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「えー、それでは!これよりカルデア大宴会に向けて、準備を始めていきます!」
ケンは、カルデア中のサーヴァントが集まった食堂にて、引率の先生のように声を張り上げていた。当然ながら、本当に全てのサーヴァントが集まるとギチギチになってしまうので、何人かのサーヴァントは霊体化して話を聞いている。写真を撮ったらすごい量の心霊がいる写真になりそうだ。
「もちろん、準備への参加は強制ではありません!あくまで個人の善意に基づくものではありますが、それでもマスターのために力を貸していただけるという方は、奮ってご参加ください!!」
「まあ、自分たちでパーティーの準備をするなんて、なんて楽しそうなのかしら!ねえジャンヌ、一緒に参加してみない?」
「もちろんです!立香にはお世話になっていますし、この機会にお返しをしましょう!」
「うむ!贅を尽くした宴会は皇帝の特権であるが、立香ならば共にする権利があるだろうな!余もローマの絢爛たる宴を、市民にもたらしてやろうではないか!」
「―――うむ。愛を受け取るだけでなく、下賜する。これもまた、
「つまりは、大酒かっくらってどんちゃん騒ぎするってことだろ?それならあたしらもしっかり働かなくっちゃねえ!なにせ、戦って分捕って、火照った体を酒で冷ますのが最っ高なわけだしね!」
「いやー、拙者こういうの実は憧れてたでござる!皆で力を合わせて、準備……。これはまさしく、文化祭!青春の定番イベントですぞお!」
「ジャックちゃんジャックちゃん!パーティーですって!ああ、楽しみだわ、楽しみだわ!きっとおいしいクッキーやお紅茶が、食べきれないほどたくさん出るのよ!」
「おかあさんも、いるの?なら、わたしたちもがんばるよ。」
「宴会、ですか……。二日酔いや乱痴気騒ぎによる負傷者など、様々な患者が考えられますね。医療部のミスターロマニをたたき起こしながら、備えておく必要があるでしょう。」
「……これは、俺も出番のようだな。“施しの英雄”らしいところを見せてやろう。」
ケンの要請はかなり好意的に受け取られ、多くのサーヴァントたちが協力を申し出てくれた。それを嬉しく思いながら、ケンはさらに説明を続ける。
「それでは、これから協力を申し出てくれた方々を班分けしていきます!自分の能力を活かせるようにしていきますので、よろしくお願いします!」
そう言うと、サーヴァントたちをそれぞれ3つの班に分けていく。一つ目は、食材や予算のQPなどをシュミレーションルームの戦闘で稼いでくる調達班だ。戦闘が得意なサーヴァントたちは基本的にここに行ってもらうことになっている。アーチャーや狩人の逸話がある人物には狩りを、海賊たちには漁をお願いした。
「うーん、ボクらは海賊であって漁師じゃないんだけどな……。」
「まあ、海に関することなら私たち以上の適任はいないでしょうし、仕方ありませんわね。」
「ふふ、狩りか……。ようやく狩人らしいところを見せられそうだな!マスターや子供たちのため、この弓を存分に振るうとしよう!え、り、リンゴもか!?それは別のやつに行かせてくれ!」
「オジサンもリンゴにはあんまりいい思い出ないからパスで頼むわ。ま、それ以外はそれなりにやらせてもらうかね。若いもんに任せっぱなしってのもな。」
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二つ目は、大宴会に華を添える余興組だ。主に芸術家系のサーヴァントたちに要請されているのだが、これを聞いた時のエミヤの反応は芳しくなかった。
『なるほど……。確かに、彼らの芸術は素晴らしいものだ。モーツァルトの演奏を聴きながら優雅な食事など、考えただけでも垂涎ものだ。だが、彼らの説得は難航すると言わざるを得ないだろう。ケンさん、悪いことはいわない。ただでさえ忙しい身なのだから、やめておいた方がいい。』
赤い弓兵のその言葉に、なおもケンはなぜですかと食い下がる。
「クズだからだ。彼らは、その、作品のファンとしてはこういうことはあまり言いたくないのだが、かなり性格には問題があると言わざるを得ない。説得はおそらく、並大抵のことではうまくいかないだろう。」
ひとまず交渉を行ってみることにしたケンだったが、その言葉通りに交渉は難航した。芸術家らしく小難しい言葉で飾られてはいるものの、要約すると『めんどくさいからヤダ!』である。
