激闘が続いていた。
百代も幽助も既に防御は考えていないかの様に、殴り合っていた。
攻撃が放たれる度に、その衝撃が周囲に迸る。
その為、蔵馬と『壁越え』レベルの燕、由紀江、義経、そして壁越え手前の弁慶が前に立ち、他の面々を護っていた。
「…流石に2人とも限界が近づいてきたね、義経…」
「このままだとやはり川神先輩が負ける」
「はい。やはり浦飯さんの方が優勢です」
「この闘いの中で、モモちゃんは更に強くなったけど……まだ彼には届かなかったね」
『壁越え』レベル達の話を聞いていた卓也はムッとなった。
特にファミリーの一員である由紀江の言葉に反発しようとしたその時、蔵馬の眼光が卓也を捕らえた。
「な……何…大和…?」
「モロ…仲間想いはお前の美点だが、度が過ぎれば欠点になるぞ。まゆっちは武道家として事実を口にしているだけだ。『遠慮せず自分の意見をしっかり言うのが本当の友達』…前に俺たちがまゆっちに言った事じゃないのか」
「大和はモモ先輩が負けてもいいって言うの?モモ先輩は…最強…じゃない…と」
「その辺りが俺とお前の認識の違いだな。俺は姉さんが俺より強いとは思っているが、最強だなどと思った事は一度もない……」
百代よりも強いのは幽助だけじゃない。むしろ百代や幽助など歯牙にも掛けない実力者など魔界には履いて捨てる程いるのだ。
特に三竦みを形成する魔界三大実力者(この内の一人は蔵馬にとって最大の失策の結果)に比べれば、百代など雑魚に過ぎない。
「それに最近の姉さんは表面には余り出さなかったが、精神的に危ない状態だったからな。モロ…今がよければ将来、俺たちの仲に亀裂が走ってもいいのか?」
百代は、自分とマトモに闘える強者との闘いに飢えていた。
燕や由紀江、義経にそれを求めたが、燕は家名を重んじる西の武士娘なので、おいそれと勝負を受けず、由紀江は友達である百代と闘う事を望まず、義経は九鬼に護られているので、なかなか闘えない。
川神学園在校生以外の義経に対する挑戦者を選別する為の闘いが出来るので、ある程度は発散出来るが、目の前にある御馳走のお預け状態が続くと、再び鬱屈し出すだろう。
「そして、姉さんはいつか暴走し、道を踏み外してしまうだろう……戸愚呂の様に…」
「……トグロ?」
蔵馬は妖怪関連に関する事を上手く隠し、戸愚呂の事を語った。
かつて、己の力に慢心し弟子全員と仲間の一人を殺され、仇を討った後も己を許せず仲間と決別し、強さのみを求め続けると己を偽り、自分の価値観を否定する自分より強い相手に倒される事を願った不器用な一人の武道家。
「過程はともかく、最終的には姉さんも戸愚呂に近い道を進む可能性がある」
暴走し、仲間である風間ファミリーの誰か――特に妹である一子など――を傷付けたりすれば、自責の念に駆られ、ファミリーから距離を置き、やがて戸愚呂の様に堕ちてしまうかもしれない。
「姉さんの件は、肉親である学長も気に掛けている。モロ…さっきも言ったがお前の願望の為に、最終的に姉さんが堕ちてもいいのか?」
「別にそうなると決まったわけじゃ……」
「確かにな。必ずしも姉さんが堕ちるとは限らない。しかし、堕ちないと断言も出来ない。ならば姉さんが堕ちる筈がない…なんて根拠のない願望に縋るより、堕ちないよう姉さんを支える方を俺は選ぶ…。あの時、「ああしておけばよかった」などと後悔するよりも…例え姉さんが敗北する事になってもな」
父母と風間ファミリーは闇の世界の住人である蔵馬にとって『光』である。
望んで手に入れた訳ではないが……一度その素晴らしさを味わった以上、それを失いたくなどない。
たとえ、妖怪である蔵馬にとって、人間との付き合いなど
