サブタイトルでお気づきかもしれませんが、今回前後編に分かれております。すぐに後編も投稿するつもりですので、少々お待ちをば……。
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「オラオラオラ!でかい口叩くわりに、大したことねえじゃねえか!」
「チッ、妙な力を使う奴じゃな。」
戦いはモードレッドが押していた。獅子王に与えられた
「オラいくぞ!
「遅いわ!」
宝具を展開しようとした瞬間を狙い、信長の射撃が襲う。しかしあくまでこの射撃は牽制、戦いを決定づけるものにはならない。その魂までも燃やし尽くして魔力を供給するモードレッドの苛烈さは増していく一方で、次第に追い詰められる信長。
「ハッ!それで勝てると思ってんのかよ!」
「信長さん!援護します!」
「下がれマシュ!これはワシとこ奴の戦よ!」
援軍を拒否し、孤軍奮闘を続ける信長。しかしやはり立香との魔力のパスを切っている影響が大きいのか、じりじりと押され続ける。
「もういい、てめえには飽きた!これで吹っ飛びやがれ!
「ぬぅっ!」
またも火縄を展開し、防ごうとする信長。だが―――
「―――ッ! 是非もなし、か。」
「ノッブ!?まさか、魔力が……!!」
不発。信長は火縄銃をゆっくりと下ろし、全てを受け入れたように立ち尽くした。対してモードレッドは悪鬼の如く口の端を歪め、絶対的な勝利宣言を行う。
「―――
振るわれた剣から、赤い雷が放たれる。それは信長の体を呑み、それを塵に変えるはずだった。
「――え?」
「消え、た――?」
「……てめえ。てめえッ!!」
「……やはり、果報者よな。」
「――あなたの料理人ですから。」
ケンだ。信長の前でケンが、刀を振るった残心の態勢をとっていた。それはまるで、ケンがモードレッドの宝具を切り裂いたかのような……
「……何をしやがった。料理しかできねえはずのてめえが!どうやってオレの宝具を――!!」
「信長様、お怪我はありませんか。……例え命令に反してでも、もっと早く助太刀すべきでした。」
「うはは、謙遜もここまでくると嫌味よな!じゃが、褒めて遣わす!あっぱれじゃ、ケン!」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます。……どうやらなんともないようですね、安心しました。」
モードレッドの言葉などまるで耳に入らないかのように会話するケンと信長。その態度は、モードレッドの怒りにさらに油を注いだ。
「やめろ!!てめぇ、オレの前で他の女にそんな優しい声をかけてんじゃねえ!!」
「モードレッド……」
ケンは少しだけ哀しそうな眼をしながら、モードレッドの方を見た。彼女の怒りはまだ収まらないようで、激情のままに言葉をぶちまける。
「何度も!何度も何度も何度もオレは言ったよな!?オレか、父上かだと!!父上ならまだいい!!あきらめもつくし、奪い取ってやれる!!だから、だから!!
「……
「うるせぇ!うるせぇうるせぇうるせぇ!!予定は変更だ、四肢だけじゃ足りねえ!もう他の女を見られないよう、その両目を潰してやる!他の女に愛を囁けないよう、その喉を潰してやる!てめえは、てめえは!!俺に愛されるだけでいいんだよ!!」
「……独りよがりだな。与え、受け取るのが愛というもの。それが心を通わせるということだ。――今から、それを見せてやる。」
そこでケンはモードレッドから目線を外し、信長に改めて向き直る。そのまま、右の手を信長の後頭部に添える。サラサラと黒髪が流れ、形のいい耳があらわになる。
「な、なんじゃケン……?お、お主まさか、こんなところで……!」
「――信長様。少しだけ、お静かにお願いします。」
「――!」
「おい!!てめぇ、やめろ!!!」
信長の唇に人差し指を当て、黙らせたケン。一瞬で信長の頬に朱がさし、やがて潤んだ瞳をゆっくりと閉じた。二人の顔は少しずつ近づき、その距離がゼロになろうという瞬間―――
「――――殺す。」
モードレッドの頭の中で、何かが切れる音がした。
ギャキィン!!
