「どうやら、余計な事をしてしまった様だ。義経はしきりに反省する…申し訳ない」
石田を倒した後、源義経を名乗る少女は蔵馬に頭を下げてきた。
遠目では、石田の攻撃を大きく跳躍して躱したので、ピンチに陥ったと思ったのだが、間近で蔵馬を見てみるとその強さが理解できた。
先ほどまで、石田と戦っていたので蔵馬もある程度の力を解放している。
義経ほどの者ならぱ、それだけで蔵馬の実力が自分と同じ『壁超え』である事が感じられた。
「いえ、気にしなくていいですよ。これは
義経が石田に放った斬撃は、蔵馬から見ても惚れ惚れする程の太刀筋だった。
剣技だけならば、飛影よりも洗練されていた。
速さは飛影の方が上だが、技量は義経の方が上だろう。
無論、戦えば勝つのは飛影だろうが、黒龍波無しでは苦戦は必至だろう。
最も暗黒武術会以後、飛影とは顔を合わせていないので、彼がどれだけ腕を上げているか解らないから、言い切れないが……。
飛影は幽助と出会ってわずか数ヶ月でD級妖怪からB級妖怪までランクアップしている為、彼の成長速度は並みではない。
武術会より二ヶ月、どれだけ腕を上げているか、蔵馬ですら正確に予測できなかった。
最も、以前にも述べたが、直江大和の身体が妖狐としての力を取り戻している為、蔵馬もまた武術会よりも妖力が上がっているので、蔵馬も人の事は言えない。
「フハハハハ!直江大和よ。軍師としての役割、大儀であったな」
そこに勝利の余韻に浸っていた英雄が姿を見せた。
態度こそ尊大だが、英雄は大和にそれほど敵意を抱いてはいない。
英雄は一子に惚れている為、彼女の周りにいる風間ファミリーが時折、目障りに感じる時もあるが、だからと言って理不尽な対応をしているわけではない。
他のSの面々と違い、自分よりも成績の良い蔵馬を目の敵にする事もなく、素直に蔵馬の実力を称賛する等、器量が高い。
「九鬼。彼女は源義経と名乗っていたが……?」
「武士道プランの申し子か。予定より早く投入されたな」
「…やはりそうか。噂では聞いていたが……」
武士道プランの事は、蔵馬も使い魔からの情報で少しは知っていた。
武士道プランとは、世界的大財閥である九鬼は、約20年前からヒトクローンに成功しており、歴史上の英雄である偉人を転生と称して現代に復活させているとの事だった。
まあ、歴史上の義経は間違いなく男性なのだが、何故か目の前にいる義経は女性という疑問があるが……。
「性別は気にしないでくれ」
義経本人がそう答え、まあ『生命の神秘』だと思えばいいか…と、蔵馬にしては珍しく投げやりな結論で納得した。
交流戦が終了した後の、十勇士たちは爽やかだった。
彼らも『西方十勇士』などと持て囃され、いつの間にか慢心していた事を自覚したらしい。
次の機会で、今回の汚名を挽回……もとい返上する為に腕を磨きなおす事を誓い、去っていった。
天神館は真の切り札を温存していたが、使わないと判断したのは彼らなので、問題はない。
人脈構成の為に蔵馬が十勇士の大友焔とメールアドレスの交換をし、その事で京とひと悶着あったものの、無事に交流戦は終わった。
★☆★
翌日、九鬼が発表した過去の英雄を現代に転生させたという『武士道プラン』川神はいや世界は震撼した。
そして、その武士道プランの申し子達が、川神学園に転入する為、ここ川神市が彼らの生活の場となる。
その為か、街には九鬼の従者達の姿がちらちらと目についていた。
従者部隊序列15位、ステイシー・コナー。
序列16位、
序列42位、桐山鯉。
彼女達の仕事は、クローン達に悪影響を及ぼしかねないモノの排除である。
「そういえばここ何日か、街のアウトロー連中が病院に運ばれているが、あれらの仕業か…」
先日の葵紋病院院長の件も、これが原因の様だ。
「まあ、裏社会の連中らはともかく、流石に闇社会までは手を出してはいないようだが…」
蔵馬の言う闇社会とは、魔界関連の事である。
一般的には、裏社会の事を闇と混同して使っている者もいるが、蔵馬は裏と闇を使い分けている。
人間のマフィアや殺し屋、そして表舞台に出ない武道家達を『裏』。
妖怪や
九鬼はそういう闇の力を利用しているわけではないが、妖怪達と関わらざる得ない状況もあったので、そういう存在を認識しているし、従者部隊の中には其方の専門家も存在しているので、D級以下の妖怪までならば対処できる。
川神に生息する妖怪達は現在、蔵馬以外はE級以下の下等妖怪ばかりで、人間達に迷惑をかける者は、数年前に現れた『八つ手』を最後にほぼ皆無と言ってもいい。
