽助には才能があった…という事です。少なくともそれほど鍛錬しなくても、ガクトはおろか板垣竜兵や井上よりも格上だったんですから」

「おい大和、その言い方だと、俺様よりあのハゲの方が強いって聴こえるんだが…」

「ああ。間違いなく井上はお前より強いよ」

 

 東西交流戦のときにも述べたが、井上準の強さは翔一と九鬼英雄が二人掛かりでも勝てない程の実力がある。

 その事を指摘すると、翔一と岳人が悔しそうな顔になった。

 

「さて、話を戻しますが姉さんの不幸は、自らを高められる程の強敵がいなかった事ですからね。九鬼揚羽さんとの最後の試合……あれ以降、姉さんを熱くさせられる強者がいなかった」

 

 武道四天王の一人九鬼揚羽は、百代のライバルに相応しい実力者であったが、世界的大財閥である九鬼の次代を担う一人として、武道だけをやっている訳にはいかなかった。

 結局、彼女は百代との一戦を最後に、現役を引退してしまった。

 腕を落とさない程度には、鍛錬をしているそうだが、それでも百代との差は広がっているだろう。

 

「そして、幽助もこれから姉さんと同じ状況になりつつある」

 

 幽助も戸愚呂を倒したことで、幽助と渡り合える敵がいなくなりつつある。

 必要に迫られたとはいえ、幽助の成長もまた早すぎた。

 幻海が指摘したとおり、幽助が霊光波動拳継承者が受け継ぐ霊光玉を継承するには10年早かった。

 実際、己の分身である霊界獣の助力がなければ継承できなかったのだから…。

 それほどまで無理しなければ、幽助は戸愚呂を倒せなかった。

 そして、何とか戸愚呂を超えることが出来たが、それは幽助から闘える相手を減らしてしまった。

 今、幽助と互角に闘える妖怪は、蔵馬と飛影くらいである。

 そして、蔵馬と飛影もおいそれと幽助と闘えるわけではない。

 彼らは、霊界三大秘宝を盗んだ罪により、執行猶予中である。

 幽助に協力した事で、減刑されているとはいえ、まだまだ勝手な行動は取れない。

 蔵馬は、事件の途中で改心し、幽助に協力して事件解決に貢献した為、もう霊界からの執行猶予は解けているが、飛影はまだまだ手配中である。

 おいそれと幽助と闘う事など出来ない。

 

「だから、2人を会わせました。姉さんはまだ強さの覚醒が始まっていないし、幽助もまだまだ強くなれます。それに必要なのはライバルの存在でしょう」

 

 落ち込んでいた百代がハッとした表情で蔵馬に視線を向けた。

 

「姉さん。気功波や瞬間回復が使えなくなった程度で、この勝負を諦めるつもりですか?勝機が1割を切った程度で諦めますか?」

 

 蔵馬の言葉に百代の顔に闘志が戻った。

 

「諦めるものか!気功波や瞬間回復が使えなくても、まだ私の五体は、川神流の技は健在だ!!たとえ勝機が1割を切っても、ゼロじゃない」

「幽助。かつて朱雀と闘った時、お前の敗北は確実だった…。しかしお前は起死回生の技を放ち、朱雀を敗った。つまり油断していると今度はお前が朱雀と同じ目に遭うかもしれない」

「へっ、上等だ!ならこっちも最後まで真剣(マジ)でやってやるぜ!!」

 

 ★☆★

 

 凄まじい攻防が展開されていた。

 拳と拳、蹴りと蹴りが次々と繰り出されている。

 今までの百代は自分の強さに絶対の自信を持っており、それが慢心となっていた。

 先日の燕との稽古も上から目線で、燕の攻撃を楽しんでいた。

 しかし、今は違う。

 幽助が自分よりも上である事を認め、挑戦者(チャレンジャー)の気持ちで立ち向かっている。

 百代が挑戦者としての挑むのはいつ以来だろうか?

 まだ幼い頃、師匠である鉄心と釈迦堂に対して以来ではないか。

 他の四天王である、橘天衣には圧倒し、九鬼揚羽とは互角に闘って勝利し、鉄乙女とは勝負してもらえなかった。

 それ以来、挑戦者はすべて一撃でカタが付いてしまうような相手ばかり。

 だから、燕の存在はありがたかった。

 久しぶりに楽しめる相手に巡りあえた…と。

 だが、今目の前にいる相手はそれ以上。

 自分を上回る相手。

 しかも、蔵馬の話だと強敵たちと闘い続け、僅か半年で自分を超えるまで強くなった。

 そんな自分を高められる強敵と闘えた幽助に羨望と嫉妬を抱く。

 だが、そんな男とこれから競い合えるという事に歓喜していた。

 今まで感じていた飢えと渇きが嘘の様に消えている。

 超えられたのなら、また超え返してやる。

 

 

 

 

 

 2人の激突は苛烈を極めていた。

 無論、戦況は幽助の方が押している。

 だが、百代の攻撃に変化が見られる様になった。

 

「姉さんの攻撃に霊撃力が篭り出した。ついに覚醒を果たしたか」

 

 古来より妖魔退治は、霊能者か武芸者だと言われてきた。

 武芸者で妖怪を退治してきたのは、霊能者の武芸者がほとんどだが、強さの覚醒を果たし『壁越え』に達した者も含まれる。

 強さの覚醒を果たした者は、たとえ生来霊能力が低い者でも霊撃力を得る事ができる……つまり、由紀江も燕も義経もD級くらいの妖怪相手ならば対抗できるのだ。

 しかし、『壁越え』とはいえ百代は例外だった。

 何故なら百代は強さの覚醒を得ずに『壁越え』に達するという王道ではない成長だった。

 その為、壁越えの達人にも関わらず、百代は霊は元より妖怪達にさえ有効打を与える事が出来なかった。

 故に百代は安倍清明の様な、自分が倒せない相手を倒せる者を尊敬していたのだが……。

 しかし、この一戦で百代は強さの覚醒を果たした以上、実態を持たない邪霊や悪霊などは相変わらずだが、D級以下の妖怪に対しては対抗出来る様になったので、苦手意識を持つ必要は無くなった。

 最も、百代が霊や妖怪などに怯えるのを見るのが面白いので、しばらくその事実を明かすつもりがないSっ気満々の蔵馬であった。

 

 




本来は今回が後編のつもりでしたが、文章が伸びたので中篇にしました。
次回で、幽助と百代の決着をつけさせるつもりです。
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