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見事聖槍を切り裂き、村を守ってみせたケン。さぞや喜ばれるだろうとウキウキで帰った彼を待っていたのは、仲間からの質問攻めであった。
「ケンさん!何あれすっごいどうやったの!?」
「そうよ!単に料理が上手い人だと思ってたのに!」
「ぬう、お主も悪い奴よなケン。 ……あれほどの技が使えるのならば、一度くらい俺と立ち会ってくれてもよいではないか!」
「ま、まあまあ皆さん落ち着いて……。ちゃんと話しますから。」
言葉を一気に浴びせられ、ひとまず宥めるのに精いっぱいなケン。だが、カルデアからの通信もすごいことになっていた。
『と、とりあえずカルデアの指揮官として、君にはちゃんと説明してもらうからね!さっきの宝具と、スキルについて!』
『おいケン!こっち、お主に会わせろってなんか武人系の奴らが押しかけてくるんじゃが!? ……ちょっ、おい景虎!お主はさっき行ったじゃろ!げえっ、なんじゃあの痴〇!?全身タイツとか正気の沙汰じゃないじゃろこれ!ま、ワシも魔王形態は似たようなモンじゃけどネ!』
「……ひとまず、私の話からしましょうか。」
ひとまず座れそうな場所を見つけ、腰を落ち着けたところで話を始めた。この時当然の権利のように膝に載った段蔵を見て、小太郎がひたすら困惑していたのがとても気まずかった。
「……まずは、私のスキルからお話ししましょう。『撃剣興行』。ランクはAです。」
「そも、私はセイバークラスで現界していますが、大した逸話があるわけではありません。それこそ、強大な敵を倒したわけでもなければ、物語の主人公になったわけでもありませんからね。ですが、私……榊原鍵吉は、現代剣道の祖とされています。それが評価され、スキルになったものです。」
――撃剣興行とは、榊原鍵吉が始めたと言われるものだ。時代が移り変わり、武士は不要なものとされるようになった。その中で職を失い、必要とされなくなり、誰からも忘れ去られていく武士たち。彼らによって支えられた、刀や剣術などの文化。それが失われていくことを悲しんだ榊原鍵吉が、相撲興行にヒントを得て行ったと言われるものだ。
「ようは、剣術の試合を見世物にしたわけです。派手な衣装、にぎやかな音楽。……綺麗な若い女性に頼み込んで、薙刀の演武をしてもらったりもしましたね。 ……いった!」
女性の話をしたことにより、太ももを段蔵につねられてしまった。ヒリヒリする太ももをさすりながら、ケンは話をつづけた。
「後世においては批判もされているようですが、ありがたいことに同時に評価もされています。例えば現代の剣道では、『面』や『胴』などと、攻撃の前に何処を斬るのか叫びますよね。あれは興業の都合上、斬った後に何処を斬ったのかを叫んだ名残です。 ……という、説もありますね。」
「そのへんはっきりしないんだ。」
「まあ、明言はしません。」
「ともかく、撃剣興行はそういう逸話を評価されたものです。効果としては、『私のことを見ている者が多ければ多いほど、私のステータスが上昇する』というものです。」
「え、それすっごい強くない?」
「うーんでも、通常の聖杯戦争は『神秘の秘匿』を是とするからねえ。あんまり役に立たないんじゃない?」
「おっしゃる通りで。私としてはネット配信でもしてくれれば、ありがたいのですが……。その上、あくまで興行ですから、斬りかかる前に
ケンによって語られた『撃剣興行』の詳細を、ここにまとめておこう。
『撃剣興行』 ランク:A
スキルの使用者を見ている人物が多ければ多いほど、使用者のステータスが上昇する。ただし、攻撃の際にはどこを攻撃するのかを宣言する必要がある。これは剣術の命脈を現代まで保ち、文化を継承することに貢献した点を評価されてのものである。
「対人戦では使いにくいスキルですが、今回は役に立ってくれました。皆さんのおかげで、大量の観衆も得られましたし、相手はただ落ちてくるだけでしたから。近づきすぎて燃え尽きないよう、増えた魔力で刀を作り、先の方でかすめるように斬りました。
『え、ちょ、ちょっと待ってくれ!かすめるだけ!?そんな簡単に打ち砕けるものじゃなかったはずだぞ!?』
「そこはほら、私の宝具です。言ったでしょう?『宝具はちょっとすごい』と。」
そこまで話したケンは、ゆっくりと自分の腰に佩いていた刀を外し、マスターの前に置いた。
「これが私の宝具……というより、現象でしょうか。『天覧・同田貫兜割』です。ひらたく言えば、何でも斬れます。斬ったものは死にます。」
「だからさァ!私はノッブじゃないの!ちゃんと全部話して!」
