牛の歩みより遅いカルデア大宴会編ですが、これが終わったらオリジナル展開のぐだぐだイベをやるつもりです。今のところ影の薄い千代女あたりを活躍させたいですね。
感想・評価・ここすきなどしていただけると励みになります!!
ひとまず沖田を新撰組に引き渡した立香は、別室で待機していた円卓の騎士たちに挨拶をしに行くこととした。もちろん、ケンやアルトリア、獅子王を連れてである。
ケンとしては、何かと騎士王には負い目のあるであろう連中であるため、大丈夫かと心配していた。それに、後ろをウキウキとついてくるマーリンのことも不安要素だ。自分に執着されるのも困るが、他の誰かに迷惑をかけるのもまた困るのだ。そこで、仕方なくこのような手段をとることにした。
「マスター。私とマーリンは、ここで待っているとしましょう。」
「何?どういうことだケン。」
アルトリアは明らかに不満顔だったが、マーリンはそれはもう満面の笑みでケンと腕を組んでいた。それを見て青筋をたてながら、ケンにさらに詰め寄る。
「……何だ、邪魔者を抜きにして女といちゃつこうというのか。見損なったぞ。」
「うふふ、ああ今更言われなくともわかっているともマイ・フェイト!素敵な時間を過ごそうね!」
「わざとこじれるようなことを言わないでくれ。黙っていれば、お前は普通の綺麗で魅力的な女性なのに。」
「ケンさんもそういうこと言わなかったらただのいい人で済んだのにね。」
「……と、とにかく。せっかくの感動の再会に、私はともかくマーリンがいたら混乱するでしょう。英雄が好きなこいつに、騎士たちが目をつけられても良くないですし。」
「もう、本当に心配性だなあ君は!私は君一筋だって言ってるのに!でも私は、そういう独占欲強いところも好きだよ?」
「……もう好きにしてくれ。」
楽しそうなマーリンと対照的に、ケンはすっかりくたびれたサラリーマンのようになってしまった。その姿に、流石のアルトリアも同情したのかケンが同行しないことに同意した。くれぐれも、貞操に気を付けるよう言い残して。三歩歩いて、振り返ってケンの様子を見るのを何度も繰り返したのち、ようやく円卓の騎士たちが控える部屋に入っていった。残されたケンとマーリンは、遅れて部屋に入るためこの近くから離れるわけにもいかず、ひとまずマーリンが足元に生やした花畑の上に座る。実質廊下に座り込んでいるのとなにも変わらないのだが、雰囲気というものがあるのだ。
「うふふ、二人っきりだねケン。思えば、私と君がまともに話をする機会なんて、これが初めてなんじゃないかな?」
「……そうかもしれないな。なにせ、俺はあれで死んだはずだからな。」
「う、ご、ごめんってば。もう勝手に連れてったりしないから。」
「……まあ、でも。お前の前で死んだのは、悪かった。俺の我儘のせいで、見苦しいものを見せたな。」
ケンの脳裏に思い起こされるのは、ブリテンでのマーリンとの記憶だ。あのマーリンは男だったが、ケンに一つの忠告をした。
『このまま、君が生き続けるのならば。君は遠い未来で、最悪の死に方をすることになる。』
ケンはブリテンで斃れてからも、この言葉を胸に抱き続けてきた。天下のためと銘打って、虐殺を続けた残忍で強大な敵に対し、ストレスと恐怖に吐き気をこらえ続けた彼女の、背中をさすってやっている時も。どんなに強大な敵を打倒しても、疎まれ排斥された彼女を、ねぐらで温かい食事と共に迎え入れた時も。自分はいつか最悪な死に方をすると、覚悟しながら生きてきた。
「……そんなことはなかったよ、ケン。」
「何……?」
どういうことだと尋ねる前に、ケンはマーリンの柔らかな胸の中に抱かれる。頭を抱きかかえている両腕の力は、決して振りほどけないようなものではない。だが、ケンはなぜか抵抗する気が起きなかった。彼女の放つ花の素晴らしい香りに惑わされたのかもしれない。そう思いながらも、ただ黙って抱かれていた。
「君の旅は、とても美しいものだった。終わりを迎えてしまったのは悲しいことだけど、君は最後まで生きようとしたじゃないか。」
「……。」
「蝋燭は燃え尽きる瞬間に、最も熱く明るく輝くものだというけれど、君も同じだった。誰も彼もを明るく照らそうとしたから、両端から燃えていき、短い生涯ではあったけれど。その輝きは、その熱は、私の心を掴んで離さなかった。物語が終わったあとの、あの空虚な冷たさを、感じさせないほどにね。」
