それと新規ぐだぐだイベ開催決定おめでとうございます!私はシンで進めなくなって、その後にきたイベントに参加できなかったことに拗ねて引退してしまったので、YouTubeに早くアップしてくれよな!あと、これから出てくるサーヴァントとネタが被らないでくれよな!!
感想・評価・ここすきなどしていただけると励みになります!
ひとまずケンは、朝まで共寝して時間が遅れた分急いで厨房に向かった。とにもかくにも時間がないので、昨日のうちに仕込んでおいたクロワッサンを焼き、そこにバターに少し塩を加えたマーガリンとあんこを持って部屋に舞い戻る。
普段は間食のお菓子以外は信長に甘いものを取らせないようにしているのだが、ケンが何か信長に言いたいことがあるとき、このように甘いものを持っていくのだ。
「はあ~?段蔵がおかしいじゃと?あんなもんじゃろあいつは。」
「信長様、そんなことは……」
最初こそあんこがついていることにニヤニヤした顔を隠せなかった信長だが、相談の結果はけんもほろろ。信長は段蔵に対して何の考えも示さなかった。
「あいつはそもそも心がないという風に聞いておるぞ。それがもとに戻っただけじゃろ。」
「しかし最近はしっかり挨拶や食事をしてくれるなど、人間らしい行動をしています。俺はあれをただの演技とは思えないのです。」
「ふーむ……ま、自分の仕事をきっちりしてからならワシも文句は言うまいよ。」
「! ありがとうございます!」
何とか許可をもらったケンは、いつものように信長の朝の支度をしてやりながら、ベタベタと体を触る信長をあしらっていた。そもそも、髪をとかしているのになぜこちらを向いているのか。
「……どうしたものか。」
「む、ケンではないか。何か、悩んでいるようだな。信長様のことか?当然信長様の事だな?」
「……明智様。いえ、信長様のことではございません。」
庭の石に腰掛け、うんうんと唸っていたケンに声をかけたのは明智光秀だ。彼は基本的には有能なのだが、信長が関わるとどこかネジが外れる。どうしてもその姿を見るたび、信勝の姿がケンの目には浮かんでしまうのだ。
「むっ、何故信長様のことを考えていないのだ!お前は信長様の料理人として常に信長様を最優先に考える責務が――」
「これは信長様の指示なのです。加藤段蔵という忍びを、いつもの調子に戻してほしいと。」
「ぬぅ、そういうことか……。それならば、私も手を貸さないわけにはいくまい。」
『信長からの指示』ということで納得してくれた上、光秀も『何か考えてみよう』と言ってくれたが、ケンは正直に言ってあまり期待していなかった。光秀は確かに有能な人物だが、人の心の機微には疎い部分があった。どちらかというと学者肌といった人物なので、研究や計算を任せておくにはいいのだが政は苦手よなと信長がボヤいていたこともある。
以下、他の部下に対する信長のぼやきである。
「光秀か。あやつは人の話を聞かんからのう。もっとワシの言葉に耳を傾けんと……いや、傾けようとはしておるのか。それこそワシの口に耳をつけんばかりの勢いで。ま、理解できぬのなら聞いていないも同じよな。」
「権六……。あやつも人の話を聞かんな。まあ戦は強いから……。」
「佐久間はダメじゃな。話が理解できてない上根性なしの能無しじゃ。仮に新人じゃったらクビにしとったかもな。……あれ、そう考えたらワシの家臣聞かん坊ばっかじゃね?」
なお、ここでのクビにするというのは『解雇する』という意味ではなく、文字通り首をはねるという意味である。何とかケンがいる間は家臣に対する暴力は抑え込んでいるが、敵対者に対しては容赦のない信長であった。
このように愚痴を言いながら晩酌をしていた信長に対し、最後は気持ちのいい話で終わった方がいいだろうと思ったケンが、『では秀吉さんはどうですか?』と尋ねてみたことがあった。
「んぇえ……? ……ああ、サルか。サルは有能じゃし、ワシの話わかるし、面白い奴じゃし……。でも、変態じゃしなあ。」
その言葉については流石に同意せざるを得ないケンであった。
結局、光秀と一緒に考えても良い考えは浮かばなかった。仕事があると去っていった光秀の背中を見送りながら、『あの方ももう少し信長様のことを見てくれればよいのだが……』と思っていた。あの方は信長様自身を見ているというより、『信長様の役』を見ているような気がするのだ。
