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さて、ベディヴィエールと別れたケンを加えたカルデア一行は、共に聖都を目指す難民たちと合流して、現在は夜のキャンプを行っていた。難民たちは強盗や怪物から護衛を行ってくれるカルデアを歓迎し、多くない食糧を分けてくれた。ケンも、オジマンディアスから供されたという物資と共に腕によりをかけ、塩分多めのスタミナ料理を作り、非常に喜ばれた。
食事を終えたのち、明日も日の出とともに行動するためすぐに難民たちは眠りについた。ケンやダヴィンチちゃんはサーヴァントとして睡眠を必要としないため、寝ずの番を買って出た。焚火を守りながら、ケンは未だ考え続けていた。自分は、彼らに勝てるだろうかと。無論、精神的な問題ではない。命のやりとりには慣れているし、例え今まで談笑していた相手でも斬り殺せる自信がある。殺人のスイッチは緩い。だが、単純に彼らは強いのだ。特に警戒すべきは、日中で無敵の―――
「ケンさん?」
「―――おや、マスター。どうされましたか?眠れないのですか?」
思考を中断し、また笑顔を作る。その顔を見て立香は安心するどころか、更に表情を曇らせた。
「……ねえ、ケンさん。私って、そんなに頼りないかな?」
「!? な、何を言うのですか。あなたは……」
「私もね、いろんなサーヴァントの人に会って、色んな世界を渡って……色んな経験をしたの。だからわかるよ。ケンさん、やっぱり何か隠してる。」
「……ですから……。」
「……やっぱり、だめかな。」
そう言って寂しそうに笑う立香。その諦めたような笑みは、ケンに一つの記憶をフラッシュバックさせた。燃え盛る本能寺の中、『是非もなし』と笑う、かつての主君の姿を。
それに気づいた時、ケンは弾かれるように地面に頭をつけていた。下が固い地面なのも厭わず、土下座の姿勢をしていたのだ。
「……え?ケ、ケンさん!?」
「申し訳ございません、マスター!!私は……私は、思いあがっていました!!」
「え?え?」
「私はこの先に待ち受ける真実を知っていながら、勝手にあなたの心を決めつけてしまいました!あなたの心は、あなたのものだというのに!」
何という傲慢だったのだろうか!立香が傷つくと決めつけ、教えるべきことを教えなかった!人の本質を見るべきだとは、自分が抱いた信条だというのに!
「お、落ち着いてケンさん!何があったの?」
「フーッ、フーッ……。大丈夫、大丈夫です。……マスター、失礼しました。」
何とか心臓の鼓動を抑え、ケンは改めて座りなおす。そうしてマスターの目を改めて見据え、ゆっくりと話し始める。
「……マスター。これから話すことは、ひどく残酷なことです。ひょっとしたら、聞かない方がよかったと思うかもしれません。なぜ話したと、私をなじってもらっても構いません。令呪を使われずとも、腹を切る所存です。」
「―――うん。大丈夫、話して。」
立香の声を受け、ケンはゆっくりと話し始める。聖抜の真実。敵の強大さ。そして、全員を救う事はまず不可能であるということ。立香は震えながらその話を聞き、その度にケンは胸を痛めた。それでも話さなければならぬと、最後まで話しきった。
「……これが、私の聞いた話の全てです。情報源については、ご勘弁ください。その方と、情報源については明かさないと約束したのです。」
「……そっか。ありがとうケンさん。話してくれて。」
「礼などと――!!私は、殴られるどころじゃすまないことをしたのです!」
「ううん。私のこと考えてくれたの、わかって嬉しかった。ありがとう。」
ケンは自分を戒めなければならないと思いつつも、その言葉が心に染みていく。ホットチョコレートを飲んだように、甘い暖かさで心が満ちる。
「――ケンさん、やっぱり私のことよくわかってるんだね。私、今の話聞いて絶対助けなきゃって思ったもん。」
「――ッ! ……しかし、マスター。絶対に、全員を助けることは不可能です。」