しかし彼らは知らなかった。目の前にいるのが、数々の不可能と思われた交渉を成し遂げた男であるということを。
「そうですか、それは残念です。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト殿。それでは私は、マスターとの約定に基づいてこの不健康記録をナイチンゲール殿に提出しなくてはなりません。」
「ま、待て!ちょっと待ちたまえ君ぃ!?な、なななんでそんなものがあるんだ!?」
「何故って……そりゃ、カルデアですから。万が一の謀反とかに備えて設置されている監視カメラの映像を記録してるんですよ。普段はナイチンゲール殿もお忙しい身ですから確認することはありませんが、役に立つこともあるものですね。」
「……か、仮にそれが彼女の手に渡ったら……。」
「まあ、ピアノを粉々に破壊し、楽譜やら羽ペンやらを燃やし、レクター博士みたいにベッドに縛り付けられるのでは?ただでさえあなたは、死因が病死ということで目をつけられていたんですから。」
「き、汚いぞ君ぃ……。やはり人間は屑ばかりだ!!」
「とはいえ、悪い事ばかりでもありません。大宴会には、マリーアントワネット殿も参加のご予定ですから。荒事にはあまり向かない方なので、おそらくは余興組に入ることになるかと。彼女もとても楽しみにしていました。『久しぶりに彼の演奏が聴けるのね!』(高音)と。」
「オーケーわかった、参加する、参加するから!だからそのマリアのマネをしたであろう裏声をやめてくれ!言っとくが、まったく質が違うからな!?宝石と『自主規制』くらい違うからな!?」
不満たらたらという風に納得したモーツァルト。それを見てニッコリと笑ったケンは、それはよかったと部屋から出て行ったが、少ししたのちに戻ってきた。それも、ガラガラと台車を押しながら。
「お礼の品と言ってはなんですが、このようなものをお持ちしました。『アペリティフ』です。」
アペリティフとは、食前酒という意味で、夕食の前にちょっとしたおつまみと一緒にお酒とおしゃべりを楽しむ文化のことだ。フランス人はおしゃべり好きが多いとされ、意外と長時間続くこともある。
「お酒には白ワインとロゼワインの二種類を。つまみは『生ハムのバター巻』『大根のカナッペ』それから『サーモンのタルタル』をご用意させていただきました。ディップしてご賞味ください。」
「お、おお……!」
目を輝かせるモーツァルトは、早速一つ一つの料理に舌鼓を打つ。このように脅すだけでなく、美食によって機嫌を取るというのがケンのやり方である。ご機嫌そうに料理を食べているのを見届け、ケンはモーツァルトの部屋を後にした。その後王妃に呼び止められ、『彼はあんな風に言っているけど、本当は最初から協力する気だったの。気難しい性格でごめんなさいね。』とのお言葉を賜った。確かに自分の裏声とは格が違うなと思いながら、恭しく礼をして次の作家の部屋へ向かった。
ケンはこの落として上げる手段で、とにかく話が長くて描写がめんどくさいシェイクスピアとアンデルセンも陥落させ、順調にメンバーを集めていった。本当は撃剣興行(スキルではない方)もしたかったのだが、それをやるとカルデア最後の日になる予感がしたのでやめた。結果的にこの判断は正しかったことが、この後死の国の女王によって証明されるのだが、それはまた別の話である。
最終的に、余興組はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの特別公演、シェイクスピアの新作オペラ上演、アンデルセンの人魚姫2をちびっ子たちが劇にして演じるなどのプログラムを組むこととなった。ちびっ子組の練習時間だけが懸念点だったが、『そこは我輩にお任せを!』とシェイクスピアが言っていたことと、その背中に無言で狙いをつけているアタランテを信じることとしよう。
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そして3つの班分け、最後の一つにしてもっとも大変なチーム、調理組である。いくらエミヤやブーディカが普段からカルデアの食堂で甲斐甲斐しく働いているからと言っても、ケンの求めるレベルに達していない可能性もある。
そこで、ひとまずエミヤ、ブーディカ、タマモキャットの三人に料理を作ってもらい、ケンがそれを試食することとなった。各自最も得意と自負する品をだし、それを口に運ぶケンをドキドキしながら見ていた。
