真剣で蔵馬に恋しなさい!   作:神鳥ガルーダ

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東西交流戦 前編

 衣替えを終えた6月。

 宣言どおり、クリスの護衛兼お目付け役として、ドイツ軍人マルギッテ・エーベルバッハが特進クラスである2-Sに編入してきた。

 それと時、同じくして、福岡の『天神館』が川神学園に学年ぐるみで決闘を申し込んできた。

 近年の学生は東高西低と言われており、西よりも東の学生の方が高評価を受けている。

 天神館は、西日本から様々な人材が集まっており、血の気も多いので、この評価に納得できないのだろう。

 実際、生徒各個人の優秀さは本物であり、川神学園よりも天神館の方が総合力では上回っているのだから。

 天神館の館長の名は、鍋島正。

 元・武道四天王の一人にして、川神鉄心の高弟である。

 打倒・川神学園を目標にしているが、決して鉄心と仲が悪いわけではなく、ただ単に強い生徒を育てて、師匠に自慢したいだけに過ぎない。

 

「直江。学長が呼んでいるので、次の昼休みに学長室に行くように…」

 

 天神館が決闘を挑んできた事の通達の後、蔵馬は担任の梅先生から、そう伝えられた。

 

「何々?じいちゃんが大和に何の用なのかしら?」

「何かやったの大和?」

「…恐らく天神館との決闘に関してじゃないかな」

「何で?」

「学長も俺の力量をある程度把握しているからさ」

 

 それだけではなく、鉄心は既に蔵馬の正体を知っている。

 その事で、今回の決闘において蔵馬がどう動くべきなのか…それを指示するつもりだと推測していた。

 

 

 

 

 

「学長…直江です」

「うむ。入りなさい」

「失礼します」

 

 鉄心に促され、蔵馬は学長室に入室した。

 中には鉄心一人しか見当たらない。

 

「…ルー先生は居ないようですね」

 

 ルー・イー。

 川神院師範代にして、川神学園の体育教師であり、学園内でも鉄心の補佐を務めている。

 

「うむ。お主の事は例えルーであっても、知らせる訳にはいかんからな」

「…助かります」

「幻海がお主を信頼しておるから、わしもお主を信頼しよう……但し、もしお主が幻海の信頼を裏切るようならば、わしの命に代えてもお主を討つ覚悟じゃ。その事は忘れんでくれよ」

「…解りました。ですが、その言葉はそっくりそのまま此方からも返させてもらいます。学長が師範の信頼を裏切り、俺の正体を他言すれば……いかなる手段を用いても、貴方に報復します」

 

 二人の間に緊張が走り、空気が張り詰めた。

 蔵馬も流石に殺すとは言わない。

 どんな理由があれ、人間界で人間を殺せば、霊界は蔵馬逮捕の指令を霊界探偵に出さなければならなくなる。

 蔵馬としても、幽助と個人的に闘う事ならともかく、敵対する事は御免こうむりたい。

 既にそれだけの仲になっているのだから……。

 

「それで学長。ご用件はそれだけですか?」

「いや、本題はこれからじゃ」

 

 緊張が緩み、空気も穏やかになる。

 

「朝礼でも言うたが、今夜から三日間、天神館との決闘がある」

「はい」

 

 予想通り、天神館との決闘に関する事の様だ。

 

「初日に一年生、二日目に三年生、最終日にお主たち二年生という日程じゃ。一年生はまだ未知数じゃが、三年はおそらくモモ一人で決着がついてしまうじゃろう」

「…ですね」

 

 いかに天神館が人材豊富とはいえ、やはり『武神』川神百代は格が違う。

 百代以外にも、『言霊』を操る京極彦一や弓道部主将の矢場弓子、生徒会長にして骨法部主将の南條・(ミシェール)・虎子という個性的な人材もいるが、百代一人で片がついてしまう。

 

「そして、二年生の部でのことじゃがお主には……」

 

 ・

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 ・

 

「では頼むぞ直江…」

「解りました。失礼します学長…」

 

