川神百代と浦飯幽助とバトルから数日が過ぎた。
ここ、九鬼の会議室では、現在、久しぶりに帰国した九鬼の総帥である帝とその妻、局、帝の子である揚羽、英雄、紋白、そして本部に勤務、もしくは出張で来ている序列2ケタ以内の従者部隊による会議が開かれていた。
議題は勿論、『武神』川神百代の敗北と百代に勝利した浦飯幽助の件である。
「たいしたもんだな。今までまったく名が売れてなかった男が、あの武神を倒すとは…」
帝が関心した様に言う。
武神の強さは知れ渡っており、九鬼関係でも百代と対等に闘えるのは同じ武道四天王である揚羽と義経、揚羽の師であり百代の祖父、鉄心のライバルだった序列0位、ヒューム・ヘルシング、そして序列4位、ゾズマ・ベルフェゴールのみ。
「九鬼の情報網で調べた浦飯幽助の詳細は、お手元の書類をご覧ください」
参加者に配られた書類には、幽助のデータがそれなりに詳しく書かれていた。
浦飯幽助。
皿屋敷市に在住する中学生。
市立皿屋敷中学校に在籍。
皿屋敷中学校の学区と、三図野川を挟んだ対岸にある累ヶ淵中学校ではそれなりに名の知れた不良学生である。
万引き、カツアゲ、喧嘩、補導の常習犯であり、いい噂はまるで聞かない。
しかし、昨年の12月に車に撥ねられそうになった子供を庇い、死亡……そしてその日に行われた通夜の後に心臓が再び動きだし、約一月眠り続け、目を覚まし、皿屋敷中学に復学している。
「医師の死亡診断後に生き返るってすげぇな」
「普通、心肺停止後の蘇生は10分を過ぎるとほぼ0%なんですがね…」
「しかし、それ程の事があったのに、何故ニュースにならなかったのか?」
「何者かが情報規制を行った…?」
それ程のニュースなのに、全国ニュースで取り上げられる事もなく、しかも九鬼の情報網にも引っかからなかったというのは、余りにも不自然だった。
「しかし、ここまで素行が悪いとなると、スカウトしても更生プログラムを受けてもらわなければなりませんね」
「…しかし、彼がスカウトを受けるとは思えません」
データを見る限り、誰かに仕えよう等と考えるタイプではない。
「力づくで従え様にも、川神百代以上の強さとなると、ヒューム卿くらいしか対抗できませんからね」
「実際に会った事があるわけではないが、百代を倒したとはいえ俺から見れば赤子だろうが……」
だからとはいえ、確実に勝てるという保障は無い。
川神百代を倒す。
しかも、正面から真っ向勝負でとなると、その実力はヒュームでさえも油断は出来ないだろう。
「…帝様」
一人の従者が挙手した。
「えーっと。お前さんは確か…」
「はい。序列95位の風丸です」
九鬼従者部隊序列95位、風丸。
序列1位の忍足あずみと同じ風魔出身で、少し前までは要人護衛を生業にしていたが、あずみの紹介で九鬼従者部隊に就職する事になった。
「実は九鬼に入る前に、私はその浦飯幽助という男と戦ったことがあります」
風丸はかつて、幻海師範の奥義継承トーナメント準決勝で幽助と対戦し、最後の最後で逆転負けを喰らっていた。
「ほぅ。その浦飯というのはあの幻海の弟子なのか」
ヒュームも幻海とは何度か面識があり、一度九鬼にスカウトした事があったが断れていた。
「…風丸に辛勝だったのに、半年も経たない内に武神を倒せるだけレベルアップしたって事ですか」
あずみは同郷ゆえに風丸の実力を知っている。
忍者としての実力では、あずみと風丸は、ほぼ互角である。
それ以外の能力も高く、その証拠に従者部隊に入ってすぐ序列2ケタを任させれる程のモノだ。
あと数年もすれば、風丸の序列はステイシーや李と同じくらいになるだろう。
しかし、それでも川神百代の相手にはならない。
「幻海様の弟子という事は、その浦飯様は霊能力者という事になりますね」
幻海の霊光波動拳は、霊能関係の武術。
霊能力関係の武道家としては、彼女はトップレベルである。
古来より、妖怪退治は陰陽師、修験者、仏僧などが行ってきたが、幻海や鉄心の様に霊能力の素養を持つ武道家もその役割を担ってきた。
ヒュームや百代の様に素養を持たない武道家が妖怪退治をするには強さの覚醒を起こし、『壁越え』に達する必要がある。