川神の闇社会は、蔵馬によって完全に仕切られているので大人しいモノである。
その為、九鬼の方では川神は魔界関連の危険はほとんどないと判断しているのだ。
無論、彼らは蔵馬の存在を知らないが……。
朝の全校集会で、転校してきた6名の紹介が行われていた。
3年に転入してきた『葉桜清楚』。
名前の通り、清楚な文学少女という雰囲気を醸し出しており、気の強い武士娘が多いこの学園に久しぶりに現れた可憐な少女に男子達は歓声を上げていた。
葉桜清楚と言う名の英雄は歴史上存在しておらず、彼女自身、自分が何のクローンなのか知らされていないとの事である。
最も、一部特殊な性癖を持つ者を除けば、誰もが認める美少女なので、その正体が誰なのか等、男連中(一部の女性)にはどうでも良い事であった。
ちなみに蔵馬は、彼女の名前と雛罌粟の髪飾りを元に、三日で彼女が誰のクローンなのか推測がついたが、彼女が自分の正体を自覚すると不味い事になる予感がしたので、公表する気にはならなかった。
大方の予想を裏切り、『武蔵坊弁慶』は義経同様、女性だった。
女版の弁慶と聞けば、想像するのはとてつもなく厳つい大女を想像するだろう。
しかし実際は……。
「こんにちは。一応、弁慶らしいです、よろしく」
想像通りではなく、先ほどの葉桜清楚とはまた違った魅力――色気溢れる美少女だった。
「結婚してくれ――――!!!」
「死に様を知った時から愛してました――!!」
弁慶が女であると知り、不平たらたらだった岳人と福本育郎が、180度態度を変えた。
余りの変わり身に良さに、小笠原千花などは呆れ果てている…が、清楚と弁慶の美人っプリに自信を無くしている様だが…。
ちなみに彼女は、学園内でも川神水――ノンアルコールの水だが擬似的に酔う事が出来る水――常時飲む事が許されている。
その代わり、成績が6位以下ならば、即退学である。
最初は4位以下のつもりだったらしいが、常に学年首席の葵冬馬と直江大和。
二人には及ばぬものの、それでも3位をキープしている九鬼英雄。
4位には、論文等を何冊か発表し、この若さで文壇でも評価されている天才若手文学家の海藤優。
この不動の上位4名がかなり手強い事を酔いながらも認識し、6位以下に変更したらしい。
後に彼女はクローン勢の中で最も蔵馬と親しくなり、2-S担任の宇佐美巨人と蔵馬とで、学園非公認部活『だらけ部』を設立しスローライフを満喫する事となる。
クローン最後の一人である『那須与一』は、中二病重篤患者である。
京と同じ『天下五弓』の一人で、顔立ちはかなり良く、イケメン四天王候補に挙げられても不思議ではないが、その残念な発言が、かなりマイナス要素となっていた。
残り二人はクローンではなく、武士道プランの関係者である。
一人は九鬼英雄の異母妹『九鬼紋白』が、武士道プランの受け皿となった川神学園に飛び級で、そして、その護衛として特別枠で九鬼家従者部隊序列0位、最強執事の異名を誇る『ヒューム・ヘルシング』が1-Sに編入してきた。
彼女は1-Sの面々のそれぞれの得意分野で下し、リーダーであった武蔵小杉をヒュームという護衛力で下し、初日で1-Sを掌握してしまった。
あとこの武士道プランの受け皿となった川神学園では教員を増員していた。
1-C担任英語教師として全米格闘技チャンピオンのカラカル・ゲイル、コンピュータ第一人者で名高い弟、カラカル・ゲイツが3-F担任物理教師として赴任することになった。
彼らは数日前、京都でとある武士娘に敗北し、百代ら武士娘の強さを分析する為に、前々から来ていた川神学園で教師を…という話を受ける事にした…との事。
★☆★
放課後。
ヒューム・ヘルシングと九鬼家従者部隊序列3位、『完璧執事』クラウディオ・ネエロの目の前で主が人材のスカウトに勤しんでいた。
主がスカウトしているのは天下五弓の一人、椎名京。
彼から見ればまだまだ赤子だが、中々将来有望な人材である。
弓の飛距離では与一に劣るが、命中精度においては五弓の中で最優であろう。
そして、次に目をつけたのが直江大和である。
特進クラスであるS組に所属していないにも関わらず、英雄を抑え首席である為、能力的には同じ首席である冬馬よりも上…という評価である。
何しろ特進クラスのS組と他の組では、授業内容が違う。
当然、S組の方が授業内容が濃密度が高い。
にも関わらず首席でいるのだから、特進クラスに所属している者よりも、高い能力を有していると判断されても不思議ではない。
だが、ヒュームが直江大和に感じているのはそのようなモノではない。