当然だが、信長様は普通の人間だ。確かに天下を獲るにふさわしい大器を持つ人間だと思ってはいるが、それでも崇拝の対象にはならない。もっとしっかり、話をするべきだと思うが……。そんなもやもやとした気持ちを抱えながら、ケンは日々を過ごしていた。
考えても考えても何もいい考えは浮かばず、日々の仕事に忙殺される中で、ケンも段蔵のことを放置せざるを得なかった。あくまで仕事はきちんとこなすし、絡繰の体を活かして効率化もしてくれた。ケンが堺の商人たちと交渉して手に入れたじゃがいもやとうがらしなどの作物を、何とか自分で作れないかといろいろ試していた畑も、段蔵の助けによって明らかによくなっていた。
そのおかげで提供できる料理はグンと増えたし、信長もとうがらしを使った料理を気に入った。だが、段蔵の心はいまだ戻らない。ケンは何とかせねばと思いつつ、またいつもの荷造りを始めるのだった。
「あっ!ケン!!会いたかったですよ!道中何も危険はなかったですか?盗賊は?獣は?つい最近鏖にしたばかりですが、もし万が一にでもあなたが傷つくようなことがあったら軍神になりますから、気を付けてきてくださいね???」
「あ、あはは……。ご無沙汰してます、お虎さん。万事順調でしたよ。」
ケンは年に一度の越後遠征に来ていた。これは信長と景虎との間に結ばれた約定に基づき、ケンが一年に一度、一か月間景虎のもとに身を寄せるというものだ。ケンは信長の許可を得て、じゃがいもを土産として持ってきていた。もともとじゃがいもは冷涼な気候を好む作物だし、越後ならよく育つだろうと思ってのことだ。
この輸出には二つの意味があり、一つはケンが飢饉で死ぬ人々を看過できなかったこと。空腹で死ぬなど、料理人として許せない。もう一つは信長の賄賂である。現に信長から送られた書状には、たくさんのおべっかと共に、『ケンに手を出したら許さないこと』や『この作物をあげるから攻め込まないでほしいこと』などが遠回しに書かれている。
「相変わらずうさんくさい手紙を書く奴ですねえ……。」
「まあ、それだけ信長様も必死なのですよ。敵対したくはないと常日頃から言ってますし、俺もそう思いますから。」
「そ、そんなにも私のことを……!やっぱり私の事大好きですね!!」
「……まあ、否定はしませんけど。」
実際、ケンは景虎のことを心から尊敬していた。軍神と謳われるほどの強さは名に偽りなく、ケンの武士としての心が彼女を求めてやまなかった。榊原鍵吉として生きていたころは、『二君に仕えず、二師に習わず』の誓いを立てていたが、今の自分はケンであるし、いいのではないかと思って共に稽古を行うこともあった。
「ふ、ふふふふ……。今のはちょっとヤバいですね。思わず虎になりかけましたよ。」
「そ、それは困ります。とりあえず、食事にしましょうか。じゃがいもを味わってほしいですし、ベイクドポテトをつくりましょう。」
ケンはこちらに来るといつもそうするように、料理を作って酒の酌をする。ケンは医者ではないし、現代と違って血圧を測るような機械もない。だが、健康に害さない程度の酒量というのは料理人として心得ているため、ケンはそれを守るよう徹底させていた。景虎は少し不満げだったが、『あなたが早死にしたら悲しいですから』というキラーワードに負けたのだ。
「はむっ!はふっ、はふっ……ん~!美味しいですねこれ!ほろほろ崩れるのに、濃厚な味わいで……!」
「それはようございました。じゃがいもはほんのひとかけらからでも育つ作物ですし、お酒の原料にもなります。越後の気候はじゃがいもに適しているようですし、栽培を検討してみてはどうですか?」
「お酒!いいですねいいですね!すぐに作らせましょう!」
景虎は非常に機嫌がよく、慣れた手つきでケンの体を胸板中心に撫でまわす。何故俺の周りの女性はこんなにもセクハラが多いのだろうかと思いながら、ケンはぎこちない笑みを浮かべていた。その顔を見て景虎も何か感じるところがあったのか、ケンに問いかける。
「――何か悩んでいるような表情ですね。私に話してみませんか?」
「お虎さん……?そのような、事は……」
「私にはわかります。この、人の心を知ったお虎さんにはね! ……まあ実際のところは、あなたの顔をじっと見ていたからわかったんですよ。なにせ、一年ぶりですからね。」