百代は『壁越え』レベルの中でもずば抜けた実力でありながら、強さの覚醒には至ってないというイレギュラーだったが、幽助との闘いで覚醒が始まり、D級レベルの高等妖怪ならば、闘えるようになった。
ちなみにヒュームが対抗できるのはC級妖怪までである。
既に現役を引退した鉄心よりも、未だ現役であるヒュームの方が今は実力が上なのだが、対妖怪戦に関しては鉄心の方が上である。
「それともう一つ。義経たちからの報告に妙な事が…」
何でも川神百代対浦飯幽助の勝負の折、一般人がまるで近づいてこなかったという点である。
警備の為に、市内に散らばっていた従者達もその時間は何故か、多馬大橋周辺に近づこうとしなかったのだ。
「…何者かが結界を張ったと考えられます」
「それと関係あるのかは解りませんが、実はその当時、多馬大橋近くに綾小路卿が居られたとの事です」
日本御三家の一つ、綾小路家の当主、綾小路大麻呂。
その息子が川神学園で教職に就いているとはいえ、彼が来るという情報は九鬼にも届いていなかった。
なにやら、急ぎで川神に来たようだ。
「あと、そもそもこの2人の闘いを仕込んだのが、川神学園2年の直江大和だという事です」
「直江大和……確かあの直江景清の息子で、2年の学年首席の双璧だったな」
「はい。しかも、もう一人の首席である葵冬馬はSクラス在籍なのに対し、直江大和はFクラス…それで首席なのですから、能力で言えば葵冬馬以上とも言われています」
SクラスとFクラスは授業内容に違いがある。
選抜クラス故に授業内容が濃いSと緩いF。
その違いがあるにも関わらず、首席である。
直江大和の能力は間違いなく本物である事は、彼を疎んでいるS生徒たちも認めざるえないのだ。
「あと、彼は浦飯幽助から『蔵馬』と呼ばれているそうです」
「…何っ!?蔵馬…!?」
この報告に帝が反応した。
「父上…何か心当たりが?」
「…いや、昔そんな名前の力士がいたなぁって…」
「…字が違います帝様」
結局、今回の会議において決定されたのは、浦飯幽助に対しては現段階では不干渉となった。
彼は、素行が悪いとはいえ、まだ中学生であり、ヒュームも一目置く幻海の弟子であるため、今はまだ九鬼が出しゃばる必要は無い…という結論であった。
「では、次の報告です。今年の4月において、大勢の富豪が死亡、もしくはいきなり無一文になった件についてです」
今年の4月上旬。
かなりの数の日本の富豪が死亡、生きている者も無一文となり、その家族が路頭に迷うという事が起こっている。
最もほぼすべての富豪達は悪徳業者であり、裏はおろか闇の力も使っていたとの情報が入っている。
「死亡した富豪の大半は、『
『ブラック・ブック・クラブ』とは、闇の力を利用して富を得た富豪達の集団である。
彼らは妖怪たちを使って暗躍しており、九鬼ですらもそう簡単に手を出す事は出来なかった。
「B・B・Cの大物である左京も死んだという情報も入っています」
「…あの左京が…か」
珍しく帝が難しい顔になった。
帝と左京は歳が近く、何度か面識がある。
基本、おおらかで懐が深い帝も、左京の異常性には警戒していたのだ。
左京のそれはキレている…というよりも脳味噌が腐っている。
左京に対する帝の評価はそれである。
奴は何れ大それた事をやらかす……恐らくそれは自分自身をも巻き込む大規模な破壊行為だろう…と。
奇しくも帝は、コエンマと同じ評価を左京に下していた。
左京を危惧した帝は何度か、彼の悪行を晒し、失脚させようと従者部隊を何度も差し向けた事があった。
左京が闇の力を利用しているのは知っていたので、従者の中でも選りすぐりの霊能者たちを選抜したのだが、その全員が無慚な死体となって返ってきた。
残念ながら、序列1ケタの中に霊能者が居なかった。
そんな左京が死んだとは……帝からしても予想外だった。
「原因は解らないのか?」
「…残念ながら…」
「九鬼の力でもわからないとなると……やっぱり妖怪関連か…」
もはや世界最大の財閥となった九鬼が唯一、それほど深く関われない闇社会。
今まで九鬼にとって脅威であった左京と『B・B・C』が潰れたのは、九鬼にとっては僥倖なのだが、何故、彼らが潰れたのか、その原因を突き止める必要がある。
