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襲い来る数々の刺客をかわし、王城に突入したカルデアの一行。ベディヴィエールの案内で、玉座への最短ルートを進む。
「こちらです!ここの階段を登れば……ッ!」
「この、気配は……!」
『ああ!円卓の騎士だ!サー・ガウェインが駆けのぼってくるぞ!』
『立香!そっちにあのメス猫も行っとるから、上手く使うんじゃぞ!』
「お虎さんってこと!?それなら、何とかなるかも!」
足を止め、ガウェインを迎え撃つ態勢になる。誰も彼もが緊張感に満ち、戦いに備えている。そして、その姿が見えた時―――困惑を、隠せなかった。
「にゃははははは!!待て待てーーー!!首おいてけーーーー!!」
「くっ!まさか、このような刺客が……!」
ジェイソンばりに武器を振り回しながら、ガウェインの背中に追いすがる長尾景虎。応戦したくとも、今はカルデアを止めるのが最優先であるため逃げるしか出来なかったようだ。
「お虎さん!こっちです!」
「あっケン!もー、ひどいじゃないですか!いきなり私を置いていくなんて!」
「いえその、一応声はかけたのですが、戦いに夢中になっておいでで……。」
ケンが何とか景虎を抑えると、ガウェインはようやく気を取り直したらしい。ベディヴィエールたちを見据え、剣を抜く。
「……サー・ベディヴィエール。そしてケン。あなた方が今、ここにいること。私は天を恨まずにはいられない。」
「それはこちらも同じこと。我々は、先に進まねばならない!たとえあなたを、斬り伏せることになったとしても!」
「サー・ガウェイン!その太陽の現身すら、我が一刀のもとに斬り伏せよう!」
「……そう、それでいい。かかってきなさい、最後の円卓の騎士よ!そして、王に誰よりも近かった人よ!」
ガウェインとの戦いが始まったが、前回ほど絶望的な戦いではなかった。太陽の加護を受けたガウェインが相手だとしても、こちらには毘沙門天の加護を受けた長尾景虎がいるからだ。
「くうっ!強い……!」
「流石です、お虎さん!あと、もう少しで!」
「勝てる、とでも!?この階層を吹き飛ばしてでも、私はあなたたちに勝つ!王と戦えなくともいい!王の死に目を見られなくともいい!彼女の道を、少しでも舗装できるならそれでいい!!」
ガウェインの体が一回り大きくなったような錯覚を覚えるほどの魔力の高まり。明らかに、宝具を使うつもりのようだ。
「ッ!マスター、令呪をお願いします!!ここは、全力で行くしかない!」
「わかった! ――令呪を以て命じる!私たちを守って!!」
「―――勝負だ、ケン!!この剣があなたを焼き尽くすのが先か!あなたが、我が焔を切り裂くのが先か!!」
「―――その勝負、受けよう!かかってこい、ガウェイン!!」
宣言とともに、ガウェインが剣を上に放り投げる。それは回転しながら落ちて行き、再びガウェインの手に帰る。行きと違うのは、剣が猛火を纏っていることだけだ。
「――この剣は太陽の現身。あらゆる不浄を滅す焔の陽炎!」
「――この剣は我が生涯。あらゆる事物を断つ栄誉の証!」
二人の剣士の魔力が高まり、ガウェインは万感の思いと共に剣を振るう。召喚されてから今の今まで、感じ続けてきた矛盾を。仲間の騎士を殺したことに対する後悔を。変わってしまった王に対する、この上ないほどの憐れみを。
「
振るわれた剣は太陽の熱を持った波として襲い掛かる。紅蓮の怒濤を前にしてなお、ケンは眉一つ動かさない。
「俺には、毘沙門天がついている。何を恐れることがあるか!!」
令呪によって得た魔力で、再び刃を形成する。白銀に輝くそれは、まるで月のように思えた。それが振るわれ、焔がかき消えた時。ガウェインは、全ての終わりを悟った。
「――御免。」
「がっ……!」
ケンの後ろから、景虎が飛び出しガウェインを切り裂く。肩口からまっすぐな袈裟斬りを喰らい、膝をついた。
「……ここまでか。やはり私は、最後まで王の戦いに間に合わないらしい。不忠の騎士には、ふさわしい末路か……。」
「そんな……!あなたほどの忠義の騎士が、不忠などと……!!」