「そして、それは幽助にとっても同じ事だ。アイツもまだまだ強くなるが間違えれば戸愚呂の様になってしまうかも知れない……」
戸愚呂は幻海に、もう少し幽助のお守りをしてやれと言い残したらしい。
しかし、幻海は死期が近い。
だからこそ後継者を募ったのだから。
「本来はいずれ俺がやるつもりだった。今は姉さんよりも弱いが、俺もいつまでも下に甘んじるつもりはないからな」
直江大和となる前、妖狐としての蔵馬は今の幽助や百代より遥かに強かった。
妖狐の力を取り戻しつつある今、あと数年を待たずしてかつての力を取り戻せるだろう。
「しかし、幽助はともかく姉さんは少々危険度が増している。学長は山に連れて行き晴耕雨読をさせる事で精神修行をつけるつもりだったようだが、それはその場凌ぎでしかない」
ならば、今のうちに2人を出会わせれば一石二鳥だろう。
百代は自分よりも強い存在を…。
幽助はうかうかしていれば、再び自分を追い抜く存在を…。
それぞれ得る事が出来れば…。
闘う相手を失くし、鬱屈した日々を送るよりも遥かに堕ちる可能性が減るだろう。
「つまり大和は、モモ先輩が無敗であるよりも、今後もずっと風間ファミリーの仲間として生きて往きたいって事だよな」
「ああ、そうさキャップ。お前だってそうだろう。冒険に行ってスリルを味わう事を望んでいるが、帰る場所に帰って自分の経験を語る相手が居て欲しいだろう?」
「そうだな。冒険と同じくらい、ファミリーは大切なモノだからな!」
翔一の返答にファミリー全員が頷いた。
卓也も納得した様だ。
蔵馬は、今後も自分達が仲間であり続ける為に、手を打ったのだどいう事を。
「流石、僕たちの軍師だね!」
★☆★
互いにぶつかり合いながらも、幽助と百代は蔵馬たちの会話を聴いていた。
「…大和の奴。余計なおせっかいを…」
「そう言いながらも顔が緩んでるぜ」
口では文句を言いながらも、確かに百代は嬉しそうであった。
子供の頃、蔵馬の事を気に入った百代は彼を舎弟にする時「自分について来い」と言った。
蔵馬の返答は「後ろではなく並んで歩きたい」と答えた。
武力では自分に敵うまいと思っていたが、蔵馬は知力だけでなく、武力においても自分を支えられる程の強さを持っていた。
そして今、戦闘衝動を持て余し、内心で苦しんでいた自分を救おうとしてくれている。
「
蔵馬と幽助の出会いは、不治の病に侵された母の命を救う為に、盗賊家業に戻った時である。
母親の命を救う為に、蔵馬は命を掛けていた。
そして、そんな蔵馬にとって、今の自分を作り上げた風間ファミリーも両親と同等の存在なのだ。
「アイツを楽に倒す為に、親やアンタ等を人質に捕ろうとした奴等は、皆、悲惨な目にあってるぜ…」
蔵馬の両親と風間ファミリーに手を出すという事は、自らの死刑執行書にサインをするのと同義である。
六遊怪チームの呂屠の様に……。
百代は蔵馬がそんなにも自分達を大切にしてくれている事を再確認し、嬉しさを隠し切れなかった。
百代は、蔵馬の姉貴分であるという事に執着している。
京など他の風間ファミリーの面々が蔵馬にじゃれ付くのは一向に構わないが、自分の『姉』としての立場を脅かす存在には、警戒心を抱いている。
松永燕などがその筆頭であり、燕は友人として、闘いたい相手としては気に入っているが、その件に関してだけは気に喰わないのだ。
そんな弟が、自分の事をこれほど想い、支えてくれている。
(あいつは、まだ私と並んで歩むという約束を忘れていなかったんだな)
幸せな気分になった百代だったが、今はこの闘いだ。
今のままではやはり目の前の相手には勝てない。
