“ケン”という男の話   作:春雨シオン

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今回はなぜか妙にギャグテイストになってしまいました。まあランスロットが悪いよーランスロットが。

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Part11 父と子と

 アグラヴェインの鉄の殺意には誰も気づかないまま、一行は次の目的地へと向かっていた。目指す場所はアトラス院という、初代様から指示された場所だ。オジマンディアスの治める砂漠の下に眠るというその叡智の庭に、カルデアの一行は向かおうとしていた。

 

 

「我々はかの砂漠に向かうことは出来ませぬ。反乱の準備をせねばならぬ上、百貌のが顔を知られていましょうから。」

 

「そっか、じゃあしょうがないね。それじゃ、次に会うのは……」

 

「ええ。いざ、聖都に攻め込む時になるでしょうな。それまではどうか、御身お大事に。」

 

「うん!ハサンの皆も気を付けて!」

 

 

 こうして砂漠に向かって歩き出した一行は、襲ってくるスフィンクスに対応しながら歩を進める。ケンの宝具がスフィンクスに有効な事は既に判明しているため、他のサーヴァントの攻撃で足を止めた隙にケンが首を落とすという対処をとり、安定した結果を得た。

 

 

「スフィンクス、また一体撃破です!」

 

「今のうちに離脱しましょう!マシュ殿、マスターを抱えてください!」

 

「走れるからだいじょう――わわっ!」

 

「――ッ!? マスター!」

 

 

 突然地面に落ちたかの如く姿を消すマスター。ケンも慌てて飛び込むが、どうやら落とし穴になっているようだ。

 

 

「いってて……皆大丈夫……?」

 

「は、はい。マシュ・キリエライト無事です。」

 

「どうやら怪我した奴はいないみたいだな。だがこの穴は一体……むっ!」

 

 

 何かを発見したのか、即座に弓矢を虚空に向けるアーラシュ。その答え合わせをするように、一人の男が両手をあげて闇から姿を現す。

 

 

「いやはや、これが悪人のものならともかく、正義の徒であるアーラシュ・カマンガーの矢ならば喜んでホールドアップしようとも。こんな登場になってすまなく思うよ、カルデアの諸君。」

 

「あ、あなたは、まさか……!!」

 

「おや、姿だけで私の真名に見当がつくのか。これは君の洞察力が優れているのか、それともワトソンの手慰みがそこまで有名になっているのか……どちらにせよ、明かさなければならないだろう。私の名はシャーロック・ホームズ。あらゆる謎を解き明かすために存在する、探偵の代表だ。」

 

 

 シャーロック・ホームズ!推理小説の金字塔にして、探偵の代名詞とも言える彼は、実在の人物だったのだ。彼の大ファンであるマシュのテンションは天井知らずで、ついサインを求めてしまう。ハハハと笑いながら綺麗な筆記体でサインを行うホームズを、一行はポカンと見ていた。

 

 

「おっと失礼、君たちをここに呼んだのは私だよ。ここ、アトラス院にね。」

 

「っていうことは、ここが目的地ってこと?」

 

「イエス。君たちには、私をある場所まで護衛してほしい。なにせ今の私は、存在が非常に不安定でね。端的に言えば、非常に弱い。そこで、君たちの武力が必要というわけさ。」

 

「ケンさん……私はどうも、彼を好きになれないような気がします。どこか、マーリンを見ているような……」

 

「ちょ、や、やめてくれ!名前を呼んだら来るだろあいつ!?」

 

 

 ……実際には名前を呼ばなくとも存在しているだけでやってくるのだが。まあそんなケンの受難はさておき、一行はアトラス院の中心へと向かっていく。ホームズの推論通り、自動の防衛機構のようなものが襲い掛かってくる。ケンや藤太を中心に撃退していき、とうとう中心部にたどり着いた。そしてホームズはそこにあるヘルメスという端末で情報収集を行ってい、一行に結論を話し始めた。

 

 

「……さて、では真相を語るとしようか。ラインナップはマシュ君に力を貸している英霊の真名。そして獅子王の真の目的。君たちは、どちらの真実から聞きたいかな?」

 

「真名を……!」

 

「教えて!早く教えてホームズ!私たちの恩人なの!」

 

「ハハハ、ここまで乞われると流石に気分がいいものだ!それでは早速告げるとしよう!君の中に宿る、その英霊の名はギャラハッド!唯一聖杯を手にした騎士にして、災厄の席に座る円卓第13席の騎士だ!」