「その通りだ。それに、剣を交えてわかった。お前の剣には、最後まで迷いがあった。だから、こうして俺が勝てたんだ。……お前が、獅子王ではなく、騎士王に忠誠をつくしたからこその迷いだ。」
ケンとベディヴィエールがガウェインの勇姿を称えるが、ガウェインの顔はそれでもなお、うかないままであった。
「ベディヴィエール。それに、ケン……。なぜ、今になって現れたのだ。全てが終わりを迎える、このタイミングなのだ。もっと、早く……聖都が築かれる前であれば、王も……お心を、取り戻したのかも、しれなかったのに……。」
「……悪いな。全ては俺が、臆病だったせいだ。この場所に来る勇気が、足りなかったからだ。」
「……。」
「……だがもう、逃げない。俺は絶対に、逃げない。……安心して逝け。」
その言葉を、ガウェインが聞き遂げたのかは知りようがない。だが、立香には彼が、ほんの少しだけ笑った気がしたのだ。
「ケンさん……?逃げたって、どういう……?」
「申し訳ありません、マスター。全ての答えは、この先に。玉座に行けばわかります。」
そう言って、階段の上を指し示すケン。立香は何か不穏なものを感じずにはいられなかったが、それでも進むしかないと覚悟を決めた。そうして歩き始めた一行だが、なぜか景虎だけは動こうとしない。
「お虎さん……?どうしたの、早く行かないと!」
「いいえ、マスター。私はこの先にはいきません。必勝を期すのであれば、私以上の適任がいますから。そうでしょう、ケン?」
「……ええ。まさか、譲っていただけるとは思いませんでしたが。」
「むー、それだとまるで、私が駄々をこねる子供みたいじゃないですか。私だって、立香のサーヴァントなのですからね。立香の益になるなら、そちらを優先しますとも。……もっとも、私以外の女を頼りにするのは腹に据えかねていますが。」
「お虎さん以上の適任?ケンさん、それって……。」
「ええ。きっと、あなたの思っている奴らですよ。さあ、行きましょう。文字通りの、最終決戦です……!」
重い、重い扉を開く。その扉の重さは未来を拓くための試練か。あるいは過去との決別の痛みか。あまりにも懐かしいその場所に、あまりにも馴染み深いその部屋に。ようやく、一歩を踏み入れた。
「あれが――!」
「獅子王、アルトリア・ペンドラゴン……!」
中央の玉座に座す、穢れ無きマントを身にまとった女性。彼女こそ、この特異点の元凶にして、円卓の騎士を統べし女王。
「――答えよ。そこの剣士にして円卓の料理人、ケンよ。何故、我が召喚に応じなかった。」
「―――!?」
獅子王の声が響くと、誰も彼もが指一本動かせなくなった。声を聞いただけで、全身の筋肉が萎縮したからだ。それほどまでの重圧、プレッシャー。そんなことが、人間に可能だというのか。
「……答えよう、アルトリア。俺には、お前に相対する勇気がなかった故だ。一人でとっとと死んで、お前の苦労を一緒に背負ってやれなかった俺には、お前に合わせる顔がないと思ったからだ。」
「……。」
ケンの告解を、獅子王はただ黙って聞いていた。まるで一つ一つの言葉を、ゆっくりと噛みしめるように。
「だがもう、俺は迷わない。人の身でありながら、ここまで歩んできたマスターと出会えたからだ。マスターに勇気をもらったからだ。」
「……それが、お前の答えか。」
「ああ、お前は間違っている。その傲慢、その悪逆!この剣が断つ!」
「……残念だ。お前の魂は、既に悪に染まってしまったのだな。例えお前であろうと、我が理想都市には不要である。」
獅子王がゆっくりと玉座から立ち上がり、聖槍が風と光を纏う。
「――円卓を開放する。見るがいい、これが世界の果てである。」
玉座の壁が一瞬にしてなくなり、まるで透明の波のようなもので満ちた地平が拓かれる。その光景に驚き、思わず周囲を見回す一行。
「これは……!獅子王は、はじめから世界の果てで待っていたのか!」
「獅子王、戦闘態勢です……!先輩、指示を!」
「なんで……!」
「――マスター?」
俯いていた立香は、弾かれたように顔をあげる。
「なんで!なんでこんなことするの!?理想都市なんて、誰が作ってほしいって言ったのさ!!」
「マスター!?」
「すごいな立香君!すごいクソ度胸だ!でもそれを言う権利は、君にしかない!
