真剣で蔵馬に恋しなさい!   作:神鳥ガルーダ

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明かされた実力

 入学式からしばらくして、風間ファミリーに二人の新規メンバーが加わった。

 ドイツ・リューベックからの留学生、クリスことクリスティアーネ・フリードリヒ。

 北陸の加賀から来た新一年生、黛由紀江。

 クリスは、所謂『日本を勘違いしている外国人』の典型であり、転校初日に馬に乗って登校してくる程である。

 彼女のキャラクターを気に入った翔一が勧誘し、ファミリー入りして来た。

 由紀江は、今まで一度も友達が出来た事がないという、某漫画の京都出身の炎使いの様な少女で、馬の携帯ストラップに『松風』という名前を付け、『付喪神』が宿ったという設定で一人遊びをしているという哀しくも痛い少女である。

 何とか友達が欲しい一心で、メンバーが同じ寮に住んでいる誼で、仲間に入れて貰えるよう懇願してきた。

 賛成多数で仲間に入ってきたクリスと由紀江だが、少し前に諍いを起こしていた。

 風間ファミリーは、とある廃ビルを秘密基地としている。

 ビルの管理をする事を条件に、ファミリーの集い、そして憩いの場として使用している掛け替えのない場所である。

 そこに新規メンバーである二人を連れてきたのだが、クリスの「こんな廃ビルは、さっさと取り壊すべきだな」の一言で、最もこの場所を大事に想っていた京が激昂し、表面上は穏やかだが内心では怒り狂っていた卓也と共に、クリスを仲間から追放しようとさえした。

 無論、二人ほどではないが他のメンバーもクリスに対し怒りを感じており、更に由紀江のあまりにも己を卑下する態度に対しても、岳人から駄目出しが出た。

 その時は、蔵馬がなぜ皆が怒っているか理解できていないクリスを諭し、理解したクリスが京を始め、他の皆にも謝罪したので、京以外はそれを許したので、事なきを得た。

 ちなみに何気に後々まで根に持つ性質(たち)の京は今後、事あるごとにこのネタでクリスを弄るので、彼女はすっかりこの件がトラウマになってしまうのだが…。

 

 ★☆★

 

 GW。

 蔵馬達風間ファミリーは、箱根に旅行に来ていた。

 

「ねー大和。景色が綺麗だよ」

 

 風間ファミリーのゲストである榊原小雪も参加しており、大好きな蔵馬

の隣ではしゃいでおり、それに対抗し京も反対側の隣に陣取り、蔵馬にちょっかいをかけて、蔵馬を苦笑させていた。

 そんな蔵馬を後ろからクリスが見つめていた。

 彼女にとって、蔵馬…直江大和は友人ではあるが、心から認められる存在ではなかった。

 先の秘密基地の件のおり、自分を諭してくれた事には感謝しているが、彼の普段の行いは、正々堂々を旨とするクリスからすれば、あまり好ましいものではなかった。

 何よりも自分が大好きな時代劇である『大和丸夢日記』の主人公である同心・大和丸と同じ名前なのに、策を弄する事が気に入らないとも言えた。

 無論、クリスとて軍人の娘であり、将来の進路は軍人を希望しているので、計略の重要性は理解している。

 策も無くただ突撃するなど、場合によっては無駄に兵を損なう余りにも愚かしい行為であることなど、百も承知。

 しかし、クリスから見て余りにも小細工が過ぎる蔵馬に対し、口先だけの男という印象が強かった。

 何故、一子や京、小雪はこんな男にあそこまで懐いているのか。

 何故、『武神』とまで謳われるモモ先輩が、こんな男を舎弟としているのか。

 如何に蔵馬が川神学園男子の中で1,2を争うイケメンとはいえ、クリスには理解出来なかった。

 しかし、今回の旅行での出来事で、蔵馬に対する印象がガラリと変わり、そして、如何に自分が直江大和という男を見誤っていたのかを、思い知らされる事となるのだった。

 

