東西交流戦 最終夜、二年生の部。
川神学園側大将 2-S 九鬼英雄。
天神館側大将 2-1 石田三郎。
川神学園側の主力は無頼のF組と優等生のS組である。
この2クラスは、常に張り合っており非常に仲が悪い。
選民意識の高いS組は、F組を落ちこぼれの集まりと見下しており、F組はF組で自分達を馬鹿にするS組を毛嫌いしていた。
S組が特に気に入らないのは、F組の中に成績上位者が2人いる事である。
川神学園二年の成績上位者
1位 2-S 葵冬馬。
1位 2-F 直江大和(蔵馬)。
3位 2-S 九鬼英雄。
4位 2-S 海藤優。
5位 2-F 甘粕真与。
5位の甘粕真与はともかく、S組を差し置いて常に学年首席の蔵馬は、プライドの高いS組にとって、目の上のタンコブと言っても過言ではなかった。
しかも、蔵馬は塾や予備校等にも通っておらず、勉強付けの毎日というわけではないので、尚更である。
唯一の救いは、S組の葵冬馬もまた首席なので、S組の面目は立っているが、それでも気に喰わないと思う者が多数存在している。
選民意識の高い不死川心や、必死に勉強してS組に留まっている下位成績の者達は特に目の敵にしていた。
反対に蔵馬と幼馴染関係にある榊原小雪や、彼女と親しい葵冬馬、井上準などは、むしろ蔵馬と友好的に接している。
と、何かと仲が悪い両クラスだが、大将である九鬼英雄の叱咤により、今日だけは過去の遺恨を水に流し、共闘する事を認めた。
「流石は九鬼英雄。見事な統率力だな」
「こちらも川神さんのお陰で、英雄が言う事を聞いてくれて助かりますよ」
それぞれのクラスで軍師の役割をしている蔵馬と冬馬は、それぞれの懸念事項が解消されホッとした。
「ところで葵、井上。2人の親父さんが怪我をしたらしいが、大丈夫か?」
数日前、冬馬と準の父親である葵紋病院院長、副院長が負傷し自らの病院に搬送された。
彼らの父親は人格者として知られ、患者や地域住民達からの人望が厚いので、ちょっとしたニュースになっていた。
「こんな言い方は誤解されるかもしれませんが、怪我をして良かったと思っています。おかけで色々と運気が向いてきました」
しかし、何故か息子である2人は、むしろ晴れ晴れとしていた。
「…九鬼に感謝するんだな。こっちとしても余計な手間が省けて助かったし、ユキを悲しませずに済んだ」
蔵馬の一言にギョッとなる冬馬と準。
「…大和君、もしかして君は…」
冬馬の質問に蔵馬はただ笑みを浮かべるのみ。
しかしそれで、冬馬は蔵馬が何もかもお見通しであったことを悟る。
世界的大財閥である九鬼ならともかく、まさか一学生に父の秘密を知られていた事に驚愕した。
実は葵紋病院院長と副院長は、表では清廉潔白を装いながらも、裏では立場を利用し、行政との癒着や医薬品の横流しなど不正に手を染めた人物である。
冬馬もかつては父を尊敬していたが、裏の顔を知り心底嫌悪する様になっていた。
蔵馬が葵院長の悪事を知ったのは偶然だった。
戦略の基本は情報収集。
直江大和して生まれ変わった後も、蔵馬は妖怪たちの情報収集は怠らなかったし、風間ファミリーが一つの形となって以降は仲間達の為に人間社会の情報収集を始めた。
築いた人脈なども利用していたが、大抵は使い魔を放ち情報を集めていた。
ある時、使い魔が葵紋病院院長の不正の情報を持ってきた。
表向きは人格者として知られる男が裏で悪事を働くなど珍しい事でもないので、それ自体は特に驚きもしなかったし、自分達に不利益さえなければ特に気にする必要はなかった。
しかし、葵紋病院は小雪が関わっている。
もし、小雪に悪影響を及ぼすならば、排除する必要がある。
調べた結果、小雪と仲が良い院長と副院長の息子二人も、親に悪事を強要されている事を知った。
今のところ、2人は小雪を巻き込まない様にしていたが、それもいつまで持つか解らない。
手遅れになる前に何とかしようと思っていたが、蔵馬が行動を起こす前に九鬼が解決してしまった。
これには蔵馬もホッとした。
自分のやり方では、下手をすれば小雪を悲しませる結果になる可能性が高かったからだ。
「そんなことよりも、今はこの戦だ。九鬼!」
「何用だ、直江大和」
「参謀役が俺と葵の2人いる。だから葵をこの本部の参謀にして、俺を遊撃に回して欲しい」
「遊撃?」
「ああ、全体の指揮は葵に任せて、俺は戦場を動いて必要に応じて、指示を出す」
九鬼英雄にとって葵冬馬は唯一無二の
唯我独尊的な英雄も、冬馬の言う事ならばある程度は従うので、英雄の補佐には冬馬の方が相応しいと考えていた。
「しかし、直江君が戦場に行って大丈夫ですか?」
そこに英雄の専属メイドの忍足あずみ(29)が口を挟んで来た。
「おい
あずみさん、地の文に突っ込まないで下さい。
「むっ?どうしたあずみ?」
「きゃる~ん!何でもありませ~ん!!」