 

「ギャラ、ハッド……。」

 

 

 その名を聞き、へたり込んでしまうマシュ。ケンは慌てて支えようとするが、その前に立香が肩を抱いていた。

 

 

「マシュ、大丈夫!?どっか具合悪い?」

 

「い、いえ、違うんです先輩。その、すごく、嬉しいのです……。」

 

「うん……うん……!私も同じ!よかったね、マシュ!」

 

 

 喜び合う二人をただ黙って見ているケンに、ベディヴィエールがそっと近づいた。

 

 

「ケンさん、よかったのですか?なにせ、ギャラハッド卿と言えばあなたの……」

 

「皆まで言うな、ベティ。そのうち、あの男を交えて話す時が来る。今はただ、幸せに浸らせてあげよう。」

 

「……そうですね。」

 

 

 微笑ましく見守る二人だったが、この男は空気を読まない。

 

 

「さて、では次の謎解きに向かおう。獅子王の目的についてだ。」

 

「……。」

 

 

 空気読めよとケンは心の中で思いつつも、最も重要な部分であるため口をつぐんだ。それをホームズが分かっているのかどうかは不明だが、立て板に水を流したように流麗に語りだす。

 

 

「君たちは、聖槍のことを誤解している。あれは正確には槍ではなく、『塔』と呼ぶべきものだ。聖都に迎え入れられた人間を、放り込むためのね。」

 

「彼らは清く正しい人間を保護したというが、実際にはどんな状況でも正しい行いしかできない人間を収容したといったところだ。例えば、『自らが死ぬことになっても、子供を助ける』などのようにね。そんな人間の魂を確保、収容、保護……ああいや、保護は間違いだね。なにせ、収容された人々には生も死もないのだから。」

 

「例えるなら、そう……要素を抜き出したようなものだ。彼らの魂は『善良な人間』というショーケースとして保管されるだろう。その後は獅子王のもとで、永遠に管理され続けるのだろうね。」

 

 

 話し終えたホームズだが、誰ひとりとして言葉を発することが出来ない。あまりにおぞましい、王の所業を聞いたからだ。やがてケンが、絞り出すように話した。

 

 

「……つまり、こういうことですか?アルトリアは、人間を昆虫標本のようにするつもりだと?」

 

「昆虫標本、そうだね。まさしくその通りだ。善人を手元に置き、人間のすばらしさを永久に証明し続けるインテリアにする。それが真の目的だろう。」

 

「……人間を愛せとは言ったが、そんなことをしろと言ったはずはないんだけどな……。」

 

 

 ケンは俯き、悲しそうにつぶやいた。対照的にベディヴィエールは震え、怒りなのか恐怖なのかわからないが、ともかく大きな感情に押しつぶされそうだ。

 

 

「……結局さ、行くしかないよ。聖槍が完成しちゃう前に、獅子王に会わなきゃ!」

 

「そうね、私も賛成。そんなこと、御仏的にも絶対NGだもの!」

 

「よっしゃ、方針が決まったんならさっさと戻ろうぜ!ハサンの兄さんたちにも教えてやらなくっちゃな!」

 

「よし、それではここを出るとしよう。帰りの案内は任せてくれたまえ、諸君。」

 

 

 ホームズの案内により、行きほどの労力を使わずにアトラス院を後にした一行。立香は砂まみれとは言え、太陽の光のあるところに出られたことを喜んだ。

 

 

「うーん!あんまり深呼吸とかはしたくない天気だけど、少しはマシだよね!急いで村に帰んなきゃ!」

 

「そうですね。……しかし、どうやらただで帰れるわけではないようです。」

 

 

 そう呟くケンの言葉を裏付けるよう、粛清騎士たちが現れる。その軍を率いるのは、紫色の鎧をまとった湖の騎士。

 

 

「―――諸君らの道行きはここまでだ。いい加減、諦めていただこう。」

 

「サー・ランスロット……!!」

 

「――ッ! まさか、卿までもが……。我らは、本当に……」

 

「……?何か、様子が変だぞ。ひょっとすると、二心があるのやも知れぬ。」

 

「つまり、ランスロットも迷ってるってこと?それなら、何とか説得できるかも!」

 

「ええ、ネゴシエーションならば私の出番です。マスター、ここはお任せください。」

 