「……ふふ、敵いませんね。それでは、聞いていただけますか?」
「ええもちろんです!ふふ、こうして悩みを聞くというのは、夫婦のようで心が踊りますね!」
うきうきした様子の景虎に、ケンは段蔵の話を始めた。最初の方は楽しそうに聞いていた景虎だが、女の話と分かった途端に一瞬で目からハイライトが無くなった。未だに笑顔以外の感情表現の方法は覚えていないようで、ずっとニコニコしている。慣れたケンならともかく、何も知らない人が見たなら恐怖で漏らすかもしれない。
「……ふ、ふふふふ。あなたも中々、変なことで悩むのですね。それにしても段蔵、段蔵ですか。私のもとにかつていた忍ですね。」
「えっ!?そうなんですか!」
「ええ。まあでも、忍を使うような仕事はここにはないですし、それより危険すぎて何とか殺そうとしてたくらいです。ふふ、まさか信長のもとに行っていたとは……」
「そ、そんなことが……。」
「考えてもみてくださいよ。高い忍の技術……諜報やら暗殺やらを高水準でこなせて、それでいて死も恐れず罪悪感もない。はっきり言うなら、最高の忍でしょうね。ふふ、こう言ってたら昔の私みたいですね。」
懐かしそうな顔をして、穏やかな笑顔を浮かべる景虎。その顔を見て、ケンはなぜか安心感を覚えた。
「まあ、段蔵がケンのところにいるのなら安心です。大事にしてやってください。彼女にも、生きる権利はあるはずでしょう。私にしたように、心を与えてあげてください。」
「―――はい!」
景虎のこちらを信頼してくれているようなまっすぐな瞳を見て、ケンは大きく頷いた。今まで感じていた不安や焦りが、一気になくなっていく。心がまっさらな青空になったかのようだ。そうだ、何とかなるさ!なんせ、景虎だって心を持てたんだから!
「ありがとうございます、景虎様!おかげで迷いが晴れました!」
「うむうむ、それは上々!さて、ではお礼をもらいましょうか。」
「……え?」
「ふふ、もちろん体ですよ?ああでも、そう考えたらケンからのお礼というより、私からのお礼ですかね?なにせ、私の前で他の女の話をしたんですから。」
「あ、ああ……。」
いつしか、景虎の目からはまた光が無くなっていた。いや、正確に言えば奇妙な形の光があるのかもしれない。そう、それは、まるで、ハートの、ような……
「ふふ、私から責めるというのにも興味があったんです。気をやらないよう、気をつけてくださいね……。」
―――虎の捕食が始まった。
翌朝、妙に肌がつやつやした景虎に見送られながら、ケンは岐阜城へと帰っていった。正直言って足はふらつくし体調は最悪だったが、何とか城にたどり着く。しかし、ケンの仕事はまだ終わらない。信長の嫉妬を丸出しにした『上書き』に準備する必要があるからだ。
「とにかく、エネルギーを補給しなければ……」
ケンは呟きながら、自分用に作り置きしておいた飯玉を取り出す。厨房まで湯をもらいに行ったところ、ケンの事情をよく知っている部下が、気を利かせてただの湯ではなく出汁をとって注いでくれた。その暖かさにほっと安心し、ようやく腰を落ち着けることが出来た。
「……その、ケンさん。お疲れ様です。ほんと、なんか、羨ましいはずなのに絶対こうなりたくないなって……ハハ……。」
「……ああ、気にしなくていいよ。こういう保存食を、しっかり作っておいてよかった。」
その時、ケンの頭に閃くものがあった。保存食、そうだ、保存食だ!!
「これだ!これなら、段蔵殿にも……!!」
「ほーう……ようやく帰ってきたかと思えば、すぐに別の女の話とはのう。流石に色男は女もよりどりみどり、随分余裕があるらしいな?」
「い、いや、信長様、これは、その……」
ああ、我々は幾度この景色を見ただろうか。余計な発言をして、信長に〆られるケンの姿を。いい加減学べよと誰もが思った。お前の周りにはたくさんの女性がいて、その一部は執着すらしている。なぜ、この男はそれでも粉をかけるのをやめないのか。
「まあワシも?鬼ではあるまいし、お主が段蔵のために心を砕いておったことは百も承知よ。これについては今更何も言うまい。」
「の、信長様……!」
ケンは感動のあまり、声が上ずってしまう。まさか、そんな思いやりのある台詞を信長から聞けるとは!
