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胸を完全に白日の下に晒すという、頼光がいなかったとしても危険すぎる暴挙に出た段蔵。ケンは顔を真っ赤にして顔を手で覆い、他の女性陣もあっけにとられていた。
「な、な、何をやってるんだ段蔵!!そんな、お前、ふ、服を!!」
「なかなか可愛らしい反応をしますね主殿……。段蔵も昂ってしまいます。」
ケンのおかげで取り戻した心を存分に噛みしめる段蔵は、頬を紅潮させながらケンにぐいぐいと迫る。判断力の低下した頭で必死に拒むケンだったが、このままでは時間の問題だろう。
「ちょ、ちょっと待てい段蔵!いくら何でもお主、その恰好はまずいじゃろ!」
「お言葉ですが信長公。それを決めるのは風紀委員の頼光殿のはず。あのお方が何もおっしゃらないということは、ワタシの行為は正当なものなのでは?」
「ぬ、ぬうう……。生乳放り出しとるクセに……!!」
歯ぎしりをして悔しがる信長だったが、その挙動は不審で、段蔵を直視することすら出来ない。もしあられもない裸体を見てしまえば、いくら同性相手といえども抗えないだろうという確信があったからだ。
「だ、ダメですよノッブ……!仮に目を開いてしまえば、沖田さんたちは歯止めが効かなくなる……!もしそうなれば、マジに丑王招雷くらいますよ!!」
「おのれ……!一体、どんなカラクリを……!!」
暗転した視界の中、必死に頼光が動かない理由を探る信長。だがその答えは、目を開かなくては決して見つけられない。その証拠に、実況席ではあっという間に看破されたのだから。
――――――――――――
『こ、これが……!』
『頼光が、動かなかった理由……!!』
『ねえこれ余見ない方がいい奴だと思って目閉じてるけどどうなってんの?なんでこの気狂……マ、ママは動かないわけ?』
息を呑む女性陣に、頑なに目を瞑った義元が尋ねる。だが返ってきた答えは、あまりにも単純で、あまりにもくだらないものだった。
『だ……だってよ……!義元……!!』
『乳首が!!!』
どん!!
『……は?』
―――その通りです。段蔵の体に、乳首はありませぬ。この胸部装甲は房中術のため、柔らかい素材を使ってはあります。しかし、ワタシの存在意義は風魔の忍術の保存。文字通り、生き字引でしかありません。故に子を産み、育てる機能など不要。そう断じられ、子を孕むための子宮も、乳を飲ませるための乳首も、ワタシには存在しないのです。
……それでもワタシは、それでいいと思っていました。いえ、それが当然だと思っていたのです。ただ単に、後進の忍に情報を伝えられる端末であればいい。子を産み、育てるなどワタシには
その考えは後に、あなたによって覆されたのです。
―――主殿。ワタシが初めて、愛した御方。このような余興の場というのが不満ではありますが、手段は選びません。なにせ段蔵は、女で忍ですので。
『おーっと、つるんてんの胸部の衝撃冷めやらぬまま、段蔵君が耳元に近づいていく!』
『あれはささやき戦術ね!早くマイクを近づけなさい!』
「―――主殿。もういいではありませんか。」
「な、何を……!」
「もう十分、我慢したでしょう?それに段蔵の方も、昂りすぎてもはや苦しいほどなのです。どうか、お慰みをいただけませんか?」
「い、意味を分かって言ってるのか?」
「ワタシは生娘ではありませぬ。というより、モテモテでした。それこそ、男の忍も女性を篭絡せねばならないときがありますから。そのための口説き方や房中術は、無論ワタシが練習台でしたから。」
「……!」
『こ、これはー!!他の男の存在を示唆している!』
『女の嫉妬は醜いというけれど、男だって嫉妬深い生き物よ!やりすぎてしまえば愛想をつかされるけど、適量ならば効果覿面の諸刃の剣!!』
「いいんですか主殿。ワタシを取られてしまいますよ。」
「……。」
