“ケン”という男の話   作:春雨シオン

23 / 50
そろそろ夏休みが終わり、投稿ペースも落ちるものと思われます。出来る限り頑張りますので、こまめにチェックしていただけると嬉しいです。

そして、今回は暖めていたネタを放出したく思います。反感を抱かれるかもしれませんが、どうかお許しください。思いついた時も書いてる時も、非常に楽しいキャラなんです。皆さんにも気に入っていただけると嬉しいです。

感想・評価・ここすきなどしていただけると励みになります!!


Part12 魔王の(きざはし)

 大複合神殿にて、守護獣の群れをかいくぐって太陽王のもとへと一直線に突っ走るカルデアの一行は、玉座に至る道を進んでいた。

 

 

「道は私が覚えています!ここを曲がれば――ッ!」

 

「GRuaaaaaaaaーーーー!!!」

 

「魔獣か!悪いが先を急ぐ身でな、ここは通してもらう!」

 

 

 アーラシュがすかさず放った一矢が正確に眉間を射抜き、あっという間に絶命させる。

 

 

「流石だな、アーラシュ殿!いつかお主と、弓の腕比べなどしてみたいものだ!」

 

「そりゃいい!だがまずは、この戦に勝たなくっちゃな!ここは先に行け立香!こいつらは俺たちがやる!」

 

「わかった!向こうで待ってるから!」

 

「応とも!すぐに片付けてやるともさ!」

 

 

 魔獣の相手をアーチャー2騎に任せつつ、廊下のような場所を走り抜け、ついに黄金に囲まれた玉座が姿を現した。

 

 

「――あれが、太陽王。」

 

 

 ケンは初めて見るその玉座に座す王をまじまじと見つめた。その容貌は一言でいうなれば、『どこを見ても完璧』である。筋肉質でありながらも筋肉だるまではなく、荘厳な雰囲気でありながらも親しみやすさがある。かの王はまさしく、最も優れたファラオであろうと思えた。

 

 

「ふはは……、フハハハハハハ!!まさか再び相まみえんとは言ったが、ここまで早くとはな!怒りを通り越して笑えて来たわ!」

 

「ほ、本当です!不敬です不敬!」

 

 

 なんだか楽しそうなことになっているファラオたちだったが、その雰囲気は次の言葉で一変する。

 

 

「――して、何用だ異邦のマスター。余に首を預けに来たか。ならば愉快に殺してやろう。」

 

「……要件は、既に伝えてあるはずだけど?」

 

 

(マスター……!)

 

 

 ケンは控えつつも、驚きを隠せない。自分よりはるかに格上の相手が自分を殺すと宣言しているのに、彼女は一歩として引いていない。なんという度胸だろうか。

 

 

「む、あの遣いか。確か、余と共に戦えだのという戯言だったが……うむ、これか。」

 

 

 そういってオジマンディアスが取り出したのは、一枚のパピルス。本当は普通の紙もあったのだが、『こういうのは雰囲気が大事だろう?』とダヴィンチちゃんがわざわざ作ったものだ。

 

 

「ふはは、あまりにおかしな要求だったのでな!腹を抱えて笑った後、こうして手元に置いておいたというわけよ。このような身の程知らずは、そうは見られまい!」

 

 

 なおも嘲り、大笑いを続けるオジマンディアス。三蔵ちゃんが流石に文句を言ってやろうとしたところ、突然その笑いが止まった。

 

 

「―――では、余興に対する褒美をやろう。我が輝きに目を灼かれ、絶望による死を許す!!」

 

 

 唐突に始まろうとした戦闘に、ケンだけが対応できた。これもまた、信長に仕えていた時の経験である。往々にしてこういう王様というのは気まぐれで、突然こちらを殺しにかかってくるものである。すぐさま立香の前に立ち、来るであろう攻撃に対応しようとした時―――

 

 

「すまん、遅くなった!状況はどうだ、立香!」

 

「―――――。」

 

 

 オジマンディアスは、杖を掴んだ状態でフリーズしてしまった。玉座の間へと突然飛び込んできた、アーラシュの姿を認めたからだ。

 

 

「アーラシュさん!ちょっと、何か敵対しそうな感じかも!」

 

「マジか!じゃあすぐに加勢を――」

 

「敵対?何のことだ?」

 

「え」

 

「ファラオ!?」

 