「……理由、か。そんなもの、決まっている。私の大切で、愛おしくて、何よりも愛している、
そこまで話した後、改めて獅子王はケンに向き直る。
「お前は悪に染まってはいるが、それでも私の愛した男に違いはない。理想都市に不要ではあるが、私と共に永遠を生きるがいい。」
「……。」
露骨に嫌そうな顔をしたケンは、ただ黙って刀に手をかける。それを見ても全く気に掛けることなく、獅子王は続ける。
「何がおかしい?何が間違っている?私の偉業は、すべて
『立香君!もう会話は十分だ!彼女はもはや、人間の精神構造じゃない!完全に神のそれだ!はやく、戦闘で打破するんだ!』
「ロマニ・アーキマン。あまりにも浅薄だな。だが私も結論は同じだ。お前たちを排除する。ケン、お前とてな。ただ、生きて傍にいればそれでいい。言葉も、視線も必要はない。愛を注ぐ必要はない。ただ我が傍で生きていろ。」
「来るぞ、立香君……!すぐに戦闘準備だ!敵は獅子王……いや、もはやあれは英霊ではない!名づけるのなら、聖槍の化身。女神・ロンゴミニアドだ……!!」
獅子王は聖槍を掲げ、ただ無造作に振り下ろした。それだけなのだ。ただしそれは、神の領域の話である。
「―――ッ!マスター、伏せて!!」
ドドドドと轟音をあげながら、魔力の波が襲い掛かる。ケンがすぐに飛び出し刀を振るうが、切り裂く瞬間の衝撃は殺し切れない。ケンは大きく後ろに吹っ飛ばされ、地面を転がされる。
「ケンさん!」
「クッソ、これでも喰らえ!
「無駄だ。」
ダヴィンチが義手を高速変形させ、攻撃に最適な形にしてから行われる最高の攻撃。それすらも、虫を殺すかの如く弾かれる。
「ウソだろ……!」
「滅べ。」
「マシュ!」
「はいっ!!」
再び聖槍から放たれた魔力の螺旋から、マシュが何とかダヴィンチへの攻撃を防ぐ。だがやはり、衝撃を殺し切れない。
「くうっ……。あ、足が……!!」
「――宝具、限定解放。10パーセント。」
「ッ!