 

 

 

 

 旅行2日目。

 蔵馬たちは川釣りに出かけていた。

 ドイツ人であるクリスは、釣りをすることをとても楽しみにしていた。

 ドイツでは自然保護の観点から、釣りをする為に国家試験を受けて免許を取得しなければならないらしい。

 例え釣堀であっても免許が無ければ釣りをする事は出来ない。

 もし、無免許で釣りをすれば200ユーロ(日本円にして約29,000円)の罰金刑及び禁固2年に処されてしまう。

 釣りの前に修行しようと、川から離れる一子と京、そして二人を指導する為、共に行く百代以外の面々は近くに居る虫を釣り餌にし、釣りを始めた。

 釣りは好きだが釣り餌には触れたくないクリスの為に、そういうのが特に気にならない小雪が代わりに餌を付けているのを見ていた蔵馬が、突如鋭い目付きになった。

 

「…………」

「どうした大和?」

 

 横で、次々と魚を釣り上げる翔一が蔵馬の様子に気付き声をかけてきた。

 

「…いや、ちょっと用足しに行って来る」

 

 そう言い残し、山の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 山の中に迷彩服を着た一団が潜んでいた。

 彼らは、何かを監視している風だったが、突然一人がうめき声を上げ、その場に倒れ伏した。

 

「何事です!?」

 

 一団のリーダーらしき女性が叫ぶと同時に、次々と倒れ伏す男達。

 

「他国の軍人がこんな場所で何をしている?」

「お前は確か……直江大和?」

 

 男達を昏倒させたのは蔵馬だった。

 そして、女性は蔵馬の事を知っている様だった。

 

「他国の軍人が、一般市民に過ぎない高校生の名を知っているというのも妙だが……何を企んでいる?」

 

 蔵馬の見たところ、目の前の軍人は、傭兵上がりではなく、正規兵だろう。

 如何に日本が他国に対し腰が弱いとはいえ、こんな観光地に武装した他国の軍人を滞在させるとは思えない。

 ならば可能性としては……。

 蔵馬はこの一団の正体の予測がついた。

 

 

 

 

 

 

 一方、蔵馬と対峙している女性は戦慄していた。

 彼女の名は、マルギッテ・エーベルバッハ。

 ドイツ軍少尉で、クリスにとって姉の様な存在である。

 軍人の家系でその高い能力から『欧州の神童』と呼ばれ、名家であるフリードリヒ家に修行に出されている。

 彼女は、クリスの父であり上官であるフランクから、クリスの護衛を頼まれ、部下の中でも精鋭たちを率い、この箱根に潜伏していた。

 そんな折、中々に腕の立つ二人の少女が組み手をしていた。

 クリスお嬢様の友人となった川神一子と椎名京。

 マルギッテから見ても、なかなか骨のあるサムライガールだ。

 戦闘狂の気のあるマルギッテは、彼女達に手合わせしようと動こうとした。

 そのとき、連れて来た部下達が何者かに昏倒させられた。

 しかも自分にまったく気付かせずに。

 連れてきた部下たちも彼女が隊長を務める『猟犬部隊』ではなかったとはいえ、それでも軍の精鋭たちであるにも係わらず…。

 マルギッテは、優秀な能力を持っている故に少々自信過剰な面がある。

 その自分に気配すら察知させずに軍の精鋭たちが倒されたのだ。

 彼女のプライドを傷つけるには十分だった。

 何より彼女は先ほども記した通り戦闘狂。

 強い者を見ると、命令違反を冒してでも闘いたがる癖がある。

 

「Hasen!Jage!!」

 

 問答無用とばかりに、マルギッテは蔵馬に襲い掛かった。

 マルギッテの突きが蔵馬の鳩尾に迫る。

 蔵馬は後方に跳んでそれを躱すも、追撃の蹴りが蔵馬の腰に向かって放たれる。

 しかし、蔵馬は回転しながら身を捻り、それを躱す。

 次から次へと繰り出されるマルギッテの攻撃を蔵馬はすべて紙一重で躱していた。

 