 

 いつの間にか、何食わぬ顔をして玉座に座りなおしている。誰も彼もが困惑を隠せないが、アーラシュの目は一つのものを捉えた。

 

 

「おっ、そいつは俺が書いた書状か!どうだ、ファラオの兄ちゃん!ちゃんと伝わるように書けてたか?」

 

「これは、勇者の……ニトクリス!」

 

「は、はい!」

 

「すぐに額縁を用意せよ!一刻も早くだ!!」

 

「え、し、しかしファラオ。先ほどは『燃やしてしまえ』と仰せに」

 

「余がそんなことを言うはずがないであろう!急げ、ニトクリス!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 慌てて玉座の間を飛び出していくニトクリスを、ケンは妙に実感のある憐れみの視線で見送った。そういえば信長様のもとにいた家臣、いつもあんな感じだったなと。

 

 

「えーっと……それで、結局同盟のことはどうなったんだ?」

 

「当然、受けるに決まっているだろう勇者よ!余とて獅子王の行いは腹に据えかねていたのでな!貴様が出るというのなら、勝機も十分であろう。余と肩を並べ、共に戦う栄誉を許す!」

 

「おっ、そいつはありがてえな!ナイスだ立香、よく頑張ったな!」

 

「私は別に何もしてないっていうか……え、ダヴィンチちゃんこれどうなってるの?」

 

 

 すこぶる機嫌が良さそうに高笑いをしているオジマンディアスを横目に、立香は小声で隣のダヴィンチちゃんに尋ねる。

 

 

「うーん、この心変わりはアーラシュ殿のおかげとしか思えないけど……ま、何だっていいんじゃないかな?」

 

「説明諦めないでよ万能の人!」

 

『ま、まあきっと、アーラシュとラムセス二世……オジマンディアスは同じ時代を生きた英雄だからね。そのあたりで何か、好意的に感じる部分があるのかもしれない。』

 

『なーんかあいつを思い出すのう。ワシの熱烈ファンガールの、あのガチレズ……。』

 

「ああ……言われてみれば確かに……いや、もうちょっと狂ってましたよあの方は。」

 

 

 内輪ネタについていけない立香はひとまず理解することを諦め、流れに身を任せることにした。ひとまず結論から述べると、オジマンディアスはノリノリで協力を約束してくれた。スフィンクスから成る兵団を貸してくれるだけでなく、何と彼自身が戦場に立つと宣言したのだ。

 

 

「マジでか!?これは大きいぞ!なにせ、オジマンディアスと言えば並みいるサーヴァントの中でもトップクラスだ!これなら多少の兵力の差なんて、簡単にひっくり返せちゃうかもだ!」

 

「フハハハハ、余が戦場に立つのだ、当然の事!勇者よ、その武勇を存分に示すがよい!」

 

「おっ、そいつは燃えるな!ハハハ、こりゃ戦が楽しみだ!」

 

 

 そして一行は、最初に来た時の倍くらいの歓待を受け、ホクホク顔で帰っていった。東の村に着くと、聖槍から何とか生き延びて他の村にも兵力を募っていた百貌を加えたハサン3人が待っており、ランスロットが味方になったことを伝えると非常に驚かれた。

 

 

「あのランスロットが、我らに与すると……!それは、信じてもよいのですかな?」

 

「……まあ、あれを見てる限り大丈夫じゃない?」

 

 

「だーかーら!馬に乗るくらい簡単なんですってば!ギャラハッドさんには騎乗のスキルもあるんですから!」

 

「そ、そうは言ってもやはり心配でな。私の記憶では馬から何度も転げ落ちて」

 

「またぶん殴られたいんですか!?顔に行きますよ今度は!無駄に整った顔に!!」

 

 

「……なるほど。確かにあれは裏切るとかいうことではないですな。」

 

「それにしてもさ、ランスロットがケンさんとおしめ変えたって言ってたけど、ケンさん何があったの?」

 

「……複雑な家庭環境なので、私からはちょっと。そんなことよりほら!腹が減っては戦は出来ぬですよ!今日は山ほど作るつもりですので、お腹いっぱいで眠れないなんてことにならないでくださいね!」

 

 