「……だよね。でも、ケンさんが話してくれた意味は絶対あるよ!ケンさんだけじゃなく、私とマシュと、ダヴィンチちゃんで考えたら何か浮かぶかもしれないし!それにさ、最悪人海戦術で何とかしようよ。全員で必死に呼びかけたら、その聖都の前で戦うよりたくさんの人を助けられるかもしれないじゃん?」
「……マスター。」
ケンは、目の前で屈託なく笑う少女に、自分のかつての主たちの姿を見た。群雄割拠の日本で、天下布武を掲げた火の玉のような少女を。滅びの確定した島で、少しでもよくあれかしと尽くした騎士の王を。あまりにも強大な敵の前に、吐き気をこらえながら奮闘していた、あの放っておけない皇帝を。
その顔を見た時、ケンは改めて確信した。今のサーヴァントとしての生は、この少女のために使おうと。仮に信長やアルトリアと立香が対立しようものなら、迷うことなく立香につこうと。
「ありがとうございます。私も、おかげで迷いが晴れました。―――そして、マスター。私に一つ、考えがございます。」
「ホント!?やろうよ、それ!」
「ま、まずは詳細をお聞きください。おそらくかなり大変な作業になりますので……。」
ケンは、焚火の前で立香に自分の考えを話し始めた。4人だけで行うにはあまりに大変なその作業を聞いてなお、意志を曲げることはなかった。そして、その作業に備えるためにすぐに眠りにつくのだった。
――――――――――――――――
刺すような日差しの中、難民たちは歩を進める。野盗や怪物に荒らされた故郷の村を捨て、唯一の望みを聖都に託して歩き続ける。会話もなく、ただ黙々と進む彼らの中に、突然ざわめきが起きる。
「おい、なんだかいい匂いがしないか?」
「言われてみれば確かに……。で、でもこんなところで料理屋なんてあるわけないだろ。きっと死んだ獣が地面の熱で焼けたんだよ。」
しかし、そのような匂いではないことを誰もが承知していた。ただ単に肉が焼けている匂いではなく、にんにくのような……。
「あっ!多分、あっちからしてくるよ!行こうよお母さん、ねえ行こうって!」
「た、確かに何か見えるけど……。でも、そんなこと……。」
口では拒むが、母親の足はふらふらとそちらの方に向かう。それにつられるように一人、また一人と歩き出し、最終的には全員が匂いのする方へ向かうのであった。
「さあいらっしゃーい!極東の王様に仕えた料理人の、とびきり美味しい料理だよー!お代はとらないよー!」
「ファラエル!ピタパン!フムスもご用意してあります!クッベもありますよー!」
「食べなきゃ絶対後悔するよー!ほらほら、絶世の美女に応対される幸福も味わっていきたまえ!」
カルデアの一行は、ダヴィンチちゃんの設営してくれた出店のような仮設ブースで料理を提供していた。もちろん、これは単なる慈善事業ではない。
「ピ、ピタだ……。フムスも、いつぶりに食べるだろう……。」
「このファラエル、すっごく美味しいわ! ……私の、結婚式のときに母さんが作ってくれた……。」
ピタとは中東でよく食べられるパンだ。普通の食パンよりももちもちした食感が特徴で、後述するフムスと一緒に食べることが多い。そのフムスというのはひよこ豆のペーストの事で、見た目は白い味噌のような感じだが、味は優しい口当たりで、フムスにディップして食べるのが一般的である。
ファラエルは豆のコロッケのような料理で、カレー風味の味付けが特徴である。おかずとして食べることもあるが、サンドイッチのようなファストフードと位置付けられることも多い。クッベもコロッケのような料理で、肉やチーズに衣をつけて揚げる。中東料理として知られるほか、イスラエルの隣の国であるレバノンでもよく食べられる。
「ケンさん、さらにクッベを20、ファラエルを10お願いします!」
「了解です!」
ケンは汗だくになりながら油を使い、次々に料理を完成させていく。次から次へと客はやってくるので、ケンの作業はまったく楽になることがない。それでもあきらめることなく料理を提供し続けると、難民たちの中に心境の変化が表れ始めた。
「うっうっ……。か、帰りたい。帰りてえよ……。」