「そ・の・か・わ・り~?☆」
驚くほどきゃぴきゃぴした甘い声でケンに近づく信長。ケンは、長い付き合いからこの習慣を知っていた。これは、信長がケンに対して本気でキレている時の声だ。
「今日は絶対に寝かさんから、覚悟しとけよ……。」
先ほどまでの声からは想像もできないほど低い声が、ケンの耳元で囁かれるように響く。決して不快なものではないが、怖いものは怖い。
「……はい。」
ケンは何とか死なないようにするには、どうすればいいだろうかとそればかり考えているのであった。
「―――段蔵殿。いらっしゃいますか。」
「ここに。……?ケン殿?」
「……ああ、よかった。実は、試してみてほしい料理があるのです。活力が付くと思いますので、よければどうですか?」
段蔵はすぐに、『段蔵には味がわからぬ故、料理の毒見には向いておりませぬ。適任を呼んでまいりましょう。』と言いかけた。だが口から出てきたのは、まったく別の言葉であった。
「……どちらかと言えば、活力が必要そうなのはケン殿の方ですが?」
段蔵を呼んだケンは、今にも干からびてしまいそうだ。干ししいたけみたいになっている。
「……では、俺も一緒に食べますか。大丈夫、味にも栄養にも自信はあります。」
それなら自分が味見をする必要はないだろうと思いつつも、命令とあれば従わないわけにはいかない。ひとまず用意された座布団に座り、料理が出されるのを待つ。そうして、供されたのは……
「……何だ、これは?何か……何か、思い出しそうな気がするのだ!なんだ、何だこの気持ちは!」
「―――お待たせしました。兵糧丸でございます。」
兵糧丸。その言葉が、段蔵の中で何かを思い起こさせる。壊れかけた記憶領域に、とても大切な記憶がよみがえる。日本の人間のものではない、赤い髪をした赤ん坊。自分の兵器だらけの両手で、その子を傷つけないよう気をつけながら、母親の代わりを務めたあの日々。
(……そう、か。これは、これは忍としてのワタシの記憶。)
この兵糧丸は忍が携帯する食料だ。すっかり忘れてしまっていたが、私にも作った記憶がある。風魔の里にて、まだ小さなあの子と一緒に材料をこねたのだ。どうして忘れてしまったのだろう。
「……段蔵さんは味を感じないとのこと。しかし、味だけが料理ではありません。もっとも代表的なやり方は、視覚に訴えかけること。芸術品のように美しく盛り付けなどを行うことで、味のわからない方でも料理を楽しむことが出来ます。」
「ですが、私は段蔵さんの心をもう一度見せてほしかったのです。であれば、段蔵さんの大切な記憶……忍に関する料理が、あなたにはよく効くのではないかと思いました。」
「……何か、思い出しましたでしょうか。」
ケンが慎重に尋ねると、段蔵は答える代わりに兵糧丸をほおばった。やはり味なんてわからないが、嗅覚が伝えてくれる。口の中の触覚が、ボロボロと口の中で崩れる食感を教えてくれる。ああこれだ。この口の中の水分が不足して、水やお茶を啜りたくなるこの感じ。本当に、本当に……
「……懐かしい。懐かしいです。ああ、そう、こんな感じでした。ワタシ、段蔵は、段蔵は―――大切に、していただきました。絡繰人形のワタシを、人間のように扱ってもらいました。ワタシも、まるで、人間のように……。」
「人間ですよ。」
「……え?」
突然言葉を発するケンに、段蔵は驚いた顔をする。だが、それを意に介さず続けるケン。
「―――俺は、人間の心があるのなら、誰だって人間だと思っています。それに心というものは、後からでも手に入れられるものなのだと。」
「現に信長様も、景虎様も、沖田という私の大切な友人も、皆心を取り戻しました。……あなたにも、そうなってほしいと思っています。」
「段蔵さん。あなたは、人間です。人間の心があるのだから、それはもう人間です。」
人間。そうだ、ワタシは人間だ。いや違う、人間でありたかった。誰かに人間だと、言ってほしかった。
「ワタシ、は……人間で、いいのですか?絡繰人形としてではなく、人間として生きていいのですか?」
震えながら、段蔵はケンの手を握る。ぬくもりを確かめるように。自分のぬくもりを、相手に伝えようとするように。
「……もちろんです。あなたは俺の信頼のおける護衛で、感謝すべき働き者で―――大切な、大切な人間です。」
段蔵の手の感覚器官に、強く圧迫された感覚が伝わる。力が強くて少し痛かったが、とても優しい痛みだった。