 ケンは、普段の繊細な調理はどこに行ったのかと思わせるほどに、ボリューミーで馬鹿みたいな料理を行っていた。猪の肉を焚火でじっくりと焼き、ハーブやスパイスで作った特製ソースを回しかける。ソースの焦げがなんとも香ばしく、ご飯を運ぶ手が止まらない一品だ。

 

 

「おいしい!お米止まんなくて太っちゃうよこんなの!」

 

「あれだけ走り回ってれば大丈夫ですよ。それじゃ、私は作戦部の方にも差し入れてきますね。」

 

 

 ケンが肉と米とを以て向かったテントでは、ダヴィンチとランスロット、呪腕のハサンによって、最後の作戦会議が行われていた。

 

 

「皆さん、そろそろ煮詰まってきたころではないですか?少し息を入れては?」

 

「おっ、ありがとう!ちょうど匂いがこっちまで来て、お腹ペコペコだったんだ!」

 

「これは……懐かしいな。ケンの味だ。」

 

「ケン殿にも、作戦の内容を共有しておいた方がよいですかな?兵法に明るいかは不明ですが……」

 

「いえ、お聞かせください。」

 

「承知した。ではまず、西の方から太陽王の軍勢が攻め込みまする。城壁を破壊することが出来ればよいのですが……」

 

「ケンも知っての通り、キャメロットの正門は悪しきものを弾く。あらゆる攻撃は無効化されることだろう。」

 

「なるほど。それなら、私が正門を担当しましょう。」

 

「ああなるほど、君の宝具なら、キャメロットの門すら切り裂けるだろうね。ではモードレッド卿の方はどうする?」

 

「……おそらく、俺の方に来るでしょう。その時は俺が相手をします。出来れば、アーラシュ殿にも。」

 

「後は、軍を率いる将が足りないな……。ベディヴィエールは守りには長けているが、砦攻めはあまり得意ではない。藤太殿は将というよりも、兵士として駆ける方がよいそうだしな……。」

 

「それなら私に考えがあります。ちょうどよかったです。」

 

「君なんでもできるな!?万能の人の立つ瀬がないんだが!?」

 

「ですから、何でもは出来ませんよ。たまたま出来ることばかりだったというだけです。」

 

 

 その後は特に話し合うべきこともなく、ダヴィンチが締めくくった。

 

 

「よし、ひとまず聖都に入るまでが第一の勝負だね。そこから獅子王に謁見するまでは、もうアドリブで行くしかない。」

 

 

 

 こうして作戦はまとまり、一行は明日に備えてぐっすりと眠った。なにせ明日は夜通しの行軍から、聖都での全面戦争になるのだから。

 

 

 

 

 そして翌朝。ゆっくり体力を回復した立香は、しっかりとした足取りで行軍を続ける。日が暮れてもなお歩き続け、夜の闇に紛れて移動し、少しだけ休息をとって息を整えると、もう目の前に聖都が見えていた。

 

 

『――時刻は午前7時、もう日は高く昇っているね。聖都軍も、僕たち連合軍に気づいたみたいだ。城壁にはずらりと弓兵が並んでいて、こちらをにらみつけている。仮にどちらかが一歩でも踏み出せば、それが戦いの合図になるだろう。 ……立香くん、怖くはないかい?』

 

「……うん、大丈夫。もう、やるしかないわけだしね!それに―――」

 

 

 

 

 

 

「―――目の前で魚捌いてる人いるから、困惑の方が強いかなって。」

 

 

 

 

 

 

 立香がジト目で見つめる視線の先には、せっせとウナギのような魚をさばいているケンがいた。どこから持ってきたのかテーブルを置き、まな板の上で魚を三枚におろす。そうした後、慎重に切れ込みを入れていく。

 

 

「もう!ケンさんこれから戦だってのに何やってんの!ほら、マシュも何とか言ってやってよ!」

 

「す、すみません先輩!私の中のギャラハッドさんが、『好きにさせた方がいい』と……!」

 

『ほう、中々話の分かるやつではないか。そのがらはっどとやらは。』

 

「ノッブ?どういうこと?」

 

 

 通信で割り込んできた信長は、理解者面をしながら立香に語る。

 

 

『なに、ワシらの時代の武将なら、こやつのことはこういう言葉で知っておるものよ。“大男が料理を作っておれば、何をおいても阻止せよ”とな。ケンを厨房に立たせれば、敵はろくなことがない。もちろん、この敵というのはワシの敵じゃがな。』

