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魔竜ヴォ―ティガーンを倒し、アーサー王は理想の都、白亜の城、キャメロットを建てた。汚れ一つない純白の壁に守られ、民たちは黄金の麦畑を揺らす風を感じながら、平和と豊な暮らしを享受した。
理想の王の素晴らしい統治を聞きつけ、多くの騎士たちが彼のもとに集った。湖の騎士・ランスロット。悲しみの子・トリスタン。―――そして叛逆の騎士・モードレッド。彼はアーサーを弑し、ブリテンを混乱の渦に巻き込み、荒れ狂う時代の波によって白亜の壁は削り取られた。護りを失った民たちは惑い、最後にはすべてが失われた……。
―――さてさて、この世界ではどうなるのかな?
「アールートーリーアー!!そのフォカッチャはまだ完成してないって言っただろうが!お仕置きするからそこになおれ!」
「ひぃ!ゆ、許してくださいケン!お腹が空いて仕方なく……!」
「あとちょっと待てばチーズとオニオンとベーコンを乗せた、最強のフォカッチャが完成したというのに……。急いては事を仕損じると教えたのを忘れたか!」
「忘れてないです!後生、後生ですから手刀だけは―――!」
叫びも空しく、ケンの黄金の右手がアルトリアの頭に振るわれる。大地すら裂きかねないその一振りに、流石のアルトリアも頭がかちわれるのではないかと錯覚した。
「かっ……くっ……。」
本当に痛いとき、人はすぐには悲鳴を上げることは出来ない。ただただ頭を抑えてうずくまるアルトリアを見て、ケンはやれやれとため息をついた。
「食べるなとは言ってないだろう、アル。俺はただお前の料理人として、お前に美味いものを食べてほしいだけだ。」
「うぅ~~……。それに関しては私も悪かったですけどぉ……。」
涙目でケンを見上げるアルトリアだったが、ケンはあまり動じる様子がない。子供のころはこれで言うことを聞いてくれたのだが、流石に大人になった今、通用しないのは仕方のないことか。
「それより急いでサラシを巻かないと、そろそろ円卓会議の時間だろう。正直なところ、サラシで誤魔化せてるのが奇跡だと思うくらいだが……。」
「な、なんですかケン。私の豊満なボディに見惚れてるんですか!?」
「……そういうことを言うなら、せめてその赤ら顔を何とかするんだな。無理するなって気持ちが真っ先に来たぞ。」
ケンの言う通り、アルトリアはかなり成長した。本来、エクスカリバーは所有者の体の成長を止める力がある。早い話、持っている限り老化しなくなるのである。だがアルトリアは、あえてこれを手放した。『ヴォ―ティガーンは失敗した。それは力によってブリテンを治めようとしたからだ。私は力ではなく、徳によってブリテンを治める。我が聖剣エクスカリバーは、振るわれるべき時まで眠っているべきだ。』と表向きには宣言していたが、ケイやマーリンなどの、アルトリアに特に近い者たちは知っている。
本当の理由は、ケンと一緒に歳を取りたかったからだ。ケンが精悍な青年から、立派な男へと成長していくのを、自分だけが少女のまま見ているのがどうしても嫌だった。ケンは真面目な男故、歳が離れすぎていては手も出すまいと考えたのもある。
その際に発した言葉もまた、ひそかな伝説となっている。
―――王の資格を示すだけならば、エクスカリバーでなくとも、カリバーンで十分だ。志半ばにして斃れたかの選定の剣は、今我が従者の腰に、生まれ変わってついて来ている。ならば、それでいい。私の王道、王の資格は、そよ風ほどにも揺らがない。