「両端から燃える蝋燭、か……。」
「まあそのせいで、私以外にも君の火に憑りつかれた女の子がいっぱいいるみたいだけど!」
「……すまん。」
マーリンは力いっぱいケンの頭を締め付けたつもりだったが、筋力Eではまったく痛くないらしい。だが、その気持ちだけは伝わったようだ。ケンは恐縮したような声で謝った。それに満足して、ようやく締め付けを解除してやると、ケンは大人しく胸に抱かれたまま、訝し気にマーリンを見上げた。
「今度はちゃんと、正当な方法で君をアヴァロンに連れて行く。君がカルデアで役目を終えて、退去するその日。死後の君をどうこうできるのは私くらいなわけだし、それくらいならいいだろう?」
「……再び人類の危機が訪れたらどうする。」
「その時は、私も一緒について行ってあげるとも!終わらない物語の始まりさ!」
「……ふふ。本当に、仕方のない奴だ。」
ケンの雰囲気が少しだけ和らいだ。ケンはいつも誰かの傷に寄り添ってきたが、彼の傷に寄り添うことが出来る者はそういない。それこそ、全てを知っているマーリンくらいのものである。ひょっとすると、彼女がカルデアに来たというのは、とても幸運なことなのかもしれない。ケンは、第六特異点での自らの嘆きを、少しだけ反省した。
「ふふ、君は笑顔も素敵だね。もう少しだけ、このままでいてくれるかな?」
「……お前のおかげで心が少し軽くなったからな。仕方ない。」
「やった!それじゃ、ちょっとだけ……。」
そう無邪気に笑うマーリンだったが、一つだけおかしな点があった。よく見なければ気づけないほど微かにだが、口元が動いているのだ。ケンもマーリンの双丘に耳をふさがれているため、その音にはまったく気づかなかった。
「戻ったぞ、ケン。そろそろお前たちも―――!!」
「……あ、アルトリア!?こ、これには事情があって」
「貴様……!!この魔力はなんだ!!」
「え、えと、これはほら、私のお花が」
「こうなったら、千里眼で―――」
一瞬遠い目になったアルトリアは、すぐにその瞳を怒りの炎に滾らせた。そして、その怒りのままにマーリンに掴みかかる。
「マーリン!貴様、魅了の魔術を使うとはどういう了見だ!!」
「そ、それは……」
「……俺の対魔力で、何とかなるレベルなのだろうか。」
「何とかなるわけがないだろう!こいつは魔術師の最高位だぞ!腹立たしいことに!!」
「そうか……。ならマーリン、魔術は今後禁止だ。俺の許可なしに使うな。」
「そ、そんなご無体な!ひどいじゃないかマイ・フェイト!!」
「……どうせ、俺について回る気だろう。何か問題があるのか。」
ケンが流し目を送ると、観念したようにマーリンは両手をあげた。なんやかんや、マーリンもケンに嫌われそうなことはしたくないのだ。
「ちぇー。何が何だかわかってないうちに私にメロメロにさせようと思ったのにー。」
「はあ……。くだらないことやってないで、早いところ禊を済ませるぞ。当然、お前もだマーリン。」
ケンはマーリンの手をとると、円卓の騎士たちがいる部屋に入っていった。アルトリアも、渋々といった様子だったが後に続く。
「あ、ケンさん。大丈夫だった?」
「何を以て大丈夫なのかはわかりませんが、ひとまず綺麗な体ですからご安心を。円卓の方はどうですか?相当ショックを受けていたのでは?」
「うん。特異点での出来事を見てもらったら、やっぱり衝撃だったみたい。皆暗い顔してたけど、アルトリアが喝を入れたら、元気になったみたい。」
「おお、それはよかった。えらいぞアルトリア。」
「ふん、当然だ。今の私はブリテンの王ではなく、円卓の頂点。騎士たちのモチベーション程度、赤子の手をひねるようなもの。」
セリフは凛々しいが、その顔は幸せそうにとろけてふにゃふにゃになっている。ケンがごく自然に、アルトリアの頭を撫でているからだ。立香の訝し気な視線と、マーリンの物欲し気な視線に気づいたケンは、慌てて釈明をする。
「こ、これはですねマスター。習慣といいますか、条件反射といいますか……。」
「ふふふ、ケンはいつもこうして、私の頭を撫でて褒めてくれるのだ。生前は気恥ずかしさから突き放すこともあったが、やはりいいものだな……。」
「ズルいなあ、私にもしておくれよマイ・フェイト!」
「はいはい……。」