「それとも、大勢いる女性のうちのひとりくらい、別の男に差し出してもいいと?」
「ッ!そんなわけないだろ!!」
「それでこそ主様。リアルにハーレムを顕現させた男です。」
「く……ただでさえ頭がクラクラするのに、これ以上悩み事を増やさないでくれ……。」
頭を抑えて呻くケン。それを見て、今まで静観しっぱなしだった彼女たちが動き出す。
「!!大丈夫ですかケンさん!!」
「横になるんじゃ、今すぐに!!」
「景虎のここ、空いてますよ!!」
『ここぞとばかりに妨害に行く三人!必死過ぎてちょっと笑えてきたね!』
『ひどい実況を見た。』
『でも見なさいあのとろんとした顔を!これは勝負が決まりそうよ!』
3人に介抱されるケンだったが、寝かされる前に手で制した。
「そ、その前に段蔵、これを……。」
そう言いながら、ケンは自分の羽織を脱いで段蔵に渡す。それを受け取った段蔵が反射的にうなじのあたりに顔を埋めたのはひとまず無視をして、ケンは羽織の下着……襦袢姿のまま、なんとか話をする。
「俺は、お前のことが大事だから……。せめて、お前も同じくらいには……俺と同じくらいには、お前を大事にしてくれ。」
「……。」
全員が静まりかえったのはケンの言葉に感動したからではない。ケンの体に目を奪われていたからだ。ラッコ肉の香りを逃がさないように狭く密閉された部屋の中で鍋を食べていたため、体は汗で濡れ、しっとりとしている。
(こ、この侍……スケベすぎる!!)
じっとりとした視線を向ける沖田は、ケンが見ていないのをいいことに、襦袢の襟からちらちらと覗く鎖骨を舐めまわすように見ていた。もし頼光がいなければ、恥も外聞もなくむしゃぶりついていただろう。
「ど、どうじゃケン、胸元を開けて楽にした方がよいのではないか?べ、別に、ワシが脱がしたいから言ってるわけじゃないんじゃからね!!」
「ノッブ!?」
首がちぎれるのではないかと思うほどの速度でノッブの方に振り向く沖田。こいつは何を考えているんだ、それで手を出してボコボコにされるのは私たちの方なのに……!!
「そう、ですね。暑くなってきましたから、少し失礼します。」
「……え?ま、マジ?」
「あなたがおっしゃったんじゃないですか。ふー、やれやれ……。」
言いながら襦袢の帯を解こうとするケンだったが、力が入らないからか上手くいかない。
「……ええい、面倒だ。」
帯を解くのは諦め、両方の襟を掴んで無理矢理横に開くことで脱ごうとするケン。ぐいっと両腕を開けば、鍛え上げられた胸筋も、鋼のような腹筋も、おしげもなく晒される。それを固唾を飲んで見守っていた女性陣たちは、まるでいけないことをしているような気分になり、さらに興奮を掻き立てられた。
「……ふう、だいぶ楽になりました。もっと早くこうすればよかった。」
「そ、そんなことされたらワシらの心臓持たないから。マジもんの謀反になっちゃうから。」
「そ、そんなに見苦しい体でしょうか。全盛期のものだから、かなりいい体をしてると思うのですが……。どうでしょうか、お虎さん?」
「へっ!?わ、私ですか!?」
「信長様は何故だか、お嫌いのようですので。あの頃より、ほら力こぶだってこんなに。」
言いながら右腕にぐっと力が込もり、ケンの上腕二頭筋が隆起する。その山の谷間を、つうと一滴の汗が流れる。それが彼女たちが覚えている、最後の記憶となった。
『あっ……千代女君以外、全員ケン君に襲い掛かっちゃった……。』
『いやあの人斬り、周りをうろちょろしとるだけだが。』
『ああもう、そんなんじゃだめよ!見なさいあの3人を!ほとんど仕留めた獲物を食べる肉食獣の群れじゃない!』
明らかに強姦としか思えない現場を見て、この人が動かないはずがない。
『丑王招雷―――』
「「「あっ―――。」」」
「天網恢恢!!」
――視界一面に映る紫の雷は、まるで夜桜のように。目を奪われた一瞬の後、信長たち4人の意識は、あっという間に刈り取られた。