この台詞、よく聞いてみると「ケンは絶対に私の傍を離れないから、カリバーンが離れることもない」という中々に情熱的な台詞になるのだが、当の本人がそれに気づく様子はまったくない。ケンにしても、愛の言葉を囁かれるのは一度や二度の話ではなかったため、全く気にすることがなかった。そのため周りから見ると、二人ともクソボケカップルである。もっとも、ケンはその言葉を、大切に胸の奥にしまっていたのだが―――。
閑話休題。円卓会議の前である。ケンの男装がバレることを危惧した発言を受けても、アルトリアは動じなかった。
「ああ、その件に関しては大丈夫です。マーリンの幻術で隠していますから。」
どや!とばかりに胸を張るアルトリア。巨大な質量を持つ双丘が強調される格好になるが、ケンは特に動じなかった。
「おお、マーリンが。よく協力してくれたな。」
「言う事を聞かなかったら、エクスカリバーの隠し場所を私のベッドの下にしますからねと言ったらすぐでした。遊び惚けているロクデナシと思っていましたが、中々どうして便利な方ですね。」
流石のマーリンも、男子中学生が年齢制限を大きく超過した本を隠す浅知恵と浅慮を以てエクスカリバーが扱われるというのは許容できなかったのだろう。ケンに脅迫され、アルトリアに恫喝されと散々なマーリンだったが、宮廷魔術師という職だってタダではないということがわかったはずだ。
「そ、そんなことよりも、わかっているのですかケン?わ、わたわたしのこの艶やかなカラダを見て、堪能し、味わうことが出来るのはあなただけということなのですよ?」
前かがみになり、ぱっくりと開いた胸の谷間を見せつけるアルトリア。普通の男ならその色香に惑わされ、自らの立場すら忘れてアルトリアに襲い掛かったかもしれない。だが相手が悪かった。目の前にいるのは、ありとあらゆる女性を抱きつくし、この世の女体を味わいつくした色男だ。ケンにとってその程度の誘惑は児戯にも等しく、ただじとっとした目を向けるだけだった。
―――――――――――――――
「……あらゆる女性を抱きつくしたんだ。」
「……この世の女体を味わいつくしたのか。まったく、色男さんには敵わないな?」
「い、いやこれは悪意のある脚色が入ってるだろう。まるで人を節操ナシの遊び人で女泣かせのように……。」
「今のお前の言葉が、お前自身を如実に表していると思うがな。」
「……そうかもしれん。」
すっかり落ち込んでしまったケンを他所に、立香はそっと自分の胸に手を当てた。アルトリアを見るたびに感じていた、女性としての魅力。あの小川のせせらぎを絵にしたようなサラサラの金髪。はっきりと整った目鼻立ち。そして何より、暴力的とすら言えるほど豊かなバスト。
とてもではないが、自分が敵う点などどこにもない。アルトリアにすら靡かなかったケンさんは、自分の貧相な体を好きになってくれるのだろうか―――。
「……スター?マスター?どうかなさいましたか?」
声に意識を引き戻されてみれば、視界いっぱいに映るケンの顔。立香はあっという間に覚醒し、慌てて顔を上げた。
「……ふぇっ!?あ、ケ、ケンさん!?ちょっ、顔、近いから……!」
「し、失礼しました。ですがその、具合が悪そうでしたので……。」
「あっ全然大丈夫!というか、ちょっと元気になったっぽいっていうか……!?」
(……元気になった?な、何言ってるんだ私!?)
「いっ、今のナシ!忘れて!」
「か、かしこまりました。」
二人を見つめる目は四つ。二つの目玉はしかめ面。もう片方はキラキラ目。見つけた見つけた、いい玩具。花も恥じらう恋心。魔法使いに、お任せさ!
