“ケン”という男の話   作:春雨シオン

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 今回は感想を送ってくださった方から着想を得た回になります。そろそろ、特異点にのりこめー^したいですね。

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Part3 サプライズ・ニンジャ

 ケンは厨房にて、忙しい時間を過ごしていた。最初にあいさつをしたときは、厨房での上下関係を意識して『皿洗いでも掃除でもなんでもします!よろしくお願いします!』とは言ったものの、何故かメインの調理を担当することになっていた。

 

 その理由は二つ。一つは単純にカルデアキッチンが忙しすぎて、少しでも料理が出来る人材ならとにかく調理に回したいからというもの。何しろ、ここにいるサーヴァントたち全員の魔力を立香の魔力やカルデアの電力のみで賄おうとすれば、どちらも一瞬で干からびてしまう。そのため、サーヴァントたちは食事から魔力を得ることが推奨されているのだが、これが非常にめんどくさいのだ。

 

 なにせ、サーヴァントとなった者は非常に多国籍だ。文字通り、世界中の英雄が集まっているので、好みの食事もまったく異なる。その上、かつて王であったり皇帝であったりしたサーヴァントは美食にうるさく、キッチンの食事にあれこれと注文を付けることが非常に多かった。

 

 そんなところに現れたケンは、非常に重宝されたわけである。なにせ、世界中の料理を修得している上、信長というとっつきにくさ日本一みたいな主のもとで働いていたのだから、そういうお客さんに対しての扱いも慣れたものだ。ネロ帝など大いに気に入って、『貴様を余の料理人にしてやろう!』と騒いだが、三千世界が飛んでくる前に何とか収めた。その代わり、後日ネロの食事を全て作らされる羽目になったのであるが……。

 

 

 そしてもう一つは、オカンによる猛プッシュである。最初は『フッ、皿洗いからとは中々殊勝な心掛けだな。だが、そう言うからには覚悟を決めてもらおう!たとえ皇帝だろうと神霊だろうと、ありとあらゆる雑用を受けもってもらおうか!』と息巻いていた。

 

 だが、ケンの二度目の生の名を聞いたところ、「―――ケン?………ちょっと待った。確かその名は、恵まれない地域の人々のために無償で栄養満点かつ美味しい料理を提供し続けたかの聖母と言われた人物のはずだ。』と、妙に見覚えのある解説を行った後、『あなたのような偉大な人物に雑用などさせるわけにはいかないな』とキラキラした目で要請された。まあケンとしても断る理由はなかったので、ひとまず調理を担当させてもらっていたのだ。

 

 

 

『えー、サーヴァントの呼び出しです。セイバークラスのケン。セイバークラスのケン君は、至急召喚ルーム迄お越しください。マスター君がお待ちです。』

 

 

「む、カルデアの放送か……。それではケンさん、行ってくるといい。こちらは任せてもらおう。」

 

「ありがとうございます。それでは、少し失礼しますね。」

 

 

 突然のマスターからの呼び出しを受け、ケンは仕事を中断して立ち上がる。一体何の御用だろうかと考えながら手を拭き、急ぎ召喚ルームへ向かった。思えば、ケンのサーヴァント人生はここから始まったのだなと感慨深く思いつつ、部屋のボタンをおして中に入る。

 

 

「マスター、ケンです。ご用命でしょうか?」

 

「あ、ケンさーん!こっちこっち、こっち来て座って。」

 

 

 立香に言われるまま、サークルのすぐ隣の座布団に腰掛ける。すると、すぐにダヴィンチちゃんがやってきた。

 

 

「やあケン君!昨日挨拶に来てくれた以来だね。どうだい食堂では、元気にやってるかい?」

 

「ダ・ヴィンチ殿……。はい、非常によくしていただいております。ところで、御用はいったい……?」

 

「ああ、それなんだけどね!実は、これからの特異点を攻略するのにあたって、諜報の重要さを思い知ったのさ!一応アサシンクラスのサーヴァントは何人かいるし、デオン君のようなかつて諜報員だったサーヴァントもいないわけではない。でも、彼?彼女?は今はセイバークラスだからね、どちらかと言えば正面からの戦闘が得意なわけさ。」

 

 

「そこで!君の出番というわけさ!」

 

 

 ビシッと指を立てたダヴィンチちゃん。しかしケンには、その理屈がよくわからない。

 

 

