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「え、えーとですね……そ、それでは何をおつくりになりたいのですか……?」
「うーむそうじゃなあ……浮気者の活け造りとかならすぐに出来そうなんじゃがなあ。こう、切れ味のいい刃物で小間切れにするだけじゃし。」
「……そ、それを作る場合、自分ではらわた抜きますから……。も、もっとこう、私が教え甲斐がありそうなものとか……。」
「そうですねえ、ならたった一人で全身にキスマークを付ける手品の種とか教えてくれませんかねえ?今度沖田さんも皆さんの前で披露したいなーって。」
「……な、なんか想像したら気分悪くなったからやめてくれ。綺麗なままでいてくれ。」
「んっ……!!ま、まだです。私はちょっと、独占欲出されたくらいで陥落しませんからね。」
威勢のいいことを言ってはいるが、頬は紅潮、口の端は歪んでいると、誰が見てもにやけ面が分かるほど嬉しそうにしている沖田。信長はそれを氷のような目で見たが、自分はそうはいかんとでも言いたげにケンに向き直る。
「まあワシの話をする前に……特別なゲストを呼んでおる。そやつに入ってきてもらうとするか。」
「特別な……ゲスト……?」
訝しむケンとは対照的に、信長は真剣な面持ちでそのゲストの名を告げる。
「そう!日ノ本一の鬼殺しにして、雷霆操るインドラの化身!源頼光じゃ!」
華々しいキャッチコピーと共に、平安の都の守護者にして、最高の武者。源頼光がその堂々たる姿を現す……はずだった。
「うああーーーっ!と、溶ける!とろける!!り、理性が……!!」
「ああ、いけません!いけません!!このような、このような愛らしい
―――現れたのは、長く美しい黒髪を腰まで垂らした、見目麗しい女武者の頼光と、何故か彼女に抱えられながら頭を撫でられ、とろけた顔をしながら喚いている今川義元だ。その様はまるで……そう、実際に見たことはないが、かつて中国を滅ぼしかけた、阿片を吸った者のような……。
「あ~……忘れとった。そういやあいつ、清和源氏じゃったな。義元はある意味、頼光の子孫でもあるわけか……。」
「の、信長様。彼女は一体……?」
「こ奴は源頼光。大江山の酒吞童子やら、京の大蜘蛛やら、妖怪化生をぶった切りまくった武者よ。じゃがこ奴は、内なる母性を抑えきれぬという性を抱えておる。」
「ああ、なるほど。義元殿は清和源氏で、源氏の血を引いているから……。」
合点がいったと深く頷くケンだったが、義元の方はそうもいかない。彼女……いや彼にとっては、生きるか死ぬかの瀬戸際であるのだから。
「ばっ……馬鹿たれこの!!貴様余のマスターだというのになんじゃその投げやりな態度は!!ヘルプミーマイマスター!!」
「まあ、まあまあまあ!いけませんよ芳菊丸。馬鹿たれなんて乱暴な言葉を使っては!母はあなたをそんな不良に育てた覚えはありませんよ?」
「あるわけないだろ育てられてないんだから!!」
騒ぐ義元をひとまず脇に置き、ケンは信長に改めて尋ねる。
「それで信長様。いったい彼女を、何故ここにお呼びしたのですか?」
「ククク、それを話すのにここはよい場所とは言えぬなあ?場所を移す故、ついてまいれ!」
突拍子のない信長のセリフだったが、いつもの事なので大人しく従うことにした。
「えちょ、嘘!?嘘だよねマイマスター!?余まさかの放置!?」
「大丈夫、大丈夫ですよ芳菊丸!母がきちんと、立派な侍に育ててあげますからね!」
「や、やめろぉ!!頭の中身が、かき、かき混ぜられられ……!!」
……ただの母性では説明のつかないナニカから、目を反らしながら。
――――――――――――
「……な、なんか狭くないですか?窓もない場所で……。」
その言葉通り、ケンたちが連れてこられたの部屋はなぜか窓もなくドアも一つだけ、照明も小さな明かりだけで薄暗く、6人が集まって料理をするには少し手狭に感じられた。
「いえいえ、こういう手狭なのが風情があっていいんじゃないですか。それにほら、囲炉裏ですよ囲炉裏!ケンさん懐かしいでしょう?」
「それはそうだが……。」
沖田の言葉通り、部屋の中心には囲炉裏があり、木ぶたのされた鍋まである。ひょっとして、料理はもう終わっているのかもしれない。
「いいからいいから、こちらへどうぞ。ほらケン、何なら私の膝でもいいんですよ?」
「わ、わかりました……。」
誘われるままに用意された座布団に座るケン。これから何が起こるのかはまったくの未知数だったが、ひとまずは言われた通りにするのがいいだろう。
「さて、それではワシの話であるが……ケン、お主はよくやっておる。」
「……え?」