「避けるのは巧い様ですが、防戦一方では私には勝てないと知りなさい!」

「フッ…そう思いますか?」

 

 蔵馬の余裕の態度を訝しむマルギッテだったが、ハッとなった。

 

「……成る程。私をあのサムライガール達から遠ざけるのが目的でしたか」

 

 蔵馬はただマルギッテの攻撃を躱していたのではなく、場所を移動することで一子や京からマルギッテを遠ざけるのが目的だった。

 

「どうやら一筋縄ではいかない相手のようですね」

 

 マルギッテは自身が最も頼りとする武器であるトンファーを取り出す。

 相手が武器を手にしたの確認すると、蔵馬は地面に生えている草を二本引き抜いた。

 

「…まさかその雑草で私と戦うつもりですか?」

「そのつもりですが」

「私を侮るか!」

 

 流石に怒り心頭となったマルギッテのトンファーによる嵐の様な乱撃が蔵馬に迫る……が…。

 

「な…何!?」

 

 何と蔵馬は雑草の一振りでマルギッテの左手のトンファーを切断してしまった。

 マルギッテのトンファーは超一流の職人が世界最硬の木で作られたモノである。

 それにマルギッテの技巧が加われば、たとえ刀剣類を持ってしてもそう簡単に切断など出来る代物ではない。

 しかし、相手の得物が雑草だという油断がわずかにその技巧を鈍らせてしまった。

 蔵馬は植物ならば、どんなモノでも武器に変えてしまう。

 例え雑草でも蔵馬にとっては鉄を切り裂く鋼のナイフと化す。

 実は蔵馬は何気に武芸百般である。

 盗賊妖怪として数百年の間、用途に応じて様々な植物を武器に変えて戦ってきた。

 その経験によってどんな武器をも使いこなせる様になっており、その技量は一流であり、最も使用頻度を多い鞭に関しては超一流なので、器用貧乏という訳でもない。

 そんな蔵馬の放つ斬撃は飛影ほどのキレはないが、油断しているマルギッテのトンファーを切断するなど造作もなかった。

 

「…何やら得体の知れない力を持っているようですね。ならば容赦しません!」

 

 マルギッテは眼帯を外し、自らに掛けていたリミッターを解除した。

 

 ★☆★

 

 釣りをしている最中、突然由紀江が「誰かが戦っている」と呟いたのがきっかけだった。

 一子と京の鍛錬を見ていた百代もそれに気づいたらしく、二人を連れて皆と合流した。

 そして彼女達は、複数の男達が気絶しているのを発見した。

 男達の傍らに、一人の男性がいる事も…。

 

「父様!?」

「おお、クリス」

 

 その男はクリスの父であるフランク・フリードリヒだった。

 何故、彼とドイツ軍がここにいるかというと、親馬鹿全開のフランクが、友人と旅行に出た事を心配し、護衛として精鋭を派遣させていたのだった。

 職権乱用も甚だしいが、娘の為ならだ第三次世界大戦を引き起こす事すら辞さない男なので、むしろこれくらいは通常運行なのかもしれない。

 

「どうやら外傷は無いようだな」

「ええ、全員一撃で気絶させられたようです」

「まさか、我が軍の精鋭たちが何の抵抗もせず、倒されたの言うのか?」

 

 倒れた男達を診ていた百代と由紀江の発言に、フランクは驚愕した。

 最精鋭の猟犬部隊には劣るとはいえ、それでも精鋭揃いの部下があっさりとやられた事に戦慄を感じていた。

 

「ねぇ大和は?」

 

皆と釣りをしていた筈の蔵馬の姿がない事に気付いた京の言葉に皆がハッとした。

 

「そういえば用を足すって言って何処かに行ったきり、戻ってきてないよね」

「おいおい。それじゃあ大和の奴、この軍人達を倒した奴に襲われたのか?」

 