「……ええっと、確かに私にはアサシンクラスの適性もあるようですが、今はセイバークラスですよ?何もお役に立てるようなことはないような……」

 

「ああいやいや!君そのものに諜報員をしてほしいわけじゃないんだ!君の話を聞く限り、君は戦国時代の日本に生きていたことがあるんだろう?それなら、忍者の一人や二人、縁を結んではいないかと思ってね。」

 

「ええ……私より、信長様や景虎様のほうがいいのではないですか?」

 

「うーんそう思ったんだけどね。彼女ら、あんまりそういうのに縁がないみたいなんだよねえ。信長君はあんな感じだし、景虎君はそういうのが嫌いでやらなかったみたいだし。何か、いいツテはないかなあ?」

 

 

 言いながらダヴィンチちゃんは、うーん私は何を言っているんだろうねと思っていた。いくら信長に仕えたと言っても、ただの料理人にそんなツテがあるわけが……

 

 

 

「……いやその、あるにはあるのですが。あんまり……」

 

「え!?あるの!?ケンさんすごい!」

 

「マジで!?いやホントに予想外だったなこれは!万能の人といえど、流石に読めなかったよ!」

 

 

 ケンはあまり乗り気ではなかったようだが、二人のあまりの勢いに渋々アンカーになることを同意した。アンカーになると言っても、ただ召喚サークルの近くに立っているだけだ。

 

 

「それだけでよいのですか?何か、おつくりした方がよいのでは……」

 

「うーんとりあえずやっちゃおうぜ!どうせ麻婆豆腐でいっぱいになるんだからさ!」

 

 

 ダヴィンチちゃんの言葉に立香は胸を抑えつつ、召喚の詠唱を行う。グルグルと回転する光の帯が3本になり、サーヴァントが召喚されたことを示している。立香は目を輝かせながら、『誰!?誰!?』と騒ぐ。

 

 

 眩い光が収まり、一人のサーヴァントが姿を現す。立香は目を輝かせ……そして、顔を赤らめた。

 

 

 なにせ、現れたサーヴァントは……ほとんど、裸だったのだ。いや、ほぼ裸の男なら立香も見慣れているのだが、ほぼ裸の女の子というのは慣れなかったからだ。現れたサーヴァントは、裸に黒いリボンを巻き付けたとしか思えない格好をしていた。怪我でもしているのか片目を黒帯で隠しているが、それよりも隠すべきところあるでしょと立香は思わずにはいられなかった。

 

 

「サーヴァント、アサシン。甲賀上忍、望月千代女と申します。どうか、主命を。……んなっ!ケン!?お主もおるのか!?」

 

「ああ、あなたの方でしたか千代女さん!よかった、あなたがいれば百人力です!」

 

「ま、またお主はそういうことを臆面もなく……!!そ、それよりも!拙者はかつて生きた望月千代女ではなく、彼女の影法師。記憶を共有こそすれど、お主の知っている彼女ではない!」

 

「――そんなことをおっしゃられずに。あなたは、私の知っている千代女さんと何も変わりません。」

 

「……だからぁ!!そういうことを言うんじゃないって言ってるでござろうが!!」

 

 

 ケンは感動のあまり、千代女の両手を握ったまま、傍から聞いていたらあまりにも情熱的なセリフを吐く。千代女は顔を真っ赤にしながら、何とかして逃れようともがくが、筋力Dでどうこう出来る相手ではなかった。完全に手を掴まれてしまっては忍術でもどうしようもなく、彼女は湯気を出しながら黙り込むしかなかったのである。

 

 

「ハァ~~~~~………ケンさんさあ………」

 

「うーん、話には聞いていたけど、これはひどいね!」

 

「……あっ、マスター!こ、これはその、違うのです。」

 

「………。」

 

 

 千代女はいつの間にか黙りこくってしまった。その表情は、どことなく不満げに見えた。なおその後、ケンと千代女の話はまた例の部屋で聞くという実質的な死刑宣告を受け、ケンはまた肩が重くなるのを感じていた。

 

 

「……あ、そういえばさ。さっき何であんまり乗り気じゃなかったの?千代女さんが来てくれた時、すっごい嬉しそうだったじゃん。」

 

「えっとですね、実は……私の中で忍者の心当たりが、二人いたのです。一人は千代女さん。そしてもう一人は、その……ややこしくなるかなと……。」

 

 

「ねぇダヴィンチちゃん。」

 

「んー?」

 