「お、おい!?せっかくここまで来たってのに……!」
「で、でもよ!俺たち、諦めるのが早すぎたんじゃねえのか!?聖都に行ったって、受け入れてもらえるかもわからねえじゃねえか!」
「そ、それは……。だがあの方たちは、正義を信じる方たちだと……」
「それなら聖地に都市をつくらなくたっていいじゃねえか!」
少しづつ心に溢れてくる望郷の思いと、そこから来る聖都への不信。やがて、リーダー格の男が立ち上がる。
「……皆。俺は、故郷に帰ろうと思う。」
「な!?」
「俺が間違っていたんだ。俺たちの生きる場所は、あそこにしかない。故郷にしかないんだ。きっと、諦めるのが早すぎたんだ。強盗や怪物と戦ってでも自分たちの畑を守って、家を守る。それが生きるってことだったんだ。」
「リーダー……。」
「もちろん、全員が俺についてくる必要なんてない。俺と同じ考えの奴だけがついて来ればいい。……ここで別れよう。」
そう言って、人々は口々に議論を始めた。聖都に向かいたい人と故郷に帰りたい人とが話し合うが、割合は圧倒的に帰郷派が多かった。多くの人の舌に、故郷の味が残っていたからだ。
(上手くいったようですね。)
(こんなに上手くいくなんて……。料理ってすごいんだね。)
これこそがケンの考えた作戦だった。故郷の記憶を料理によって思い起こさせ、帰るように仕向けるというものだ。信長の元に仕えていたころ、宣教師の本心を探るために使った経験が役に立った。記憶とは、何かと結びついていることが多い。今回はそれを味によって再現したのだ。
やがて難民たちが立ちあがり、立香たちに礼を言って逆方向に向かっていく。故郷に帰ろうとしているのだ。これで少なくとも、目の前にある死は回避できた。ここからの面倒まで見てやることは流石にできない。
だが、マスターの要望は『できるだけたくさんの人を助けること』である。一度の交渉でダメだったならば、次の手を打つまでだ。ケンは、あくまで聖都に向かおうとする人々の中でも、もっとも影響力のありそうな人物に声をかける。
「……あなたたちは、聖都に向かうのですか?」
「……ああ。俺たちにはもう、あそこしかないんだ!あいつらは故郷に帰りたいと言ったが、それは現実が見えて無いだけで――」
「殺されるとしてもですか?」
「……え?」
ケンは最後のチャンスとばかりに、聖都にて行われる鬼畜の所業について話した。難民たちはあくまで信じられないという顔をしていたが、100%信用される必要はない。ほんの少しでも疑惑の渦を作ってやるだけでいい。
「そ、そんな……そんなこと、あるわけが……」
「ないとは言い切れません。信じるか信じないかはお任せしますが、私は断言します。このまま聖都に向かえば、間違いなく殺されることでしょう。」
「……そ、そうだ!!お前ら、聖都に向かうライバルを消そうとしてるんだろ!?人数が減れば、聖都に入りやすくなるんだろ多分!!」
「そう思いたいならそれでも結構。あなたの選択によって死ぬのは私ではなくあなたですから。」
あえて冷たく突き放すような言い方をし、不安を煽る。そうすれば、人は逃げたくなるものだ。安全策に走ろうとするものだ。その安全策に続く逃げ道は、先ほど料理で舗装した。
「……帰ろう。俺、万が一にでも死にたくねえよ……。」
「お、俺も!どうせ死ぬんなら、故郷の方がマシだ!!」
「お、お、俺は諦めねえからな!!何が何でも聖都に行くんだ!!」
また何人かのグループが離脱し、最終的に聖都に向かおうとする人数は10分の1程度になっていた。そこでようやくケンも見切りをつけ、次の料理の準備をする。立香やマシュはあくまでも全員に諦めさせようとしていたが、やはり難民の意志は堅く失敗した。少しだけ落ち込んだような顔をしながら帰ってくる立香に、ケンは安心させるように声をかける。
「マスター、お疲れさまでした。あの人たちも、聖都での戦いで逃げられるかもしれませんから。」
「……そう、だね。うん、そうだ!落ち込んでる暇なんてないよね!」