 卓也と岳人の懸念に百代と京が焦燥感を抱く。

 彼らも蔵馬がファミリーの男子の中で一番強い事は知っている。

 小学生の時、ある方針を巡り蔵馬と岳人が対立し喧嘩に発展したが、その時は蔵馬が体格の違いを物ともせず、岳人を完全に封殺している。

 それ以降、蔵馬と岳人が喧嘩する事はなかったが、あの当時よりも力を付けて、パワーだけならファミリー内では百代に次ぐ岳人だが、今でも喧嘩すれば蔵馬が勝つだろうと思っている。

 しかし、本格的に鍛えている武士娘には及ばないという認識を持っている事も否めなかった。

 

「そういえばマルギッテもいないな」

「えっ、マルさんも来ているのですか父様」

「ああ。彼らを率いていたのはマルギッテだからな。あと、彼女も川神学園に送り込む予定だ。お前の居る2-Fではなく2-Sだかな」

 

 お目付け役兼護衛役。

 軍の人間を高校に生徒として送り込むという余りの親馬鹿ぶりにファミリーの面々は呆れているが、今はそれどころではない事を思い出す。

 

「それじゃあモモ先輩とまゆっちが言ってた『誰かが戦っている』ってのいうのはそのマルギッテさんなんだね?」

 

「じゃあ大和の奴もそのマルギッテって人に助けられているんじゃないか」

「マルさんの手を煩わせるとは大和の奴、情けないな」

 

 マルギッテの有能ぶりを説明され、ホッとする卓也達と、おそらくマルギッテの足を引っ張っているだろう男に対する不満を口にするクリス。

 とにかく一刻も早くマルギッテ達と合流しようと、戦いの気配がある方に向か

って行った。

 

 

 

 

 

「えっ…えっ…一体何がどうなってるの?」

「なんで大和が軍人と戦ってるんだよ。保護されてんじゃねぇのか?」

 

 まったく予想もしていなかった状況に卓也と岳人は混乱していた。

 

「おいワン子。大和の持っている武器を見てみろよ」

「うん。あれって『アレ』だよね」

「珍しいよな。最近使ってなかったに…」

 

 翔一と一子は何か知っているのかひそひそと話している。

 

「何でマルさんと大和が…」

「それよりもまさか一介の学生がマルギッテと互角に戦っているとは…」

 

 クリスとフランクは我が目を疑っていた。

 想像した不審人物の姿は見当たらず、マルギッテが戦っているのは、予想の斜め上を行く人物だった。

 それだけでも驚いたが、何より驚いたのが蔵馬が眼帯を外しているマルギッテと互角に戦っている事であった。

 マルギッテのトンファーによる乱撃を、大和が両手にそれぞれ持った短剣ほどの長さの得物で捌いていた。

 

「いえ、互角ではありません。大和さんの方が優勢です」

「どういう事まゆっち?」

「あの軍人は息切れをしているが、大和は息切れ所か涼しげな顔をしているからだ」

 

 由紀江と百代の指摘に京が二人の状況を見る。

 確かにマルギッテは、もはや息が切れ、動きも鈍っているが蔵馬は楽々とマルギッテの攻撃を捌いている。

 

「それにしても、大和のあの武器は何なんだ。キャップやワン子は知っている様だが…」

 

 二人のひそひそ話しが聴こえていた百代が訊ねるが…。

 

「ごめんなさいお姉様。それは言えません」

「誰にも言わないって約束だからさ」

 

 どうやらこの二人は、蔵馬の能力の一端を知っていた様である。

 

 

 

 

 

「こんな事が…」

 

 マルギッテは信じられない思いで一杯だった。

 自分の攻撃がすべて捌かれている。

 そして相手は一度も攻勢に出ず守勢を貫いており、自分を倒す気はない様である。

 つまり、軽くあしらわれているのだ。

 

「ですが…中将殿やお嬢様の前で無様な姿は晒せません!」

 