「ケンさん!よっし、お願い!」

 

 

 堂々と一歩前に進み出たケン。その姿を認めると、ランスロットの顔が歪む。

 

 

「ケン……。」

 

「サー・ランスロット!ここにいる、紫の少女に見覚えはないか!」

 

「わ、私ですか!?」

 

 

 ケンが手でマシュを示すと、ランスロットの顔が驚愕に歪む。

 

 

「ま、まさか……!その装い、その盾、その片目を隠す髪……!まさか、まさか君は!!」

 

「―――はい!私の名はマシュ・キリエライト!与えられた英霊の名は、ギャラハッド!!」

 

「―――!!」

 

 

 目を見開き、マシュから目が離せなくなるランスロット。畳みかけるようにケンは話す。

 

 

「そうです!あなたにも、親の情があるでしょう!ないとは言わせません!血のつながりがない私でさえ、あの尊い日々を忘れたことはない!!」

 

「……レディ。もう少し、近くで見てもいいだろうか。」

 

「……妙に体が反発している気がしますが、気合で耐えるので大丈夫です!!」

 

 

 許可を得て、馬から降りたランスロットが近づいてくる。手を伸ばせば触れてしまいそうな距離で、親子は再び再会を果たした。

 

 

「―――ああ、間違いない。彼女の中には、ギャラハッドがいる。」

 

「……そうでしょうとも。彼はこうして、立派に育ちました。」

 

「お父、さん……。何故だか、そう呼ばなくてはならない気がします!」

 

「ッ!こんな私を、そう呼んでくれるのか。」

 

「……よかったですね、ランスロット。」

 

「ああ……。今でも、鮮明に思い出せる。ケン、君と共に、四苦八苦しながら彼のおしめを変えたことさえも」

 

「チェストーーーー!!!」

 

「ぐばあっ!?」

 

 

 せっかくいい雰囲気だったのに、一言ですべてを台無しにしたランスロット。ケンはつい、頭を抱えてしまう。

 

 

「……どうして、お前はいつもそうなのだランスロット。女性に対しても言わなくていい世辞を述べて、見境なく惚れさせてしまっていたというのに。」

 

 

 それはお前もだろと立香は睨むが、ケンとランスロットはほぼ二人の世界に入ってしまって気づかない。

 

 

「ふ、ふふ……。反抗期だろう、わかるとも……。息子からのものと思えば、例え殴打であろうとも愛をもって受け止められる。親とはかくも、素晴らしいか……。」

 

「なら顔の形が変わるまでぶん殴ってやると、私の中の霊基が言っています!マスター、殴打の許可を!」

 

「流石にやめてあげて!?」

 

 

 立香の必死の説得により、何とか盾を納めたマシュ。ランスロットもよろよろと立ち上がり、腹部を抑えながら言った。

 

 

「こうして、円卓の騎士との決闘に負けたのです。私はもう、獅子王の騎士を名乗れません。」

 

「うんいろいろな意味で名乗れないと思うよ……。」

 

「どの面下げて騎士やってるんですかお父さん!」

 

「うっ、お父さん……。なんといい響き……。」

 

「マシュ殿ステイです!許してあげてください!」

 

 

 またも殴りかかろうとするマシュをケンは抑えながら、ランスロットの案内で一行は歩き出す。たどり着いたのは、巨大な難民キャンプ。

 

 

「こ、ここは……!まるで、村のような……!」

 

「ランスロット!あなたはひょっとして、粛清されようとしていた人々を!」

 

「……ああ。王は、難民を追えとは言われたが殺せとは言われていない。こうして匿っていたのだ。仮に私が死ぬことがあっても、君たちがここを守ってほしい。」

 

「すごいすごい!すごい詭弁だけど徳高いわ!」

 

「これは、褒めてやってもいいんじゃねえかマシュ?」

 

「顔に似合わずやりますねお父さん!穀潰しのくせに!」

 

「ふ、ふふふ……。そうだろうとも、マシュ!」

 

 

 わかりやすく調子に乗ったランスロットは、一行の一人に目が留まる。

 

 

「むっ……、先ほどは気づけなかったが、素晴らしい美女。レディ、失礼ですがご結婚などされていますか?もしおひとりであれば、私とお茶でも……」

 