両手で別の女性の頭を撫でるという、小学校の先生くらいにしか許されない暴挙に出るケン。まあ、撫でられている方は幸せそうだからいいのかもしれない。
「……そろそろいい?」
「……ああ、満足だ。さあ、それでは禊に行くとしよう。」
どこか不機嫌そうな立香に、アルトリアは勇ましい返事を返す。一行が円卓の部屋に入ると、円卓の騎士たちの間にどよめきが起こる。
「こ、これが……女性のマーリン!!」
「話には聞いていたが、麗しい……。だが何故か、全くお近づきになりたいと思わない!!」
「ええ……。危険な香りのする女性です……。それも、ガチな方の。」
あの女好きで知られる円卓の騎士たちが、指一本動かないマーリン。それでも、当の本人は全く気にしていないらしい。
「いくら何でも失礼だろうお前たち。マーリンは確かにちょっとロクデナシな部分もあるが、いいところだってたくさんあるんだからな。」
「ケン……!やっぱり君は、私の
「はいはい……それより、あっくんはどこに行ったんだ。さっきから姿が見えないが。」
「ああ……。それなら、その、そこに……。」
ベディヴィエールが遠慮がちに指した指の先を見れば、床に四つん這いの姿勢になり、頭を抱えているアグラヴェインがいた。何かをぶつぶつと呟きながら、時折髪をかきむしっている。
「……その、我が王がバニーになっておられることに、あのようにショックを……。特異点での記憶が、色濃く残っておられるようで……。」
「そ、そうか。それは、辛いな……。」
「まあでも、そんなことをしている場合じゃないんだろう?ほらほら、早速禊の内容を教えてあげたまえよマイ・フェイト!」
「ま、まあそうだな。」
咳払いをしたケンは、円卓の騎士たちに告げる。
「では―――告げる!円卓の守護者たちよ!汝らは一度、道を誤った!今再び、正道に戻らんとするならば!!我らが主、藤丸立香の名のもとに誓え!!」
「「「はっ!!我らが剣、我らが勇気、我らが命!!全ては藤丸立香のために!!」」」
「ふふ……。まさか、我が王と共にこれをやる日が来るとは……。私は楽しい……。」
「ああ。やはりこれをやると、身が引き締まるような気がするな。」
「そこ!!まだ終わりではないぞ!!」
ケンは私語をしていた騎士を叱責すると、再び禊に戻る。
「―――然らばその志、行いにて示して見せよ!!」
「「「はっ!!我ら円卓、いかなる苦難も乗り越えん!!」」」
「……よろしい。では、あなたたちにはここに赴いてもらいます!!」
「こ、これは……!!」
円卓の騎士たちが目にしたのは、強風と荒波の中、船の上で網と格闘する屈強な男たち。彼らが必死に引き上げる網には、たくさんの魚がかかっている。黒光りするその魚たちは、いかにも生命力に満ちており、生きるパワーを感じざるを得ない。
「ケン!これは一体……!?」
「ご存じ、マグロ漁船だ。長期間船の上で暮らさなくてはいけない上、日々の仕事も激務と有名だ。」
「こ、これを、我々が……!!」
「女性などいるはずもない環境だ。ちょうどいいなランスロット。」
「ケンさんも乗った方がいいんじゃない?」
「何かマスター当たり強くありませんか!?」
背中から撃たれて想定外のダメージを負ったケンだが、咳ばらいをして続ける。
「今回はこのマグロ漁船に、カルデアのシミュレーションルームを使って向かってもらう。ここでの激務で禊を行いながら、マスターにご馳走するマグロを獲ってきてもらう。」
「な、なるほど……。禊と物資の回収を兼ねているのですね。」
「その通りだ。何か、異論のある者はいるか!!」
「……待て、ケン。貴様、このような場所に我が王を向かわせようと言うのか!!」
「あっくん……。」
「アグラヴェインだ!!どいつもこいつもあっくんなどと……!!」
「ケン。私もあっくんに賛成です。」
手を挙げたのはガウェインだ。聞くところによると、彼が最もショックが大きいとのことだったため、ケンは不思議に思いつつも話を聞く姿勢になった。
「……ほう。その心は何だ、サー・ガウェイン。」
「そのマグロ漁というのは、強い海風の吹く環境と見ました。であるならば、我が王のあのような薄い装甲では、ポロリがあるやもしれません!」
「貴様ーーーッ!!ほんの一ミリでも貴様と血縁関係にあることを恥じる私の気持ちを考えたことがあるのか貴様!!」