『……う~ん、シェイクスピアというよりマザーグースみたいだね。まあどっちにしても、大して上手くない文章だろうけど。』
『そんなことより、とっても面白そうな……いやいや、応援したくなる娘がいるじゃないか!これはキングメーカー、愛の伝道師として、私も一肌脱がなくてはいけないね!』
『さしあたっては、そう……暗殺者としてのマイ・フェイトとか、気にならないかな?』
――――――――――――――――――
「……よし、それでは行くとしようか。待ちくたびれているかもしれない。」
「もちろんです。……あれ、ていうかそれは私の台詞では!?」
アルトリアは部屋の戸を開き、外に出る。ケンはその少し右の後ろをついて歩く。これにも理由があり、アルトリアが右手側に柄を置いて剣を佩いているためだ。どうしても右側に対する攻撃がワンテンポ遅れてしまうため、ケンが右側で警戒しているというわけだ。
ところで、現在アルトリアが佩いている剣を知っているだろうか?マルミアドワーズという、エクスカリバーをも凌ぐという聖剣で、伝承では鍛冶の神ウルカノスがヘラクレスのために鍛造したものだという。強くないわけがないこの来歴は、アルトリアの腰に下げられるには十分と言えた。
そしてその傍らで控えるのは、選定の剣カリバーンを携えた久遠の旅人、ケンだ。アルトリアの逆レ未遂によって折れたかの哀しき剣は、今は短剣へと作り変えられ、ケンの腰でその輝きをいかんなく放っている。
―――そして今、アルトリアの手によって、円卓への扉は開かれる。
――――――――――――――――
「―――それでは、これより円卓会議を始める。まずはサー・ケイ。異民族の襲撃はどうなっている?」
円卓会議。全ての者が平等であることを示す円卓に座り、騎士たちとその王、そして王の忠実な臣下が、ブリテンの未来を語らいあう神聖な場所。この場においては、全ての者は平等な立場であり、どんな意見であろうと議論の机に上がる。
そんな会議において真っ先に指名された最古の騎士・ケイ卿は、いつもの皮肉たっぷりな台詞を吐いた。
「ああ、誰かさんが後先考えずにエクスカリバーぶっぱしてくれたおかげで、皆ビビりあがって大人しくしてるよ。もっとも、近くの村人も震えあがってたけどな。あれを落ち着かせんの、どんだけ大変だと思ってるんだ?」
「貴様!!畏れ多くも騎士王の前で、その態度はなんだ!」
すかさずケイに噛みついたのは、苛烈なまでの忠誠心を持つ忠臣、通称『鉄のアグラヴェイン』。彼は騎士王を立てようとするあまり、時折このように強い言葉を使うことがあった。
「ごめんって、あっくん。そんなに怒んなよ。」
「だからその呼び名はやめろと―――!」
掴みかかりかけたアグラヴェインだが、ここが神聖な円卓の間であることを思い出し、何とかこらえる。周りの騎士たちもニコニコと微笑ましいものを見る目で見ているが、流石にこのままでは不憫だろう。ケンはアルトリアにちらりと目配せを行うと、アルトリアは小さく頷いた。言い忘れていたが、ケンはちょうどアルトリアの向かい側になる位置に座っているため、常に視線を浴び続けている。正直、きついと思っていた。
「―――よくこらえたな、アグラヴェイン。その鋼の如き精神、賞賛に値する。」
「なっ、騎士王――!!ありがたき、幸せ―――!!」
「だがどうか、許してやってくれ。彼らとて悪気があったわけではなく、ただ貴卿と親交を温めたいと思っただけなのだ。」
「それがあなたの御意思であれば、如何様にも――!」
あまりの感動に顔が上げられないと言わんばかりに、アグラヴェインは俯いたまま震えていた。その姿を見てアルトリアは頷くと、次の報告を促した。
それを受けて、次々と報告を始める騎士たち。報告には彼らの仕事の割り振りの他にも、意外と性格が出て面白いものだ。例えばアグラヴェインはきっちりと税や収穫を数字にして報告するのに対し、パーシヴァルやトリスタンは大雑把だ。パーシヴァルは「大盛りでした!!」としか言わないし、トリスタンは「よく見えませんでした……。私は悲しい……。」と何をしにきたのかわからない発言ばかりしている。その度、ベディヴィエールによってフォローされるのだが。