 蔵馬の退室を見届け、鉄心は一息吐いた。

 

「あやつを前面に出せば、こちらの勝ちはほぼ確実じゃろうが…」

 

 勝負ごとに絶対はないので、断言はできないが蔵馬ならば如何に『キセキの世代』と呼ばれる天神館二年にも遅れを取る事はまずありえない。

 

「しかし、それでは他の生徒達の成長はないからのぅ」

 

 川神学園の二年は個性豊かなメンバーが揃っているのだ。

 

 2-Sからは、世界でも有数の大財閥、九鬼財閥の跡取りであり、天性のカリスマを持つ九鬼英雄。

 蔵馬と並ぶ学年首席であり、葵紋病院院長の息子で『エレガンテ・クワットロ』の一人、葵冬馬。

 生まれついての補佐役ゆえ、目立っていないがすべてにおいて優秀な能力を持つ井上準。

 テコンドーの使い手で、足の力だけならば『壁超え』に達している榊原小雪。

 日本の御三家と謳われる程の名家の娘である不死川心。

 英雄専属の従者(メイド)であり、かつて戦場で『女王蜂』の二つ名で恐れられた元傭兵、忍足あずみ。

 欧州の神童と謳われるドイツ軍少尉、マルギッテ・エーベルバッハ。

 2-Fからは、風の様に自由で、ラック値において並ぶ者のない風間翔一。

 ベンチプレス190というパワーと耐久力を誇る島津岳人。

 天下五弓の一人、椎名流弓術継承者、椎名京。

 ドイツ軍中将令嬢、クリスティアーネ・フリードリヒ。

 

 と、約2名ほど二十歳以上がいるが、二年生に個性的な人材が集中していた。

 対する天神館もまた 特に優秀な人材が集まる二年生は前述した通り『キセキの世代』と呼ばれ、その中で特に優秀な10人が『西方十勇士』と呼ばれている。

 それこそが二年生の部をトリにした理由である。

 

「西方十勇士と競うことで、ウチの生徒達にとって、より良い糧となってもらわねば困る……」

 

 故に鉄心は蔵馬にある密命を課したのだった。

 最も密命などと言うには大げさ過ぎる内容だが…。

 

 ★☆★

 

 東西交流戦 第一夜、一年生の部。

 川神学園側大将、1-S 武蔵小杉。

 結果、天神館の勝利。

 内容は、剣聖の娘である由紀江を敵大将に突入させ、小杉もまた意気揚々と突入するも敵の集団戦法に小杉が討ち取られ、由紀江が敵大将に仕掛ける前に勝敗が決してしまった。

 

「一年生は負けてしまったか…」

 

 この戦を観ていたクリスは落胆した。

 

「一年生の敗因は何なんだ?」

 

 岳人の質問に蔵馬が答える。

 

「どう見ても大将の判断ミス以外の何ものでもないな」

 

 この戦は大将が討ち取られれば敗北というルールである。

 その大将が戦場に出るなど、愚の骨頂。

 集団戦を個人戦と同じ感覚で闘うなど言語道断。

 一年生で一番強い由紀江を敵大将にぶつけるという策は良かったものの、それを自ら台無しにしたのは小杉である。

 

「確か、武蔵小杉といったか?」

「うん。弓道部(ウチ)に入った後輩で、1年生で一番強いって言われてるらしいけど…」

「まゆっちが強さを見せていないからな。まあ、レベルが違いすぎるか…彼女は以前、クリスに決闘を挑んで二発で沈んでいた奴だな」

 

 弓道部(幽霊部員)の京から説明を受け、蔵馬も思い出す。

 

「正直、あれは総大将の器ではないな…。せいぜい実戦部隊の分隊長が関の山だ」

 

 彼女自身の能力は高く、今は力で一年生を従えているがそれがいつまで続くやら…。

 何しろ、1-Cに能力的には彼女より対人関係以外すべてにおいて上回っている者もいるのだし、それが明るみになれば、力だけでは維持は不可能になるだろう。

 