「し、失礼しました。ではまず、もとになった逸話からお話ししましょう。榊原鍵吉として、一番の人生の輝き。天覧会にての、兜割の話を。」
榊原鍵吉という名で調べれば、真っ先に出てくるのがこの天覧兜割りだろう。廃刀令が出され、いよいよ人々から刀が失われていく中、1887年に兜割りの催しが行われた。この催しには明治天皇も臨席しており、目標の兜にはあの武田信玄の甲冑を作った明珍信家の兜が用いられた。
「その兜はそれはそれは見事な出来でした。私にはよくわかりませんが、ひょっとしたら魔術的な防御でもかけられていたのかもしれません。現に、私の前に挑んだお二人は失敗されていましたから。」
「ふーむ、甲冑に魔術的な加護か……。ありえない話ではないね。なにせ、日本といえば東洋の神秘の塊だ。由緒正しい明珍家となれば、多少そういうノウハウがあっても不思議じゃない。」
『言い伝えでは、榊原鍵吉はこの兜割りに白装束を着て臨み、失敗すれば腹を切る覚悟だったというね。そのあたりはどうだったんだい?』
「恥ずかしながら、事実です。それまで私は、命を懸けたやりとりというのをしてきませんでしたから。」
ケンは、あの時のことを思い出していた。移ろいゆく時代の中、自分だけは経験をしていなかった。
「……思えば、土方も近藤も、沖田も命を懸けて戦っていました。私は、彼らの気持ちを知りたかったのです。」
故に彼は、白装束を選んだ。命を懸けることを選択した。
「そしていざ挑み、兜をたたき斬った瞬間。私は理解しました。沖田が最後まで戦いたいと願っていたのは、決して愚かな選択ではなかったと。私はようやく、沖田のことを本当に理解できた気がしました。」
『……沖田が死んだぞ。2日ぶり3回目じゃな。』
「……帰ってから少しは慰めてやりますか。」
「えー、話を戻しますと。私の宝具はそれが評価されたものです。兜という、決して斬れてはならないもの……斬れないように作ってあるものを斬った。故に私の宝具は、見えるものすべてに『斬れる』という概念を与えます。 ―――わかりやすく言えば、視認できるものならあらゆるすべてが斬れるようになります。」
『あらゆるすべてが斬れる……。それは例えば、不滅の聖剣として名高いデュランダルなんかであっても……』
「斬れるでしょうね。もっとも、対象の強度が変わるわけではありません。斬れるようになっても、いざ斬れるかどうかは自分次第です。」
『なるほど……。え、でもちょっと待ってくれ!斬れるからといって、あの聖槍を斬ったこととは関係あるのかい?』
「それが私の宝具の第二の効果です。ほんの少しでも斬ってしまえば、斬られたものは持っている役割を失います。エネルギーや、破壊力なども同様ですね。これは恐らく、斬ったのが兜だったからよかったのでしょう。兜が斬られては、頭を守るという役目を果たせなくなったわけですから。」
「ああなるほど、そういうことか!何故君がスフィンクスを倒せたのかと思っていたんだ!」
「そう言う事です。私の刀の前では、スフィンクスの神性による概念的な防御も、もともと持っている再生能力も、すべて失います。他にも、信長様の前に割り込んでモードレッドの宝具を防いだときも同様です。ほんの一瞬でも刀を振るえれば、ビームは斬れますから。」
「それに、そもそも実体がないのがビームなので、『斬れるかどうか』も問題ではありません。……ようは、ビーム相手なら完封できるということですね。……あっ、しかしだからと言ってほんの指の先っちょでも斬れれば死ぬとかそう言う事ではありません。カテゴリがどうやら対現象宝具というもののようで、人体に対しては効きが悪いのです。不死身の肉体を持つ、みたいな相手には有効ですが、それも不死性を失わせるだけで、肉体強度は変わりません。」
ここまで一気に話したところで、ケンは立香がポカンとしているのに気が付いた。どうやら情報が多すぎて、少し混乱してしまったようだ。そこで何とかわかりやすくなる手段はないかと考えた末、ケンはかつての主君に倣うことにした。
「えーっと、そう……わかりやすく言えば、『相性ゲーとかめっちゃ得意なんですよね、私!』 ……こ、こんなところでしょうか。」
『おいマスター!今すぐワシをそっちに呼べ!!いますぐ抱き締めなければ気が済まん!!』
『うわぁ信長公!?あなたまでそっちに行っちゃったら、僕一人じゃ抑えきれないよ!?』
「むっ、恋敵の気配を感知……!主殿、ここは私といちゃつきましょう!具体的には口吸いを……」
「こ、子供が見ていますから……。」
「う、うーん……母上は、本当に直っておいでなのだろうか……。」
