金曜集会。
それは休日前の毎週金曜日の夜に秘密基地に風間ファミリーの面々が必ず集まる日である。
この集会の発端は、中学の頃に京が家の都合で山梨県に転校してしまったが、京は毎週金曜日に電車を乗り継いで泊まり込み遊びに来ていたので、ファミリー全員が秘密基地に集まっていた。
ちなみに宿泊先は川神院なので、京も川神院の準門下生扱いである。
他県に行った京だけでなく、中学時代は皆、クラスがバラバラだったので、金曜集会は重要だったのだが、高校生となり、京が島津寮に入寮し、更に三年生の百代を除いたメンバー全員がFクラスになり、一年生の由紀江はともかく、新メンバーのクリスもまたFクラスなので、意義が薄くなっているが、誰も何も言わず、現在も風間ファミリーの定例行事となっている。
金曜集会の初っ端は土曜と日曜に何をして遊ぶのかを決めるのだが、今日は違った。
一子から受け取ったノートを蔵馬が見て、緊張した表情で一子がそれを見つめていた。
「よし、誤字、脱字も少ししかない。これくらいなら許容範囲だ……合格!」
「…良かった~~~~~ッ!」
蔵馬からの合格判定に、一子がホッと息を吐いた。
先の勉強会のとき、小賢しい逃亡を図った一子に対する罰として、蔵馬は大量の宿題を一子に出した。
「大和の鬼ーーー!」
「逃げようとしたお前が悪い!」
ちなみにその宿題をしなければ、早朝の基礎鍛錬以外の修行を一切禁止。
鉄心やルーもそれを了承した。
修行は一日サボると、取り戻すのに三日掛かると言われているので、早朝の基礎鍛錬だけは許可したが、川神院師範代を目指す一子にとって、修行を禁じられるのは厳しく、しかも総代である祖父と師範代であるルーが認めた以上、いくら抵抗しても無駄なので、一子は半泣きで宿題をする事になった。
「心配するな。きちんと宿題をしたんだから、当然ご褒美を用意している」
「えっ!?何か美味しい物を御馳走してくれるの?」
蔵馬からのご褒美と聞くとすぐに食べ物を連想する一子。
調教の手段として餌付けをよく用いられている故の条件反射であった。
「いや、それでもいいが、修行の遅れを取り戻す為に出稽古の用意がしてある。無論、学長の許可もとってある」
出稽古と聞き、一子の顔がバッと明るくなる。
川神流は本来、修行の公開などしない御留流派である。
鉄心の代になって、その規制はかなり緩くなり、一部の外部の者に修行を公開したり、他流試合も行われる様になったが、それでもまだまだ未熟な一子にはほとんどその機会が与えられない。
「相手は俺の知り合いの高名な武道家の弟子たちだ。たまたま明日、そこに訪ねる予定だったから、それに便乗して、出稽古を依頼した。彼も快く了承してくれた」
「大和…ありがたいんだが、その相手はワン子の為になるのか?」
一子は風間ファミリーの武士娘の中でも一番弱いし、川神院の門下生の中でもまだまだ未熟者である。
しかし、それでも川神流である為に、一流の武道家でもない限り、そうそう遅れはとらない。
余りに弱い相手だと、一子の身にはならないのだ。
「心配は無用です。ちゃんと学長の許可はとったといっているでしょう。俺の知り合いの武道家は、学長とも親交がある様ですし、彼の弟子は、かつての幽助を苦戦させた相手ですよ」
「何ッ…あの浦飯を…!?」
先日、百代を敗北させた幽助が、かつて苦戦した相手。
それを知り、女性陣の目の色が変わった。
★☆★
翌日、風間ファミリーの面々は早朝から電車を乗り継ぎ、とある田舎町に到着した。
蔵馬と一子だけでなく、風間ファミリー全員で行く事になったのには、理由がある。
まず、蔵馬は卓也に同行を要請した。
訪問先の道場は貧しかったのだが、最近、援助を受け楽になってきた。
そこでパソコンを入れる事になったのだが、詳しい人間がいないので、卓也に指導してくれるように頼んだのだ。
蔵馬もそれなりの知識はあるが、やはりパソコンに関しては卓也の方が上である。
京ほどではないが、人見知りする卓也だが、自分の趣味に関する事では抵抗が薄くなるし、何よりも仲間である蔵馬から頼みなので、引き受けてくれた。
京、クリス、由紀江の三名は、出稽古先の弟子たちが、幽助を苦戦させた相手という事で興味を持った。
浦飯幽助は蔵馬と出会った当初は、京やクリスよりも弱かったらしいが、その僅か3ヶ月の間に、百代よりも強くなったという。
蔵馬の話では、彼らとの闘いの中で幽助は壁越えに至ったというのだから…。
翔一は持ち前の好奇心から、岳人は女子との出会いが無いので余り乗り気ではなかったが、卓也が行くというので付いてきた。
百代は一応、川神院次期総代という立場なので、妹である一子の出稽古先に挨拶しなければならないので、同行した。