この闘いの中で、百代は確かに更なる強さを得た。
しかし、それでも由紀江の指摘した通り、まだまだ幽助には及ばない。
それに、もはや体力も限界が近くなっている。
ならば…。
「……!?」
百代が正拳中段突きの構えを取った。
「この一撃に、私は残っているすべての力を込める……受けてもらえるか?」
今のへとへとの状態では、相手に攻撃を当てることさえ難しい。
ならば、相手にあえて真っ向から受けてもらうしかない。
そして、目の前の相手はきっと受けてくれる。
今までの闘いの中、百代は幽助の気質を正確に理解していた。
「…おもしれぇ。だったら俺もこの一撃で決める!」
幽助は右拳を腰の位置付け、左手で右手首を掴む構えをとった。
百代の期待通り、幽助はこの真っ向勝負を受けてくれたようだ。
「いくぞ浦飯幽助!川神流『無双正拳突き』!!」
『無双正拳突き』は、百代にとって代名詞とも言うべき技である。
百代にとって『かわかみ波』よりも、『星殺し』よりも頼りとする必殺技。
今まで何人もの挑戦者たちを屠ってきた技に残る全ての力を込めて、最強最大の
「なっ!?」
そんな百代渾身の一撃を……幽助は腕で受け止め、弾き飛ばした。
「…『霊光弾』!!」
そして霊力に包まれた右の拳を百代の腹部に叩き付けた。
「…ぐぁっ!!」
『霊光弾』の威力に押された百代は、意識を失いそのまま多馬大橋に向かって吹っ飛ばされた。
「「「「「「「モモ先輩!!!!!!!」」」」」」」
「お姉様!!」
このままでは百代の体が、凄まじい勢いで多馬大橋に叩きつけられようとしたその時、見たことも無い巨大な花が橋の前に現れ、飛ばされてきた百代を受け止めた。
花弁がクッションの役割を果たし、気絶した百代は優しく橋の上に倒れこんだのだった。
★☆★
「お姉様、気が付いた?」
「…ワン子……私は……」
数分後に意識を取り戻した百代の目に映ったのは、心配そうに自分を見ている義妹と仲間達の顔だった。
「…そうか……私は……負けたんだな」
百代の呟きを聞き、一子や他のファミリーの面々は悲痛な表情になる。
しかし、百代自身は負けた事自体は悔しいが、それ以外は晴れやかだった。
ここまで全力を出し切り闘えた事など、九鬼揚羽との試合以来だった。
そして、新たな目標を得た事に対する喜びだった。
その目標とも言える人物は、少し離れた所で蔵馬の手当てを受けていた。
「…気がつきましたか姉さん」
「ああ。まだ気は回復していないが、起き上がる事くらいは出来る」
「それは良かった。じゃあこれを飲んで下さい」
幽助の手当てを終えた蔵馬は百代に何やら液体の入った器を差し出した。
「これは…?」
「気が回復するのを促進させる薬湯です。これを飲んで安静にしていれば一時間くらいで『瞬間回復』が出来るほどの気が回復するでしょう……味は保証しませんが、京の超デス辛料理や、クリスが作る稲荷寿しよりはマシだと思いますよ」
「…美味しいのに……大和のいけず」
「どういう意味だ大和!」
味覚が人外レベルの辛党である京が作る料理と、お嬢様育ちでロクに料理も出来ないのに、自分で稲荷寿しを作る暴挙に出るクリスが心外とばかりに文句を言う。
「そのまんま、言葉通りの意味だ。京は自分の味覚が常人と同じだと思わない事、クリスはまずレシピ通りに作る事を考える様に…素人が手順を護らず作る料理など料理に対する冒涜ですよ」
下手な慰めなど言わず、間違ってる事ははっきりと言う蔵馬であった。
さて、そんなどうでもいい事は兎も角、百代もかなりの傷を負っているが、瞬間回復さえ使えれば、あっという間に治ってしまうので、わざわざ手当てなどする必要もない。