マシュが咄嗟に宝具を起動し、何とか獅子王の攻撃を防ぐ。展開された巨大な盾は何とか極光を防ぐが、ミシリと嫌な音を立てながらジリジリと押され続ける。
「まずい……!ディフェンシオ・アイギス!!」
ダヴィンチがとっさに展開した防御用の魔術によって、ギリギリで防ぐことが出来た。しかし、二人とも既にズタボロである。
『魔力が、ここまで……!立香君、どうなっている!?全く映像が届かない!!獅子王は、撃破出来たのか!?』
「……ごめん、ロマニ。これ、無理だ……。」
『そんな……!』
立香もサーヴァントたちに守られ、その上で魔術礼装の防御もある。だというのに、体中がきしんで痛む。体中に小さな擦り傷が出来、立っているのでやっとだ。
「あー……無理だ、これ。火力が違いすぎる。神の領域じゃ、手が届かないのか。」
「ダヴィンチ殿……!立香殿……!」
ベディヴィエールも動けなくなってしまった。立香をかばって必死に戦ったからだ。吹き飛ばされたケンは、未だに帰ってこない。
「終わりだ。お前たちが消滅した後、ケンを探して四肢をもぐ。そうして動かなくなった奴を、私の傍に留めおく。そうすれば後は、私と同じ神になるまで魔術で延命を続ければいい。」
「……嘆くな。これこそが、
聖槍を掲げ、終わりを告げようとするアルトリア。だが、彼女は最後まで気づけなかった。背後に迫る、忍の業に。
「―――変わらないな、お前は。」
「何―――!?」
突如響く声に驚き、振り返るアルトリア。だがその男は既に、大きく振りかぶって――
「反省しろ、この大馬鹿者ーーー!!!」
ゴンっというギャグ漫画のような音を立て、ケンの手刀が獅子王の頭頂部に突き刺さる。
「なっ……!」
「なにやってんの、ケンさん……!!」
『うはははは!やはりケンはこうでなくてはな!』
困惑する大多数と、一人大笑いする信長。手刀をくらわせたケンは満足げで、くらった獅子王は痛みに顔をしかめ、頭を抑えている。
「な、なんだ……これは……!?」
「この特異点に来て、お前の所業を知ってから……絶対に、こうしてやらねば気が済まなかった!昔っからそうだったよな、アルトリア!お前が厨房でつまみ食いをするたびに、こうして愛のある手刀を食らわせてやったはずだ!」
「つまみ食い、だと……!?私が、そのようなことは……!!」
「なかったとは言わせないぞ!俺が何度、『もっと美味しくなるから待ってろ』と言っても、何度も何度もやったんだからな!ネズミかお前は!!」
今の今まで絶望的な戦況であったはずなのに、あっという間にまるで痴話げんかのようだ。あっけにとられる立香だったが、一人の人物の異常に気が付いた。
「ふ、ふふふ……。あははははは!」
「べ、ベディヴィエール?」
ベディヴィエールは、突然大笑いを始めた。目には涙すら浮かび、おかしくてたまらないといった様子だ。
「ああ、本当に――懐かしい。なんて懐かしい光景でしょうか。あなたはいつもこうして、ケンに怒られていましたっけ。あなたがつまみ食いをして、ケンがそれに怒って、サー・ケイが大笑いをして……皆、本当に楽しかった。」
「なんだ、それは……!?知らない!私には、そんな記憶!!」
「……ははっ。なんか、自分だけ行ってない遊びの話を友達が始めた悲しい思い出みたいじゃん。」
『うぐっ!り、立香君。それはちょっとボクに、クリティカルヒットする……。』
立香もいつもの調子を取り戻し、足にも力が戻ったようだ。
「よし、スッキリしたところで戦いだ!今の手刀で多分ちょっとはダメージが入ったはず!さあかかってこいアルトリア!お前の間違いは、いつだって俺が正してやる!どこまでだって行って、頭に手刀をくらわしてやる!もう俺は、迷わないのだから!」
「く……!聖槍、抜錨!!其は空を裂き、地を繋ぐ嵐の錨!!最果てより光を放て!!」
空に駆け上がり、聖槍を天高く掲げる獅子王。ケンはすぐに駆けだし、マシュの後ろへと控えた。
「え、ケ、ケンさん!?」
「かっこよく啖呵を切ったのに申し訳ないのですが、ここはマシュ殿よろしくお願いします!あなたの中に宿る、ギャラハッドなら大丈夫です!」
「そ、そんな!私はまだ、完全な宝具の展開はまだ……!」
「いつかは出来るんでしょう?それなら、今日この時がその時です!あなたの思う正義を、あなたの感じた願いを、そのままに叩きつけてやればいいんです!願いはないなんて言うませた子供ではありますが、人の願いを無下にできるほど、薄情な奴でもありませんから!」
「……!」
「さあ、あいつに答えを見せてやりましょう!何を感じ、何を願うのか!!人とは、死ねばすべてがおしまいなのか!!」
「人は……!」
槍から放たれる光が収束し、圧倒的な熱量を帯びる。そのまま地面に穂先を向け、光輝の嵐を巻き起こす。
「ロンゴ、ミニアド―――!!」
迫る破壊の化身、裁きの豪風。それを前にしてなお、マシュの決意は揺らがない。だって―――。
「死んだって、終わりじゃないんです!!命は続く、どこまでもどこまでも、果てなどどこにもないかのように!!」
「―――。」
「―――それは全ての傷、全ての怨恨を癒す、我らの故郷。顕現せよ!