「ケンさんの禊がてらさ、もう一人の方も召喚狙っちゃっていい?」

 

「んふふーやっちゃおうぜい!!」

 

 

 ダヴィンチちゃんは稀代の悪女の如き表情をしながら、召喚にゴーサインを出す。ケンは必死に止めようとするものの、一瞬で復活した千代女の縛術で転がされてしまった。そしてそのまま、目の前で召喚が行われる。まるで待っていましたと言わんばかりにサーヴァントが現れた。

 

 

「―――加藤段蔵。入力を求め…主殿!?主殿主殿!!」

 

 

 目にも止まらぬスピードでケンに飛びつかんとする段蔵。――だが。

 

 

 キィン!!

 

 

「……何?」

 

「段蔵貴様、どういう了見にござるか。ここにいるのは……いるのは……わ、私の男にござるが!?」

 

「千代女さん!?」

 

 

 ケンに大型犬の如く飛びつこうとした加藤段蔵を、刃を以て防いだのは望月千代女であった。途端に辺りに緊張感が満ち、立香は黙って令呪の準備をした。この前三画全部つかったのに……と思いながら。

 

 

「なるほど、主殿のいつもの奴ですね。理解しました。ご安心召されよ、望月殿。拙者は主殿の忍びにして刃。誰が主殿の伴侶であろうが構いませぬ。ただ段蔵が傍に居られればそれでよいのです。」

 

 

 忍の鑑と言うべき台詞をまっすぐな瞳で述べる段蔵。これには流石に同じ忍として、千代女も刃を下げずにはいられなかった。

 

 

「ただ定期的に主殿との魔力供給と、一日に一度は主殿との口吸いを行うこと。これだけを守っていただければ誰でも……」

 

「覚悟おおおおおおお!!!」

 

 

 ああ、やっぱり今回もダメだったよ。

 

 

 

 

「はーい、というわけで新しくカルデアに来てくれた望月千代女ちゃんと加藤段蔵ちゃんでーす!もれなくケンさんクラスタでーす!皆仲良くしてあげてね!」

 

 

「「「………。」」」

 

「いや、あの、先輩。気軽に地獄を作らないでほしいのですが……。」

 

「私のせいじゃありませーん!全面的にケンさんが悪いでーーす!仮に痴情のもつれでカルデアが崩壊したら全部ケンさんかエミヤの責任でーーーす!!」

 

 

 なぜか飛び火したオカンはくしゃみをしつつ、この先に待ち構えている何かの予感に身震いした。サーヴァントは風邪などひかないはずだが……と首を傾げつつ、次の食事のための準備をしていた。

 

 そしてげに恐ろしきはぐだぐだの間である。これ以上修羅場をつくってどうしようというのか。節操という者はないのだろうかこの男は。誰もが次に来る殺し合いを予期し、備えた。そしてようやく、信長が口を開く。

 

 

「え、痴女?」

 

「なんてこというんですか信長様あ!?」

 

 

 誰もが思っていながら、誰もが言わなかった台詞を当然の権利のように言い放つ。これが第六天魔王の力とでも言うのか。

 

 

「いやだってそんな恰好したサーヴァントなんぞ、痴女か西川〇教くらいのもんじゃろ。メイヴちゃんとかいうビッ〇でも装いはまともじゃったぞ。」

 

「だから千代女さんですってば!そもそも西川の兄貴は御存命じゃないですか!」

 

「いやだってほら、今人類ほぼ全員死んどるし……」

 

「いい加減にしないと愛想つかしますよ!?いいんですか景虎の料理人になっても!」

 

「何ィ!?ケンお主言っていい事と悪い事が」

 

「ケン!ようやく決心がついたのですねああ私は嬉しいです!」

 

 

 千代女をほったらかしてこの騒ぎ、いったい彼女が何をしたというのだろうか。立香は完全に彼女に同情していた。ああほら、今でも痴女呼ばわりされて真っ赤になっちゃってるよかわいそうに。だが沸騰するのが早ければ冷めるのも早く、あっという間にいつもの3人になった。

 

 

「あ、もうワシ慣れたからいいわ。あと痴女煽りももう飽きたし。いちいちこやつの浮気症に目くじら立てておったら身がもたんし。―――まあ?こやつの一番がワシで無くなったら、そんときは皆殺しコースじゃが?」

 