ケンの軽率な物まねにより、カルデアは一気に騒がしくなってしまった。ケンはもう二度とこのような事はすまいと思いつつも、話を締めくくる。
「……それから、言い忘れていましたがランクはEXです。これはAより凄いという事ではなく、ランクが変動するため計測できないのです。どんな宝具やスキルが相手でも、必ず上をとりますから。」
「なるほどねぇ……。つまり、ビームや炎、実体のないもの相手にはめっぽう強いけど、実体があるもの相手には技量勝負になるわけだ。その場合は撃剣興行なんかでサポートしてやらなくてはならないわけだね。」
「はい。その分、弱点もあります。例えば、物量で押してくるようなら不利です。一つ一つを斬っても、大した意味がありませんし。ですから信長様と戦ったならば、私は多分負けるでしょうね。」
「話を聞く限りだと、有利不利がはっきりしていらっしゃるような……。」
「そうですね。ですからマスター、どうか便利に使ってください。ビームを使ってくる敵なら私にお任せを。」
「……うん!そういえば、伝えるの忘れてた!助けてくれてありがとう、ケンさん!」
「ふふ、お安い御用です。」
これが、星を斬り落としてみせた侍の力であった。今まで女性関係以外ほとんど情報のなかった、ケンの事をさらに知れたことを立香は喜び、改めて絆を確認した。話しているうちにケンの魔力も随分回復したらしく、お祝いの料理を作りましょうかと立ち上がった。東の村の家はほとんど焼けてしまったが、それでも人々の顔は明るい。
「あっ、アーラシュ兄ちゃん!皆のこと、守ってくれてありがとう!ホントに大英雄だったんだね!」
「――! ……ああ、だから言ったろ?誰にも負けねえってな!」
子供の頭をガシガシと乱暴に撫でるアーラシュ。撫でる側も、撫でられる側も。どちらも弾けるような笑顔で、幸せに満ちている。
「……ありがとよ、ケン。お前のおかげだ。」
「―――お互い様ですよ。あなたがモードレッドに怒ってくれたときは、もっと嬉しかった。」
感謝を告げるアーラシュに対し、ケンは鷹揚に笑う。背を向けて、再び厨房に戻るケンは背中に沢山の笑い声を受けながら、足取り軽く歩いて行く。ふと見上げた星空は、一行を祝福するように瞬いているのだった。
―――――――――――
「―――どうした、アグラヴェイン。」
「はっ――!我が王、申し上げにくいことですが……
「……。」
表情を変えることこそないが、黙り込んでしまう獅子王。アグラヴェインはひるみながらも、報告を続ける。
「どうやら、難民たちの村に撃ちこんだものの中でも、東の方に撃たれたものが消失したようです。」
「――何者の仕業か。そこにはトリスタン卿を向かわせたはずだな。当然視認しているはずだ。」
「……陛下が知る必要は」
「聞こえなかったかアグラヴェイン。私は何者の仕業かと聞いている。話せ。」
「はっ―――!」
命令を受け、苦々し気にアグラヴェインが報告を行う。
「……ケン、です。陛下の召喚に応じなかった、あの裏切り者です。」
「―――!」
今度こそ、獅子王は目を見開いた。どこか超常的な雰囲気を纏っていた彼女は、ケンの名前を聞いた瞬間にその光を翳らせた。
「……ケン。」
「――ッ! 陛下……。私は体調が優れません。どうか、下がらせていただきたい。」
「……ああ。下がるがいい、アグラヴェイン。」
アグラヴェインは、こらえがたい吐き気を感じ、許可を得て扉を開けると、礼儀も忘れて走り出した。すぐに自分の執務室に駆け込み、壺の中に吐き出した。
「はぁ、はぁ……。ありえない。我が、我が王が、あんな顔を……!」
ありえない。ありえるはずがないのだ。あの方は、清廉潔白にして完全無欠の王。あのような、あのような……!!あのような、女の顔をするはずがないのだ!!
アグラヴェインは、一人ひそかに決意した。必ず、あの男を始末すると。あの男がいる限り、我が王は完璧たることが出来ない。アグラヴェインが何より嫌悪した、モルガンのように!!
窓の隙間から覗く星空は、美しく瞬いている。だがアグラヴェインにとって、その輝きは鬱陶しいものでしかない。その空の果てに殺すべき男を思い浮かべ、ただ拳を握りしめるばかりだった。
「それではマスター、我々はこれにて。母上、帰りましょう。」
「……まだ、さよならのチューをもらっていません。」
「あまり人を困らせるものじゃない、段蔵。……後で、してやるから。」
「! 了解しました主命とあらば仕方ありませんすぐに帰りますよほら小太郎早く!」
「……診察はナイチンゲール殿か、それともダヴィンチ殿か。どちらがよいでしょうか。」
「うーん恋の病はどっちも対象外だと思うなぁ。」