「くぅっ!!すごい衝撃……!」
「マシュ殿!今のモードレッドが一番強いです!ご注意を!!」
「は!?は!?あ、頭が追いつかんのじゃが!?」
混乱する信長だったが、無理もないだろう。いきなり激昂していたはずのモードレッドが静かになったかと思えば、自分たちの目の前にマシュが飛び出してきて、そのまま激突しているというのだから。今の今まで口づけをしようとしていたはずのケンは信長をかばうように抱き締めており、それも信長の頭が正常に働かないのに拍車をかけていた。心臓がバクバクと脈打ち、呼吸も早くなり体温が上がる。
だが次のケンの行動には、信長はすぐに反応した。
「しばしお待ちを、信長様。私は決着をつけに行きます。」
「――ッ!やめい、ケン!その目を、お主だけはその目は!!」
信長の華奢な体を離し、改めてモードレッドに向き直るケン。信長はその目に、あまりにも見慣れたものを見て必死に引き留めた。その目に宿るのは、ドス黒い殺意。自らの目的のため、誰かを殺すのが当たり前の時代にあって、誰もが抱えた狂気の瞳。そのどぶ川の中、決して失われなかったケンの瞳の輝きは、今黒い焔に塗りつぶされていた。
「マスター、信長様を頼みます。きついでしょうが、この戦いが終わるまでは……。」
「――うん、わかった。ケンさん、気を付けて!!」
「離せマスター!ケンに、ケンに人を殺させるわけには……!」
信長の想いとは裏腹に、ケンは2人の戦いに飛び込んでいく。信長も必死にその背中にすがろうとするが、魔力不足の今は立香にさえ簡単に取り押さえられてしまう。戦いに目を向ければ、マシュは何とか防戦一方で持ちこたえていた。しかし、 ケンがモードレッドの視界に入った途端、狙いがあっという間に切り替わる。
「――ッ、ケンさん!狙いはあなたです!!」
「承知の上です!私とて、虐殺をしたあいつを許せはしない!」
ケンとモードレッドの打ち合いはしかし、ケンの不利に進んでいく。宝具を展開しようとするたびに妨害しなくてはならないため、ケンの動きはかなり制限される。その上モードレッドは分厚い鎧を着こんでいるため、攻撃しても有効打になる箇所が少ないのだ。腕前が拮抗する中、その二つの縛りは大きなハンデだった。
「……。」
「……モード、レッド!!」
いつの間にか、二人の様相は逆転していた。全く何もしゃべらず、ただ強烈な剣を振るい続けるモードレッド。激昂して刀を振るうケン。二人の戦いは苛烈を極めていた。
「やめろ……。やめるんじゃ、ケン!」
「ダメだよノッブ!今ケンさんは、私たちのために戦ってるんだから!」
「わかっておるわそんなこと!奴は、奴はあんなにも簡単に、簡単に人を殺せる奴ではないんじゃぞ!!」
そうだ、信長の知る彼はそんな人物ではない。戦に敗れ、処刑を待つ身の敵将に対しても慈悲をかけ、信長に助命を嘆願したこともある。誰よりも殺しを恐れ、そして悲しんでいたはずなのだ。
「まして知り合いじゃぞ!?ケンに斬れるわけがないじゃろう!」
「いいえ!斬れまする!!」
信長の悲痛な叫びにケンが答える。
「私は、私はもう!!信長様の知っているほど、綺麗な私ではないのです!!」
「ッ! ケン……。」
ケンの頬には切り傷が出来、そこから一筋の赤が流れる。目元に出来たその傷は、まるで涙を流しているように見えた。
「……身内の不始末は身内でつけなくてはなりません!モードレッドは、私が殺します!」
「―――おっと、そいつはちと早すぎるんじゃないか?」
突如、大気を切り裂いて飛来する物体が一つ、二つ。その狙いは過たず、鎧を着た騎士の弱点である、関節部分を正確に射抜く軌道を描いており、流石のモードレッドも剣で防がざるを得ない。
「―――!? てめえ!!」
「――ッ! モードレッドの、声が……!」
ケンは驚き、声が聞こえてきた方に振り向く。現れたのは、逆側から粛清騎士を一掃してきたアーラシュだ。