「まあ、まゆっちの性格では、武蔵さんを倒して自分が上に立つというのはやらないんじゃない?」

「…だろうな」

 

 

 

 

 

 

 東西交流戦 第二夜、三年生の部。

 川神学園側大将、3-F 南條・M・虎子。

 結果、川神学園側の圧勝。

 内容は、『武神』川神百代の力を恐れた天神館側は大量の助っ人を動員し、百代もそれを快諾。

 武神に対し圧倒的な数の暴力で挑む為に、妙技『天神合体』で巨大な人型と組み合うが、川神流『星殺し』の一発で大半がやられ、残敵を弓道部主将、矢場弓子らが掃討し、川神学園側の無血勝利で終わった。

 

「大和、天神館側の敗因は?」

「…あれも判断ミスだな。あれは確かに妙技だが所詮、生身の人間の集合体に過ぎない、見世物の技だ。防御力が上がるわけじゃないからな。姉さんほどの力で攻撃されれば簡単に崩れてしまう…そもそも姉さん相手に数を頼りにした事自体が失敗だな」

 

 確かに戦は数が大事だ。

 敵よりも数を多く揃えるのは、用兵学からみれば正しい。

 しかし、それが通じない規格外も存在するのだ。

 

「大和さんでしたらどうしましたか?」

「俺ならば、数に頼らず質で勝負するな。確かに姉さんは規格外だが、まったく対抗できる人材がいないわけではない。姉さんと、ある程度闘える者を助っ人として呼んで、姉さんを足止め、その隙に大将の討つな。生徒会長もそれなりにやるが、倒せない相手ではないからな」

 

 大将が百代ならば、この手段は使えず、蔵馬が知る中で唯一人、百代に勝てる存在(にんげん)がいるので彼をぶつけるが…。

 

「だけど、モモ先輩を抑えられる様な人っているの?」

「そうだな。日本国内で姉さんとそれなりに闘える者はほとんど東の人間だが、西では四天王の橘……最近では京都に凄く強い武士娘が台頭しているらしいし。後は海外から連れてくるしかないな。例えば中国の『梁山泊』…とかにな」

 

 実は蔵馬は妖怪だけでなく、人間の強者の情報も結構収集している。

 百代と師弟関係を結んで以降、舎弟としてある程度の知識を有しておくべきと判断した為だ。

 蔵馬は卓也ほどコンピュータ関連は詳しくないので、情報収集はもっぱら築いてきた人脈と、使い魔からの情報だが…。

 

「おそらく天神館は、西日本の人材の中からしか助っ人を頼らなかった…。その拘りも敗因の一つだな。川神学園(うち)にも海外からの留学生がいるのだから、海外から姉さんに対応できる人材を助っ人に呼ぶべきだった」

 

 拘りを持つことは悪い事ではないが、『武神』と呼ばれるほどの相手取るのにくだらない見栄を張るべきではなかった。

 健闘したならば、評価も出来ようがここまで惨敗しては、愚かと嘲笑されるだけだ。

 

 ★☆★

 

 東西交流戦最終日である今日。

 授業が終わった後、蔵馬は一人、戦場となる川神市工場地帯に下見に出かけた。

 情報収集と戦場の下見は、戦において重要。

 そして、下見は一度では駄目だ。

 何故ならば……。

 

「やはり、天神館も下見に来ていたか…」

 

 戦場が確定しているのならば、敵方も前準備をするからだ。

 一人の少女を中心とした一団が工場地帯から出てきた。

 ちなみに完全に気配を断っている為、向こうは蔵馬の存在にまったく気づいていない。

 

「彼女は確か、西方十勇士の一人の……成る程、そういう事か…」

 

 蔵馬は納得しながら、気配を消したまま、工場地帯に入って行った。

 

 




 今週には、真剣で私に恋しなさい!A-4がDL販売されますね。
 ちょうど、天神館がメインのストーリーがあるので、後編はプレイ後になります。
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