今日は川神学園の入学式&始業式。
蔵馬は入学式の案内役のメンバーに入っていた。
これは、人脈を広げる為に蔵馬が率先して立候補していた。
暗黒武術会に参加する為、入学式の準備を手伝う事は出来なかったので、当日の案内役を買って出る事にしたのだ
父である景清は人脈を駆使して、ビジネスを行うタイプであり、常日頃から人脈を重視する様、息子に教え込んでいた。
無論、魔界という過酷な環境で組織を纏めた事がある蔵馬は、人脈(妖脈?)の力はある程度は認めていたが、力が全ての魔界においては、他者の力に頼りきっていては、侮られてしまうので、己の実力が何よりも必須である。
無論、魔界でも戦闘力はたいした事はなくても、狡猾に立ち回る輩は存在しているが、かつて蔵馬が魔界で勢力を広げようと君臨していた二大妖怪は、まさに己の力のみでその地位を手に入れていた。
しかし、人間界では腕力だけではやっていけない。
人間性はともかく、能力は高い父の手法を己のモノにする。
それが、人間『直江大和』として生きていく為に蔵馬が選んだ道であった。
そして、皆が面倒だと思っている仕事を率先してやる事も人脈を広げるのに役に立つ。
こういう仕事の中で新たな有益な人との出会いに繋がる可能性があるからだ。
その為、蔵馬はいつもよりも早く起床していた。
「大和…入るよ」
「どうぞ」
布団をたたみ、制服に袖を通していたら京が訪ねてきた。
「おはよう大和、好きなんだけど」
「…お友達で…」
と、いつものやり取りを交わしていた。
椎名京。
風間ファミリーの中で現在の時点で一番最後に入ったメンバーであり、蔵馬に心底惚れている少女である。
椎名流弓術の後継者で、その腕前は世界でも五本の指に入る。
蔵馬と恋仲になる為に、それこそ手段を選ばない所があるが、蔵馬に嫌われる事はやらない。
何しろ一度、蔵馬の機嫌を損ね、京にとって最も苦しい思いをした事があった。
去年の事になるが、京は蔵馬の留守中に部屋の中を物色しようとしていた。
(未来の)夫の素行を知るのは妻の責務…と、いう京本人にしか通用しない理由でである。
物色中に、蔵馬が部屋に保管していた希少で扱いが難しい魔界植物の種を不注意から台無しにしてしまったのだ。
幸い人間にとって有害な植物ではなかった為、京に何か被害があったわけでもないが、もし危険な植物だったら京どころか、島津寮で生活している他の寮生と寮母である島津麗子にも被害が出る可能性があった。
流石の蔵馬も激怒し、京を叱って罰として三日間、一切口を聞かなかった。
蔵馬に三日間相手にされなかった事で、京は蔵馬に嫌われたと本気で慄き、三日後ようやく蔵馬が普段通りに接してくれるようになった後、泣きじゃくりながら蔵馬に謝った。
それ以降は、蔵馬の留守中に勝手に部屋に入る事をしなくなった
とはいえ、蔵馬が部屋にいる時は、例え夜中でも添い寝しようと部屋に忍び込もうとはしてくる……のだが、いつも忍び込む前に蔵馬に気付かれ、侵入して直ぐに叩き出されている。
「おはよう大和」
「おはようクッキー」
京の後に部屋に入ってきたのは、世界トップクラスの財閥である九鬼で作られた万能お仕えロボのクッキーである。
現在の楕円型の姿は『お仕えモード』である第1形態から人型の『戦闘モード』の第2形態に変形する可変型のロボである。
なお、第1形態と蔵馬は声質が近いので妙な親近感があるらしい。
「キャップはまだ寝てるのか?」
「今日は珍しくマイスターも早起きだよ…と、いうかよく眠れなかったみたいだよ」
風間翔一。
風間ファミリー最古参メンバーにして、リーダーである。
ちなみに現在のクッキーの主は翔一である。