「―――承知しました。それではこれより、加藤段蔵。本当の意味で、あなたの忍になりましょう。忍とは、刃の心と書くものです。……我が主、ケン殿。いえ、主殿。この心持つ刃加藤段蔵をどうか一生、大切に使ってくださいませ。」
そこで一息いれた段蔵は、改めて宣言する。
「―――不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。」
「――はい。これからも、頼りにさせてもらいます。段蔵さん。」
長い、長い時間を経て。ようやく二人の心は交わった。冬の空に日は高く、日差しは少しばかり暖かかった。きっともうすぐ、春が来るのだろう。そう思いながら、ケンは兵糧丸を口に放り込むのだった。
――――――――――――
「これが、ワタシが主殿を見つけた物語の一部始終にございます。どうですかマスター?」
「とりあえずケンさんは責任とれよって思った。」
「「「わかる。」」」
何という正論か。快刀乱麻なこの答えには、ケンも思わず頷いてしまう。
「まぁ~でもさ!ケンさんが色んな人の人生に寄り添って、心を守ってたんだなっていうのは伝わったよ。何か料理人というよりカウンセラーみたいだよね。」
「……確かに、接客の中でお客様の好みや悩みを慮るシーンもありましたし、心に関わるという点では似ているかもしれません。ですが私の中では、あくまで私は武士であり、料理人だと思っております。」
「へ~……。ていうことはさ、戦力としても期待していいの?私、戦闘のことに関してはまだまだだから、もし苦手だったらカルデアでご飯作って待っててもらってもいいんだけど……。」
そう言いながら、こちらを伏せ目がちに見つめる立香。ケンは、安心させるように軽く笑った。
「―――お任せください。これでも、宝具はちょっとすごいのです。局所的にですが、刺さる部分もあるのではないかと。」
「へー!じゃあさじゃあさ!ちょっとシミュレーションとか……」
興奮して話す立香だったが、その時は唐突に訪れる。
『マシュ、立香くん、急いでブリーフィングルームに来てくれ!
「!!」
放送だ。ダヴィンチちゃんの声を聞き、すぐに立香は立ち上がった。
「よし、それじゃ行こうかマシュ!えーっと、あと段蔵さんとちーちゃんもついて来て!」
「ち、ちーちゃんにござるか……。」
「承知。では主殿、失礼しまする。」
「は、え?お、おい段蔵!?」
あっという間にケンを抱え、ブリーフィングルームへ疾走する段蔵。例の三人が止める間もなく、あっという間に見えなくなった。
「あー……行っちゃいましたね。まあ、ケンさんも初めての特異点ですし、説明聞いておいた方がいいでしょうしね。」
「是非もなし、か。まあすぐに帰ってくるじゃろ。なんせ
「おっと、戦をご所望ですか?ふふふ、それならそっ首叩ききってあげましょうか。」
「「「……。」」」
本当に、本当に気軽に修羅場ができるものである。これでは立香の言うような、カルデアXデー(原因:痴情のもつれ)は本当に近いのかもしれない。これを唯一止められるあの男は、ケンは何をしているのか。
―――――――――――――
「来たね、二人とも。あっ、ケンさんも来てくれたのか!それに、あたらしく召喚されたサーヴァントの二人も!いよいよカルデアも充実してきたなあ!」
「……お館様。何にござるかこのちゃらんぽらんと辞書で引いたら挿絵に載っていそうな男は。」
「うぐっ!ケンさんの暖かさがあった分、この冷たさが心に刺さる……。」
すっかり落ち込んでしまったロマ二をよそに、ダヴィンチちゃんが説明を引き継ぐ。
「さて、では早速見つかった特異点の話をしようか。時代は十三世紀。場所は聖地と知られるエルサレム。」
「――そして。唯一、わかっていることがある。今回の敵の正体だ。」
「!?」
マシュと立香が驚愕するのも無理はない。今までの特異点修復は、率直に言って行き当たりばったり。現地に着いてから戦力の増強を図り、現状の把握をして、倒すべき敵、解決すべき問題を突き止め、ようやく修復に至る。だが、今回はその倒すべき敵が分かっているというではないか。
「す、すごいすごい!どうやったのダヴィンチちゃん!やはり天才か……!?」
「ふふん、それはもう天才だとも!だが、残念ながらまともな方法ではないんだ。これの鍵を握っているのはそう……またしても、キミなのさ。」