このように移動しながら料理のキャラバンを続け、カルデアはかなりの人数を故郷に帰還させた。それでも聖都の壁についたとき、集まっている難民は500を超えるだろう。カルデアが接触できなかったグループもいるのだろうし、これは仕方のないことだ。
『あ、あー……。聞こえるかい、立香くん!?』
「ロマニ!やっと通信がつながったんだ!」
『ああそうなんだ!今の状況を報告してく……わ、ちょ、ちょっと!?』
『おいマスター!ケンはどこにおるんじゃ!』
「……ケンさん、覚悟決めて。」
「……はい。」
集まっている難民たちに迷惑をかけるわけにもいかず、なおかつ目立つのがもっとも不味いことなので、ケンは必ず後でお話ししますからと何とか通信を打ち切った。夜も更けているため、周りに寝ている人も多い。誰かを起こしたりしなかっただろうかと心配していたその時。
―――急に、夜が明けた。
「なっ!?わ、私いつの間に寝てたの!?」
「いや違う!いきなり昼になったんだ!」
「昼……なるほど、あの男ですか。なら、逃げの一手ですね。」
そう呟くと、ケンはすぐに移動するよう立香に促した。また、深く深くマントを被ることで、顔をしっかりと隠した。戦闘になるであろうという事はあらかじめ伝えておいたため、全員すぐに動くことが出来た。ダヴィンチちゃんもコソコソと仕掛けていた何かのスイッチを持ち、非常に悪い顔をしていた。
「な、何だ!?いきなり朝になったぞ!?」
「――恐れることはありません。これは私に与えられた獅子王からの
澄み渡った川のせせらぎのような爽やかな声が響き渡り、難民たちも静まり返る。その声を発したのは、ブロンドの髪をした大柄な騎士。――太陽の騎士、ガウェイン卿だった。
「あなたたちには、聖都に入るまえに選別を受けていただきます。この光に選ばれた者こそ、聖都に入る資格のある者。」
そう宣言すると同時に、一人の女性の体が眩い光を放つ。その女性はどうやら母親のようで、手を握る子供が不安そうに母親を見る。
「……一人だけ、ですか。ではその女性を聖都に招き入れましょう。……それ以外には、聖罰を始めます。」
難民を囲む騎士たちが、装備している剣や槍などの武装を構える。一方的な虐殺が始まる……ことはなかった。
「ダヴィンチ殿!」
「よっしゃー!まとめてぶっ飛びたまえ!!」
実に楽し気にダヴィンチちゃんがスイッチを押すと、地面に埋め込んでおいたダヴィンチボンバーが爆発。難民たちを取り囲む粛清騎士の円に穴が出来る。
「皆あそこだ!あの穴から逃げられるぞ!!」
「い、急げ!!」
できた穴に雪崩れ込む難民たち。次々に連鎖して起こる爆発。ダヴィンチボンバーはあえて時間差を作ってあるのだ。
「先輩!私たちはここで、殿を務めましょう!」
「もちろん!ってあれ、ケンさんどこ行った!?」
「あ、あそこです!あの輝く女性のところ!!」
ケンは子供に斬りかかろうとする粛清騎士の兜の隙間、喉の部分に刀を突きさして始末すると、すぐに女性の手を引いた。
「早く!こっちへ!」
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいいから早く走って! ――ッ!」
突如襲い来る斬撃。ケンは果てしなく重い其の一撃を何とか受け止め、ケンは吹っ飛ばされた。
「だ、大丈夫ですか!?」
母親は叫ぶが、ケンは言葉をかけることなく手で『早く行け』と促す。言葉がなくとも伝わったのか、母親は頷いて走り出す。マシュが彼女の方へ走っていたのでもう安心だろう。
「……あの一撃を受け止めますか。騎士道に反する攻撃までしたというのに、簡単にいなされては困りますね。」
「……。」
「あまり話をするのが好きではないようですね。ですが構いません。どちらにせよ、ここで死んでいただきます!」
突如始まるガウェインとケンとの戦闘。しかし、日中3倍の強さを誇るガウェイン相手には勝負にならず、ケンは耐えることで精一杯だ。倒すことを目的とせず、ひたすら逃げ腰で戦うことで、何とか戦いと呼べるものになっていた。