と、今のやり取りを見て解る通り、英雄の前では猫を被っているが、本性はかなり口とガラが悪い。
「それはともかく、頭脳派の直江君が前線にでるのは危険すぎるのではありませんか?」
あずみの指摘に、その場にいる殆どの者が頷いた。
風間ファミリー以外の蔵馬に対する認識は、やはり『軍師』であり、『戦士』ではない。
まあ、今まで蔵馬はそう見られる様に行動してきたので当然なのだが……。
「その心配は無用と知りなさい、女王蜂!」
「…どういう意味ですかマルギッテさん?」
「直江大和の実力は私が保証しましょう。少なくとも敵・味方を問わずこの学年で直江大和を下せる者などいないでしょう」
マルギッテの言葉にあずみは目を見開いた。
彼女は九鬼のメイドとなる前は傭兵として戦場を渡り歩いている。
その為、ドイツ軍の猟犬部隊を率いるマルギッテの実力も身を持って知っている。
そして、その矜持の高さも…。
そんな彼女が蔵馬の事を認めている、その事に驚いていた。
しかし、あずみは今まで蔵馬を見てきたが、頭はそれなりに切れるがそれだけだと言う評価だった。
(このプライドの高い猟犬が自分でも勝てないと認めるとは……あたいに気付かせねぇ程強さの隠蔽が得意なのか?だとすれば最低でもクラウディオや鷲見
彼女は1000人いる九鬼家従者の中で序列1位の立場だが、それは若手育成の方針でその立場にいるだけで、序列0位は下より、序列2位から10位までの古株従者よりも格下である。
クラウディオ、ゾズマ、鷲見の3人はそれぞれ序列3位、4位、9位であり、従者としての能力だけでなく、強さにおいてもあずみを遥かに上回る。
開始時間が迫り、各部隊がそれぞれ配置に着いた。
それまで、冬馬と念密な打ち合わせを行っていた蔵馬は、予定通り前線に向かう為、本隊から離れていった。
工場の建造物を飛び移りながら……。
妖怪という事は今でも隠すつもりだが、自身の実力に関してはある程度ならば隠す気はないようだ。
「…成る程、確かにマルギッテが言う様に、只者ではなかった様だな」
「あの脚力は、ユキに匹敵する程ですね」
蔵馬の事を自分とほぼ同じ参謀型だと思っていた冬馬はなにやら複雑そうな顔をしながら呟いた。
「うん。大和はねぇ、すっごく強いんだよ!」
少なくとも今見た様な事、ただの一般学生に出来る芸当ではない。
武士娘でも、あんなことが出来るのは限られている。
少なくとも2年生の中で出来そうな人間は忍者の末裔であるあずみと足だけは壁越えレベルの小雪くらいだろう。
英雄も蔵馬に対する評価を改めるのだった。
★☆★
戦が始まり、蔵馬の予想通り最初は天神館側の優勢だった。
元々、総合力では川神学園よりも上であり、西方十勇士による統率力も優れている。
対して川神学園側は、英雄のリーダーシップがあるものの普段はいがみ合っているS組とF組では、一朝一夕にはいかないのが普通である。
それでも、中には天神館相手でも引けをとらない者もいる。
風間翔一、島津岳人、源忠勝などは何人もの天神館生徒相手に互角以上に渡りあっていた。
そして、敵本隊を攻める部隊の隊長にクリス、その補佐に準が抜擢された。
準は、冬馬とロリコンという性癖に隠れがちだが、S組の中でも最もバランスが取れた能力の持ち主で、男子の中では蔵馬を除けば、川神学園の中で最も強い。
蔵馬の見立てでは翔一と英雄が二人掛かりでも恐らく勝てないだろう。
元々、冬馬の補佐役としての人生を歩んで来たので、誰かを補佐する事にかけてはS組の中ではあずみに次ぐ。
更に彼はS組の中では親F組派の一人なので、F組との共同戦線に含むところはない。
蔵馬は集めた情報の中から西方十勇士の弱点を見出していた。
それは現在、十勇士の殆どが増長している事だ。
「彼らは、例年は2、3人しかスカウトしない鍋島館長が。この年だけ10人もスカウトしたという極めて稀な年代だ。西方十勇士などと持ち上げられたが故にすっかりと慢心している。そしてそれが油断に繋がる」
既に西方十勇士3人の打倒に成功していた。
1人目の天下五弓の毛利元親は、京の矢の先端に爆薬をつけて放つ『椎名流弓術 爆矢』によって倒された
2人目のサイバー担当の大村ヨシツグは、川神学園のHPをハッキングして荒そうしたが、F組のオタクである大串スグルにハッキングをやり返され、興奮して病弱な身体に障り、倒れてしまった……と、いう事になっている。
3人目の人気アイドルユニット『エグゾエル』のメンバー龍造寺隆正は、イケメンである事が災いし、F組の羽黒黒子に襲われてリタイアしてしまった。
そして現在、一子と相対している砲術使いの大友焔。
今回の戦いの性質上、蔵馬は彼女が最も厄介だと認識しており、その為の工作を行っていた…。
次回、後編。
東西交流戦決着です。
冬休みまでには書ける……とは限りませんので。