「ふぅ……。御禁制です。ええ、御禁制ですとも!そこのあなた、けがはありませんか?」
「……。」
「おや、お眠りになっておられるご様子……。そこの忍の方、彼を医務室まで連れて行っていただけませんか?」
「しょ、承知!危ないところだったでござる……。」
「何か、おっしゃいましたか?」
「い、いえ!それでは失礼するでござる!!」
あっという間にケンを抱え、すぐに退散した千代女。部屋に残されたのはぐつぐつと煮立つ鍋、源頼光、そして4人分の天井に開いた穴。
「まったく、このように散らかしてしまって……。それに、お鍋もほったらかしではありませんか。仕方ありません、母が持って行っておくこととしましょう。」
――――――――――――――
『えー、それではあまりにもあっさりとした幕切れになってしまった“絶対に風紀を乱してはいけないラッコ鍋”!解説のメイヴちゃんさん、いかがだったかな?』
『まあ、そこそこは楽しめたわね。でもこれ、もう少しブラッシュアップできたんじゃないの?』
『ワードセンスがね……。私は万能の人とはいえ、もっとこう、淫靡な表現が出来るように勉強しておかなくては!』
『そうね!もっとぐっちょぐちょのどっろどろのR17.8くらいまでイケるようになっておきなさい!』
『それでは義元君にも聞いてみよう!どうだったかな?』
『信長が吹っ飛ばされた最後が気持ちよかった。』
『ありがとう!それではこれにて実況はおしまい!また次の機会があることを~~?』
『『待てしか!!』』
『……え、何その挨拶。余知らぬのだが。』
『待て、しかして希望せよの略だよ。今カルデアで最もホットな別れの挨拶なのさ。』
――――――――――――――――――
しばらくした後。ケンは、知らない天井で目を覚ました。自分はベッドで横になっているようだが、何故か四肢が固定されている。
「く、こ、ここは……?」
自分はカルデアにいたはずだが、ひょっとしたら何者かの手に落ちたのかもしれない。さっきから妙に頭もクラクラするし、判断力が鈍っている感覚がある。急ぎ、この拘束から抜け出さなくては。
「くっ!この……!」
体をバウンドさせてみたり、腕に力を込めてみたりするが、上手く力が入らない。このクラクラも同じ原因なのかもしれない。何かしらの、毒をかがされたり……。
「ケ、ケンさん落ち着いて!私だよ、立香だよ!わかる!?」
「ッ!マスター?」
立香がベッドの上で暴れるケンの顔を覗き込み、宥めてくれた。その慌てた顔から見て、ナイチンゲールが現れることを危惧していたのだろう。
「も、申し訳ありませんマスター。ナイチンゲール女史には、私を売っていただければ……。」
「そうじゃなくて!ケンさん、急に倒れたって聞いたから。心配したんだよこれでも。」
「……申し訳ありません。」
ケンはつい、情けないと思ってしまった。マスターに最高のお祝いをするはずが、こうして心配までかけてしまうなどと。
「そ、それよりさ。羽織どこやっちゃったの?薄い襦袢ってやつしか着てないけど……。」
「ええっと……、そういえば、段蔵に譲ってやったような……。」
ぶつぶつと呟きながら、少し前のことを思い出そうとするケン。しかし、頭の中にピンク色のもやがかかったように思い出せない。
「ううん……ダメです。やはり、上手く思い出せません。何か、こう、獣のようななにかが……?」
「ああ……そっか。」
すべてに納得したように頷く立香。彼女はどうやら、訳知りのようだ。
「マスター、ひょっとして私に何があったかご存じなのですか?」
「え!?え、ええっと……その、知ってるっちゃ知ってるって言うか……。」
「――どうか、教えていただけませんか?先ほどから、体が火照って……」
「……。」
息が荒いのは、暴れたせいに違いない。体が熱を持っているのもきっとそのせいだ。ケンはそう思っていたが、立香はごくりと唾を飲み込む。