 如何に自信過剰な所があるマルギッテとはいえ、流石に相手が自分よりも格上であることを認めざる得ない。

 しかし、せめて一矢報いなければ気が済まない。

 

「行きます!」

 

 今、正に捨て身の攻撃に入ろうとしたその時。

 

「それまでです!」

 

 マルギッテに待ったを掛けたのは、いつもならば自信なさげにオロオロしている由紀江だった。

 

「…まゆっち!?」

 

 普段からは考えられない声量を出した事に、流石の蔵馬も驚いていた。

 

「邪魔をするな!」

「マルギッテさん…と、おっしゃいましたね。私も武人の端くれです。真剣勝負を横から口出しするのは、礼儀に反すると理解しています。ですが今回はそこまでする必要があるのでしょうか?」

「何っ!?」

「そもそも、クリ吉の護衛役が何で、その友人である大和と戦っているんだ?」

 

 由紀江(と松風)の指摘に、マルギッテは苦い表情になった。

 

 ★☆★

 

 事の事情を知り、フランクは額に手を当て唸っていた。

 マルギッテは命令に忠実で優秀な軍人だが、彼女にも欠点があった。

 それは、強者を目の前にすると、命令違反を冒してでも戦いたがるという戦闘狂な所だ。

 蔵馬は彼女達が潜んでいたのは初日から気づいていたから、皆と遊びつつ警戒していた。

 プロの軍人なので恐らくクリスの関係者だと思っていたが、マルギッテの好戦的な視線は組み手をしている、一子や京の方に向けられていた。

 そして、彼女の実力は一子や京よりも上である事も。

 あの2人が連携しながら戦えば、ある程度は対抗できるだろう。

 しかし、それが返って彼女を本気にさせてしまい、そうなった彼女が相手では、おそらく無事ではすまない。

 そして百代が介入すれば、それはそれで面倒事になるのは確実。

 ならば、彼女を抑えるのは自分の役目だろうと判断し、今に至る。

 

 

 

 

 

 今回の件はお互い遺恨なしという事で落ち着いた。

 表沙汰になれば、ドイツ軍の方が不利な状況である。

 まず、政府に無許可で軍の人間を国内で活動させた事。

 その指揮官が命令を無視して民間人に喧嘩を売ろうとした事。

 更に軍の精鋭達が民間人相手になす術もなくやられた事。

 これらが公表されれば、下手をすれば国際問題となる。

 得に、精鋭達がやられた事は、ドイツ軍の名誉を著しく傷が付きかねない。

 相手が武神と謳われるKAWAKAMIならともかく、無名の高校生にやられたとあっては、フランクも詰め腹を切らされかねない。

 蔵馬としても、新参とはいえ仲間の家族を追い詰める気は毛頭ないので、この手打ちを了承した。

 

 ★☆★

 

 一件落着したので、風間ファミリーは釣りを再開した。

 ドイツ軍人相手に毅然とした態度を取った由紀江を百代達が賞賛していた。

 

「さっきの様に私達にも言いたい事があったら、ガンガン言えよ」

「変に気を使われるよりも、そっちの方が遥かにいいよ」

「ありがとうございますモモ先輩。京さん」

 

 言いたい事を言わずに自分を卑下して、ただ相手の顔色を伺っているなど、本当の友人ではない。

 今まで友達がいなかったので、どうしていいか解らなかっただろうが、これからははっきりと言ってくれるだろう。

 例え自身ではなく『松風』に代弁させるのだとしても…。

 一方、クリスは蔵馬の隣に座っていた。

 

「……大和、すまん!」

「……何か俺に謝らなければならない事でもしたのか?別にお前の父やマルギッテという女の事は気にしなくてもいいぞ」

「違う。私は今の今までお前を見縊っていた。その事を謝罪したいのだ」

 