 

 

 

 

 

 立香と信長の会話も今は無視をして、ケンは集中してまな板に向かっていると、ようやく調理が完了した。ケンは魚の切り身を、背負っていた鍋で沸かした湯にくぐらせた。魚の切り身はタンパク質の性質上、キュッと縮こまってしまう。だが切れ込みが入っているので、その姿はまるで花びらのように見えた。

 

 

 そうして出来た湯引きを、皿に盛り付け、すりおろした梅肉を添える。盛り付けは美しく、まるで手向けの花が敷き詰められているようだ。

 

 

 

「―――お待たせしました。『鱧の湯引き』にございます。」

 

 

 

「……ですが、これを食べるにふさわしいお方がいらっしゃらない様子。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

「――これこそ我が人生の報酬。何よりも得難く、何よりも尊い、あらゆる財を超えしもの。その名を人は、(えにし)と呼んだ。さあ、今こそここに、万夫不当の英雄を。我が美食が紡ぎし縁を辿り、抑止の円環より来たれ。」

 

 

「……でなければ、冷めてしまいまする。『縁を繋げ、我が美食(ユヌ・ランコント・ユヌ・シャンス)』。」

 

 

 

 

 瞬間、眩い光が辺りに満ちる。まるで小さな太陽が、地面に落っこちてしまったようだ。

 

 

「な、何!?何が起こってるのロマニ!?」

 

『……あ、ありえない。こんな、こんなことが出来るのか!?そこにあるのは、新たなサーヴァント反応だ!!今までまったく姿を見せていないサーヴァントが今、現れようとしているんだ!!』

 

 

 

 

 

 そうして光が収まり、そこには一人の人物が立っていた。体に匹敵するほど大きな弓を持ち、立派な烏帽子をかぶっている。周囲があっけにとられているのを気にも留めず、その人物は声を発する。

 

 

「――ふ、ははは。余をアーチャーで呼ぶとはな。よほどこの戦に必勝を期していると見える。だが――む、なんだケンか。道理で心が躍ったわけよ。」

 

「……。」

 

『……。』

 

「ふ、ははは。余の威光に声も出ぬか、愛い奴よ。だがお主、でかい奴とは思って居ったがそんなにもデカかったか?成長期という奴か?ん、というより何と言うか、余の声ってこんなにカワイイ系だったか?もっと威厳のあるバリトンボイスだったはずだが。これではまるで、琴の音色のような少女の声で……」

 

 

 

 

 

 

 そこでアーチャーは、ふと思いついたように刀を抜き、そこに映る自分の姿を認めた。沈む夕日のような温かみのある橙色の瞳。玉のような肌に、活発な印象を受ける短めのウルフカット。そして何よりも、頭頂部についた()()()()()()

 

 

 

「な、なな、何じゃコレーーーー!?」

 

 

 

 ケンの記憶とはかなり違った姿で、アーチャー・今川義元が現界した。

 

 

「お、おいケン!余はどう見えておる!?」

 

「は、はい。……率直に言って、犬の耳が生えた可愛らしい少女のように見えます。」

 

「じゃよねぇ!?お主どんな召喚した!正規の方法ではないとはいえ、ちゃんと男で呼ばぬか!」

 

「も、申し訳ありません。」

 

 

 

 何故か召喚したサーヴァントに怒られているケンを、周りは唖然とした目で見ている。なにせ、武装した少女……いや、もう幼女と言った方が正しい子に、180cm近くある大男が叱られてシュンとしているのだから。

 

 

「え、えーっと……ケンさん、これ」

 

『おいケン!お主これ、これが義元って……ぷっ。』

 

「んなっ、その声は信長か!?この姿、お主のせいではないか!!」

 

『あぁ~ん?何のことじゃそれ。』

 

「スキル!余のスキル!!“魔王の(きざはし)”ってなんぞこれ!」 

 

 

 

 通信越しに口論を始めた二人を見ながら、立香はようやく正気に戻った。自分をケンと信長のマスターと前置きしたうえで、ロマニに今川義元のことを聞いた。

 

 

「ロ、ロマニ?あの子は一体どういうことなの?」

 

『あ、ああ!こっちでも今、解析が完了した!確かにその女の子は今川義元だ!』

 

「誰が女の子だ貴様!余は『海道一の弓取り』なるぞ!」

 