どんな叱責が来るかと身構えていたケンにとって、このセリフは予想外だった。拍子抜けしていると、それを見越したように信長が笑う。
「うはは、きょとんとした顔も愛いではないか。だが、そう意外なことでもあるまいよ。お主が立香をねぎらうため、色々と動いているのは知っておったからのう。」
「その心意気、誠にあっぱれ!で、あるが……お主とて功労者の一人であることには変わりなかろう。」
「……!」
ケンの肩にポンと手を置き、信長は滔々と続ける。
「ワシらはな、それがどうにも面白くなかった。お主は常に働き通しで、報われることがない。戦働きを終えたかと思えば、次はすぐに戦勝祝いの準備とはのう。勤勉は美点じゃが、時には休むこともせねばならん。」
「まあつまりは、『いつもありがとう!』って気持ちを伝えたくて、こうして皆で準備したんですよ!」
「うむ。お主の料理には、いささか劣るであろうが……。」
「それでも一生懸命作ったので、どうか食べてくれませんか?」
ケンを囲む、少女たちの笑顔。今度は間違いなく、喜びや感謝が伝わるものであった。それを受けて、ケンは涙をこらえながら言った。
「……劣る、などと……。私は、私は今まで、これほど嬉しく思った食事はありません。……是非に、いただきたい。」
「うむ!それでは火を入れるぞ!」
信長の宣言とともに囲炉裏に火がつけられ、しばらくすれば鍋がぐつぐつと煮える音を立てながら、木ぶたを持ち上げかたかたと鳴る。ケンは一切手出しすることなく、信長や沖田が灰汁をすくったり汁が飛び跳ねるのに注意したりして、鍋を完成させる様子を見ていた。
「お?お?これ煮えたんじゃね?そろそろいけんじゃね?」
「そうですね、これなら……。」
「ってちょっと。ケンさんはただ、待ってるだけでいいんですよ。」
「……ふふ、すみません。」
幸せ。そう、幸せだ。宴会の本番前に、こんなに幸せなことがあっていいのだろうかと思うほど、嬉しい。
「……よし、これなら大丈夫でござる。」
「主殿、完成です。さっそく食べましょう。段蔵は食えませぬが。」
「……ああ。いただきます。」
たっぷりの白菜と人参、えのきにしらたき、水菜としいたけ、そして肉。とてもオーソドックスな寄せ鍋だが、ケンにとってはどんな高級料理よりも価値のある品だ。独特のにおいがするが、決して不快なものではない。一口一口、噛みしめるように味わっていると、六人で食べているからかすぐに空になってしまった。
「安心せい、もう一つあるぞ!」
「おお……!素晴らしいですね!」
狭い部屋で鍋を煮ているため、皆自然と汗をかいてしまうが、そんなことを気にする者は誰もいない。再び鍋を煮ている時、異変が起こった。
(あ、あれ……。なんか、おかしいな……。)
ケンはごしごしと目をこする。鍋を挟んで向かいに座る、沖田が妙に色っぽく見えたからだ。ケンは沖田のことを綺麗な女性だとは思っていたが、彼女を大切に思うのは見た目が理由ではない。最後まで戦い続けた彼女の生き様を美しいと思っていたはずだ。
だというのに、なぜかしっかりと筋肉がついているはずなのにそれを感じさせない真っ白でむっちりとした太ももや、毛の一本汚れの一つない腋に目が行ってしまう。
「……どうしました、ケンさん?」
「い、いいや。何でもないんだ。」
(な、なんだこの気持ちは。俺が沖田に対して、こんなことを思うはずが……。)
「どうした、ケン……?」
「の、信長様……。」
パァン、パァン!
「えっ……?」
「おっとぉ……ボタンがはじけ飛んでしまった……。」
「な、何故わざわざお胸を……?」
なぜかいきなりスキル『魔王』を使い豊胸、自分の着ている軍服のボタンが耐えきれなくなってはじけ飛んだ。
「いやなに、少し暑くなってのう。はぁ~~暑い暑い……。」
わざとらしく顔の辺りを手で仰ぐ信長。体の動きに合わせてふよんふよんと揺れるそれに、目が釘付けになる。
(い、いやおかしい!絶対におかしい!)
ケンは確かに、信長を抱いたことがあるし、抱かれたことも何度もある。信長はケン以外の男を知らないので、実質的にケンは信長の夫と言えるだろう。だが、ケンは信長をそういう目で見ることは自制していたはずなのだ。
理由は単純、やりすぎるから。信長は心を通わせるその行為がとても好きで、少しでも嬉しいことがあればケンを求め、少しでも気に障ることがあればケンを求めた。その結果が実子20人である。共に戦国の三傑と言われた秀吉の実子が4人、家康が16人であるため、ダントツで多い。そして何より、信長は女性である。つまり……これ以上は野暮であろう。
(た、確かにお会いするのは幾度の人生を超えた後だ……だが、だからといってすぐにサカるほど、俺は意志の弱い人間ではなかった!はずだ!)