 クリスは先述した通り、蔵馬の事を口だけの男だと思い込んでいた。

 軍において、謀略の必要性は認めていても、それに固執するかの様に見える蔵馬を認めていなかった。

 しかし、それはとんでもない誤りだった。

 蔵馬は自分達の周りにマルギッテやドイツ軍の精鋭達が潜んでいる事に気付き、そして、一子や京に戦いを吹っかけようとしたマルギッテから身を挺して守った。

 それどころか、あの本気のマルギッテを無傷で制したのだ。

 眼帯を外し、リミッターを解除したマルギッテに対し、相手を傷つけず、自分も傷つかずに押さえ込む等、到底自分には不可能である。

 それだけで、蔵馬が実力者である事が理解できる。

 蔵馬は仲間を守る為に、様々な手を打っている。

 そして、時には身体を張って、皆を守っていたのだ。

 口だけではなく、行動でそれを示されれば認めざるを得ない。

 

「本当に済まなかった。お前はとても強いのだな」

「いいさ。こちらもそう思われる様に動いていたからな」

 

(どうやら、クリスの認識を変える手間が省けた様だな)

 

 相手が自分を侮り、油断してくれればその分動きやすくなる。

 『直江大和』としてではなく、『蔵馬』として行動する為の目晦ましにもなる。

 だが、敵ならばいくらでも侮ってもらって構わないが、ファミリー内の人間に侮られるのはある意味危険であった。

 クリスが蔵馬を侮り、緊急時に蔵馬の指示を疎かにした時、クリス自身はおろか他のメンバーにも被害が出る可能性がある。

 その為、クリスにある程度自分の実力を示す必要性を感じていたが、今回の件でクリスは蔵馬の事を認めた様である。

 最も、見せすぎた感もあるが……。

 

(それにしても……)

 

 今回の事で確信出来た事がある。

 

(やはり、直江大和の肉体に妖狐としての力が戻りつつある様だ。妖力だけでなく、肉体的な強さまで…)

 

 暗黒武術会以前の蔵馬であれば、マルギッテ相手に負けないにしても、あそこまで余裕を持って対処出来なかっただろう。

 彼女は人間達で言う『壁を超えた者』には該当しないが、壁の手前から数歩離れている…と、言った所である。

 妖怪で言えばC級の上位から中位の間レベルといえる。

 数ヶ月前まで、直江大和としての蔵馬の実力はD級上位レベルであったが、四聖獣戦と、桑原の特訓に付き合いながら自身も鍛え、暗黒武術会の最初の頃にはC級クラスに達していた。

 大会においても、初戦の六遊怪チームの呂屠はともかく、魔性使いチームの画魔や凍矢との死闘を経て、準決勝での裏御伽チームの裏浦島戦において、転機が訪れた。

 最近、魔界で発見されたトキタダレ花の果肉で作られた『前世の実』によって数回、妖狐の姿に戻ったの事が原因なのか、直江大和の肉体に妖狐の力が戻りつつある。

 決勝戦の鴉との試合を終え、蔵馬の力はB級中位レベルに達していた。

 

(このまま上手くいけば、あと1、2年もすれば、完全に妖狐時代の強さに戻れそうだな)

 

 




 最新の公式人気投票一位のマルさんを噛ませに使ってしまいました。
 マルさんファンの方々に深くお詫びします。
 しかし、現時点で蔵馬の実力をある程度見せる相手としては、彼女以外考えられません。
 まゆっちやモモ先輩の様な『壁超え』の実力者相手は時期尚早ですしね。
 忍足あずみでも良かったのですが、彼女はマルギッテと違い戦闘狂ではないので、蔵馬が英雄に危害を加えない限り、ぶつかり合う事はないでしょうからね。

 最初は原作ゲームの様に旅行でクリスと勝負させる予定でした。
 前回の後書きでも、「ほとんどクリスの話になります。」と記しましたし…。
 しかし、確認の為改めてマジこいの箱根旅行の時期をプレイして、思いました。

「百人一首以外、蔵馬無双で終わってしまうじゃねーか!」

 という理由により、クリスではなくマルギッテに変更になりました。

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