「おっと、このダヴィンチちゃんに目をつけるとは中々お目が高いじゃないか。しかしお生憎さま、既に立香君の予約が入っていてね。」

 

「―――何を言っているんですか?もう一度言います、何を言っているんですか??」

 

「ははは、ランスロットらしいですね。本当に、美女と見れば見境なく誘いますから。」

 

「こ、こんな人が……!こんな人が、円卓最強の……!!」

 

「ま、まあまあ。ランスロットは進歩していますよ!今回はちゃんと、誘う前に独身かどうか確認してますから!生前の過ちを反省してるのは、大いに褒められるべきことですよ。」

 

 

 円卓組がすっかり和やかな雰囲気になっていたが、しかし問題も残されている。獅子王の待つ聖都に踏み込むための、兵力がまだまだ足りないのだ。ランスロット卿の配下の騎士たちと、彼らが匿っていた盗賊たちを合わせても、まだまだ足りない。

 

 

「……準備の時間さえ下されば、私に多少のあてがあります。それほど時間はかかりません。」

 

「ケンさん!何でもできるねケンさん!」

 

「何でもはございません。しかしそれには、藤太殿の助けが必要です。こういうものを出していただきたいのですが……」

 

「ふむ、ふむ……。相分かった!やったことはないが、おそらく大丈夫だろう!」

 

「それは良かったです。それでは、出陣の際にはこの腕を振るうといたしましょう。」

 

「……しかし、戦力はあるに越したことはありません。何かもう一押し、あればよいのですが……。」

 

「それならさ、オジマンディアスに聞けばいいんじゃない?」

 

「え?」

 

 

 あまりにもあっさりとした立香の言葉に、その場にいた誰もが停止する。しかし、考えれば考えるほど、それは魅力的な提案だった。

 

 

「……確かに、太陽王の力を借りられるなら大きい。彼は自分に益のある取引を見逃すような愚王ではない。我々が肩を並べて戦うに値する勇者であると示せれば、同盟を組むのもいとわないだろう。」

 

「つまり、やり合ってみればいいわけだな!話が早くて助かるぜ。」

 

「よし、それでは部隊の編制をしよう。メンバーは立香くんにマシュ、三蔵殿と藤太殿、ランスロット卿とその配下の精鋭騎士が10名に、ケン君とアーラシュ殿だ。 ……うーん、いつの間にかとんでもない大所帯になってしまったね!」

 

「まあ、是非もないでしょう。強大な太陽王に相対するのですから、このくらいは準備しておかなくては。」

 

「それもそうだね。さて、では馬に慣れている藤太殿とランスロット卿他は馬に乗って移動してもらうとして、我々にはとっておきの乗り物がある!さあさあ立香くん、運転席に座ってくれたまえ!」

 

 

 ダヴィンチちゃんが示したのは、デパートの屋上にあるパンダとかの乗り物を拡大したような車だ。ボンネットの辺りにはエジプトの壁画に描いてある猫の顔が象られている。

 

 

「オープニソナー・バステニャンだ!かわいいだろう?」

 

「……まあ、かわいいっちゃかわいいけど……。」

 

 

 渋々と言った風に車に乗り込んだ一行は、砂漠を滑走するように走る。快適すぎる旅路にキャーキャーと騒ぎながらも、アーラシュの千里眼により事前に危機を回避したおかげであっという間に到着した。

 

 

「来たね、大複合神殿!絶対に協力してもらわなきゃ!」

 

「はい!行きましょう、先輩!」

 

 

 改めて決意を固め、神殿に送った使いを待つ。まもなく、正門から守護獣が飛び出してくる。

 

 

「軍隊との勝負は我々に任されよ!立香殿はすぐに神殿内へ!!」

 

「了解!それじゃ、皆行くよ!!」

 

「――はい!」

 

 

 守護獣の群れとランスロットの騎士団が衝突し、カルデア一行は駆けだした。今のこの戦場が、今後の戦を左右する。ケンは戦いの分かれ目を感じながら、全力で走るのだった。

 

 




「ちょ、やめろって師匠!今あいつら特異点修復の真っ最中なんだから、あんたが出張る余裕はないっつーの!」

「ええい、離さんか馬鹿弟子!儂はついに、儂を殺せる勇士を見つけたぞ!」

「た、確かにアンタからしたら運命の相手かもしれねーが……。あーもう、こりゃ帰ってきた後の方がめんどくせぇことになりそうだな!」
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