元々は、九鬼財閥の跡取りである九鬼英雄が想い人に対するプレゼントとしてクッキーを送ったのだが、彼女は英雄を苦手なので「いらない」の一言で蔵馬に押し付けてしまった。
そして、いつの間にか翔一のモノになっていたのだ。
「……新学年前夜に眠れなくなるなんて、キャップは小学生か?」
頭はそれほど悪くないが、勉強する事が嫌いな翔一でも新年度の始業式は楽しみだった様だ。
「新入生の中に面白れー奴がいるかも知れないからな!」
「だからといって、入学式初日に判るモノでもないだろう」
「いやいや、面白れー奴ってのは目立つもんだぜ」
「……まあ確かに、身近な例があるか…」
蔵馬は呆れながら翔一を見つめていた。
確かに目の前の男と九鬼財閥の御曹司は、入学式早々目立っていた。
「キャップを見つめる大和。美味しいんだ!」
京はBL小説が大好物な為、そういう場面を見るととても喜んでしまう。
例えそれが想い人である蔵馬であっても、別腹らしい。
「朝っぱらから、騒がしいぞ!さっさと飯を食いに来い!!」
食堂から男が不機嫌そうな顔で文句を言いに出てきた。
源忠勝。
島津寮の寮生の中で唯一、風間ファミリーの一員ではない男である。
しかし、ファミリーとまったくの無関係ではなく、最古参メンバーの一人と同じ孤児院出身であり、翔一と蔵馬からファミリー加入を要請されているが、彼自身はつるむ事を嫌い承諾していなかった。
「おーゲンさん。俺達が来るまで待っててくれたのか」
「勘違いするんじゃねぇぞ風間!先に食って後でグチグチ文句言われるのが鬱陶しいだけだ!おい直江。しっかりコイツのお守りをしとけ!!」
「ああ。すまないなゲンさん」
仲間から話は聞いていたので、翔一も蔵馬も初対面時から忠勝に対し、好意的に接しており、翔一は蔵馬と同じくらい忠勝に懐いていた。
そんな翔一を鬱陶しがりながらも、その生来の人の良さで何かと翔一に対し、文句を言いながらも世話をしていた。
そんな忠勝を蔵馬は気に入っていた。
忠勝の方も、蔵馬に対してはある程度信頼を置いているのでそれほど邪険な態度を取らない。
★☆★
朝食を終えた蔵馬たちは登校する為、外に出た。
忠勝は、蔵馬達よりも先に登校していった。
「よぉ~大和。おはよう」
「おはようガクト」
「今日も俺様の筋肉は絶好調だぜ!」
島津岳人。
この島津寮の寮母である島津麗子の息子である。
その鍛え上げた筋肉が自慢で、それを維持する努力は欠かさないが……その肉体が仇となり、女にモテないという哀しい男である。
最も蔵馬はつい最近、これ以上の規格外の筋肉を持つ男を知ったので、岳人の肉体は平凡の範疇に入ってしまっているが。
「おはよう大和。旅行楽しかった?」
「モロ…おはよう。まあそれなりにな」
「まあ、春休みだから宿題もないからね。ガクトたちの心配をしなくていい分、羽をのばせたのかな」
師岡卓也。
ファミリーのエンターテイメント担当で、パソコンなどに強い。
個性豊かなファミリー内で常識人に最も近い。
「おいモロ。俺様がいつも大和に心配させているって聴こえるぜ」
「…自覚なかったのガクト。いつも夏休みと冬休みの終わり頃、ワン子と一緒になって大和や京に泣きついているでしょ」
岳人と卓也は、幼稚園前からの付き合いであり、ファミリー内で最も長い付き合い同士である。
その為、普段は気弱な卓也も岳人にだけは、遠慮無しにズバズバと意見を言う。
一歩間違えば、苛めっ子と苛められっ子の関係になりそうなコンビ故に、今の関係は奇跡とも言えるかも知れなかった。
登校途中の道に人だかりが出来ていた。