左京たちだけでなく、下手をすれば九鬼にも危機が迫る可能性があるのだから…。
今までは何とかやり過ごしてきたが、本格的に対抗手段を得なければならない時期なのかも知れない。
「…蔵馬……まさかな」
会議が終わり自室に戻った帝は、幼い頃に体験した不思議な出来事を思い出し、ぼそりと呟いた。
★☆★
一方、その頃。
蔵馬は妖怪達の溜まり場を訪れていた。
川神に生息する妖怪達は完全に蔵馬に屈服し、完全に服従しており、先の暗黒武術会での観戦も行わなかった。
蔵馬の恐ろしさを知っている為、蔵馬が武術会で死んでくれる等と楽天的な考えなど持たず、下手に観戦して、浦飯チームに対し敵対行動を取り、蔵馬から睨まれるのを恐れた為である。
「真新しい情報はあるか?」
「…これだ」
蔵馬の要請に従って、最近の人間界の情報を集めていた妖怪が、その結果を報告した。
ちなみにこの妖怪は川神在住の妖怪ではなく、情報を売買する情報屋である。
この妖怪は力はたいした事ないが、情報収集能力に関しては人間界のどの諜報機関よりも優れている。
蔵馬も最近は、人脈と自身の使い魔だけでなく、この妖怪から情報を買う事にしていた。
「……成る程…この情報を把握しているのは?」
「人間のどの組織もまだ掴んではいない。内調も、九鬼もな…」
この情報の限りでは、もはや世界最大の財閥ともいえる九鬼にとって、獅子身中の虫だが、九鬼がそれに気付いていないとなると大したモノだ。
問題は、これが蔵馬や風間ファミリーにとって有害なのか無害なのかである。
「少なくとも、俺達に直接関わる事はないだろうが……それにしてもこの情報の男……気に入らんな」
「ああ。この人間…随分と思い上がっていやがる」
「まあ、此方にちょっかいをかけて来れば、それ相応の報いをくれてやるだけだ…。それにしても、まさかあの人の父親がな…」
面識はないが、蔵馬はこの人物を間接的にだが、知っているようであった。
情報を貰った後、島津寮に帰宅した蔵馬は、部屋でクリスお気に入りの時代劇『大和丸夢日記』第12作のDVDを彼女と共に視ていた。
第12作は、行き詰まり視聴者離れが進んだ第10、11作の汚名を晴らすべく、第1作のスタッフが再集結し、原点回帰した重厚なドラマが展開し、前々作に幻滅し、離れて行った従来のファンを再び呼び戻した名作であり、蔵馬の一番のお気に入りである。
「行け―――ッ大和丸!」
隣のクリスは何度も視聴しているにも関わらず、エキサイトしている。
物語も終盤を迎え、いつものお約束の殺陣シーンに入ろうとした時、蔵馬の知覚が反応した。
(…今のは!?)
「クリス。俺は急用が出来たから出掛けてくるから、気が済むまで視ていていいぞ」
「わかった」
時代劇に集中している為、特に疑問にも思わず了承したクリスを残し、蔵馬は夜の街を屋根伝いに駆けていった。
★☆★
九鬼帝は一人、佇んでいた。
本来ならば、彼にはどんな時でも従者の誰かが護衛として付いているのだが、今回は本当に一人である。
あのヒュームすらも撒いて、一人きりなるなど流石といえるが、この後、妻の局を筆頭にヒューム、マープル、クラウディオ、ゾズマ達から集中的に説教を受ける事になるのだが、今はとりあえず、ある目的の為に、一人となったのだ。
それは幼少の頃に出会った一人の妖怪と再会する為である。
「ほぅ、あの時の約束通り、一人で会いに来るとは思いませんでしたよ」
帝の前に現れたのは、彼が思い描いた相手ではなく、息子と同年代の少年だった。
「…確か、直江景清の息子の直江大和だったな…ここで何しているんだ?」
「フッ…お前が俺を呼んだんだろう。あの時の小僧が随分と偉そうになったモノだな」
「……やっぱり……直江大和はアンタだったのか…蔵馬」
「久しぶりと言って置こうか小僧……いや、九鬼帝…」
そう、かつて帝が出会った妖怪とは、妖狐蔵馬であった。
本来ならば活動報告で予告したとおり、義経の話にするはずだったのですが、A-5
をプレイして、義経の伝承技「遮那王逆鱗」が未完成の理由が判明し、これでは考えていた話には出来ないと判断し、没にしました。