そうして騎士たちからの報告を聞き、次は議論が始まる。国民から寄せられた意見や要望を精査し、収穫高の使い道を考え、異民族たちへの防御に備える。あれこれと話し続け、すっかり議論も煮詰まり、あらかた結論が出た。そこでようやく、ケンの出番というわけである。
「さあ、そろそろ会議も終わったことだし飯にしよう。今日のメニューはチーズフォンデュだ。ブリテンという国の贅を見るがいい!」
ケンは円卓の間に、ぐつぐつと泡の弾ける音と、鼻腔の奥の奥までくすぐる食欲をそそりすぎる鍋を持って入ってきた。ケンの後ろからついてくる別の料理人たちは、一口サイズに切られた肉やキノコにパン、ケンが作ったソーセージなどを携えて入ってきた。
「いよっしゃあ!これが楽しみでここ来てるからな!」
「……チッ。はしたないぞ貴様。」
「そうは言うけどよ、お前の兄貴を見てみろよ。もう鍋の前に陣取ってるじゃねえか。」
ケイの言葉通り、ガヴェイン卿はナプキンまでつけて臨戦態勢だ。よく見ると、既にフォークを手に持っている。
「……あれは私の兄ではない。」
「なっ!?聞き捨てなりませんよアグラヴェイン!お前は私のかわいい弟で―――」
「今すぐ鍋にその顔を突っ込んでくれる!!チーズで溺死しろ!!!」
「むっ、待てアグラヴェイン。私も食べるのだから、そういうことはよしてもらおう。」
「申し訳ありません騎士王!!」
「……やっぱこいつ、めちゃくちゃ面白いな。」
どったんばったん騒いでいるケイやガヴェインと対照的に、ひょいひょいと自分の分を食べ進めているのはトリスタンだ。隣で食べているベディヴィエールは、彼の長い髪がチーズに入ってしまわないか気が気でない様子だ。
「……おや、そういえば。私の外套にまた穴が開いていたのです。ケン殿、忙しいこととは思いますが……。」
「またか。まあ、パッパとやっておくから置いて行ってくれ。」
「感謝します。ですが、ああ、私は悲しい……。私にもランスロット卿のように、女性にモテる才能があればその方にお願い出来たのですが……。」
「な、ななななにを言っているのかねサー・トリスタン!!???」
「……心配しなくとも、今頃ギャラハッドは馬小屋だ。馬の世話をしているところだろうな。」
あからさまにホッとした様子のランスロット。彼の子供、ギャラハッドの話は、また別の機会に回すとしよう。
「さあ食べなさいガレス。もっともっと食べなさい。」
「もう、そんなに食べたら太ってしまいますよ!大きくなるのも大事ですが、私だって一応女の子なんですからね!」
円卓の末っ子、ガレス。それの皿にひょいひょいと具材を盛って行くのはパーシヴァルだ。最年少であるということもあり、あれこれと周りから世話を焼かれる彼女だったが、それはケンとて例外ではない。厨房で働いていたこともある彼女は、ケンから様々な技術を教えられ、それを何とか覚えようとする様は好ましく映った。まるでロマンスが始まりそうな気配だったが、彼女曰く、『背後からすごいプレッシャーを感じます!』とのことで、イマイチ進展していないらしい。ケン曰く、『大人げないにもほどがある』とのことだ。誰のせいだと思っているのだろうか。
ケンはぐるりと円卓を見回し、満足そうに頷いた。円卓が全ての人間に区別をつけないためにあるのなら、そこで行われることに最も向いているのは食事であるはずだ。食事は人と人とを繋ぐ行為であると考えているケンは、その考えを常に持ち続けていた。
「ああ、そういえば。アーサー王に是非とも仕えたいという者がいたのです。」
発端は、トリスタンの何気ない台詞だった。そんなことを黙っていたことに驚きつつも、騎士たちは先を促した。
「確か、名前を――――モードレッド、でしたか。」
瞬間。ケンの体中から殺気が放たれ、全ての騎士が身構える――――ことは、なかった。
「モードレッド……
―――理由は、ただ一つ。ケンは、モードレッドがどんな騎士なのか、これっぽちも知らなかったからだ。
「なー、ワシらそろそろ忘れ去らたんじゃね?タグに織田信長と沖田総司って入っとるから、このままじゃとタグ詐欺疑われかねないんじゃが!じゃが!」
「劇が終わったらぐだぐだイベやるらしいですから我慢するしかありませんね……。というか、沖田さんだってそろそろケンさん成分が不足してきたんですけど!なんかないんですかなんか!このままだと、沖田さんしゃべり方も忘れますよ!?ただでさえ、お虎さんと判別しにくいって言ってたのに!」