この場所で人だかりが出来る理由に心当たりがある為、蔵馬たちは急いで駆けつけた。
そこには、とても美しい女学生と、道着姿の無骨な男が対峙していた。
「川神百代殿とお見受け致す。私の名は牙野。あらゆる格闘技をマスターしております。是非、名高い川神鉄心殿と手合わせ願いたく参上した。条件として貴女に勝てなければ勝負できないと言われ、挑戦させてもらう」
「勝負は今ここで行おう。格好はこのままで構わない」
「私は相手が女子学生と言えど全力を出させてもらう。貴女からはとてつもない闘気を感じるし、強さに年齢は関係ないからな……あの少年の様に…」
川神百代。
武の総本山『川神院』の娘にして次期総代。
生ける武神と言われる祖父、川神鉄心から『武神』の称号を受け継いでおり、その強さは妖怪で言えばB級上位クラス、つい先日、暗黒武術会で幽助と闘った戸愚呂(弟)100%とほぼ同格。
当然、蔵馬も(直江大和としてでは)敵わない実力者である。
「では参る」
牙野が構えるとその腕の筋肉が異常に発達していく。
「食らえ川神百代!『大腕硬爆衝』!!」
その発達した筋肉を用いるラリアットが百代に放たれるも、百代はそれを片手で易々と受け止めた。
「な…何!?」
「いや~中々の威力だ。ちょっと腕が痺れたぞ」
「ち…ちょっと…だと…」
牙野は自慢の必殺技を易々と止められ動揺する。
「それじゃあこっちは美少女らしく、川神流『無双正拳突き』!!」
「ぐぼぉあ!!」
百代から放たれた正拳突きを顔面に喰らい、牙野は数m吹っ飛ばされ、失神した。
「ありがとうございました」
気絶した牙野に対し礼をすると、携帯で川神院に連絡し、牙野の回収を指示する。
これが無法者ならば、そのまま放っておくか制裁として痛めつけるのだが、正式な挑戦者に対するアフターフォローはしっかりとしていた。
「いや~今回の相手はそれなりに手応えがあったな」
あらゆる格闘技をマスターしているという話はどうやら本当であり、これからの修行次第では『壁超え』の強さに達せるかも知れない。
「キャーモモ先輩」
「相変わらずの無敵の強さ」
観戦していたギャラリー達が喝采を上げる。
百代はその圧倒的な強さと美貌により、男女問わずファンが多い。
無論、その強さ故に彼女の事を恐れている者も多いが、それ以上に彼女に心酔する者が多い(川神学園限定だが)。
「おおー弟、今回は遅いお帰りだな」
蔵馬の顔を見て、すぐに皮肉が飛んできた。
どうやら、蔵馬が春休みの間、川神を離れていて、構えなかった事に拗ねているらしい。
蔵馬と百代は、幼い頃に師弟関係を結んでおり、百代は蔵馬の姉貴分として舎弟となった蔵馬にベタベタ構って来る。
実際的には年上である蔵馬も、その関係を了承し、百代の事を「姉さん」と呼んで相手をしていた。
「キャー、モモ先輩と直江君。学園一の美少女であるモモ先輩とエレガンテ・クワットロの一人の直江君のツーショット。目の保養になるわぁ」
エレガンテ・クワットロ。
それは、川神学園に在学する男子生徒の中から、上位四人のイケメンに与えられる称号である。
蔵馬と源忠勝はそれに名を連ねており、後二人は同級生と上級生にそれぞれ一人ずつにいる。
ちなみに翔一は次点で、3年が卒業した来年には彼もエレガンテ・クワットロに名を連ねるだろうといわれている。
無論、新一年生に彼を上回るイケメンが現れなければの話だが。
最も、蔵馬も翔一も忠勝もこんな称号を欲しいなどと露ほども思っておらず、どうでもいい事ではあるが…。
特に人脈を大事にする蔵馬にとって、これは余計な軋轢を生みかねない事象なので、特に気を使わなければならず、正直鬱陶しい。