『ごめんなさい!』

 

「……ロマニの謝罪も板についてきたね。」

 

 

 しみじみと呟く立香。なおも、ロマニの説明は続く。

 

 

『そ、それで。スキル:魔王の(きざはし)だけど、これはどうやら無辜の怪物の変化したスキルみたいだ。今川義元と言えば、織田信長の覇道の最初の壁にして、最初にしてはあまりにも強大な敵だ。だけど後世においては、圧倒的不利な状態で勝った信長が評価されるばかりで、義元自身についてはあまり触れられていないだろう?そのせいで生まれたみたいだね。』

 

 

『効果は“織田信長と同時に召喚されたとき、全てのステータスが信長を下回る”というものみたいだね。ああなるほど、だから女性になったんだ!』

 

「……然り。腹立たしいことこの上ないが、今の余はあらゆる点において信長を下回っておる。身長も奴より低く、体つきも貧相よ。というか肉体年齢まで下ではないか!今川義元がロリっ娘とか何かの冗談であろう!」

 

「で、では犬の耳は?どういうことですか、ロマニ殿。」

 

『えーっと、多分……こう、信長の噛ませ犬みたいなイメージがついちゃってるんじゃないかなって……』

 

「だから犬耳!?安直すぎるであろう!どうなっておるか抑止力!!」

 

『うははははは!!こ、ここまで愉快な事ある!?あれほど恐ろしく見えた今川のが、今では犬耳ロリっ娘アーチャーとはのう!』

 

「ええい黙れ!もとはと言えば貴様がもう少しマシな体であれば、余もこんな貧相なボディにはなっておらぬわ!」

 

「そ、そんな義元殿。貧相貧相というものではありませんよ。あなたの大切なお体なのですから。」

 

「なんだお主ナンパか!?いくら何でもこの体に発情するのはやばいであろう!」

 

「発情はしてませんが!?」

 

 

 

 ギャーギャーと喚き散らしていた今川義元だったが、ようやく落ち着いて話を聞いてくれた。今は開戦秒読みであるという事。軍隊の指揮をとるのであればとケンが思い、義元を召喚したこと。

 

 

 

「……話はわかったが、それ余にメリットある?正直ルーラーならともかく、ロリっ娘アーチャーの時点でかなりモチベ失っとるが。」

 

「一つ、ございます。―――敵軍には、信長様を圧倒した騎士がいます。」

 

「――!では、そいつを余が倒せば……」

 

「間接的にですが、信長様を超えられるのではと。」

 

「……ふ、ははは。人をのせるのが上手い奴よな、ケン。俄然やる気が湧いてきたわ!」

 

「それはようございました。」

 

 

 うまい事ケンが丸め込み、ようやくその気になった義元。最後のピース、指揮をとる将が埋まり、ここに連合軍は完全な形となった。一見犬耳の生えた幼女にしか見えない義元が指揮を執ると言われて、怪訝な顔をした兵士たちだったが、そこは義元のスキル:『文武のカリスマ』によって命令を聞かせるとのことだ。

 

 

「ふむ、だがこの姿ではついてくる者も不安よな。義元、動くぞ。この戦場の鏑矢をくれてやろう。」

 

 

 呟いた今川義元は一本の矢を手に取り、おもむろにつがえた。

 

 

「義元殿……?サーヴァントの矢なら届きもしましょうが、一本で何ができるのです?」

 

「ベディウィエールとやら、刮目するがよい。余は信長に敗れはしたが、決して劣ってはおらぬということをな。」

 

 

 キリキリと弦が引かれ、放たれた一矢は風を切って飛行する。サーヴァントの矢だが、義元の矢は通常の物理法則に従うようだ。綺麗な放物線を描き、城壁の兵士のもとへと飛来する。

 

 

 

 

 

 

 

 ……変わったことと言えば、その矢が無数に増えていることだけである。

 

 

 

 

 

 

 

「――な、なんだ、あれは!?」

 

「そ、空が!埋め尽くされるほどの矢だ!!退避――ぐあっ!」

 

「に、逃げろーーっ!!」

 

 

 キャメロットの城壁の上は、まさしく地獄絵図と化していた。絶対に反撃できない、通常の弓矢の射程距離の外から、空を覆いつくさんばかりの矢が飛んでくるのである。それはまるで、黙示禄の第五の喇叭が鳴らされ、バッタや蝗が人々を襲う、終末の光景のようであった。