「ま、あんまり気負いすぎんなよ、ケン!俺たちは仲間だろ?」
「アーラシュ、殿……。」
「それにな、あの大将に怒ってんのは俺も同じだ。というより、あいつにあの
「! 怒って、くださるのですか……?」
「ああ、当たり前だろ!勇士の誇りがまるでない!勇士が自分の命を懸けるに足るものは、守りたいものと誇りのためと決まってるもんだ!だが奴は、ただ単にムカつくから自爆したいだけだろ!そんなもんは子供の癇癪、我がままにすぎねえ。そんなガキの面倒に、俺たちを巻き込むなってもんだ!」
「な、ガ、ガキだと!?オレは外見が16で止まってるだけだ!少なくともガキじゃねえ!!」
よくわからないところにキレるモードレッド。すっかりいつもの調子が戻ってきた。
「そうか、そいつは悪かった。だが、俺の言う事は変わらねえぞ!悔しかったらここは退け!再戦にすべてをかけてこい!少なくとも、俺は相手をしてやる!」
「……モードレッド。俺も冷静ではなかった。わざとお前の傷を抉るような真似をしたこと、謝罪する。」
「……んだよ、冷めるじゃねえか。」
「……すまんな。」
あくまで悲しそうな顔をしているケンに、モードレッドは舌打ちで返す。だが、もうこれ以上の戦いをするつもりはないらしい。
「……わーったよ!てめえがそんな面してたら、こっちまで湿っぽくなっちまう!ここはオレの負けを認めてやる。だがな!」
「特にそこの赤いのはよく聞いとけよ!オレは二度も負けるつもりはねえ!てめえらの命もケンの野郎も、まとめてオレがもらうからな!」
「……やってみよ、犬コロ。」
ケッと不機嫌そうな声を漏らしながら、モードレッドは撤退していく。ロマ二は追わなくていいのかと言ったが、追撃するほどの元気はもはや残っていなかった。ケンはゆっくりと納刀し、アーラシュに頭を深々と下げる。
「……ありがとうございます、アーラシュ殿。」
「いいってことよ!あんた、あいつを殺すのを躊躇してたみたいだしな!知り合い同士で殺し合うなんて、こんなに悲しいことはない。いつだって頼ってくれていいんだぜ?」
「それも確かにあります。ですが、私が本当にお礼を言いたいのは、モードレッドを叱ってくれたことです。」
「ん?そりゃどういうことだ?」
首をひねるアーラシュに、なおケンは続ける。
「誰かを叱るというのは、その人のことを思っての行為ですから。本当にどうでもいい相手なら、何もしなくていいはずでしょう? ……私は、モードレッドを誰かが叱ってくれたことが、本当に嬉しいのです。心からあいつを案じる人がいるということですから。」
「……ははっ、説教して感謝されるのは初めてだな!まあなに、あんたもいろいろあるみたいだし、今度ゆっくり聞かせてくれよ!」
はい、確かに――とケンが頷き、戦のあとは穏やかな時間が流れていた。だが一人、地面にその膝をつける者がいた。織田信長、その人である。
「チッ、派手に暴れすぎたわ。後一日は持つはずじゃったが、ここまでらしいのう。」
「の、信長様!?マスター、早く手当てを……!!」
「うはは、心配するでないわ。ただ単にカルデアに退去するだけのことよ! ――それよりもケン、も少し、も少しちこう寄れ。」
いつもの様子からは想像もできないほど、華奢でかわいらしい声が発される。ケンも理由のわからない震えを感じながら、信長の傍に寄っていく。
「……ふふ、そんなに不安そうな顔をするでない。相も変わらず、愛い奴よ。」
「……まだ、そう言っていただけるのですか?私は、あなたの知る私とは……!!」
突然、信長がケンの唇を奪った。言葉を発しかけた口を無理やりにキスで塞ぎ、ケンは驚きのあまり目を見開いてしまう。今にも触れあいそうなほどに近い信長の瞳は、まるで舌を出せと言っているようで、思わず従ってしまう。これは自分の欲望ではなく、カリスマのせいだと言い聞かせながら。
「……ぷぁ。ふふ、欲張りな奴よ。まさか舌まで入れてくるとは思わんかったぞ、このケダモノ!」