(何だ?この男の目は…)
ヒュームは威圧的で、出会う連中悉く「赤子」呼ばわりする不良老人である。
彼が赤子扱いしないのは、かつてのライバルである川神鉄心とその高弟であるルー師範代や鍋島、仕えるに相応しいと心酔する九鬼一族、クラウディオなど序列一桁台の同僚たち、剣聖、黛十一段、他数名程度である。
「それでは行くとするかヒューム、クラウ爺」
椎名京と直江大和の二人に名刺を渡し終えた紋白がヒュームに声をかけた。
「はい、紋様。それではな赤子ども……そして
ヒュームの台詞に驚いた表情になる紋白とクラウディオだったが、迎えの車が来たのでそのまま乗り込んだ。
「驚いたなヒューム。お前が初対面の相手を赤子呼ばわりしないとは…」
「ええ。確かにあの直江様は優秀な人材でしょうが、『武神』ですら赤子呼ばわりした貴方が…」
そう、ヒュームは直江大和を名前で呼んだ。
つまり、赤子扱いしていないという事である。
ヒュームが九鬼の一族以外で高校生に対し「赤子」呼ばわりしなかったのは初めてである。
「…クラウディオ。お前はあの男の目を見てどう思った?」
「直江様の目…ですか?確かに只者ではないと感じましたが……」
「あの男の目を見て、俺は奴を赤子呼ばわり出来ない何かを感じた……義経が奴は『壁越え』レベルの実力を持つと言っていたが、まさしくそうだったからな」
「私はそれほどではないと思いましたが…」
「お前ですら把握出来ん程、力の秘匿に長けているのだ。恐らく俺や鉄心以外、初見で奴の強さを見抜ける者はそうはおらんだろう」
従者二人の会話を紋白は黙って聞いていた。
優秀な人材だとは思っていたが、あのヒュームにここまで言わせる程とまでは見抜けなかった。
確かに、直江大和は敬愛する兄、英雄よりも成績優秀だが……。
「無論、実力で言えば俺の方が上だ。しかし、ゾズマより強いだろう」
「…そこまでですか?」
従者部隊序列4位、ゾズマ・ベルフェゴール。
中東出身で、総合的に高い能力を持っており、特に武力が優れている。
その強さは『壁越え』レベルでヒュームに次ぐ実力を持ち主である。
「それに武力だけではなく、他の事に関しても能力が高い。タイプ的には俺やゾズマよりもクラウディオ、お前に近いだろうな。奴が今、従者部隊に入れば、数ヶ月の研修の後、あずみに代わって序列1位を任せられるだろう」
現在、序列1位にいる忍足あずみは、若手育成方針でその地位にいるのであって、本来まだまだ1位を任せられる器ではない。
ヒュームの見立てでは、直江大和は研修さえ済ませば、序列一桁台の従者達と同レベルに達すると判断した。
「貴方がそう言うのならば確かでしょうが、それでもいきなり1位に据えれば、他の従者達が不満でしょう。やはり最初は100位台に据え、皆に認めさせてから1位を任せた方がよいでしょう。最もまだ直江様が従者部隊に入ると決まったわけではありませんので、先走り過ぎですな。さて直江様に関する話はこれで終わりにして、紋様、今日のお稽古事についてですが……」
そうヒュームを窘めるクラウディオだったが、彼もまた直江大和に関し思うところがあった。
クラウディオの武力は、ヒュームやゾズマ程ではないにしろ『壁越え』の手前までには達している。
そんな自分ですら把握出来ない程の秘匿力が直江大和にあるのかは、彼の目を持ってしても確証が得られないが、他の能力に関してはヒューム同様、クラウディオも高い能力を有しているのを感じていた。
今作の蔵馬の設定を変更しました。
「蔵馬は中二病患者と話を合わせられる」というのを、
「蔵馬は過去、中二病を演じていた」
という風に変えました。
演じていた理由は、「狼少年の中二病版」と認識して頂ければよろしいかと。
まじこいキャラ(壁越え)と幽白キャラの現時点の強さ順(作者の独自基準と偏見)。
仙水忍>>>>>>>>>>蔵馬(妖狐)>>浦飯幽助>戸愚呂(弟)>ヒューム・ヘルシング≧川神百代≧飛影>蔵馬(直江大和)≧鴉=武威>川神鉄心>ルー・イー≧釈迦堂刑部>九鬼揚羽>松永燕>ゾズマ・ベルフェゴール>源義経>林冲>黛由紀江>幻海>鍋島正>戸愚呂(兄)>板垣辰子>桑原和真
葉桜清楚はまだ覚醒していないので除外。
蔵馬と飛影は暗黒武術会時点よりも強くなっているという設定です。
幻海は幽助に霊光玉を渡しているので弱体化しています。
桑原が戸愚呂(兄)より下にしているのは、大会で戸愚呂を倒した時は、怒りで一時的に実力以上の力を発揮していたと認識していますので。