だが、そんな戦いからでも得られるものはある。ガウェインは、目の前の姿を隠すようにマントを被った人物の使う剣に、妙に見覚えがあることを感じずにはいられなかった。
(この剣筋、まさか彼の……?いや、彼に限って我が王を裏切るはずが……)
一瞬生じた迷い。その隙を逃さず、突っ込んでくる人物がいた。
「はぁあああーっ!!」
「何ッ!?」
黄金に輝く、白銀の義手。それを掲げて斬りかかってくるのは、見間違えようもないかつての友。
「ば、馬鹿な……!!なぜ、なぜあなたがここに!」
「ぐ、うぅうぅううう……。こ、答える必要はありません!サー・ガウェイン!その悪逆非道、ここで絶たせてもらいます!!」
ベディヴィエールの叫びと共に、輝きを増す戦神ヌァザの腕。その光は、もはや日光をも呑まんとするほどだ。極光を浴び、ガウェインのギフトがほんの少しだが弱まった。すかさずケンは首を刎ねに斬りかかるが、ガウェインもギリギリでガラティーンを振るう。そのせいで踏み込みきれなかったケンは、逆にフードを切り裂かれるという結果に終わった。
―――だが、それがガウェインに与えた衝撃は大きかった。
「ば、かな……!」
「! 今です、離脱しましょう!!」
「ケンさんこっち!早く来て!!」
「ダヴィンチフラッシュもおまけしとこう!急いで脱出だ!!」
ダヴィンチちゃんのスタングレネードのような何かが投擲され、あたりの人間の視界を奪う。ガウェインに至っても例外でなく、思わず目をつぶってしまう。その隙を逃さず、カルデアの一行やベディヴィエールは離脱に成功した。……というよりかは、あまりに多くの事が同時に起こり、ガウェインが行動できなかった。しばらく彼はそうやって立ち尽くしていたが、やがて足取り重く王城へと向かう。かの王に、この出来事をどう説明すべきかと考えながら。
―――キャメロット内、王城
「……失礼します。ガウェイン、帰還しました。」
その言葉に、円卓についていた騎士たちが一斉に振り返る。13の席があったそれは、今では歯抜けだらけになり、ひどく不自然なものであった。
「――ガウェイン卿。何が起きた?」
「――ッ! ……獅子王陛下。既に、お目覚めでしたか……!」
「随分と騒がしい戦いのようだったのでな。爆発、剣戟……ここまで聞こえてきたほどだ。それよりも、疾く報告を為せ。」
機械のような冷たい声を発するのは、まさしく黄金の如き見事な髪を持った女王だ。その容貌、その振る舞い、どれをとっても理想的。まさしく王の中の王と呼ぶべき存在である。……ただ一点を除けば。
「……サーヴァント2騎に妨害され、聖抜に選ばれた唯一の女性を逃がしました。他にも協力者がいたようで、粛清騎士の囲いも突破され、難民を計100名ほど逃がしてしまいました。」
「ハハッ!馬鹿見てえだなガウェイン!一番大事な役割を与えられておきながら、そんな大ポカやらかしてんのかよ!」
「――黙れ、モードレッド。お前には、ここに入る許可を与えていない。」
「わーってるよ、父上!しっかり荒野を守っとくからよ!」
死刑宣告のような獅子王の言葉にも、モードレッドは嬉しそうに答える。父上と言っているが、ひどく歪な関係のように思える。
「それで、そのサーヴァント2騎とは何者だ。我々の計画の障害になりうる者か。」
ガウェインに質問したのは、『鉄のアグラヴェイン』と呼ばれるほど、冷血で厳格な騎士だ。獅子王に最も忠実に尽くしている騎士であり、他の円卓の騎士からも恐れられている。もしガウェインが……いや、他のどんな騎士だとしても、敵に回ったならば何の躊躇もなく殺すことが出来るだろう。そのような恐ろしい人物の前でさえも、ガウェインはまったく動じることなく言葉を発した。
「……
ガウェイン卿は、理想の騎士としてあるまじき嘘をついた。この嘘が、この先の運命を大きく変えることとなる―――。
「あっ、あやつ早々に通信切りおった!!」
「ちょっと!ノッブがずっと話してたせいで沖田さんは声しか聴けなかったじゃないですか!!私だってケンさんと睦言を囁きたかったのに!!」
「やってしまいましたねえケン。これは教育でしょうねえ……。」