「はははそう言うな我が弟。ガレスほど猫かわいがりは出来ないが、お前も求めるのならば私はやぶさかではないのだぞ。」
「殺す!!今すぐ退去させてやる!!」
「―――そこまでだ。跪け、アグラヴェイン。」
目を血走らせながら叫ぶアグラヴェインだったが、アルトリアの凛とした声が響いた瞬間、跪いて命令を待つ姿勢になる。だが、本人の様子を見る限り、どうやら自分の意志ではないようだ。
「フ、これこそ我がスキルの一つ。円卓の騎士に対する絶対命令権だ。お前も円卓の騎士判定ならば、私の手中だったのだがな。」
「……円卓の騎士にならなかったことを、今日ほど嬉しく思ったことはないな。」
「まあいい。円卓の騎士たちよ、聞くがいい。私はかの特異点において、人々を標本にするという暴挙を犯した。だが、カルデアの者たちと何よりそこにいるベディヴィエールの働きにより、再びこうして正義の道に回帰した。これを機に、かつての罪を清算する。共に汗を流し、共に風雨に耐え、共にマグロを分かちあう。それこそ、我らが悪を雪ぐ唯一の手段である。」
真剣な話をしているアルトリア。彼女の装いがバニーでさえなければ、もう少ししまったものになっただろうに。
「……我が剣、我が命は王のために。不肖モードレッド、マグロ漁に出陣する!!」
「モードレッド……!」
感動の瞳でモードレッドを見つめるケン。それを見て不機嫌そうに彼女は顔を逸らすが、喜色が隠しきれていない。
「……ならば、我々も参りましょう。我が王の選択こそ、我らの歩む道筋!」
「然り。マグロがいかな魚といえど、我が音色には逆らえないでしょう。」
次々に参加を表明する騎士たち。ここに、マグロ漁が決定したのだった。
「うんうん、実にいいことだね。いやしかし、彼らの苦悶に歪む顔を間近で見られないのが残念だ。」
「何を言っているんだマーリン。お前も当然参加するんだぞ。」
「……え?」
ホクホク顔で見ていたマーリンの顔が、一瞬にして凍り付く。
「なにせ、俺の魂を無断で持ち出したわけだしな。その辺の禊は、きっちり受けてもらおうか。」
「え、じょ、冗談だよねマイ・フェイト?私、かよわい女の子なんだよ?」
「もちろん、わかっているさ。だからちゃんと、アン・ボニー殿とメアリー・リード殿の船に乗せていただけるようお願いしてある。彼女らはバニー仲間が増えたと喜んでいた。」
「当然、その船に私も乗り込むからな。逃げ出せるとは思わないことだ。」
「……や、やっぱり私、アヴァロンに帰ろっかなーなんて……。」
「行くな、マーリン。寂しくなるだろう?」
「そ、そんな雌殺しフェイスで言ってきたって嫌なものは――あ、ちょっと。掴まないでくれアルトリア。そ、そんな、無言で私を引き摺るのはやめてくれないか!?」
「覚悟を決めろ、マーリン。お前の大好きな、終わらない
「や、ヤダーーーーーーーーーーー!!!」
泣いても喚いても、ボーパルバニーは止まらない。あっという間に一行はシミュレーションルームへと消えていき、立香とケンだけが残った。
「……ふぅ。まあ所詮、二日と少しの間ですが、いい薬になるでしょう。それではマスター、私もこれにて失礼します。まだまだ、やるべきことは残っていますので。」
「あ、う、うん。頑張ってね……。」
マーリンを送り出し、心なしか軽い足取りで厨房へと向かうケン。まだまだビシビシしごかなくてはならないことがたくさんあると思いながら。
―――しかし彼は、忘れていたのだ。ここは英雄の坩堝カルデア。世界中の、時代を問わない英雄たちが集う場所。そうなれば、当然、このような女性も混じるのだという事を。
「―――ッ!!」
突如飛来する紅の槍。ケンは咄嗟の居合斬りで槍を両断しようとするが、あまりの破壊力に半分ほど断ったところで腕が止められてしまった。
「何者だ!!姿を見せろ!!」
威勢よく声を張り上げつつも、背中には冷や汗が流れる。刀は二股に分かれた槍に挟まれた状態のため、次の動きはどうしても遅れてしまう。すぐにもう片方の手を使って取り外したいところだが、その隙に襲われる可能性もある。スキルを使って腰に佩いた木刀を強化してもいいが、それで勝てるかは未知数だ。
「―――見つけた。ついに、ついに見つけたぞ。」