妖狐時代ならともかく、人間として暮らす今は、世間体はある程度保たなければならないから特に…。
「みんな―――おはよう!」
タイヤを引き摺りながら、元気に蔵馬たちに近づく少女。
川神一子。
旧姓岡本一子。蔵馬と翔一と共に風間ファミリー最古参メンバーの一人。
元々は源忠勝と同じ施設に居た孤児であり、岡本という名の老婆に引き取られ、そのときに蔵馬たちと知り合った。
その後、岡本が亡くなった後、一子を気に入っていた百代が、祖父を説得し、川神院に引き取られる。
一子はその事にすっかり感激し、百代をお姉さまと呼んで慕っている。
「おはようワン子」
「今日も元気だねワン子」
ちなみに犬属性な為か、親しい者のほとんどは彼女を『ワン子』と呼ぶ。
「おお、妹!」
「お姉さま。相変わらず凄いね」
「さっきの勝負、見てたのか」
「はい。いずれ私もお姉さまみたいに強くなって、師範代になって総代となったお姉さまのお手伝いをします!」
「……そうか、楽しみにしているぞ」
無邪気に宣言する一子を見て一瞬、百代の顔が陰が刺すが、すぐに満面の笑顔になり、一子の頭を撫でた。
それに気付いたのは蔵馬のみであった。
(…姉さん、ワン子)
その理由に心当たりがあるものの、今は自分が口を出す必要はないと思い、蔵馬も笑顔で一子と接するのだった。
決闘の場所からすぐ近くに、大きな橋が見える。
この橋は多馬大橋といい、この先に蔵馬たちの通う川神学園がある。
ちなみに、変態とのエンカウント率が高い為『変態の橋』とも呼ばれている。
「おじょーちゃん。おいちゃんといい事しないかい?」
「いいことってどんな事?」
「それはね…ぐはっ!」
「この下郎!幼女は愛でるモノだ」
などというやり取りも毎日の様に起こっている。
「大和」
「ユキ…お早う。相変わらず美人さんだな」
「ウェーイ!」
榊原小雪。
かつて蔵馬が気まぐれに仲間に引き入れた少女。
正式に風間ファミリーのメンバーに入っていないが、一時期、皆とも一緒に遊んでいた為、メンバーの中でも閉鎖的な京や卓也にも受け入れられている。
後で知ったことなのだが、蔵馬と知り合った頃、彼女は親から虐待を受けており、蔵馬たち遊ぶ事を支えにしていたらしい。
虐待の事が表沙汰になり、彼女の親は親権を失い、葵紋病院の榊原という医師に引き取られ、今の姓になったという。
故に彼女は、自分を受け入れてくれた蔵馬に対し、感謝の念を抱いている。
まだ、それほど人間に対し情が厚かった訳でない当時の蔵馬から見れば、京の時と同様、本当に気まぐれだったのだが…。
今では、彼ら風間ファミリー+1は、蔵馬にとって掛け替えのない存在となっている。
(暗黒武術会が終わった今、妖怪どもは大人しくしている……特に今回は戸愚呂の件でかなり肝を冷やしているだろうからな。ここしばらくは平穏な日々が続くだろう。ファミリー絡みの騒がしさはあるだろうがな)
だが、それは蔵馬にとって日常であり、安らぎでもある。
この掛け替えのない仲間との日常を守る為ならば、妖狐時代よりも強くもなろう。
幸いな事なのか判らないが、直江大和の身体が妖狐の力を取り戻しつつある。
直江大和のままで、かつての力を使えるのならば、この愛すべき者たちを守りきって見せる。
蔵馬は決意を新たにしていた。
と、言うわけで今回は風間ファミリーの紹介でした。
一応、幽☆遊☆白書とのクロスなのでお遊びとして、百代の挑戦者を幽白のキャラにしました。
まあ、原作を知っている人ならば、このキャラが誰なのかはわかるでしょう。
さて次回は、風間ファミリー新規メンバーであるクリスと由紀江が登場しますが、ほとんどクリスの話になります。