「……え?」
振り向いた立香の視線の先には、同じく驚いた顔をしているケンがいた。その反応が期待通りのものだったからか、ダヴィンチちゃんはにっこりと頷く。
「そう、ケン君!またまた君なんだ!流石の私でも、ちょっと引いてるよ!」
「ま、待ってください!私には何も、心当たりが……」
「まあそうだよねえ。正直言ってこの方法、バグ技というかチートというか……こう、仕様の穴をついたようなものだから。」
恐らくは二度と使えないものだと思ってくれ――と前置きをして、ダヴィンチちゃんは語り始める。
「実は君を召喚した際に、魔力の残滓とも言えるものがあったんだ。メカニズムについて詳しくはしゃべらないよ?言っても理解できるのはマシュくらいだろうしね。とにかくその魔力の残滓とは、私たちの他にも
「……別の魔術師の痕跡……あっ!ひょっとして、その魔術師というのが……!」
「ご名答!特異点にいる私たちの敵であるわけさ! ……まあ能動的にサーヴァントを召喚しようとしていただけで、敵かどうかはまだわからないんだけどね!」
そうおどけるダヴィンチちゃんだったが、この推測はほぼ間違いなく当たっているだろう。サーヴァントを召喚する目的など、ほとんどの場合は戦力の増強を望んでのこと。特異点において戦力増強を望むなど、ほぼ黒幕と言って差し支えないだろう。
「そ、それで……!いったい、誰なんですか!?その、推定敵というのは……!!」
「うん。魔力のパターンから判断したものなんだけどね。まさしく聖地。魔術師たちにとっての、永遠の憧れ。……中世はブリテン、円卓の騎士!!それを束ねる騎士王、アーサー!!恐らくは、それが今回の敵になるはずだ。」
円卓の騎士。数多のサーヴァントの中でも、トップクラスに優秀であるとされる英雄たち。人々を守護する正義の使徒たる彼らが、人理に対し牙をむく。
「……そういう、ことですか。なるほど確かに、それなら合点がいくというものです。」
「ケンさん……?」
最初に言葉を発したのはケンだった。彼は、全てに納得したかのような表情をしている。そんなケンを立香は不安そうに見つめるが、ケンはにっこり笑ってガシガシと頭を撫でる。
「大丈夫です、マスター。何も不安がることはありません。いつものように、あの切れ味鋭い突っ込みを見せて下さい。」
「……さて、では話を再開しようか。カルデア司令部としては、ケン君にもレイシフトに同行してほしいと思っている。なにせ、この特異点における唯一にして一番の手がかりなのだからね。」
「もちろんです。むしろ、私から願い出たいほどですから。」
「そうか、そう言ってくれると助かるよ!それじゃあ早速出発したいんだけどいいかな?信長君たちに文句を言われる前に出発したいだろう?」
「あ、あはは……。マスターさえ、よろしければですが……」
そこにいる全ての人間の目が、一斉に立香へと向けられる。普通なら恐縮する場面かもしれないが、それでも彼女は威風堂々としていた。
「―――大丈夫!何時でも準備は出来てるから!」
「よぅし、なら出発だ!今回は計4名のレイシフトだから死ぬほど大変だと思うけど、何とか頑張ってね!」
「え、だ、ダヴィンチ!?君も行くつもりなのかい?」
「当たり前じゃないか。なにせ、今回はEXの特異点だぜ?何があっても対応できるよう、この万能の人を連れて行かないわけにはいかないだろうさ!」
さも当然といった風に告げるダヴィンチだが、その話には筋が通っている。職員たちはただでさえ人数の増えたレイシフトを、さらに少ない人数でこなさなくてはならないという狂った状況に泣きわめきつつも、絶望することなく果敢に挑みかかった。彼らもまた、戦っているのである。
「―――さて、それでは行こうか!円卓の騎士のお膝元にして、おそらく今までで最も困難なレイシフトに……!!」
宣言と共に4名の意識は暗い闇の中に落ち、過去へと遡っていく。そこに待ち受けるは白亜の騎士。その心に宿るのは、正義かそれとも悪心か―――。
「……え、ワシの本能寺とか長篠とかは!?」
「手取川の戦いだってまだじゃないですか!あんなおいしいイベント中々ないでしょうに!!」
「……ま、まあでもホラ。ケンさんもう行っちゃったっぽいし……。」
「「「は???」」」
(うわ~……こりゃ霊脈見つけたら、即行コースだね。ケンさんには申し訳ないけど、まあ頑張って。)