「うん、うん―――皆さん筋がいいですね。驚きました。」
「ほ、本当だろうか!?私の料理は、あなたに認めてもらえるほどだろうか!?」
妙にテンションの高いエミヤが、興奮気味にケンに詰め寄る。そういうのにも慣れているケンは、にこやかな表情を崩さないままに言った。
「ええ、もちろん。あと5年も修行すれば、自分の店を持ってもいいでしょう。」
「おお――!あと5年、5年かあ……!これからもより一層、奮励せねば……!!」
「え、それでいいのエミヤ!?結構辛口評価だったと思うけど!?」
「いやいや、店を持ってもいいなんて、そうそう口にはしませんよ。老いてからはそこそこ丸くなりましたが、現役のころは弟子が店を持つのが先か、私が老いて死ぬのが先かと本気で悩みましたからね。」
そこまで語ったところで、ケンの目つきが鋭く、冷たいものになる。その目はまるで、切れ味のいい刃物……そう、ちょうど日本刀を思わせた。
「―――そして。今の私の精神状態は、現役のころのあの状態に戻っています!今の私は、料理に対して一切の妥協は認めません。それでもなお、着いてきてくださいますか!」
「はい、先生!!」
「ええ……?やっぱこの子、どこかで頭でも打ったんじゃ……ま、いいか。ひとまず、私も協力させてもらおっかな。」
「キャットも主のためとあらば、やぶさかでないのダナ。」
「――うむ、その意気やよし!まずは包丁の入れ方からです!傍から見ててすっごい気持ち悪かった!!」
「え、そんな時間あるの!?あと3日なんでしょ!?」
「100倍疲れる代わりに1000倍は早く覚えられます!ほら、まずは手を動かす!」
ハートマン軍曹の如く、スパルタで技術を叩き込んでいくケン。瞳をキラキラと輝かせるエミヤの表情は、まるで憧れのヒーローを目の前にした子供のようだったという――――。
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『えー、サーヴァントの呼び出しです。セイバークラスのケン君は、至急召喚ルームまでお願いします。』
「むっ、また召喚ですか。それなら流石に指導を続けるわけにもいきませんか……。」
名残惜しそうな顔をしながら、ケンは厨房を後にする。だが、厨房の中を覗いてみればわかることだが、死屍累々の様相を呈している。あまりの情報量を処理しきれず、パンクしているからだ。彼らに『よく復習しておくように』と言い残し、ケンは去っていった。
「ふ、ふふ……。これが、プロの業か……。」
「こりゃ、皆喜ぶだろうね……。きついけど、その代わり味は段違いだ……。」
タマモキャットに至ってはピクリとすら動かない。この後、片づけを始めるまでもうしばらくの時間が必要なのだった。
「マスター?召喚の様子はどうですか?」
「あっ、ケンさん!ごめんね、私のためにいろいろ動いてくれてるのに……。」
「気にしないでください。やりたくてやっていることですから。」
ケンは笑いながら、召喚サークルに近づいていく。
「それで、誰を召喚するおつもりなのですか?私としては、早めに円卓の奴らを呼んで、禊をさせたいのですが……。」
「うん、私も賛成。というわけで、ケンさんには橋渡しになってもらおうと思ってさ。……それに、もし本当に獅子王が来てくれたらさ。きっと真っ先に、ケンさんに会いたいかなって。」
「……相変わらず、お優しい人ですね。」
柔らかな笑みを浮かべたケンは、次々に現れる円卓の騎士たち一人ひとりに、それぞれ挨拶をしていく。彼らに特異点で何をしたのかの記憶はないが、この後嫌でも向き合うことになるだろう。
「おや、あなたはケン……!なるほど、長く英霊をやっていると、このような幸運もあるのですね。」
「ああ、久しぶりだなトリスタン。また会えて嬉しいよ。」
「ええ、本当に……。『円卓のママ』という異名を持つあなたには、大いにお世話になりましたからね。」
「その名を出すな、マスターが混乱するだろう。」
「ママ……?」
「ええ、マスター。彼にはサー・ギャラハッドやモードレッドの子守りを始め、王城での料理長としての仕事もきっちりとこなし、仮にマントなどがほつれていれば、針仕事までやっていただきましたから。」
「そうは言うがな、ガウェイン。そもそも身内に、育児放棄された子供が二人もいること自体がおかしいだろう。」