「……まあ、私もおおむね同意見です。私の前でイチャつかない限りいいでしょう。ですが、一番は私にしなさい。妾の一人や二人、男なら持っているものですし。それに?信長やら武田の者やらを妾扱いして、叛逆されるのも中々面白そうですし?」

 

「ふふふ、沖田さんはケンさんのあの強引なキスであと十年は生きていけますから!今なら病弱なんてなんのそのですよ!げほ。」

 

 

 千代女と段蔵の二名に囲まれたケンは、沖田のキスされた発言を機に、両名の雰囲気がすごいことになっているのをひしひしと感じた。

 

 

「……ケン。」

 

「………はい。何でしょう、千代女さん。」

 

「少し屈め。」

 

「はい。」

 

 

 かなり大柄なケンが、おもむろにかがんだ。その瞬間―――

 

 

「!?」

 

「何じゃと。」

 

「わーお。」

 

 

 千代女がケンの唇を奪ったのだ。顔を真っ赤にして、まくしたてるようにしゃべる。

 

 

「わ、私は!!私がお前の一番になるんだからな!!」

 

「主殿。ご感想は?」

 

「感想とかいいからぁ!?」

 

 

 恥ずかしさのあまり、風の如くボイラー横から飛び出した千代女。流石の敏捷A、誰の目にも止まることなく抜け出した。

 

 

「……で、主殿。ご感想は?」

 

「サイコですかこの子は!?」

 

「だーから嫌じゃったんじゃよこやつ雇うの……。ケンもケンで、野良犬を拾ってくるノリで忍拾ってくるんじゃから……。」

 

「むっ、段蔵はサイコなどではありませぬ。その証拠にこうして主殿……ケン様を、心からお慕いしておりますので。」

 

「キャーかっわいい!ケンさんにはもったいないでしょこんないい子!」

 

「私もそう思います。だから段蔵、此度はマスターの忍として……」

 

 

 ようやくキスの衝撃から帰ってきたケンは、段蔵をしっかりとマスターに仕えさせるべく、言い聞かせようとした。しかし、段蔵はそれを是としなかった。

 

 

「いえ、生前は信長を主君としましたが、それは主殿の傍にいたいがため。ここカルデアではその遠慮もございませぬ。」

 

「わーおナチュラルに無視されちゃった私!噛ませ犬かな?」

 

 

 軽い口ぶりの立香だが、これはあまりよろしくない。そう判断したケンは、少しだけ段蔵に釘を刺しておくことにした。

 

 

「段蔵。それはよくない。」

 

「……主殿。」

 

「お前は生前、よく頑張ってくれた。お前の働きは誰よりも俺が知っている。……大丈夫、お前の主が変わったとて、お前を手放したりはしないさ。」

 

「……はい。この段蔵、最期の時まであなたのそばに居ります。」

 

「フッ、馬鹿者。そういうことではないよ。……だが、少し安心した。やはりお前は段蔵だ。相も変わらず、手のかかる奴だ。」

 

「……ふふ、ならば手を離さぬようにお願いします。なにせ段蔵は、手のかかるあなたの忍ですから。」

 

 

 

「……チッ。」

 

「せ、先輩!?気持ちはわかりますが、そのようにやさぐれてはいけません!!」

 

………クソが(小声)マジむかつくわいちゃつきやがって(小声)

 

「ドクター!!メンタルチェックをドクター!!」

 

 

 立香をやさぐれさせるほどイチャついたケンと段蔵。もちろん、その代償は支払わなければならない。

 

 

「……ケーン!覚悟出来とる?☆」

 

「………信長様、これは違うのです。つい懐かしい気持ちになって」

 

「……やはりあの時殺しておくべきでしたか。空蝉の術とかで逃げる前に仕留めなくては……は、あははは。」

 

「お虎さん?あの、心取り戻してるんですよね?」

 

「キス……沖田さんのキス……あでも?ケンさんからキスしてくれたのはまだ沖田さんだけですね?……やっぱり沖田さん最強です!!この勝負もらいましたよ!」

 

「……頼むからお前はそのままでいてくれ。」

 

 

 新たなサーヴァントを二人。望月千代女と加藤段蔵を加え、カルデアはさらに賑やかになった。それに比例して、ケンの胃痛はさらにひどくなったのであった。




「そういえば沖田さん最近テンプレヤンデレムーブしないね。」

「ふふ、沖田さんはMという新たな活路を得ましたからね!」

「それは活路というかいばらの道では……。」
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