 

 無数の矢の前に、兵士たちは一人また一人と倒れ、床を死体が埋め尽くさんばかりだ。その死体の上にも矢は容赦なく降り注ぎ、人間をハリネズミのように変えていく。畏れよ、かの行いを。それを為したのは、たった一人の幼子である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ははははは!これぞ我が宝具の一!『九山八海・三千大戦世界』よ!何が三千世界(さんだんうち)だ、しっかり正式名称を言わんか!」

 

『義元公は、仏教にも明るい人だったそうだからね……。いろいろ溜まるものもあるんだろう。』

 

「そうらもう一発くれてやろう!矢が増えきるまでに時間がかかるが、この距離を飛ぶなら十分よ!」

 

 

 

 そうら飛べいと放った矢は、再び城壁に向かって飛来する。しかし、サーヴァントにはサーヴァントである。着弾するかと思われたが、焔の波のような横なぎが、ほとんどの矢を焼き尽くしてしまった。

 

 

 

 

「あれは、ガヴェイン卿の……!ここから狙撃しても、もはや意味はないかと!」

 

「むぅ、無粋だな。では馬鹿正直に突撃するとしようぞ。ケン、余をおぶることを許す!馬の代わりに走るがよい!」

 

『なにぃ!義元貴様、どういうつもりじゃ!ワシの料理人じゃぞそやつは!』

 

「ふ、ははは!当然嫉妬を狙ってのものよ!ほれほれ気張って走れケン。速ければほっぺにチューしてやってもよいぞ!」

 

「将なんだからもっと威厳あるところ見せてくださいよ!」

 

 

 

 文句を言いながらも、流石にこのような小さな子を走らせるのもと思ったケンは言われた通りにおんぶをし、前へ前へと駆けていく。義元の攻撃から未だ態勢を整えられていない隙を狙い、一気に距離を詰めるのである。ここでどれだけ兵力を失わずに城壁に辿りつけるかが、この戦の勝敗を分けるだろう。それを誰もが理解し、全速力で疾走する。だがそのため、連合軍は誰ひとりとして気が付かなかったのだ。

 

 

 

 髑髏を象った力が、忍び寄っていることに。




というわけで、信長の話ぶりに今川義元登場です。いつまでも公式が出してくれないので、俺が書きました。後で解釈違いを起こしても許されよ。

また、ケンの第二宝具:縁を繋げ我が美食(ユヌ・ランコント・ユヌ・シャンス)についても下で書いておきましょう。



縁を繋げ我が美食(ユヌ・ランコント・ユヌ・シャンス)

カテゴリ:対軍宝具 レンジ:50 補足人数:5~500

料理人として、数多の武将や忍、商人や僧侶、普通の村人から天皇まで。数多の人間と出会い、縁を繋いできたケンの生き様が宝具になったもの。ケンにはセイバー、アサシン、キャスターの適性があるが、キャスタークラスで現界した時にもっとも上手く使え、反対にアサシンクラスの場合ほとんど使えないようだ。

というのも、アサシンのケンは剣客としての面が強く評価された姿であり、キャスターのケンは料理人としての面が強く評価された姿であるためだ。第一宝具の『天覧・同田貫兜割』はアサシンとセイバーの際に最も強くなるが、キャスタークラスだとただ単に対象を柔らかくして斬りやすくする程度である。

宝具の能力は『生前、その人物にふるまい、心に強く刻み込まれた料理を作ることで、その人物を時間に限定のあるサーヴァントとして召喚する』というもの。キャスタークラスで召喚された場合、一日くらいなら3騎のサーヴァントを召喚することが可能。ただし、魔力をおぎなう都合上、半分受肉したような状態のため、サーヴァントとしては弱体化しているほか、魔力を食事などで補う必要がある。

アサシンクラスの場合サーヴァントとして召喚することは出来ず、召喚した英霊に応じて能力にバフがかかる。例えば織田信長を召喚した場合、幸運に補正がかかるなどである。セイバークラスの場合、シャドウサーヴァントのような形で召喚するのが精いっぱいだが、今回は特異点という魔力が潤沢にある環境であったことと、宗三左文字という強力な触媒になるものがあったため、完全な形での召喚を果たした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。