到着した蔵馬たちを三人の青年が出迎えた。
「蔵馬さん。お待ちしていました」
「やあ、円、梁、魁。待たせたね」
そう彼らは暗黒武術会二回戦で、蔵馬たち浦飯チームと対戦したDr.イチガキチームに所属していた円、梁、魁の三人であった。
「彼女が川神一子。今回、そちらの道場に出稽古に来た川神院の門下生です。そして総代の代行として同行した姉の川神百代です」
「始めまして、歓迎します川神一子さん。そしてお会い出来て光栄です。武神・川神百代殿」
「此方こそお世話になります」
挨拶を済ませ、道場に入るとそこに彼らの師が待っていた。
「久しぶりですね三田村先生。その後はどうですか?」
「ええ。体調はすこぶる良好だよ」
「それは良かった」
彼らはかつて、師匠である三田村氏の病の治療と引き換えにイチガキの実験に付き合わされた。
しかし、その実験により洗脳された彼らは人間でありながら、ゲストとしてではなく暗黒武術会に参加させられ、幽助たちと死闘を演じされられた。
じつは三田村の病気は、実験の素体を求めたイチガキに毒を盛られたのが原因であったが、蔵馬が症状を見て解毒剤を調合し、洗脳された彼らは幻海の霊光波動拳によって救われたという経緯があった。
今回の蔵馬の訪問は、その後の経過確認であり、そのついでに一子の出稽古としたのである。
「あの三田村先生。私は黛由紀江といいます。先生のご高名はかねがね父上より伺っておりました」
「…黛……。ああ、貴女が剣聖・黛十一段の御息女ですか」
当然、武道家として高名な三田村は川神鉄心や黛大成とも面識がある。
由紀江は川神学園入学前に、武者修行を行っており、三田村道場にも訪問する予定であったが、三田村が病に臥せっていると知り、遠慮したのだった。
さっそく一子、京、クリス、由紀江は修行に参加し、岳人は三田村の弟子の中で自分と同じ体格の者と意気投合し鍛え方について語り合い、卓也はこの道場の事務担当者にパソコンのレクチャー、手持ち無沙汰の翔一は町に繰り出した。
そして、蔵馬は別室で三田村の診断した。
「……はい。もう後遺症の心配もいりませんね。もうこれ以上、診に来る必要はありません。完治です」
「…色々とかたじけないです蔵馬殿。私の解毒だけでなく、あの子たちの就職先の世話まで…」
「いえいえ、九鬼の方も霊能者を必要としていたので、彼らならば九鬼にとっても有用な人材だと思ったので…」
九鬼は以前、左京を探る為に霊能関係の人材を差し向けたが、戸愚呂率いる闇ブローカー達に返り討ちにあって、その数を減らしていた。
あずみの同郷の忍者で霊能力者でもある風丸を従者部隊にスカウトしたが、これから闇社会に対抗する為に必要な霊能者が不足している事、頭を悩ませていた。
壁越えの達人たちならば、ある程度対抗できるとはいえ、やはり霊能力を持った者の存在は必要不可欠である。
その事で九鬼帝から、その手の人材に心当たりがないかと聞かれ、蔵馬はそれならばと、円、梁、魁の三名を紹介したのだ。
何しろ彼らは、六遊怪チームとの対戦で霊丸の連射という高等技術を行った為、不調に陥っていたとはいえ、幽助を苦戦させた実力を蔵馬は高く評価しており、九鬼の援助を受けられれば、二度とイチガキのような輩に付け入られる事も無いだろうと判断したのだ。
「…ですが、危険を伴いますよ。一度、九鬼に所属する霊能力者たちは殉職したらしいですからね。まあ、聞いた所、あの三人にはとても及ばない程度だったらしいですが……」
「…それは彼らも覚悟しています。イチガキの時の様に洗脳され無理やり戦わされるのと違い、自らの意志で望み、果てるのならば、武人として本望でしょう…」
「……武人の
「蔵馬殿にもあるのでは?」
「…さて、俺の本業は盗賊ですから…ね」
口ではそういう蔵馬だが、卑劣な手段や下品な行いで戦いを汚した者に不快感を抱いてる。
Dr.イチガキ然り、傷ついた仲間をあっさりと始末した青龍、親を人質にとった呂屠、卑劣な騙し討ちをしてきた裏浦島など……。
飛影同様、冷酷な盗賊だった蔵馬の心も、両親と風間ファミリー、そして幽助と桑原、いた仲間たちとの交流で、変化してきていた。
今ならば思う。
千年前、かつての副将をあのような手段で切り捨てたが、今の自分ならばもっと穏便な方法を使っていただろう……と。
拙作「幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン」では、イチガキを登場させましたので、今作では彼らに利用された円、梁、魁と三田村先生を登場させました。
それでは後編をお待ちください。