マシュが盾を構え、圧倒的な破壊をまっすぐに見据える。盾は少女の願いに応え、絶対的な障壁を築く。それはまさしく、白亜の城であった。
「支えるか、白亜の城を――!その、細腕で―――!!」
獅子王は顔を苦悶にゆがめ、聖槍の出力を上昇させる。さらに破壊力を増した嵐は、城壁を少しづつ削り取っていく。
「く、うう……。」
「マシュ!待ってて、私も今……!!」
「マスター!そこで見ていてください!」
「ッ!ケンさん、何で!?」
ケンはいつものように、いたずらっぽく笑う。
「だって、久しぶりの親子の共同作業なんですから!!ランスほどじゃないですが、俺だって結構子煩悩なんです!!」
「え……ええええ!?」
「なんですってぇええええ!?」
マシュも驚愕を隠せないが、それを無視しながら、マシュの背中から腕を回して盾を支える。
「――さあ、ギャラハッド……いや、マシュ。この盾は、決して崩れない。自信を持ちなさい。お前は、俺の自慢の息子なのだから。」
「――は、はい!わかりました!」
「……ふふ、あなたも変わりありませんね、ケン。マスター、ここで見ていてください。」
「ベディヴィエール!あなたも、やっぱり……。」
「ええ。家族団らんを邪魔するのは気が引けますが、それでも伝えなくては。」
ゆっくりと歩き出したベディヴィエールは、マシュの後ろに回った。
「サー・キリエライト。ケンの言う通り、自信を持ちなさい。白亜の城は、あなたの心に曇りがない限り、決して崩れはしない。」
「はいっ!マシュ・キリエライト、自信を持ちます!」
しっかりと態勢を整えたマシュは、全く崩れることがない。それを見て、ケンは満足そうにうなずいた。
「……これなら、もう大丈夫だ。さあて、俺も本気を―――」
「いいえ。ここは、私に任せてください、ケン。あなたは、王の心をお願いします。あの裁きの光は、私が切り裂きますから。」
「……何?ベティ、お前何を言って……!!」
怪訝な顔をして振り返るケンは、光を放つベディヴィエールの腕を見て言葉を失う。
「……待て。なんで、なんでだベティ。なんでそれが、お前のところにあるんだ!?」
そんな二人を見ても、立香は何が何だかわからない。ベディヴィエールの義手が光を放ち、戦闘に使えるものであることは、ケンも知っているはずなのに。
「
ベディヴィエールの銀色の義手が、ロンゴミニアドの嵐を切り裂く。それを見て、獅子王ですら言葉を失った。
「――その、光。私は、知っている。それは、まさか――。」
「……申し訳ありません、立香。それにケン、キリエライト、ダヴィンチ殿。私はずっと、皆さんを騙していたのです。どうしても、ここに来なくてはなりませんでしたから。」
「ま……待って……。」
震える声で、立香はベディヴィエールを引き留める。
「何で……何で、体が崩れて!!」
立香の言葉通り、ベディヴィエールの体は、まるで木が風化したように崩れ落ちていく。義手である右の腕は未だ健在だが、左腕の方はボロボロになってもう半分程度しか残っていない。
『……嘘だろ。どうして、どうしてこんなこと!立香君、そこにいるベディヴィエール卿は……彼は、サーヴァントじゃない!!ただの、人間だ!!君と同じ、ただの人間だ!!』
「うそ……?」
信じられない様子の立香を見て、ベディヴィエールは安心させるかのようににっこりと笑う。