突如響き渡る凛とした声。ケンは一瞬、自分に因縁のある人物だろうかと記憶を探ったが、聞いたことのない声だ。では一体誰が?そうケンが思ったその時、一人の女性が姿を現した。
「―――ッ!あなたが、この槍を……?」
「……そうだ。儂の名はスカサハ。ケルトの死の国の女王である。」
その女性は、緋色の目を称えた紫色の長髪をしていた。よく見ると面頬をしており、忍者のようにも見える。だが、両手に携えた朱色の二槍は、忍者が持つにしては過ぎた得物だろう。
「スカサハ……確か、マスターに見せていただいたサーヴァントのリストの中に名前があったはず。これは一体どういうことか!!カルデアに対する裏切りと考えてよろしいか!!」
ケンは警戒を緩めることなく、慎重に問い質した。返答次第では、今すぐに殺し合いになるかもしれないと思いながら。
「……否。儂の目的は今、達せられた。我が呪いの朱槍を、お前が乗り越えたことによって。」
「何……?」
ケンが訝し気に呟いた、次の瞬間。
「なッ!?消えた……!?」
まばたきの一瞬のうちに、スカサハが姿を消したのだ。ケンは一瞬困惑したが、すぐに警戒態勢に入る。自分が相手ならどうするか……否、自分が知る、最も強い奴ならどうするか。頭の中で思考した結果、一つの行動に行きついた。
「――沖田なら、後ろから!!」
「……惜しい。儂は沖田ではない。」
「―――ッ!」
振り向こうとしたケンの、目の前にスカサハが現れる。もはやこれまでと思いつつも、最後の抵抗を試みる。ほんの少しのダメージにでもなればと拳を繰り出すが、あっさりと躱されてしまう。それどころかタックルで組み付かれ、地面に押し倒されてしまう。
押し倒され、両手両足を固定されてなお、ケンは抵抗を諦めなかった。自分の手首を掴む手を何とか振りほどこうとするが、まるでビクともしない。必死に抗うケンだったが、次の行動は流石に読めなかった。
「―――――――。」
なんと、口づけをされたのだ。執拗に舌を絡めてくるその口づけに、ケンはなにか毒でも盛られているのではないかと思い舌を逃がそうとするが、蛇のように絡みついて離れない。
そしてそのまま、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。いや、それほど長い時間なはずはないだが、ケンにはとても長い時間に感じられた。
「ふー、それじゃ私もトレーニングでも……って、ケ、ケンさん!?それに師匠!?なにやってるのこんなところで!!」
「む、立香か。」
「ッ、マスター!!来てはいけません!!こいつは、俺が始末を……!!」
「ああ、いいぞ!その視線、その殺意だ!儂をこんなにも滾らせる!!」
「と、とりあえず離れて二人とも!!話聞かないとだから!!」
立香の言葉にようやくケンの上からどいたスカサハ。ケンはすぐに立ち上がり、いつでも刀を抜ける姿勢で警戒を怠らない。
「マスター、油断してはいけません!!彼女はいきなり槍を投擲してきた上、私に襲い掛かってきました!!」
「槍を投擲って……え、ケンさんなんで生きてるの!?」
「え、し、死んだ方がよかったですか……?」
「そういうことじゃなくてね!?」
「そうだ!そこの男は、我がゲイ・ボルクの呪いを切り裂いた!故に立香、儂は決めたぞ!この男を、儂の婿にする!!」
スカサハの衝撃の告白に、凍り付く二名。カルデア大宴会(仮称)の準備はまったく進んでいないのに、問題ばかりが増えていく。ケンは、自分の身には本当に何か別の呪いでもかけられているのではないかと、自分が送り出したトラブルメーカーの顔を、もう懐かしく思い始めたのだった。
「はぁ~~~~~~~~………………(クソでかため息)」
「おや、どうされましたキャプテン!どこか具合でも?」
「ちっげえし!拙者はさあ!キャワイイおにゃのことドゥフフなマグロ漁って聞いてたのにさあ!!何でこんなむさくるしい野郎どもと一つ青い屋根の下で、暮らさなきゃいけないわけえ!?ガン萎えでござるが!!」
「申し訳ありません黒髭殿。ですが、我々は王のため、そして立香のため、必ず最高のマグロを獲ると誓ったのです!どうか、お力添えをお願いします!!」
「うっ……。はぁ~~~~~。ま、立香殿のためとあらばいたしかたないですなあ。オウ野郎ども!!使えねえ奴は即刻海にぶち込んで魚の餌にしてやるから、気合入れて働けや!!!」
「アイ・アイ・キャプテン!!」