「ち、違います!これはきっと、信長様のカリスマのせいで……!」
「うはは、それじゃそれ!お主はやはり、ワシに振り回されるのがよく似合っとるぞ!」
信長はこれまで見たこともないほど、優しい瞳をしていた。その目は本来、織田信長という人物にはありえないもの。『子を見る母』という、この世でもっとも暖かい視線だった。
「―――死がワシとお主を別った後、お主に何があったのかは知らん。じゃが今、お主はこうして再び、ワシのもとに馳せ参じた。それだけで十分じゃ。」
「信長、様―――。」
「うむ!笑え、ケン!ワシは笑ったお主が好きじゃ!泣いとるお主も好きじゃが、笑っとる方が気分がいい!これからも、ワシの傍で笑え!どんなに傷つこうと構わぬ!ワシの傍に帰ってこい!」
「……いいの、ですか?私をまだ、おそばに置いてくださるのですか?」
「馬鹿者!お主以外に、誰がワシに寄り添えるんじゃ!こう言ったらあれじゃけど、意外と寂しがり屋なんだからねワシ!」
「―――存じて、おります。あなたが寂しがりやなことも、そのくせ助けを求められない照れ屋なことも。」
「ば、馬鹿者!誰かに聞かれておったら、斬り殺すところだったんじゃからネ!」
こらえきれず、穏やかに笑い合う二人。今生の別れのごとき光景だが、ほんの数日離れるだけでこれである。
「――ふぅ、まったく世話が焼けるやつじゃが、これでもう迷いはないじゃろう。では、これを受け取れい!」
「この、刀は……!」
「宗三左文字!お主にも馴染みの深いもんじゃろう。常にワシの傍にあったこの刀、お主に賜す!」
「う、受け取れませぬ!こんな、こんな上等な……!」
「うはは、遠慮するでないわ!それとも何か、景虎の包丁は受け取れて、ワシの刀は受け取れぬと?」
「……え、嫉妬してたんですか?」
「う、うるさいわ!ともかくこれは、ワシからお主への命令じゃ!かつて包丁を送り、厨房がお主の戦場じゃと示したように!今はこの戦も、お主の戦場!で、あれば。この刀とともに、戦場を駆けるがよい!」
震える手で、ケンはその打刀を受け取った。宗三左文字は、信長から秀吉へ、秀吉から家康へと渡った、『天下取りの刀』と謳われる名刀。これを渡すという行為がどれほど尊いことか、理解できぬケンではなかった。
「ありがとう、ございます……!!私は、もう迷いませぬ!この戦場を駆け、必ずや勝利を!!」
「うむ、その意気よ!それではお主の奮闘ぶりを、向こうから眺めてやるとするかのう!うっはははは……!!」
高笑いとともに、空に溶けていく信長。ケンは、繋がってはいないその蒼穹を見上げながら、この先の戦いに対して、決意を新たにするのであった。
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その後、西の村にて戦っていた百貌のハサンと合流した一行は、彼女がニトクリスを攫おうとしていたアサシンだと判明してひと悶着あったものの、なんとか西の村の復興を進めることが出来た。
そして次の目標も決まった。敵に捕らわれている、とあるハサンの救出である。ケンも早速向かおうとしたのだが、大して疲れていない自分たちに任せろと止められてしまった。代わりに村の護衛をすることとなったのだが、帰ってきた立香たちはこれ以上なく大きな収穫を持ち帰ってきた。
「では、やるか!そーれ、おいしいお米がどーんどーん!」
「す、すっげえええ!米が、米がこんなにもたくさん!!」
ケンも思わずキャラが変わってしまうこの宝具。アーチャークラスの俵藤太の力によるものだ。俵藤太は藤原秀郷という名でも知られる、日本の英雄だ。もっとも有名な逸話はやはり、平将門を仕留めたことだろう。そしてもう一つ残る伝説が、大百足退治。その報酬にもらったのがこの宝具、『無尽俵』なのである。
「ははは、まだまだ出るぞ!山海の恵みもどーんどーん!!」