「いいえ。ドクターの言っていることは本当です。私は今まで、マーリンの魔術で皆さんを騙していたのです。私がただの人間だと判明すれば、絶対に止められてしまいますから。」
「当たり前だろ!そんな、そんなことを、俺は認めない!!なんで、なんでこんなことに!!」
「……聖剣だ。あの義手はヌァザの義手なんかじゃない。聖剣・エクスカリバーだったんだ!!」
ダヴィンチがその正体を明かしたとき、ケンの顔が苦々し気に歪む。輝きを見た時点で分かっていたというのに、改めて突きつけられた残酷な真実。ベディヴィエールがエクスカリバーを持っているということは、考えられることは一つしかない。
「ベディヴィエール……お前は、まさか……。」
「―――はい。私は、獅子王と同じです。喪うのが、怖かった。どうしても耐えられなかった。王の最後の命令である、聖剣の返還。それをしてしまえば、王は力尽き、その生涯を終えたでしょう。……それが、どうしても耐えられなかった。私は、聖剣の返還に失敗したのです。だから王は、ああして亡霊の王になってしまった。」
「だからって……だからって、一人でずっと探し続けたのか!?アルトリアに、今度こそ聖剣を返すために……!!」
『エクスカリバーは確かに肉体の成長を止める!でも、でもそれは肉体だけだ!精神は常に老い続けるんだぞ!?ベディヴィエール卿が今日まで生き続けてきたとしたら、1500年間にもなる!そんなに長い間、たった、一人で……!?』
「それほど苦しいものでもありませんでしたよ。ですが……それでも皆さんが私の事を憐れんでくださるのなら、最後のお願いを聞いていただけませんか?」
「なっ、何!?教えて、ベディヴィエール!!」
涙をボロボロとこぼしながら、立香は必死に問いかける。それを見て心底嬉しそうに笑ったベディヴィエールは、ゆっくりと告げた。
「どうか、私を王のもとまで連れて行っていただけませんか?私はもう、立っていられるかもわかりません。」
「……わかった……!絶対、絶対何とかするから!そこで見てて、ベディヴィエール!!」
乱雑な手つきで涙を拭い、立香はベディヴィエールに答えた。そしてその手を天に掲げ、最も適任な者たちを呼ぶ。大切なのは、何を為したかではなく、何を為そうとしたのか。どんな志を掲げ、それに向かって邁進したのか。……例え後世に何も遺せなかったとしても、力の限り生き抜いた彼らを、立香はこの玉座に呼んだ。
「ベティ……そこで見てろ!俺が、いや俺たちが!!必ず何とかしてやる!!」
「あなたがそう言うなら安心です。ケン、よろしくお願いします。」
令呪が紅く輝き、カルデアから3騎のサーヴァントが召喚された。立香の前に立つ3騎は、皆浅葱色のだんだらを羽織り、その背中には誠を背負う。中央の大男が刀を抜き、怒号をかける。
「新撰組!!出るぞ!!」
「そうか、君はそういう結末を望むんだね。ハッピーエンドが大好きな、マーリンお兄ちゃんらしい導きだ。」
「私としては、物語が終わりになってしまうのは悲しいけれど……ふふ、マシュちゃんがいいことを言ってくれたからね。次に始まる物語を、私も一緒になって楽しむとしよう。」
「ーーーさあ、行きなさい。贖罪のため、悠久とも思える時間を独り歩き続けた騎士よ。君の望んだ結末は、もうすぐそこにあるのだから。」