何しろ百代は女性である。
手当てするには上半身裸にせねばならず、治療は出来ても医者ではない蔵馬が見るのも抵抗がある。
他の者ならば状況によっては手当てを優先させなければならないが、自分で癒せる百代ならば必要ないだろう。
「…大和の言っていた様に本当に強かった。しかし、これ程の強さを持つ者の名前を今まで聞いた事がない…と、いうのは解せんな?」
「…前にも言いましたが、幽助が姉さんよりも強くなったのは、前の春休みの終わり頃だ。あれからまだ2ヶ月と少ししか経っていない。その間、派手に活動をしていないのに、世間に伝わる筈がないでしょう」
幽助が有名なのは、妖怪達の世界……つまり『闇社会』である。
闇社会の情報は、妖怪の存在を認知している川神鉄心や九鬼財閥ですら、容易に手に入るモノではない。
手当ての済んだ幽助は、ズボンのポケットから箱を取り出した。
言うまでもなく煙草である。
未成年でありながら、周りの目をまったく気にせず煙草を咥え、火を付けた。
「かぁーっ!闘いの後の一服は格別だぜ!!」
「おまえなぁ!どうどうと煙草を吸うな!!」
またもクリスから注意が飛ぶが、幽助はまったく気にしていない。
どうやら会う度に、このやり取りが続く様だ。
「それじゃ、俺は帰るぜ」
「もう帰るのか?」
「螢子の奴がうるせぇからな。百代さんよ、今日は楽しかったぜ。また
「ああ。次は負けない」
こうして『武神』対のちの『闘神』の息子との最初の闘いは終わった。
「なあ、大和」
「なんだい姉さん」
「さっき言っていた事、いつまでも私より弱いつもりはないって本気か?」
「勿論。昔、言っただろう。姉さんと並んで歩く……と、それに俺も一度幽助と闘ってみたいと思っているし、その為には知力で姉さんを支えるだけじゃなく、戦闘力でもいずれ姉さんと対等以上になる必要があるさ」
「そうか」
幽助だけじゃない。
いつかはこの大切で誇れる舎弟も自分の
世の中失望するにはまだ早過ぎた…。
「なら私もうかうかしていられない。浦飯にリベンジする為にももっと腕を磨かねばな」
「うん。お姉様ならば、絶対浦飯君を倒せるよ!」
「頑張ってモモ先輩!」
「自分も応援するぞ!」
「私も負けていられません」
「大和もな」
新たな目標を掲げる百代にファミリーが激励しているのを、引きつった顔で見ているのが一人いた。
(…モモちゃん打倒の先を越されるし、しかもモモちゃんもこれ以上強くなりそうだし……大和君も余計な事してくれたなぁ。依頼達成成らず…かぁ)
百代敗北の報は義経あたりから、九鬼にも伝わるだろう。
ならば、燕に課せられた依頼も恐らく取り消されるだろう。
松永の家名を高め、九鬼との深いパイプを築けるという目論見が台無しになってしまった。
「松永先輩。どうしました?」
「ううん。何でもないよ」
義経の気遣いに笑って応え、燕は大和を見た。
(でも、ますます興味が出てきたよ大和君)
その気は無くても自分の目論見を無に帰させた
何とか自分の方に振り向かせたくなった。
(私を本気にさせた事、覚悟してもらうよん大和君。そしてモモちゃん…こっちでは絶対に負けないよ)
と、言うわけで幽助対百代が終わりました。
そして、燕が本格的に蔵馬に興味を抱きました。
私はまじこいヒロインでは燕が一番好きです。
なので、これからの展開、彼女をひいきする可能性が高いです。
さて、次回は……まだ考えてません。
ドラゴンボール超の放映が始まった事だし、そろそろ、放置している『時空を越えた超戦士』や『DRAGONBALL_IF』を再開しようとも考えていますので、気長にお待ちください。