「う、うおおお!!野菜や魚だけじゃなく、山菜もキノコも、貝も海藻も……え、鰹節まで出てくるの!?それはちょっと違うんじゃないですか!?」
「まあいいではないか、ケン!はははは!」
テンションのおかしい二人のおかげで、西の村は大宴会となった。ケンが休みなく作った宴席の料理は大好評で、あっという間に難民たちの腹に収まった。中には、『こんな美味いものが食えるなんて、生きててよかった』と言う者もおり、皆の心を温めた。さて、そのケンはというと……
「ははぁ、それは大変でしたね。さぞや苦労も、多かったことでしょう。」
「そーなの!わかってくれるケンさん!?あの馬鹿弟子ども、いつもいつも迷惑ばかりかけて……!!」
すっかり出来上がってしまった玄昭三蔵、通称三蔵ちゃんに絡み酒をされていた。一応擁護すると、ケンも相手をしてしまうから悪いのだが、ケン自身は『セクハラがないぶんお虎さんよりマシだな』と思っていた。
「それでね、それでね!あたしを一人こんなところに放り出して、いくら御仏様と言えどもひどいじゃないのー!」
「ああほら、そんな風に酒ばかりでは悪酔いしてしまいますよ。ほら枝豆のムースとか豆腐の揚げピロシキとか、いろいろ作ってありますから。」
「もぐもぐ……おいしー!もう!清貧だっていうのが精進料理なのに、こんなおいしいの作られたら意味ないじゃない!ふざけんなー!」
泣き上戸から怒り上戸へと、忙しい人である。しかしそこはさすが信長に仕えたケン、そのあたりの対処は心得ている。うんうんと聞き流しながら、適当なタイミングで料理を口に入れる。そんなことを繰り返していたら、すっかり三蔵ちゃんは気持ちよさそうに眠ってしまった。
「……溜まっているものがいろいろあるのだろうな。少しでも癒されてくれるといいが……」
ケンは呟きながら、周りを見回す。既に焚火は立ち消え、皆既に寝入ってしまったらしい。だが、その顔は皆一様に幸せそうだった。穏やかな寝顔を一通り見回したケンは、この場所を守ることができてよかったと改めて思った。また、これからも守っていかなくてはならないと思ったのだ。
その決意は、すぐに役に立つことになる。この村に、不穏な音色が近づいているからだ。
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所変わってカルデア。帰ってきた信長の話である。
「ふーんふーんふふーん♪信長~慕情は本能寺~~♪」
……よくわからない鼻歌を歌っている。だが、機嫌が良さそうなのは確かだ。そんな信長がカルデアの廊下、その曲がり角に差し掛かった時……
「ノブッ!?な、なんじゃ!?」
突如、引きずり込まれたのだ。曲がり角の先から、誰かの腕が伸びてきて、彼女を引っ張ったからだ。―――そして、地獄の底からの声が響く。
「……いーいご身分ですねノッブ……一人だけケンさんとイチャイチャ特異点修復ですか……。」
「い、いや、沖田?その、そんなキャラじゃないじゃろお主っていうか……もっと、きゃぴきゃぴした感じで行こうぜみたいな……」
「うふふふふ、何でしたっけ?越後のメス猫でしたっけ?あっはははは!!よほど軍神の威光が見たいようですね?」
「ヒィッ!お、お主はマジでシャレにならんじゃろ!?」
問答無用!!と二人に斬りかかられ、哀れ信長は爆発四散。ボイラー室横の小部屋の前に縛り付けられ、首から『ワシは節操ナシのうつけです』と書かれた木札を下げる羽目になったのだった。
「小太郎。あなたもここに来ていたのですね。」
「――ッ!段蔵、殿……。」
「――やはり、母とは呼んでくれないのですか。」
「!? 母上、記憶が……!?」
「……ええ。ワタシは、あなたの母親の代わりをさせてもらっていましたね。生殖機能のない身ですが、ワタシは母と思っていましたよ。」
「母上……!!」
「そして、父上もここに来ています。」
「――ッ! では、先代もいるということですか!?」
「いえ、ケンという料理人です。」
「……ん?」