ケンの悶々とした思いを知ってか知らずか、信長が蠱惑的な笑みを浮かべる。よく見れば、彼女も暑さを感じているのかうっすらと汗が浮いている。その湿った肌を小さな明かりが照らして、まるで陶器のように照り輝いている。
「ふ、ふふふ……。ど、どうしたケン。もう限界か?」
「の、信長様……。」
「―――いいぞ。ワシは、いつでも……。」
言いながら、軍服の下のインナーの首元をちらりと下げる。白く、美しい肌が見えて、ケンは花の匂いに誘われた虫のようにふらふらと近づいていき――――
「う、うぅ……。あ、頭がクラクラします……。」
「ッ!景虎様!!」
「……ちっ。」
突然頭を抑えた景虎を見て、すぐにケンの意識は引き戻された。景虎の健康にはいつも気を配っていたが、いつ斃れるかわからない。そう思いながら彼女と過ごしてきたケンは、どうしても敏感に反応してしまうのだ。
「ケン……。一つ、お願いがあります。」
「は、はい!何でもおっしゃってください!」
「……胸元を、緩めてもらえませんか?締め付けられて、苦しいのです……。」
「胸元を……緩める……?」
ケンが困惑するのも無理はない。なにせ今の景虎の胸元は、別にネクタイや鎧などで締め付けられているわけではないからだ。強いて言うなら、ぴっちりとしたインナーのようになっているため、それが締め付けの原因なのだろうか?
「そうです。こうやって……」
「!! い、いけません!!」
言いながら景虎は端に指をかけると、少しずつ中心に向かってずらしていく。そうすると、当然、まろび出そうに……
「ああ、これ以上はきついですね……。力が、入りません。……ケン、お願いします。……脱がせて、もらえませんか?」
「そ、そんな、ことは……!」
誤解のないよう言っておくが、ケンは景虎も何度も抱いている。というより、抱かれている。むしろ、襲われている。景虎も信長に負けず劣らず、そういう行為が大好きであった。これは決して好色という意味ではなく、行為を通して心が通じ合う感覚が大好きだったのである。その上、信長と違ってケンと会える期間は決まっている。必然、頻度や激しさは多くなる。
その上、彼女の戦好きが悪い方向に働いてしまった。戦いとは、突き詰めれば相手を蹂躙することに行きつく。無論、景虎は戦うことそのものを好んでいたのだが、それは戦いの中にコミュニケーションを見出したからだ。攻めと守りの応酬、一瞬の駆け引き。そういったものに景虎は対話を見出していたのかもしれない。
結果として、景虎は激しく自分から責めることを好むようになった。ケタ外れの体力と天性のセンスであっという間にケンを上回るようになり、いつもケンは腰砕けにされていた。
だが、今はどうだ?自分を圧倒的に上回っていた相手が、自分の前でしおらしい姿をしている。これで昂らない男などいようはずもない。
「さあ、早く……。これはあくまで、医療行為ですからね。やましいことなんて、何もないんですから……。」
(……そうだ。これはただ単に、苦しんでいるお虎さんを助けるための行為だ。何も、やましいことなんてない。)
そう思いながらケンはインナーの端と景虎の肌との間に指を滑り込ませる。
「んっ……。」
くすぐったいのか、ぴくりと肌を跳ねさせて小さく声を漏らす。その声がなんというかとてもカワイくて、ケンの体の熱が更に増してしまう。その下にあるものなんて、もはや見慣れてしまっているはずだというのに。だというのに、ケンの渇望は留まるところを知らない。もはや、周りの他の女性なんてまったく気にもならなかった。
「う、嘘ですよねケンさん……?」
「ええい、早く誰かなんとかせんか!!」
どこか遠いところで、何かの声が聞こえるような気がする。だが、そんなことどうでもいいだろう。ただ単に、目の前の女性を助けなければ……
カタン!カラカラカラ……
「……おおっと。まさか、鍋蓋が跳ねるとは。しっかり見ておかなくてはならんでござるな。」
「そうですね。主殿、少し見ていただけませんか?景虎殿は拙者が。」
「あ、ああ……。そ、そうだな。料理人だものな。ではお虎さんを頼むぞ。」
そう言いながらケンは段蔵と位置を交代し、鍋をのぞき込む。やはり独特のにおいはあるものの、鍋の様子はいい感じだ。だが、ケンは料理に集中する故に二つの事に気づかなかった。
一つは、背中の後ろでは女の戦いが行われているということ。横たわる景虎の傍にやってきた段蔵に、景虎は冷たい視線を送る。とてもではないが、自分を看護してくれる相手に向けるものではない。
「……ちっ。やりますね。」
「ありがたきお言葉。ですが、勝負はここからにて。」
もう一つは、自分たちを見つめる視線が存在するということ。この部屋もカルデアにある以上、監視カメラが存在する。だが、今日この日に限っては、カメラは単なるモニタールームに接続されてはいなかった。ではどこに?