「い、いや~~……ちょっとよく、わかんないかな……?」
「……そう、ですか。それではせめて、この拘束を外していただけませんか?」
「あっ、そ、そうだよね!拘束、を……。」
すぐにバンドに手をかけた立香だったが、何故かその動きが止まってしまう。そんなにもきつい拘束なのだろうか。いや、動けないというよりも、動かないという風に見える。その証拠に、彼女の視線は拘束バンドの方に向けられていない。ちょうどケンと、見つめあうような態勢になっているのだから。
「……マスター?」
「……。」
「そ、その……そんな風に、見つめられてしまうと……。」
「……あっ!ごめん!す、すぐにやるから!!」
だがやはり、サーヴァントを拘束するため頑丈に作られているのか、立香の力では難しいようだ。ケンは少しずつ頭がクリアになってきたため、自分で抜けることにした。信長から段蔵に、『ケンがあまりにも捕まったり拉致されたりが多いから教えとけ』という命令が下され、いくつかの脱出術を身に着けていたのだ。今回のようなケースに使える技も、いくつか存在している。
「マスター、少々お待ちください。今抜きますので……。」
「え、あ、抜けるの!?」
「そ、そうですよね。自分でできるなら最初からやれって話ですよね……。申し訳ありません。やはり、頭が混乱している。」
「い、いやいや心配しないで!全然気にしてないから! ……ちょっと、残念な気も……。」
「それでは……よっ……と。」
忍の早業にて、ケンの両手はあっというまに拘束から抜け出した。自由になった手で両足の拘束も外し、ケンはようやく自由の身になった。何度か掌を開閉してみたり、手首をぐるぐると回してみたりして、異常がないことを確認した後、おもむろに立ち上がる。
「ふ、うぅ……、よし。マスター、ご心配おかけしました。もう大丈夫です。」
「よ、よかった。それじゃ……」
「ええ。それでは、仕事に戻ります。まだまだやらなくてはならないことがたくさ」
「うわーーーっ!!だ、ダメダメダメ!絶対、ダメだから!!」
「し、しかし。まだ仕事がたくさん残っていますので……。」
「令呪使うからねなんなら!!自分の部屋でもいいから、今日はゆっくり休んで!というか、私が連れてくから!ちゃんとケンさんの部屋につくまで、しっかり見張ってるからね!」
「わ、わかりました。……それでは、行きましょう。」
その後のカルデアでは、薄着のしっとりした大男と、その前をまるで主人を守ろうとする犬の如く歩く少女が目撃されたらしい。その姿は人々の口に上がり、どちらが主かわからないと噂になったそうである。
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ケンさんの部屋のドアが閉まったのを見てから、私は背中を壁に預け、ズルズルとへたり込んだ。自分でもなんだかよくわからない感情に突き動かされて、ここまで来てしまったからだ。
「……もし。」
もしケンさんの拘束が、自分じゃ絶対に解けないほどだったら……。私、どうしてたんだろ。
「……は!?ありえないありえない!絶対、ダメじゃんそんなこと!!」
ひょっとしたら私まで、あのラッコ鍋にやられちゃったのかもしれない。うん、きっとそうだ。多分服とかに染みついた匂いにやられちゃったんだ。そうに違いない。
「そ、そうだよね……。うん、絶対そうだ……。」
この体の火照りはきっと、ラッコ鍋のせい。そう思いながら私も、自分の部屋に戻ることにした。……ここにいたら、部屋に入りたくなってしまいそうだったから。
「あ、危なかったでござる……。忍でなければ拙者もラッコ鍋にやられていた……。」
「……。」
「……でも、ちょっとだけ羨ましいかもなあ。」
「私もあんな風に、グイグイ攻められたら……。」
「……ラッコ肉。名前だけ、覚えておこう。」