「うっ!そ、その件に関しては本当に申し訳ない……。」
「ここにマシュがいなくてよかったね……。」
和気あいあいとした会話をしていた円卓の男たちだったが、次に現れたサーヴァントによって、空気が一変したのを誰もが感じた。
「サーヴァント・セイバーだ。ここに父上はいるか……って、おいおいおい!マジかよ、てめえも呼ばれてんのか、ケン!!」
「久しぶりだな、モードレッド。だが、ここでは控えるように。」
「わかったわかった、まあ大人しくしてりゃいいんだろ?その代わり、毎日会いに来いよな。」
「よし、いい子だ。後で菓子を作ってやろう。」
その様子を見て、安堵のため息をつくガウェインとトリスタン、そしてランスロット。その様子がどうしても気になった立香は、思わず尋ねた。
「え、ど、どういう事?モーさんこんな感じの人だっけ?」
「まあ、その、モードレッドは親の愛に飢えている騎士だったので……ケンの母性がクリティカルヒットしてしまったのです。」
「誰がファザコンだランスてめえ!俺はそもそも、こいつのことなんてなんとも思ってねえっつーの!!」
「ええ……。」
「まあ、あの頃の私も割と子供に飢えていたといいますか……、信長様やお虎さんの子は、すぐに養子に出されるのが普通でしたので。父というのに憧れていたのです。」
「アルトリアと結婚しなかったの?」
「不貞ですから、それはちょっと……。」
「ぐうっ!!さ、刺さる……。」
「ま、オレとしては父上が二人になるなんてややこしいことがなくて安心だがな!」
ひとまず召喚が終わった4人には別室で待機してもらうこととして、立香は次の召喚を行う。現れたのはセイバーのサーヴァントとキャスターのサーヴァントだ。
「セイバー・ベディヴィエール。此れよりは、あなたの剣となりましょう。」
「……キャスター。アグラヴェイン。」
「やった、ベディヴィエール!!よかった、よかったーー!!」
喜びの涙を流しながらベディヴィエールに飛びつく立香。彼に彼女との記憶はないはずだが、戸惑いながらも頭を撫でて宥めてくれた。
「久しぶりだな、アグラヴェイン。まさか、応じてくれるとは思わなかったぞ。」
「……我が王が守護せんとしたブリテンは滅んだ。だが、その後に続く人理をも滅ぼされては、王の行いが本当に無駄だったものになってしまう。それだけは許せないというだけだ。」
「そうか……。まあなんにせよ、これからよろしく頼む。」
ケンは握手をしようと手を差し伸べたが、アグラヴェインはそれを無視して霊体化した。彼の人間嫌いは相変わらずのようだ。
「……ま、そのうち何か作って持って行ってやろう。マスター、これで召喚は全てですか?」
「あっ、ううん!まだ獅子王が呼べてないしね!任せてケンさん、絶対何とかするから!ごめんねベディヴィエール、また後で!」
「はい、お待ちしています。他の騎士たちにも、久々に会いたいですしね。」
再びケンと立香だけになった召喚ルームで、立香は祈るように呪文を告げた。あんなお別れは、あまりにも悲しすぎるから。そんな立香の祈りが届いたのか、それともここまで歯を食いしばって戦ってきた彼女に、ほんの少し運命が微笑んだのか。彼女が求めたサーヴァントが、そこには立っていた。
「あ、あなたは……!」
「―――サーヴァント・ルーラー。アルトリア・ペンドラゴン。お前たちには、獅子王と名乗った方が分かりやすいか。」
「アルトリア……!」
「―――ああ。久しぶりだな、ケン。お前の言う、奇跡というものが起こったようだ。」
万能の人レオナルド・ダ・ヴィンチをもってして、もう会えないと宣告された獅子王。彼女はいかような奇跡によるものか、サーヴァントと化し、ここカルデアに再会を果たした。彼女のことを心から案じてくれた心優しい人と、1500年もの間、想い続けた愛しい人と。
「――ああ。嬉しい、嬉しいよ、アルトリア。でも、その……」
「
―――ただし、
「むっ!今、カルデアに新しい性癖を引っ提げたサーヴァントがやってきた気がします!具体的にはファザコン不良少女と激重系露出多めのパツキン美女!!親子丼の予感すらします!!」
「ええ……。沖田ちゃんいつの間に千里眼ゲットしたの?」
「そんなもんないですよ!これは恋する乙女のパワーです!ということは、ノッブたちも掴んでいるに違いありません!すぐに向かわなければ!!新撰組一番隊隊長、沖田総司!出ます!!」
「んなしょうもねえことに新撰組の看板掲げてんじゃねえぞ。」