「……今のプレイ、どう見るんだい解説のメイヴちゃん?」
「そうね、ほとんど勝負は景虎で決まりかけていたけど……忍が糸を使って鍋蓋をずらすことで、ケンの意識を逸らすことに成功したわ。景虎にとっては掴みかけた勝利が手からするりと抜けた感覚、これは悔しいでしょうね。」
「なるほどー。しかし、あくまで彼女たちは相手の勝ちを阻止しただけで、まったく勝利には近づいていないと思うのだけれど?」
「甘いわね。忍の二人は、この戦いにおいて最も難しい防御をマイナスなしに成し遂げたのよ。これは称賛に値するわ。」
「というと?」
「ぶっちゃけてしまえば、ケンを止めることなんて暴力に訴えるなり、権力を振りかざすなり、いくらでもやりようはあるわ。でもそれをしてしまえば、『病人の看護を邪魔してまでも我儘を言う』というとんでもないマイナスイメージが付きまとう。我儘な女になびく男はいないでしょう?」
「つまり、攻撃は最大の防御という事だね?何も妨害を受けなければ、そのまま攻め切ることが出来るし、逆に妨害を受けて阻止されてしまっても、相手を蹴落とすことが出来ると……。」
「そう。それをわかっているから、総司と信長は動けなかったわけよね。でも忍の二人はマイナスイメージを受けることなく、自然な流れで妨害を成し遂げた。素晴らしい仕込みと言わざるを得ないわ。そして上手いのが、ナチュラルにケンを鍋に誘導したことよ。」
「鍋……あーっなるほど!つまり彼に、更に濃厚な匂いをかがせることが出来たというわけだね!」
「イエス!あの、ラッコ鍋の匂いをね!ここから恐らく、勝負は加速するわよ!瞬き厳禁、しっかり見届けなさい!!」
「さらなる盛り上がりが予想される『絶対に風紀を乱してはいけないラッコ鍋』!実況席もまだまだ盛り上がっていこーう!!」
―――実況席である。
――――――――――――――――
そもそもこの催し……『絶対に風紀を乱してはいけないラッコ鍋』は、信長の発案で始まった。きっかけは、本当に些細なものだった。
『マンネリ防止』。この一言に尽きる。ケンが忙しく働いている間、信長はいろいろな雑誌を読んで、夫婦円満の秘訣を学んでいた。その結果、『夜の行為がマンネリ気味だと上手くいかない』という金科玉条を学んでしまったのだ。
「うーむ、なるほどのう……。ワシは満足しとるが、いつもワシの方が先に潰されるからのう。ひょっとしたらケンの奴は満足しておらんのかもしれぬ。」
「というか、そうじゃなくても何度も同じことばかりでは飽きるやもなあ……。」
その時、信長の頭に電流走る。最近沖田に勧められて読んだ漫画と、マンネリ防止。その二つが悪魔合体を起こしてしまったのだ。
「これじゃ! ……じゃが、一人ではつまらんな。奴らも巻き込むか……。」
ぶつぶつと呟きながら、信長はルールを設定していく。頭の中によぎるのは、『狂気の沙汰ほど面白い……!』という台詞。やはり、人生にはスリルが必要だ。
「―――というわけで、集まってもらったわけじゃが。」
「まーた変な事考えたんですかノッブ。ケンさんは大宴会のために真面目に働いているというのに、ぐだぐだしてばっかりで……」
「まあ聞け。上手くやれば、修羅場なくかつ問答無用でケンとまぐわえる。」
「「「詳しく聞きましょう。」」」
「……せ、拙者は、別に興味ないでござる。」
「とかなんとか言いながら、しっかり聞き耳たてとるのは忍の性というものか……。うはは、愛い奴よのう。」
そして信長が話したのは、狂気的とも思えるチキンレース。『絶対に風紀を乱してはいけないラッコ鍋』だったのである。
「小太郎、あなたの力を貸してくれませんか?」
「母上……!はい、僕の力の及ぶことであれば、いかようにも!」
「ありがとうございます。ではこの後、おそらくあなたに信長から依頼がくるでしょう。それを受けるのです。」
「織田公から……?それはいかような?」
「風声鶴唳を使えというものです。ですが、そこに私の頼みもそこにあります。心なさい、風魔小太郎。今こそ、親子の力を見せるときだと!」
「親子の、力……!!はっ!微力の限りを尽くします!!」